
欧州を中心に「脱Windows」が進んでいるという話題を目にする機会が増えました。政府機関がLinuxを採用し、Microsoft製品をオープンソース製品に置き換える動きは、Windowsの時代が終わる兆候として語られています。しかし、報道されている事例には、OSの全面移行だけでなく、Office製品の切り替えやLinuxの試験導入も含まれています。実際に変わり始めたのは、Windowsの市場シェアではなく、政府機関のIT調達に対する考え方です。欧州の政府機関の動きとMicrosoftの対応を整理し、日本で起こり得る変化を考えます。
【関連記事】強化学習とワールドモデルから見る「AIが自ら試し、考える仕組み」

話題が先行する「脱Windows」
各国政府がWindowsを捨て、Linuxへ移行しているかのような見出しが目立つようになりました。ところが、詳しく確認すると、変更の対象となる製品や組織、移行の進み具合は事例ごとに異なります。世界中のPCでWindowsからの移行が一斉に進んでいると考えるのは早計です。
デスクトップOSの主流はWindows
StatCounterによると、2026年7月のデスクトップOSに占めるWindowsの割合は世界で71.18%でした。Linuxは7.53%、Chrome OSは1.47%です。日本ではWindowsが75.85%を占めています。Windowsは現在も、デスクトップPCで最も広く使われているOSです。
ただし、StatCounterは100万以上のWebサイトから収集したページビューを分析し、アクセスに使われたOSを集計しています。企業や行政機関が保有する端末の台数、PCの販売台数、OSのライセンス数を調べた統計ではありません。社内システムだけで使われる端末は集計結果に反映されにくく、端末ごとの利用頻度によっても結果が変わります。それでも、毎月30億件を超えるページビューに基づく数値は、OSのおおよその利用割合を知る手掛かりになります。
政府機関によるLinuxの採用が増えても、企業や家庭のPCまで同じペースで別のOSへ移行するとは限りません。利用しているソフトや周辺機器、端末の管理方法、利用者の習熟度が異なるためです。政府機関で進むWindowsからの移行と、世界全体におけるWindowsの利用率低下は分けて考える必要があります。
Office製品とOSで移行の範囲が異なる
脱Windowsとして紹介される動きには、OSを変更していない事例もあります。デンマークのデジタル省は2025年6月、Microsoft Officeに代わる文書編集環境としてCollaboraの試験導入を始めました。CollaboraはLibreOfficeを基にしたオープンソース製品です。対象となる職員は、同省の文書管理システムに組み込まれたCollaboraを使い、文書やプレゼンテーション資料、表計算シートを作成します。
この試験で変更するのはOffice製品であり、職員のPCではWindowsを使い続けます。当初はデンマーク政府がLinuxへ移行するという報道も出ましたが、後にOSはWindowsのままだと訂正されました。Microsoft Officeから離れる動きを、そのままWindowsからの移行と表現すると、変更の範囲を誤って伝えてしまいます。
デンマークの試験内容を見ると、移行の難しさも分かります。同省が確認しているのは、一般的な文書を開けるかどうかだけではありません。政府文書の書式、変更履歴、表の扱い、Word形式へ変換した際のレイアウトまで検証しています。別のソフトで文書を作成できても、作成した文書を、他省庁や外部組織とレイアウトを崩さずにやり取りできなければ、業務には使えません。OSより先にOffice製品や文書形式を見直せば、業務への影響を抑えながらMicrosoft製品への依存を減らせます。
正確な動きを捉えるために
フランス政府は2026年4月、米国を含む欧州域外のデジタル製品への依存を減らす方針を発表しました。政府デジタル局はWindowsからLinuxへ移行する方針を示し、各省庁と所管機関も2026年秋までに、欧州域外の製品への依存を減らす計画を策定します。対象には職員用端末のほか、共同作業ツール、ウイルス対策ソフト、AI基盤、データベース、仮想化基盤、ネットワーク機器が含まれます。
フランス政府はLinuxへの移行に踏み出しましたが、全省庁の端末をすでに置き換えたわけではありません。政府デジタル局は移行を表明し、各省庁は計画を作る段階です。対象台数や採用するLinuxの種類、業務ごとの移行時期は今後決まります。「フランス政府がWindowsを廃止した」と書けば、計画段階の方針を、すでに移行が完了した事実として伝えてしまいます。
