
AIの進化が加速する中、日本語に特化したローカルLLMの開発が注目を集めています。DeepSeekをベースとした日本語LLMの登場により、高性能かつ低コストなAI活用の新時代が幕を開けようとしています。本記事では、その現状と将来の可能性について探ります。
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DeepSeekベースの日本語LLMの現状
DeepSeekをベースとした日本語LLMの開発が急速に進展しています。大手企業からスタートアップまで、様々なプレイヤーが参入し、日本語処理能力の向上に貢献しています。
DeepSeekとは
DeepSeekは、中国のスタートアップ企業DeepSeekが開発した大規模言語モデル(LLM)シリーズです。数学問題やプログラミングで優れた性能を示し、英語と中国語の両方で高い言語理解力を持っています。特筆すべきは、一部の分野においてOpenAIのLLM「o1」に匹敵する性能を持ちながら、無料で利用できる点です。
DeepSeekの主要モデルには以下のようなものがあります。
- DeepSeek V3: GPT-4相当の性能を低コストで提供
- DeepSeek R1: 推論能力に特化した最新モデル
これらのモデルは、Webブラウザ版、スマホアプリ版、API版など、様々な形態でリリースされています。
日本語LLMの重要性
日本語LLMの開発は、日本のAI産業の発展と国際競争力の強化に不可欠です。日本語の複雑な文脈やニュアンスを正確に理解し、処理できるAIの需要が高まっています。
2025年1月時点では、日本の生成AI界隈において、クラウド版が性能的に優れており、Llama3.1を日本語にチューンしても表現力が追いつかない状態でした。しかし、DeepSeek-R1の登場により、日本語でしかもローカルで構築可能なLLMが実現しました。これにより、日本の独特な文化や言語表現に対応したAIの開発が加速することが期待されています。
サイバーエージェントの取り組み
サイバーエージェントは、2025年1月27日に「DeepSeek-R1-Distill-Qwen-14B/32B-Japanese」を開発しました。このモデルは、DeepSeek-R1の蒸留モデルに日本語データで追加学習を施したもので、32B(320億)のパラメータを活かし、日本語の複雑な文脈やニュアンスを正確に捉えることができます。
このモデルは、Hugging Face上で公開されており、MITライセンスで商用利用も可能となっています。これにより、日本企業がより高度な日本語処理能力を持つAIを容易に利用できるようになりました。
【参考】話題の中華LLM「DeepSeek R1」の日本語追加学習モデル サイバーエージェントが無料公開
Lightblueの取り組み
東京大学発AIスタートアップのLightblueは、2025年2月3日に「Lightblue/DeepSeek-R1-Distill-Qwen-7B-Japanese」を開発しました。このモデルは、DeepSeek-R1の蒸留モデルをベースに、中国AlibabaのLLM「Qwen」軽量版(70億パラメータ)に対し、日本語での追加学習を行ったものです。
Lightblueのモデルは、より軽量な7Bパラメータを採用しており、ローカルPCでも動作する点が特徴です。これにより、中小企業やスタートアップにとっても、高性能な日本語LLMを利用しやすくなりました。
Lightblueは独自のデータセットを用いて短時間の追加学習を行い、DeepSeek-R1の日本語入力時に英語や中国語が混在する課題を大幅に改善しました。これにより、日本語のプロンプトに対してより一貫した出力が可能になりました。
【参考】Lightblue、DeepSeek-R1の蒸留モデルに日本語で追加学習を施した7Bの軽量LLMを公開
DeepSeekベースの日本語LLMの登場により、日本のAI産業に新たな可能性がもたらされています。高性能かつ低コストなAI技術が日本企業にとってより身近なものとなり、今後はこれらの技術を活用した革新的なサービスやソリューションの開発が加速することが期待されます。
新たなビジネスチャンス!ローカルLLMの可能性とは

ローカルLLMの登場により、データプライバシーの保護や独自サービスの開発など、新たなビジネスチャンスが生まれています。日本企業にとって、これらの技術を活用した革新的なサービス展開の機会が広がっています。
