
EVへの移行が進む一方で、なぜ日本企業はHEVやエンジン関連事業を続けているのでしょうか。走行時のCO2排出量を減らせても、発電や蓄電池の製造まで含めた削減効果は、電源構成や車の使い方によって変わります。地域ごとに移行速度が異なるうえ、テスラと中国ではEVを推進する事業上の狙いも違います。日本企業はエンジン関連事業を維持しながら、HEVの燃費や快適さを高め、運転支援機能や車載ソフトウェアの開発も進めています。HEVの今後の競争力は、日本企業の戦略に加え、発電や蓄電池の技術革新がどれだけ進むかにも左右されます。
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EV一辺倒に限界はあるのか
EVの環境性能を評価するときは、走行中だけでなく、車両の製造や燃料・電力の供給で生じる排出量も調べます。発電に使うエネルギーによって排出量が変わり、充電環境によって日常の使い勝手も変わります。こうした条件の違いが、EVの普及速度とHEVの競争力を左右しています。
地域によって異なる事情
国際エネルギー機関(IEA)によると、2025年の世界のバッテリー式電気自動車(BEV)と、外部充電できるプラグインハイブリッド車(PHEV)の合計販売台数は2,000万台を超え、新車販売の25%を占めました。この合計のうち、BEVの割合は65%です。この販売台数には、電池だけで走るBEVと、エンジンも使うPHEVの両方が含まれています。
BEV・PHEVの新車販売に占める割合は、中国で約55%、欧州で28%、米国では10%未満でした。一方、日本は3%未満で、外部充電を行わないハイブリッド車(HEV)が約3分の1を占めています。価格や規制、充電環境の違いが、地域ごとの移行速度に表れています。IEAは日本について、集合住宅で自分の駐車場を確保しにくい状況や、充電設備の制約も普及に影響していると説明しています。
自宅で充電できるかどうかによって、同じEVでも日常の使い勝手は変わります。車を選ぶ際には、車両の性能に加え、自宅や近隣で無理なく充電できるかどうかも判断材料になります。
車両の製造とエネルギー供給で生じるCO2
EVは走行中に排気管からCO2を出しません。しかし、充電する電力を火力発電でつくれば、発電所でCO2が発生します。さらに、蓄電池に使う材料の採掘や加工、電池の製造にもエネルギーを使います。EVを使うことで走行中の排出量が減っても、発電や車両製造ではCO2が発生するため、全体の削減量は走行時の排出量だけでは判断できません。
製品が生まれてから廃棄されるまでの環境負荷を調べる方法が、ライフサイクル評価(LCA)です。自動車では、資源採掘、材料加工、車両・電池製造、燃料や電力の供給、走行、維持管理、廃棄・再資源化までを考えます。ガソリン車にも、原油を採掘して燃料を製造する際の排出があります。温室効果ガス全体を比較する場合は、CO2以外のガスもCO2相当量に換算して評価します。
電池容量と生涯走行距離も結果を左右します。製造段階の排出が大きい車でも、走行時の排出が少なければ、長く使うほどその差を埋められます。反対に、走行距離が短い場合は、製造時に多く排出した分を、走行時の排出削減で埋めにくくなります。車格や用途、電池交換の有無に加え、製造時や使用時の電源構成によっても結果は変わります。自動車の環境性能を評価するには、車両の製造・使用・廃棄に加え、燃料や電力の供給に伴う環境負荷も調べる必要があります。
電源構成によって変わるEVの排出削減効果
IEAは2024年の分析で、BEVのライフサイクル排出量を、同等のエンジン車の約半分、HEVより40%以上少ないと試算しています。2023年に販売された中型車を15年間、約20万km使う条件での比較です。公表された政策に基づく将来の電源構成を考慮した世界平均の結果です。この分析では、将来の電源改善を見込まない場合にも、BEVはエンジン車より約30%少ない排出量となっています。
一方、2025年の自動車技術会論文集には、日本を対象にした研究が掲載されています。その研究では、追加の電力需要を火力発電で賄う場合、BEVに環境面での優位性は見られないとしています。この研究は、2020年度の電源構成や将来の電源計画を参照し、乗用車の生涯走行距離を15万km、電池搭載車では生涯で1回の電池交換を想定しています。比較する車種や使用条件も、IEAの世界平均の分析とは異なります。
電力需要の増加分を賄う発電方法は、その地域の平均的な電源構成と一致するとは限りません。電力全体に占める低炭素電源の割合が増えても、EVの充電で増えた需要を火力発電で賄う場合には、その分のCO2も削減効果に影響します。IEAは、充電時間を調整するスマート充電などを、電力需要の調整に役立つ技術として挙げています。EVによる排出削減を進めるには、車両の普及とともに、発電時の排出量を減らし、充電する時間も調整する仕組みが求められます。