ドイツ北部のシュレスヴィヒ=ホルシュタイン州は、さらに移行が進んだ例です。同州ではLibreOfficeが標準のオフィスソフトとなり、2025年12月時点で、税務部門を除く対象端末の約80%がLibreOfficeへ切り替わりました。メールシステムもOpen-Xchangeへ切り替え、共同作業にはNextcloud、ビデオ会議にはOpenTalkを採用しています。ただし、LinuxはWindowsに代わるOSとして試験導入されている段階です。
欧州の動きを正確に捉えるには、どの組織が、どの製品を、どこまで移したのかを確認しなければなりません。欧州全体がWindowsを捨てたわけではありませんが、政府機関がMicrosoft製品への依存を問題として認識し、計画を作るだけでなく、実際に製品を切り替える段階まで進んでいるのは事実です。

欧州政府機関が「Microsoft依存」をなくす事情

欧州で見直されているのは、デスクトップOSだけではありません。行政文書の作成、メール、共同作業、認証、クラウドなど、幅広い業務を特定の域外企業の製品に依存している状況が、政策上のリスクとして扱われています。製品の価格や使いやすさだけでは、欧州の政府機関がMicrosoft製品を見直す理由を十分に説明できません。
フランスとドイツの具体的な移行へのステップ
フランス政府が2026年4月に示した方針では、各省庁が個別に代替製品を探すだけでなく、政府全体で依存状況を調べ、欧州企業やオープンソース製品の開発組織と連携します。端末、AI、データベース、ネットワークなど、複数の分野にわたって依存状況を調査するのは、1つの製品を切り替えても、別の分野で同じ企業への依存が残るためです。
政府デジタル局が先にLinuxへ移行すれば、技術上の問題を洗い出し、職員研修に必要な準備も把握できます。各省庁が使う業務ソフトは異なるため、フランス政府は一律の切り替え日を定めず、依存関係を調べたうえで組織ごとの計画を作る方針です。
シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州では、OSより先にOffice、メール、共同作業、ビデオ会議を切り替えました。日常業務で使う製品を1つずつ切り替え、最後にWindowsをLinuxへ置き換えられるか検証しています。この順序なら、Linuxへ移行した後にMicrosoft Officeが必要となり、そのためだけにWindowsを併用する事態を避けやすくなります。
一方、オープンソースを採用しても、運用費用がなくなるわけではありません。文書やマクロの修正、職員研修、問い合わせ対応、セキュリティ更新、既存システムとの接続には人員と予算が必要です。利用する側が保守体制を整え、開発に継続的に関与しなければ、依存先が別の保守事業者へ移るだけの場合もあります。欧州の移行は、無料のソフトへ切り替える節約策ではなく、費用を負担してでも選択権を確保する政策として進められています。
デジタル主権で問われるデータと運用の主導権
EUは2026年6月、行政機関におけるオープンソースの開発と利用、オープンな標準の採用、公共部門が調達したソフトウェアの共有と再利用をさらに進める方針を示しました。この政策を支えるデジタル主権という考え方は、自国や域内でソフトウェアを開発するだけにとどまりません。行政が使う技術を自ら選び、必要に応じて他の製品へ切り替えられる状態を確保する考え方です。
行政業務で使うシステムを1社の製品で統一すると、1つの製品だけを別の製品へ切り替えるのが難しくなります。文書はOffice、メールと会議はMicrosoft 365、認証はEntra ID、共同作業はSharePoint、クラウドはAzureというように、各製品を連携させるほど、別の製品へ切り替えた際の影響範囲が大きくなります。移行費用が高ければ、契約条件や料金が変わっても継続利用を選ばざるを得ません。ベンダーロックインは価格交渉を難しくし、行政が選べる製品も減らします。
データをどの国や地域に保存するのか、保守時に誰がデータへアクセスできるのか、誰が暗号鍵を管理するのかも問題になります。外国政府の法令や政策によってサービスの提供条件が変わった場合に、行政や重要インフラの業務を継続できるかも検討しなければなりません。欧州の政府機関が求めているのは、平常時にサービスを利用できるだけでなく、政治や契約をめぐる状況が変わっても、自らの判断で業務を続けられる環境です。
オープンソース製品なら、ソースコードを確認でき、保守を別の組織に引き継げる可能性があります。オープンな文書形式や通信仕様を採用すれば、製品を変更してもデータを引き継ぎやすくなります。ただし、公開されたコードを誰も保守していなければ安全性は保てません。形式上は標準に対応していても、複雑な文書や高度な業務機能を扱う際に、互換性の問題が起きる場合もあります。主導権を確保するには、代替製品を導入するだけでなく、保守できる人材を育て、データを他の製品へ移せる形式で管理する必要があります。
Microsoftのデジタル主権への対応
