
2026年、コールセンターは効率を競う時代から体験を創る時代へ、大きく転換していきます。
AIが一次応対を担い、人が文脈と感情を読み取り、顧客の次の行動を先回りして提案する──そんな協働が現実になり始めています。
2025年は、AIエージェント が急速に実用化された節目の年でした。
その先に待つのは、AIを「使う」組織から、AIとともに「考え、提案する」組織への進化です。
AIを“使う”段階から“共に考える”段階へ進むことが、2026年の最大のテーマです。
本記事では、AI時代に顕在化した課題と、それを乗り越えた先に見えてくる 提案型CX(Customer Experience) の姿を、2026年の展望として描きます。
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2025年のハイライト:「AIエージェント」導入の加速
2025年、コールセンター業界では AIエージェント の導入が急速に進みました。
音声認識や要約、感情分析などの個別技術が成熟期を迎え、それらを統合的に活用する仕組みが整った1年でした。
AIはもはや支援ツールではなく、一次応対を担う“パートナー”として機能し始めています。
その背景には、人材不足の深刻化と、大規模言語モデル(LLM) を中心とした生成AIの進化があります。
生成AIベースのチャットボットやボイスボットが商用環境で安定稼働し、自然で柔軟な会話が可能になったことで、AIが顧客との直接コミュニケーションを担う環境が整いました。
技術の進化と人材不足の課題が、AI実装を実用段階へ押し上げた1年でした。
業務に溶け込むAIツール:実用から標準へ
2025年の象徴的な動きは、AIツールの実用と統合の進展です。
これまで限定的だったAI活用が、音声認識や要約、感情分析を横断的に組み合わせる形で本格導入されました。
業務プロセスの一部だったAIが、今や標準インフラとして機能し始めています。
NTTコミュニケーションズ の「COTOHA Voice Insight」は、通話のテキスト化と感情トーンの可視化を実現し、品質向上とコンプライアンス管理に活用されています。
トランスコスモス の「transpeech」は、AIエージェントとの連携により自動要約やタスク実行までカバーする構成が特徴です。
野村総合研究所 の「TRAINA VOICE」シリーズも、音声認識と要約を組み合わせたモニタリングや教育支援で採用が広がっています。
さらに、モビルス の「maestra」や バーチャレクス のAIエージェントサービスなど、複雑対応AIと呼ばれる新しい領域も生まれ始めています。
これらのAIは、単純応対から高度な意図理解・手続き完了までを自律的に担う次世代システムの原型です。
顧客体験を変えるチャット・音声AIの多様化
チャットボットや音声AIの分野では、「顧客体験(CX)」そのものを変える動きが広がっています。
生成AIを活用したチャットボットは、問い合わせ内容を理解したうえで回答候補を提示し、人とAIが協働することで、応対品質の維持・向上が進んでいます。
国内では、金融・証券、EC、通信などでAIチャットボットやボイスボットの導入事例が増え、FAQ生成の自動化や24時間対応による機会損失削減など、さまざまな成果が上がっています。
例えば、ボイスボットだけで受付完結率70%超、コールバック削減60%超を達成した事例もあります。
顧客の待ち時間短縮とオペレーター負荷軽減を両立しているケースが出てきています。
CRMとの連携も重要なポイントです。通話やチャットの内容を自動で記録・要約し、属性や行動履歴と紐づけて分析することで、次回接点でのパーソナライズ提案に活かす動きが広がっています。
コールセンターは「問い合わせ窓口」から、顧客データとインサイトを生み出す「情報中枢」へと変化しています。
AIエージェント導入の効果と具体例
AIエージェント導入の効果は、具体的な数値としても表れています。海外・国内の導入事例をみると、AIによる自動応答や要約の活用により、オペレーターの応対件数削減やコールラップアップ時間の短縮、CSAT向上などが報告されています。
ある大手通販会社では、商品説明や注文状況確認をAIチャットエージェントに任せた結果、問い合わせのうち70%をAIが処理し、顧客満足度が15%向上しました。
また、ある保険会社では、複雑な保険商品の説明にAIを活用することで、1件あたりの対応時間が30%短縮され、営業効率の向上にもつながっています。
さらに、ある自治体の窓口業務では、AIが各種手続きの説明や案内を担当したことで、繁忙期の問い合わせ件数が50%削減されました。
人件費の一部がシステム費用に置き換わる一方で、稼働安定後はトータルの運営コストを抑えつつ応対品質を高められるという評価が主流になりつつあります。
AIと共に成長する現場スキル
AIの導入は、現場の役割や求められるスキルも変えています。