HEVが競争力を保てる条件
HEVは、モーターでエンジンを補助し、減速時にはエネルギーを回収して電池を充電します。この回生の仕組みも使って、燃費を改善しています。電池の充電には、回生で回収した電力やエンジンで発電した電力を使います。外部からの充電は行いません。アイドリングの低減なども含め、エンジンだけで走る車より効率よく燃料を使う仕組みです。
電池容量が小さいHEVは、電池の製造に伴う環境負荷も抑えられます。先ほどの日本の研究では、対象HEVの電池容量は1.1kWh、BEVとして参照したリーフは40kWhでした。もちろん、全体の環境効果には走行中の燃料消費も関わります。それでも、HEVは大容量の電池を使わずに燃費を改善できるため、電池材料の調達や電池製造に伴う負荷を抑えられます。
充電環境を確保しにくい利用者にとって、従来どおり給油でき、燃費も改善できるHEVには利点があります。環境面の評価は電源構成や走行条件によって変わります。車を選ぶ際には、充電の利便性や燃費も判断材料になります。発電や電池の技術が進歩し、EVの環境性能や使い勝手が向上すれば、HEVの優位性は小さくなります。こうした改善がどれだけ早く進むかによって、各地域でHEVが競争力を保てる期間も変わるでしょう。

テスラと中国がEVを推進する理由

テスラと中国はともにEVの普及を進めていますが、事業拡大の狙いは異なります。テスラは自動運転、AI、ロボット、蓄電を結び付けた将来構想を掲げています。中国は資源加工から完成車までの供給網を持ち、EVの普及に伴って資源・部材・電池などの需要も取り込める立場にあります。
テスラが掲げる「産業革命の物語」
テスラの2025年の年次報告書では、事業を自動車とエネルギー発電・蓄電の二つに分けています。車両の販売やリースに加え、充電や各種サービスを展開し、今後の成長構想にはAI、自動運転技術、ロボットなどを位置付けています。自動車の製造事業と、関連する技術・サービスへの投資を組み合わせています。
テスラは、自動運転による配車サービスRobotaxiや、運転支援ソフトウェアFSDの契約などを通じて、AIやソフトウェア、車両群を使うサービス事業を広げ、利益を得ようとしています。車両販売に加え、販売後の利用を通じても収益を得る事業へ広げようとしています。こうした将来構想は、車両販売以外の事業が成長するという期待も生んでいます。
EVによる自動車産業の変革、蓄電によるエネルギー利用の変化、AIとロボットによる働き方の変化は、一つの産業革命の物語として捉えることができます。EVは現在の事業を支えるとともに、新たな産業へ進出するための技術や事業の基盤にもなっています。テスラはITと金融を組み合わせ、産業革命の物語への期待を背景に資金を集め、事業へ投資するメガベンチャーと捉えることができます。
巨額の資金を動かすメガベンチャー
資金を確保する能力を示す例が、2026年9月29日に契約した合計300億ドルの融資枠です。内訳は200億ドルの融資枠と、80億ドル、20億ドルの回転信用枠でした。契約時点では借入残高はゼロで、2026年中にこれらの融資枠を使う予定もないと、同社は説明しています。実際に借り入れる前から、必要に応じて多額の資金を調達できる態勢を整えています。
新規事業の開発では、製品やサービスから十分な収益を得られるようになる前に、資金を投じる局面があります。現在の車両販売から得られる収益と、将来の事業への期待をもとに資金を集める力の両方が、テスラの構想を支えています。産業革命の物語は、資金を出す投資家や金融機関に、テスラの将来像を伝えていると考えられます。
テスラには、資金を集めて新しい産業へ投資する「ファンド」としての性格もあります。EV事業で得た技術や事業基盤を使いながら、より大きな市場を目指す構想を掲げています。構想を事業として実現できるかどうかは、今後の製品開発と収益化にかかっています。将来性のある技術を示して資金を調達し、その資金を開発へ投入できる点に、車両の価格や販売台数だけでは測れない強さがあります。
中国の強みは「垂直統合」
中国のEV産業は、資源の採掘・加工から部品や完成車の製造まで、幅広い産業に支えられています。まず、モーターなどに使う強力な永久磁石には、ネオジムなどのレアアースが使われます。IEAによると、2024年に中国は磁石向けレアアースの世界の採掘生産の60%、精製生産の91%、焼結永久磁石生産の94%を占めました。中国には、鉱石の分離・精製から、金属や合金への加工、磁石の製造までを担う企業が集まっています。