DeepSeekによる日本語特化型LLMの特徴
日本語処理能力の向上
日本語に特化した学習により、日本語の文脈理解や表現生成能力が大幅に向上しています。DeepSeek-R1は、英語と中国語の両方で高い言語理解力を持っていますが、日本語入力時に英語や中国語が混在する課題がありました。しかし、Lightblueが独自のデータセットを用いて短時間の追加学習を行い、この課題を大幅に改善しました。これにより、日本語のプロンプトに対してより一貫した出力が可能になりました。
高性能と低コストの両立
DeepSeek-R1は、無料で使えるオープンソースでありながら、OpenAIのo1モデルに匹敵するパフォーマンスを持つと評価されています。特に、APIの利用料金はOpenAI o1と比べて約96%安価で提供されており、コストパフォーマンスの面でも優れていることが特徴です。これにより、企業は高度なAI技術を低コストで導入することが可能になり、イノベーションの加速が期待されます。
ローカル環境での利用可能性
HuggingFaceからモデルをダウンロードし、ローカル環境で利用することが可能です。これにより、企業は自社のサーバーやプライベートクラウド環境にLLMを構築し、独自のデータ資産を最大限に活用しながら、他社との差別化を実現できます。
ローカルLLMの可能性
データプライバシーの保護
ローカル環境での運用により、機密情報の保護が可能になります。特に、医療機関や金融機関など、高度なセキュリティが求められる分野での活用が期待されます。例えば、患者の診療記録やカルテ、顧客情報や取引履歴などの機密情報を、セキュリティを確保しながら処理することができます。
独自サービスの開発
企業独自のデータを用いた特化型AIサービスの開発が容易になります。ローカルLLMには専用のWEBチャット画面が付属し、業務の要件に合わせてカスタマイズ可能です。自社データをRAGやAIエージェントで活用することで、精度の高い回答処理を実行できます。また、必要に応じて外部システムやデータベースと連携することも可能で、業務の自動化や効率化を進めるための最適なソリューションを提供します。
イノベーションの加速
低コストで高性能なAI技術の利用が可能になり、イノベーションの加速が期待されます。特に、スタートアップや中小企業にとっては、Lightblueが開発した軽量モデル「DeepSeek-R1-Distill-Qwen-7B-Japanese」のような、リソースの少ない環境でも運用可能なモデルの登場により、AIを活用したサービス開発のハードルが下がっています。
ビジネスでの活用シーン
ローカルLLMは、様々な業務での活用が考えられます。
- カスタマーサポート:高度な日本語理解能力を活かし、複雑な問い合わせにも適切に対応できるAIチャットボットの開発。
- コンテンツ生成:日本語の文脈やニュアンスを理解した上で、ブログ記事、製品説明、マニュアルなどの自動生成。
- データ分析:大量の日本語テキストデータから、トレンドや洞察を抽出し、ビジネス戦略の立案に活用。
- 製造業:設計の自動化や品質管理、故障予測など、機密情報を社内環境で処理しながら業務効率化や品質向上につなげることができます。
- プログラミング支援:DeepSeekは、プログラミングで優れた性能を示すため、開発者の生産性向上に貢献できます。
ローカルLLMの導入により、従来のクラウド型AIサービスに比べて大幅なコスト削減が可能です。人数に関わらず組織全体の利用負荷をもとに月額固定の料金で運用でき、予測可能なコストで高度なAI機能を利用できます。これにより、業務の規模に合わせた柔軟な運用が可能になります。
日本企業にとって、ローカルLLMは単なるAIツールではなく、企業独自のAI戦略を構築するための強力な武器となります。自社のデータとビジネスニーズに最適化されたLLMを開発することで、競争力のある新しいビジネスモデルを構築する機会を得ています。今後は、これらの技術を活用した革新的なサービスやソリューションの開発が加速することが期待されます。
日本国内のAI産業に新たな可能性!

DeepSeekベースの日本語LLMは、高性能と低コストを両立し、日本のAI産業に新たな可能性をもたらしています。ローカル環境での運用やカスタマイズの容易さは、企業の競争力強化につながるでしょう。今後は、さらなる性能向上と実用化が進み、日本独自のAIエコシステムの構築が期待されます。