ボイスボットやチャットボットが一次応対を担うことで、オペレーターは、感情のこじれを伴うクレーム対応や提案型のクロスセル・アップセルなど、判断力とコミュニケーション力が求められる業務に注力するようになっています。
一方で、AIが出力した回答案や要約に頼りすぎると、オペレーターの自律的な理解や思考が弱まる懸念があります。
AIの誤回答や誤認識を人が補正する運用が必要となるため、スーパーバイザーには「AIの監視・チューニング」や「例外対応の設計」など、新たな役割が求められています。
各社は、ロールプレイ研修やケーススタディを通じて、AIと人の協働を前提とした教育体系を刷新しています。
「AIを使いこなす組織」への転換点
これらの動きを総合すると、2025年は「AIを試す年」から「AIを前提とした運営に切り替える年」へと移行した転換点となりました。
ツール選定だけでなく、AIエージェントを業務フローやガバナンスにどう組み込むかが、各社の競争力を分ける要因になっています。
AIができること・できないことを見極め、自社の業務特性や顧客特性に応じて役割分担を再構築することが、次のフェーズのテーマです。
2026年以降は、こうした基盤の上で、コールセンターがより提案型・CX起点の組織へと進化していくことが期待されています。
AI時代に顕在化した「4つの課題」

2025年、AIエージェントの導入が進む中、コールセンターでは新たな課題が浮上しています。多くの企業がAI導入で業務効率を向上させた一方、現場の変化に伴い、従来にはなかった課題も顕在化しています。本節では、AI時代に直面する「4つの課題」を整理し、具体的なアクション案を提示します。
これらの課題は一見独立しているように見えますが、教育・品質・運用・ガバナンスといった領域で密接に関連しています。したがって、個々の対応ではなく、全社的かつ継続的に改善を進める仕組みづくりが求められます。
スーパーバイザーに求められる新たな役割
AIエージェントの普及により、スーパーバイザーには「AI出力の確認」「例外対応の設計」「AIと人の協働最適化」といった、新たな高度な判断力が求められるようになりました。
しかし、こうしたスキルを身につけた人材はまだ十分に育っていません。従来型の教育プログラムやOJTだけでは対応しきれず、外部研修やベンダーとの連携を通じて、AI理解・データリテラシー・AI監督スキルを体系的に育成する動きが広がっています。今後はスーパーバイザーの職務定義を見直し、「AIを管理・監督する立場」としての役割を明確化していく必要があります。
呼量削減の限界と人的対応の重要性
AIによる定型問い合わせの自動化は大きな成果をもたらしましたが、複雑なクレームや感情的な対応は依然として人手に頼らざるを得ないのが現状です。
顧客の感情や背景に配慮した対応、予測不能な事象への柔軟な判断はAIでは代替できません。そのため、AIの効率性と人間の共感力の両立が今後の焦点となります。完全な呼量削減を目指すのではなく、人が介在すべき場面の最適化へと発想を変えることが重要です。さらに、感情労働を担うオペレーターの心理的負担を軽減するために、メンタルケアやモチベーション維持策の整備も欠かせません。
オペレーターの生産性と判断力のバランス
AI導入によって、オペレーターの生産性は著しく向上しています。定型業務の自動化により、高難度案件や提案型対応に注力できるようになっています。
一方で、AIが判断や回答を担う割合が増えたことで、オペレーター自身の判断力や応用力が育ちにくくなる課題も顕在化しています。AIの回答に頼りすぎると、自律的な対応力が低下する可能性があります。
このため、AIの支援を受けながら、自分で考える力を育む教育設計が求められます。ロールプレイやケーススタディを活用し、AI活用と人間力の両立を図ることが重要です。
品質管理の新リスクと対策
リアルタイム分析ツールの普及により、応対品質の可視化と改善が進んでいます。しかし、AIの誤回答・情報漏洩・ナレッジ欠損といった新たなリスクも増えています。
AIが生成する回答は文脈理解を誤ることがあり、品質低下や誤情報提供につながるリスクがあります。そのため、AIガバナンスの確立が求められています。
具体的には、AI応答の承認フロー設計、誤回答発生時のエスカレーション体制、利用データの透明性確保など、人・AI・システムの責任範囲を明確にする必要があります。また、品質指標(KPI)として「AI応答精度」「人的介入率」「改善反映スピード」などを設定し、継続的にモニタリングする仕組みを設けることが重要です。
課題解決に向けて
AI時代の課題を乗り越えるためには、AIと人の役割を再定義し、教育・運用・評価を一体化した継続的な改善サイクルを構築する必要があります。
まず、AIと人の担当業務を明文化し、AI運用責任者を中心にガバナンス体制を整備します。次に、AI出力の確認や例外対応を題材とした実践研修を導入し、現場の判断力を育成します。また、AI応答精度や顧客満足度などのKPIを設定し、定期的にモニタリングと改善を行うことで、運用品質を高めていきます。