蓄電池の供給網も中国に集中しています。IEAによると、2025年に中国は世界の電池セル生産の80%超、EV電池の正極活物質の約85%、負極活物質の90%超を占めました。正極・負極の活物質は、電池の中でエネルギーの蓄積や放出に関わる材料です。モーター用磁石と電池材料はそれぞれ異なる供給網ですが、中国は両方に大きな製造基盤を持っています。
EVの製造には、鉱物の精製、材料加工、部品・電池製造、完成車の量産まで、一連の工程が必要です。中国には、これらの工程が集積しています。世界でEVへの移行が進むと、材料や電池の需要も増えます。他国のメーカーが販売するEVにも、中国企業の部材や電池が使われる可能性があります。中国は、完成車の販売だけでなく、材料・部材・電池の供給でも、EVの普及に伴う需要を取り込めます。
完成車の採算性だけでは戦わない
中国国内ではEVの価格競争が激しく、IEAは完成車メーカーの利益率が圧迫されていると説明しています。そのため、メーカーは海外市場での収益獲得や、生産量の維持を目指して輸出を拡大しています。価格を下げて販売台数を伸ばす競争では、完成車を多く売っても利益を確保しにくい状況が起こります。
一方、電池メーカーCATLは、2025年に売上高4,237億元、株主帰属純利益722億元を計上しました。リチウムイオン電池の販売量は661GWhで、車載電池に加えて定置用の蓄電事業も展開しています。使用済み電池の再資源化にも取り組み、自動車向け電池以外にも複数の事業を展開しています。完成車メーカーが厳しい競争に直面する一方で、電池の製造・販売によって利益を得る企業もあります。
こうした産業構造を持つ中国は、EVの販売に加え、材料や部品、電池の供給でも収益を得られると考えられます。自動車の電動化と電力システムの変化は、車載用と定置用の両方を手がける電池企業にとって、事業を広げる機会になります。テスラが将来構想を示して資金を集めるのに対し、中国は材料・部品・電池などの関連産業でも需要を取り込める点が特徴です。車の売れ行きに加え、資金をどう集め、どこで利益を上げているのかを見ると、テスラと中国それぞれの強みが分かります。
日本企業の動きから見る戦略と今後
エンジン車やHEVへの需要が続く中、日本企業はその需要にどう対応し、車両の性能や使い勝手をどう高めているのでしょうか。デンソーはエンジン関連事業の譲渡を中止し、トヨタは新型RAV4で車載ソフトウェアの開発を進めています。両社の動きからは、現在の需要に応える供給能力を維持しながら、車両の価値を高めていく戦略が読み取れます。
デンソーが見直したエンジン関連事業の価値
デンソーは2026年10月2日、日本特殊陶業へのスパークプラグ・排気センサー事業の譲渡を中止すると発表しました。両社は2023年7月に譲渡の検討を開始し、2025年9月1日に契約を締結していました。その後の市場環境を踏まえて、デンソーが事業戦略を再検討し、両社で協議した結果、譲渡の実行中止と契約解約に合意しています。
デンソーは、電動化が進んでも、多様なパワートレインへの需要が当初の想定より長く続いていると説明しています。背景には、地域によって異なるエネルギー事情や規制があります。パワートレインは、エンジンやモーターなど、車を動かす機構です。デンソーは、この事業を続けることで、さまざまな需要に応える力を維持し、さらに高められると判断しました。
デンソーは、エンジン車やHEVの需要が今後も続くと見込み、関連技術と供給能力を維持する価値を再評価したと考えられます。EVへの移行速度に加え、エンジン車やHEVの需要がどれだけ長く続くかも、関連事業を継続するかどうかの判断材料になります。地域によって移行速度が異なるため、当面は複数の動力方式を支える事業が続くと考えられます。
「燃費」と「快適さ」を組み合わせる
中国では電池と材料の供給網が集積し、低価格EVの供給が進んでいます。IEAによると、2025年に中国で販売されたBEVの70%は、平均的な従来車より安価でした。こうした供給網と生産規模を持つ中国企業と、価格や量産規模だけで競争するのは、日本企業にとって困難です。
トヨタが2025年12月に発売した新型RAV4では、HEVの駆動システム、運転支援機能、コックピットなどを改良するとともに、車体やショックアブソーバーの改良によって乗り心地も高めています。燃費や走行性能とともに、乗員が感じる快適さも高める取り組みです。HEVでは、エンジンとモーターを協調させることで、低燃費と加速などの走行性能を両立させています。
この動きからは、HEVの燃費や走行性能を高めるとともに、車両全体の品質や使いやすさでも競争する戦略が読み取れます。燃費の良さや乗り心地、運転支援の使いやすさは、購入後も日々の運転を通じて評価されます。充電環境が十分でない地域では、外部充電を必要としないHEVの利便性も強みになります。今後は、価格に見合う快適さや使いやすさが、HEVを選ぶ理由の一つになると考えられます。
