音声認識×デコールCC.CRMで「新人が戦力になる」現場へ!AIによるオペレーター支援事例

  • 「FAQを探している間の沈黙が怖くて、手が震えてしまう」
  • 「管理者を呼ぶべきか自分で耐えるべきか迷っているうちに、お客様の怒鳴り声が大きくなる」
  • 「通話後の入力作業が多すぎて、休憩に入る時間が削られていく」

これらは多くのコールセンターで日常的に繰り返されている光景です。こうした現場の悲鳴を放置したまま採用活動に注力しても、新人はすぐに去ってしまいます。本記事では、ギグワークスクロスアイティが実際に取り組んだ事例をもとに、音声認識技術を活用した「新人が迷わず戦力になれる現場づくり」の道筋を紐解きます。

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離職の原因は「迷いが生まれる設計」だった

コールセンターの離職問題は、多くの場合「適性」や「ストレス耐性」という言葉で片付けられがちです。しかし、生活インフラ系の大規模な問い合わせ窓口を運営するB社の実態を調査したところ、真の課題は個人の能力ではなく、現場に組み込まれた「迷い」を生む構造にあることが分かりました。B社は電力やガスといった生活に密接したサービスを提供しており、季節による繁閑の差が激しく、繁忙期には大量の短期スタッフを採用する必要があります。しかし商品や手続きの内容が頻繁に更新されるため、教育が追いつかず、現場は常に混乱していました。

現場で響く「救い」を求める声

調査の中で浮き彫りになったのは、オペレーターたちの切実な声です。新人オペレーターは、当時の心境をこう語ります。
お客様に質問されてからFAQシステムで回答を探すのですが、キーワードがうまくヒットしないと数分間の沈黙が流れます。その時間が長くなるほどお客様の苛立ちが伝わってきて、焦りでキーボードを打つ手が震えてしまいました」

また、中堅オペレーターも別の悩みを抱えていました。
「答え自体はどこかにあると分かっているのに、最新情報の場所が分かりにくい。結局、自分の記憶に頼って答えることになり、もし間違っていたらと不安になります。また、怒鳴り続けるお客様に当たった際、どのタイミングで上司に代わってもらえばいいのか判断基準がなく、一人で抱え込んでメンタルを削られていました」

さらにSVは、管理側の限界を吐露しました。
「数十人のオペレーターを数人で管理しているため、誰が困っているかをリアルタイムで把握するのは不可能です。保留時間が異常に長くなったときや、お客様が怒り出してからようやく気づくのですが、そのときにはすでに手遅れなことが多いのです」

業務負荷を増幅させる4つの構造的課題

これらの声を分析すると、現場の負荷は以下の4つのポイントで増幅していることが分かりました。

  • 検索コストによる精神的圧迫:会話を続けながら適切な回答を検索する行為は、脳に多大な負荷をかけます。検索ワードに迷うわずかな時間が沈黙を生み、それが顧客の不信感を煽り、結果としてクレームへと発展する悪循環が生じていました。
  • 後処理作業のブラックボックス化:通話が終わった後の応対履歴の作成、いわゆる後処理作業が属人化していました。記入すべき要点が定まっていないため、人によって入力時間が大幅に異なり、それが残業時間の増加と品質のバラつきを招いていました。
  • カスハラ対応の判断基準の曖昧さ:カスタマーハラスメントに対して、どこまでが通常のクレームで、どこからが組織として対応すべき暴言なのか、その線引きが個人に委ねられていました。特に新人は「自分の対応が悪いから怒らせたのではないか」と思い込み、上席への交代要請を躊躇してしまいます。
  • 疲労シグナルの埋没:連続した対応による集中力の低下や精神的な疲労は、一見しただけでは分かりません。声のトーンの変化や返答の間の不自然な空きといった危険信号が発せられていても、組織がキャッチする仕組みがなかったため、限界を超えたところで突然の欠勤や離職が発生していました。

「定着しない」を設計の力で変える

人事・現場責任者は、こうした状況を目の当たりにし、ようやく気づきました。離職が止まらないのは、スタッフのメンタルが弱いからではなく、迷いが生まれる動線を放置し、支援が届かないタイミングで業務を丸投げしていたことが原因だったのです。これを改善するためにはスタッフの努力に期待するのではなく、システム側で迷いを先回りして解消するアプローチが求められます。

私たちがB社に対して最初に行ったのは、高価なツールの導入提案ではありませんでした。まずは現場の一人ひとりが「どの瞬間に、何に迷い、どのように心が折れるのか」を徹底的に言語化する聞き取り調査を実施しました。この調査結果こそが、次章で紹介する音声認識とCRMを連携させた解決策の設計図となりました。

