部下の価値観と向き合う:マネジメントで役立つ「聞く力」とは

現代の職場では、部下の価値観やキャリア志向が一様ではなく、多様化が進んでいます。働き方や成長の方向性に対する考え方は人それぞれであり、従来の一律的なマネジメント手法では限界が見え始めています。

そこで重要になるのが「聞く力」です。単に話を聞くのではなく、相手の背景や思いを受け止め、理解する姿勢を持つことで、部下は安心して自分の考えを共有できます。その積み重ねが信頼関係を生み、組織全体の活性化につながります。「聞く力」は、変化の時代を生き抜くためのマネジメントの基盤であり、組織文化と人材育成を支えるカギとなるのです。こうしたスキルは一朝一夕で身につくものではなく、日常的な対話の積み重ねが求められます。

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部下の価値観とキャリア志向の多様化

部下と向き合ううえで欠かせないのは、彼らの価値観やキャリア観が以前にも増して多様化している現実を理解することです。

なぜ今「価値観の違い」に向き合う必要があるのか

近年、働く人々の価値観は大きく変化しています。かつては安定的な雇用や昇進が主要なモチベーションでしたが、現在は「自分らしい働き方」や「成長の実感」、「社会的意義のある仕事」など、多様な基準でキャリアを考える人が増えています。世代やライフスタイルの違い、さらには社会全体の変化が背景にあり、一律のマネジメントでは部下の本音に届きにくい時代になっているのです。

マネージャーには、部下それぞれの価値観を尊重し、柔軟に対応する姿勢が求められています。価値観の違いを受け止めることは、組織の競争力維持にも直結する課題といえるでしょう。

デジタル人材育成やリスキリングの潮流とマネジメント課題

さらに、デジタル化やAIの進展に伴い、リスキリングや学び直しが急務となっています。社員一人ひとりが新しいスキルを身につけ、変化に対応しなければならない中で、マネージャーは部下のキャリア志向を理解し、適切な成長機会を提供することが重要です。しかし、価値観が多様であるがゆえに「どの方向に伴走するか」を見極めるのは簡単ではありません。

ここでカギとなるのが「聞く力」です。表面的なニーズだけでなく、本人の動機や背景を引き出すことで、より的確な支援や育成につながります。そのため、聞く力はマネジメントの実務に直結する不可欠な基盤といえるのです。

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マネジメントにおける「聞く力」とは

多様化する部下を理解し育成するために必要なのが、マネジメントの根幹を支える「聞く力」です。

単なる傾聴ではなく「理解と共感」を伴う聞き方

「聞く」と言っても、ただ黙って耳を傾けるだけでは不十分です。重要なのは、相手の言葉の背後にある感情や価値観を理解し、共感を示すことです。

たとえば、部下が仕事の悩みを語った際に、「大変だったね」と受け止めるだけでなく、「その状況でどんな思いを抱えていたのか」を確認することで、深い信頼を得られます。理解と共感を伴う聞き方は、部下に「自分を分かってもらえた」という安心感を与え、自分の気持ちを率直に話せるようになります。これは人材マネジメントの基盤であり、組織力強化にもつながる姿勢です。

信頼関係を築くためのマネージャーの姿勢

聞く力を効果的に発揮するためには、マネージャー自身の姿勢が問われます。部下の話を先入観で判断せず、途中で遮らずに最後まで受け止める姿勢は、誠実さそのものです。また、相手を「評価する対象」ではなく「対話するパートナー」と捉えることで、関係性はより対等で開かれたものになります。こうした姿勢は、部下の心理的安全性を高め、組織全体に信頼の文化を広げる基盤となるのです。さらに、この姿勢を継続することが、長期的な人材育成の成果にも直結していきます。

【参考】マネジメントの聴く力・伝える力を変えるフィードバックとは

実践の場で生かす「聞く力」

聞く力は抽象的な概念ではなく、日常の職場で具体的に活用できるスキルです。

日常会話の中で部下の本音を引き出すコツ

オフィスでのちょっとした雑談や、プロジェクトの進捗確認といった日常の場面は、部下の本音を知る絶好の機会です。形式的な質問ではなく「最近どう?」といった自然な問いかけや、相手の言葉を繰り返して確認するリフレクションを取り入れることで、部下は安心して思いを話しやすくなります。日常会話を通じて築かれる信頼が、後の本格的な面談にも良い影響を与えます。こうした小さな積み重ねが、長期的なマネジメント効果を生むのです。
まずは一日の終わりに「今日はどうだった?」と軽く声をかけることから始めてみましょう。

1on1ミーティング・キャリア面談の効果的な進め方

一方で、1on1やキャリア面談といった場は、より体系的に部下の考えを引き出せる機会です。効果的に進めるには、事前にテーマを共有し、安心して語れる雰囲気をつくることが欠かせません。加えて、目の前の課題解決だけでなく「中長期的にどう成長したいのか」に焦点を当てることが、部下のキャリア支援につながります。こうした定期的な対話は、単なる評価の場ではなく、部下の未来を共に考えるプロセスとなるのです。継続性が信頼と成長を支える大切な要素となります。

聞く力を強化する具体的スキル

聞く力は才能ではなく、日々の実践で磨き上げることができます。

オープンクエスチョンで思考を深掘りする

相手の本音を引き出すには「はい・いいえ」で答えられる質問ではなく、オープンクエスチョンが効果的です。「どの部分にやりがいを感じていますか?」「今後挑戦してみたいことは?」といった問いは、部下の思考を自然に深掘りします。質問の仕方次第で、対話は単なる報告から創造的な思考の場へと変わります。こうした習慣を積み重ねれば、部下の自己理解も深まり、主体性を高めることにもつながります。

話を遮らず、共感を言葉にして伝える技術

また、聞く姿勢を示すには、うなずきや相槌といった反応だけでなく、言葉によるフィードバックも大切です。「なるほど、そう感じたんだね」「その経験は大きかったね」と共感を言葉にすることで、部下は受け止められた安心感を得られます。話を遮らず最後まで聞き、要点を整理して返すリフレーミングも有効です。

これらの技術を繰り返し実践することで、聞く力は自然に鍛えられていきます。そしてその成果は、組織全体の信頼関係強化として表れていきます。

「聞く力」が組織文化を育み、個々の成長を支える

多様な価値観が共存する現代において、マネジメントの成否を左右するのは「聞く力」です。共感的に耳を傾ける姿勢は、部下の成長意欲を引き出し、信頼と安心を土台とした健全な関係性を築きます。さらに、継続的な対話によって組織にオープンで協働的な文化が根づき、個々の力が最大限に発揮されます。

「聞く力」は短期的なテクニックではなく、人材マネジメントにおける普遍的かつ実践的なスキルです。日常の対話を意識的に工夫するだけでなく、傾聴研修やコーチングの学び直しなどを通じて磨き続けることも有効でしょう。マネージャー自身が継続的に実践を積み重ねることで、組織は持続的な成長を実現し、変化に強い基盤を築いていけるのです。最終的にはそれが、これからの時代を担うマネージャーに不可欠な能力として、組織の未来を切り開く大きな力となるでしょう。

この記事を書いた人

ビジネス・テクノロジスト 貝田龍太