HEVにも広がるソフトパワー
新型RAV4には、トヨタのソフトウェア開発基盤Areneが初めて活用されました。安全・運転支援機能のToyota Safety Senseや、コックピットなどのソフトウェア開発に使われています。ソフトウェアの改良によって、画像認識や自動ブレーキの制御が改善されます。ナビや空調などを操作した際の応答の速さも、車両の使い勝手を左右します。エンジンを使うHEVでも、ソフトウェアは商品価値を高める重要な部分です。
車載ソフトウェアの開発基盤は、運転支援や操作画面などを継続的に改良するための土台になります。トヨタはRAV4を、ソフトウェアによって機能を進化させる車づくりの出発点に位置付け、将来の複数機能の同時更新や、利用者に合わせたカスタマイズなども構想しています。燃費を改善する機械や制御の技術と、運転支援や操作性を高める情報基盤を組み合わせて、車を開発しています。
RAV4には、HEVの強みと情報基盤を組み合わせ、購入後も機能を改善して車両全体の価値を高めていく戦略が表れています。 今後のHEVの競争では、エンジンやモーターの性能に加え、購入後にソフトウェアでどこまで機能を改善できるかも重要になるでしょう。安全性と品質を保ちながらソフトウェアを更新し、快適さを高められるかどうかが、今後の競争を左右するでしょう。
ゲームチェンジャーはいつ現れるか
今後の勢力図を大きく変えるのは、クリーンエネルギーと蓄電池のイノベーションです。IEAは、排出量を減らす方法として、低炭素電源の利用、電池材料の加工や製造工程の効率化、エネルギー密度の向上、再生材の使用を挙げています。電池製造の環境負荷と、走行に使う電力をつくる際の排出量を減らすことで、EVの排出削減効果を高められます。価格が下がり、使い勝手も良くなると、HEVを選んでいた利用者にとってもEVの魅力が増します。
次世代電池では、ナトリウムイオン電池の量産が拡大しています。低温での性能に優れ、リチウム価格の変動による影響を抑えられる利点があります。一方、エネルギー密度と供給網の規模には課題があります。全固体電池は、電池内部の電解質に固体を使う技術です。航続距離の延長や安全性の向上が期待されていますが、IEAは、実用規模での実証や、製造の複雑さ、コスト、車両への搭載に課題があるとしています。新しい技術を量産車の価格や性能の改善につなげるには、実証や製造工程の確立など、複数の段階を経る必要があります。
デンソーの事業継続とRAV4の進化からは、エンジン車やHEVへの需要に応えながら、車の性能や使い勝手を高める戦略が読み取れます。クリーンエネルギーと蓄電池の技術革新によってEVの排出量や価格、使い勝手が広く改善されるまで、日本企業はエンジン関連事業を続けながら、HEVの性能向上と車載ソフトウェアの開発を進めると考えられます。その間、日本企業は既存の事業で収益を得ながら、次の技術の開発も進めるでしょう。HEVなどの事業で得た収益を、電池やソフトウェアの開発にどれだけ回せるかも、今後の競争力に影響するでしょう。
まとめ

日本企業は、多様な動力方式への需要に応えながら、HEVの燃費や快適さを高め、運転支援機能や車載ソフトウェアの開発も進めています。デンソーの事業譲渡中止とRAV4へのAreneの活用からは、こうした戦略が読み取れます。HEVの需要が続く間は、その事業で得た収益を次の技術開発に充てられます。
競争条件は、車両の性能だけでなく、電源構成、電池製造、充電環境、産業の供給網によって異なります。テスラはAI、自動運転、蓄電を結ぶ産業革命の物語を掲げ、巨額の資金を集める力を持っています。中国には、資源加工から電池、完成車の製造まで、さまざまな産業が集まっています。そのため、世界で電動化が進むと、中国は複数の産業で需要を取り込み、収益を得られる立場にあります。日本企業は、こうした独自の競争力を持つ相手と戦い続けることになります。
クリーンエネルギーと蓄電池の技術革新によって、排出量の削減、価格の低下、使い勝手の向上が同時に進むと、今後の競争条件も大きく変わります。それまでは地域ごとの条件に応じてHEVの需要が続くでしょう。HEVの需要を維持しながら、次世代技術を製品として市場へ送り出せるかどうかが、日本企業の今後の競争力を左右すると考えられます。
参考文献
自動車技術会:日本におけるカーボンニュートラル燃料を使用した自動車のライフサイクルGHG排出量予測
Tesla:2025 Annual Report, Form 10-K
IEA:Rare Earth Elements — Executive summary
IEA:Global EV Outlook 2026 — Manufacturing and trade