聞き取りから要件化まで

私たちがB社に提示した解決策は、単なる音声認識の導入ではありませんでした。重要なのはAIがいかに正確に文字を書き起こすかという精度の追求ではなく、その技術を使ってオペレーターの迷いをいかに消すかという運用の動線設計にありました。

現場の「困った」を要件に変えるヒアリング

プロジェクトの第一歩は、徹底的な現場観察とインタビューです。新人からベテラン、そして管理職まで、役割ごとに異なる詰まりどころを抽出しました。

  • ヒアリングの対象:新人オペレーター、中堅オペレーター、SV、QA(品質管理)担当、人事・現場責任者の5つの層。
  • 聞き取りの構成:単に不満を聞くのではなく、発生した現象、困った瞬間、その場での行動、そして結果としての失敗という順序で深掘りしました。

例えばSVからは、「保留ボタンが押された長さが、トラブル発生のサイン。でも、全員の保留時間を常に監視することはできない」という具体的な悩みが寄せられました。これを要件に変換し、特定の保留時間を超えた際に自動で管理者にアラートを飛ばす、あるいは保留前のキーワードからトラブルの予兆を検知する機能へと繋げました。

迷いの発生点をマッピングする

次に、通話の開始から終了、そして後処理までの流れをフェーズに分け、どこで迷いが生じているかを整理しました。

  • 冒頭から要件特定まで:お客様の言葉から、どのFAQを見るべきかの判断に迷う。
  • 例外処理の段階:マニュアル外の要求に対し、上席に代わるべきか自分で粘るべきか迷う。
  • 後処理の段階:膨大な会話内容から、何を履歴に残すべきかの要約作業に迷う。

こうした分析を経て、技術を活用すべき柱を3本に絞り込みました。

提案①:リアルタイム音声認識によるFAQサジェスト

最も大きな柱は、デコールCC.CRMの「リアルタイム音声認識」と「FAQサジェスト」の連携です。これは、オペレーターが自ら検索窓に文字を打ち込むのではなく、顧客との会話からAIがキーワードを自動で抽出し、画面上に回答候補を表示する仕組みです。
新人オペレーターはこの機能について、「お客様が『引っ越しの手続き』と言った瞬間に画面に案内手順が出てくることで、次に何を言えばいいか先回りして表示される。これだけで心に余裕が生まれます」と期待を寄せました。

提案②:自動要約と記録支援による後処理の短縮

次に着手したのが、通話後の負荷軽減です。すべての会話を完璧に文字に起こすのではなく、AIが重要なポイントを抽出して履歴の下書きを自動生成する運用を設計しました。
ここではAIの作成した内容を正解とするのではなく、あくまでオペレーターが最終確認して整える補助の立ち位置を強調しました。これにより、後処理の時間が短縮されるだけでなく、情報の記入漏れや品質のバラつきを抑えることができます。

提案③:支援のための見守り設計

支援のための見守り設計には、大きく2つの側面があります。まずカスハラ兆候の検知については、顧客の怒鳴り声や特定のNGワードをAIが検知してSVの画面にアラートを出し、即座に状況を把握できる仕組みを整えました。また疲労シグナルの可視化については、医学的判断ではなく、保留回数や沈黙時間の増加といった運用上のシグナルとして捉え、管理者がフォローに入る目安にしています。

SVは「オペレーター本人は限界まで大丈夫だと言ってしまいがちです。システムが先に変化を察知してくれれば、こちらから一度休憩に入ってと声をかけることができます」と語っています。

導入を成功させる3つのステップ

B社では、この仕組みを以下のステップで導入していきました。

  1. パイロット運用:対象とする問い合わせ業務を絞り込み、FAQの精度向上とSVが介入する際の具体的なルールを策定。
  2. 現場への定着:新しい機能を新人の教育プログラムの一部として組み込み、ツールの使いこなしを標準化。
  3. 改善サイクルの確立:実際に使って生じたAIの誤認識や役に立たなかったFAQを定期的に洗い出し、ナレッジを改善し続ける体制を構築。

単にAIを導入したという結果で終わらせず、迷いが生じる瞬間に適切な支援が差し込まれる動線を作り上げたこと。これこそが、B社のプロジェクトの成功要因となりました。

音声認識モデルを育てる運用

仕組みの導入から半年が経過し、B社の現場は劇的な変化を遂げました。かつてのような殺伐とした雰囲気は影を潜め、新人たちが落ち着いて顧客と向き合える環境が整っています。この章では、今回のプロジェクトが残した具体的な成果と、その効果を維持するために欠かせない「AIを育てる運用」について詳しく見ていきましょう。