さらに、AI導入によって職務が変化するオペレーターには、心理的支援と新たなキャリア設計が必要です。AIと人が共に成長し続ける体制を築くことが、今後のコールセンター運営の競争力を左右する鍵となるでしょう。
2026年の展望:課題の克服と「提案型CX」への進化
AIの導入が「試み」から「常識」へと変わりつつある中、企業の競争軸は効率化から体験価値へとシフトしています。
2026年は、AIをどう使うかではなく、AIと人がどう共創し、顧客にどんな提案を生み出せるかが焦点となる年です。
AIがデータを分析し、人が洞察で意味を与える。そんな協働が日常業務に定着すると、CX(顧客体験)は受け身から能動へと進化します。
ここでは、その変化の先にある「提案型CX」への道筋を描きます。
経営構造の転換とROIの再定義
AIが現場オペレーションに深く浸透したことで、企業のコスト構造は大きく変化しています。人件費削減の効果がある一方で、AIライセンス料やクラウド利用料、モニタリングやチューニングにかかる運用分析コストなど、新たな固定費の比重が増しています。
この変化により、「省人化によるROI評価」だけでは実態を把握できず、顧客体験価値の向上(CX Value)を指標に含めた再評価が求められています。
一部の調査では、AI導入企業の約7割が「顧客満足度(CS)」をROI指標に組み込み始めており、評価軸が“効率”から“体験価値”へとシフトしています。今後は、AIによって生まれた時間やコストの余白を、いかに顧客との関係深化に活かせるかが成否を分けるでしょう。
経営層はAI運用を財務・品質の両面で管理し、成果を定量的に検証する仕組みを整えることが重要です。
顧客体験の二極化と「人間らしさ」の再定義
AIによる応対が一般化する中で、顧客体験は二極化しています。応答の速さや利便性を評価する層が増える一方で、「人間味が薄れた」「共感が感じられない」と感じる層も一定数存在します。
このギャップを埋める鍵は、人間らしさの再定義です。
AIは感情を分析できますが、顧客の背景や意図を深く理解し、最適な提案につなげるのは人間の役割です。
したがって、AIが精度高く情報を収集・要約し、人がそれを基に提案や関係構築を行う「協働応対モデル」への移行が不可欠です。オペレーターには、AIを活用しながらも自ら考え、文脈を補完して提案できる力が求められます。これこそが「提案型CX」の本質といえます。
中小企業に広がる導入格差と支援強化の方向性
AI導入は広がったものの、中小企業では依然として予算・人材・ノウハウ不足が大きな障壁となっています。AIを導入しても「運用改善や教育体制の定着が難しい」「効果測定が難しい」といった課題が多く報告されています。
2026年以降は、ベンダーや自治体による伴走型支援スキームの整備が求められます。導入から教育・運用・効果検証までを一体的に支援し、改善サイクルを企業規模に合わせて設計する仕組みが必要です。特に「AIによる定型応答+人による提案対応」のハイブリッド運営モデルが、中小企業にとって現実的かつ効果的な選択肢となるでしょう。補助金や業界団体による支援策を活用し、AIを資産として定着させることが求められます。
モニタリング自動化と「カスタマーサクセス型運営」への転換
AI導入が進む一方で、システムの監視や改善作業を人が手作業で管理しているケースも多く、現場負荷の増大が課題になっています。今後は、AI自身が応答ログを分析し、誤回答の傾向や改善箇所を自動検出するなど、モニタリングの自動化が進んでいます。
この変化により、スーパーバイザーは「AIの判断を点検する」立場から、「改善・提案の指揮を取る」役割へと移行します。コールセンターの役割も「問い合わせ処理」から「顧客課題の発見と解決策の提示」へと進化し、カスタマーサクセス型の運営モデルが広がっていくでしょう。これは単なる運用の効率化ではなく、AIの知見を活かして顧客を成功に導く戦略的な転換です。
「顧客対応部門」から「顧客理解中枢」への進化
AIがもたらす大きな変化は、データを通じて顧客理解が深化することです。これまで点在していた顧客接点データがAIにより横断的に解析され、顧客対応部門が企業全体の“顧客インサイト中枢”として機能しています。
収集されたデータは製品開発や営業戦略、マーケティング活動にも活用され、コールセンターが企業全体のフィードバックループの起点となります。AIが記録と分析を担い、人が解釈と提案を行う――この協働構造が組織全体に定着すれば、CXの質は飛躍的に向上し、企業価値の源泉となります。
2026年に向けて

AIがもたらすのは自動化ではなく、人の思考と関係構築を拡張する力です。2026年は、導入済みのAIをどう磨き上げ、CXをどこまで深化できるかが企業成長の分岐点になります。注目すべきは、AIと人が競うのではなく補い合う未来。AIを「効率の道具」から「価値共創のパートナー」に変えられる企業こそが、次の時代の顧客体験をリードしていくでしょう。