導入後の成果:数値で見る改善効果

今回のシステム導入と業務設計の見直しにより、主要なKPI(重要業績評価指標)において顕著な改善が見られました。

  • 離職率の大幅な低下:四半期ごとの離職率は、導入前の約35%から約22%へと改善しました。特に入社3ヶ月以内の早期離職が激減しており、仕事が覚えられないといった心理的障壁が支援によって緩和された結果といえます。
  • 立ち上がり期間の短縮:新人が一人で自信を持って対応できるようになるまでの期間が、平均6週間から4週間へと短縮されました。FAQサジェスト機能により、知識を完璧に暗記していなくても会話に集中できたことが、成長スピードを早めました。
  • 後処理時間の最適化:通話1件あたりの平均後処理時間は、平均7分から4分へと約4割短縮されました。AIの要約下書きを活用することで入力の負担が減り、スタッフが定時で帰りやすくなっています。
  • 品質評価と顧客満足度の向上:社内の品質評価スコアの合格率は68%から82%へと向上しました。対応の型が揃い、保留時間が短くなったことで、顧客からの低評価比率も減少しています。
  • カスハラ対応の迅速化:AIのアラート機能により、SVがトラブルを検知してから介入するまでの時間が劇的に短縮されました。大きなトラブルに発展する前に上席が引き取れるようになり、スタッフの精神的負担が大幅に軽減されています。

現場スタッフのアンケートでは、「会話中に詰まって頭が真っ白になる回数が減った」「背後でSVが見守ってくれているという安心感がある」といった前向きな意見が多数寄せられました。

「監視」ではなく「支援」であるための運用ルール

成功の大きな要因は、音声認識によるモニタリングを評価のための監視ではなく守るための支援として位置づけ、スタッフ全員と合意したことにあります。B社では、以下のルールを明文化しました。

  • AIの判定を絶対視しない:AIがカスハラだと検知しても、即座に電話を切るようなことはしません。必ず人間が内容を確認し、会社の方針に沿って判断します。
  • プライバシーと利用目的の明示:取得した音声データや疲労のシグナルをどのように活用し、管理するかを説明し、スタッフの不安を解消しました。
  • 改善のためのフィードバック:システムで見つかった現場の詰まりどころを、翌月のFAQ改善やトレーニング内容に反映させるサイクルを構築しました。

音声認識モデルを現場の言葉で育てる

最後に、システムの鮮度を保つための継続的な取り組みについて触れます。音声認識AIは導入して終わりではなく、現場の言葉に合わせて育てていくことが不可欠です。

B社では月に一度、私たちと連携して以下のチューニングを行っています。

  1. 辞書登録の徹底:新サービス名や社内略語、お客様が使いがちな独特の言い回しなどを定期的に登録し、キーワードの誤認識を防ぎます。
  2. 認識ミスの分析と追加学習:なぜこの会話でFAQが正しく出なかったのかを分析します。誤認識が多いパターンを抽出し、AIモデルの調整を繰り返します。
  3. FAQサジェストの最適化:サジェストされたものの実際には使われなかった回答を特定し、より実態に即したFAQに書き換えます。

デコールCC.CRMが目指すのは、単に声を文字に変えることではありません。現場で飛び交う生の言葉を吸い上げ、それをスタッフを助ける知恵に変えていくことです。B社の事例は、テクノロジーと人間の温かな支援が融合したとき、離職率という高い壁を乗り越えられることを証明しました。

「新人が辞めない現場」を作るために

リアルタイム音声認識を活用したコールセンター改革の本質は、単なる文字起こしの自動化ではありません。会話中の迷いを消し去り、現場が最も助けを必要とする瞬間に組織としての支援を届けることにあります。B社の事例では、テクノロジーを導入する前に、なぜ人が辞めていくのかという課題を徹底的に分解したことが成功の鍵となりました。

成功要因は大きく以下の3点に集約できます。

  1. 現場の迷いの特定:徹底した聞き取りにより、検索や後処理の負荷を可視化したこと
  2. 支援としての設計:システムによる見守りを監視ではなく守るためのツールとして定義したこと
  3. 継続的な改善運用:辞書登録やチューニングを通じて、現場の言葉に合わせてAIを育て続けたこと

現場の改善に取り組む際、最初の一歩は大規模なAIの導入を検討することではありません。まずはスタッフがどの瞬間に孤独を感じ、沈黙を恐れているのかという迷いの発生点を言語化するヒアリングから始めてみてください。その声の中にこそ、離職を防ぎ、新人を戦力へと変える答えが隠されています。

この記事を書いた人

ビジネス・テクノロジスト 貝田龍太