Windows 10のサポートは2025年10月14日に終了しました。Windows 11の最低要件を満たさない端末について、Microsoftは新しいPCへの買い替えか、有償の延長セキュリティ更新を案内しています。法人向けの延長更新は最長3年間です。Windows 365の契約者は延長更新を利用しながら、既存端末からクラウド上のWindows 11へ接続できます。端末を一斉に買い替えられない組織が、移行期間を確保できるようにしています。
Microsoftは、EU Data Boundaryによって欧州のデータ管理要件に対応しています。欧州の顧客は、Microsoft 365、Dynamics 365、Power Platform、Azureなどで扱う顧客データや個人識別子をEU・EFTA域内で保存し、処理できるようになりました。2025年には、技術支援の際に扱うログや問い合わせ記録なども対象に加えました。
Sovereign Cloudでは、顧客が運用を管理できる範囲も広がっています。地域内の担当者が運用を監督し、顧客が暗号鍵を管理できます。顧客や提携事業者が運営する設備や、外部ネットワークから切り離した環境も選べます。Microsoft 365やAIを使いながら、行政機関や重要インフラが求めるデータ管理と運用の要件を満たすための仕組みです。
これらの対応により、欧州の組織はMicrosoft製品を使い続けながら、データの域外移転を減らし、Microsoft側の運用担当者がデータへアクセスできる範囲も狭められます。Microsoftにとっては、Windowsのシェアが下がっても、Office、クラウド、認証、セキュリティ、AIなどの契約を維持できる利点があります。Windowsからの移行が進んでも、Microsoft製品やサービスの利用までなくなるとは限りません。 OSのシェアだけでは、Microsoftと顧客の関係がどのように変わったのかを判断できなくなっています。
日本固有の事情と今後の見通し
日本でもWindows 10のサポート終了を機に、端末の更新やOSの選択を見直す必要が生じました。しかし、欧州の政府機関と同じ方針を掲げても、国全体で同時にLinuxへ移行できるわけではありません。端末や業務システムを選ぶ組織が分かれ、既存システムも異なるため、一括した切り替えは困難です。
一括移行が進まない理由
日本の府省庁、地方公共団体、教育委員会、民間企業は、それぞれの予算と調達計画に基づいて端末や業務システムを選んでいます。国が政府職員用PCの方針を変更しても、地方公共団体や民間企業の端末まで同じOSへ切り替わるわけではありません。同じ組織内でも、一般事務、設計、開発、窓口、製造設備の管理では必要なソフトや周辺機器が異なります。
既存の業務環境もWindowsを前提に作られています。Windows専用の業務ソフト、Excelマクロ、Active Directoryを中心とした認証、端末管理、プリンターや計測機器のドライバーが残っていれば、OSだけをLinuxへ変えても、既存の業務環境をそのまま引き継げません。代替ソフトの選定、データ変換、動作確認、操作研修、保守契約の変更まで含めて計画する必要があります。業務を止められない組織ほど、すべてを一度に変更するのは困難です。
地方公共団体の基幹業務システム標準化では、国が共通の目標を定め、標準仕様に沿ったシステムへの移行を進めています。それでも、技術的に移行が難しいシステムや、開発事業者の人手不足によって2026年度以降へずれ込むシステムが生じました。政府はこれらを特定移行支援システムに位置づけ、おおむね5年以内の移行を支援する方針です。
一部の自治体システムで標準化が遅れている状況は、全国の行政システムを同じ期限に合わせる難しさを示しています。契約内容や既存データ、接続先、事業者が対応できる作業量は自治体ごとに異なります。さらにOSまで一斉に変更しようとすれば、調整すべき事項が一層増えます。日本では、政府が一律の切り替え日を定めるより、組織や業務ごとにWindowsへの依存を減らす方が現実的です。
すでにWindows以外の採用が主流になった教育用端末
一括移行が難しい日本でも、教育分野では大きな変化が起きています。MM総研は2025年6月から7月に、全国1741市区町村を対象としてGIGAスクール第2期の端末更新方針を調査し、1249市区町村から回答を得ました。このうち1174団体が回答した計621万台について、OS別の採用予定を集計したところ、ChromeOSが60%、iPadOSが31%、Windowsが10%でした。
第1期ではChromeOSが42%、WindowsとiPadOSがそれぞれ約29%でした。第2期ではChromeOSが18ポイント増え、Windowsは19ポイント減っています。第1期からOSを切り替えた自治体は28%でした。ChromeOSを使っていた自治体の9割以上、iPadOSを使っていた自治体の約8割が同じOSを継続した一方、Windowsまたは複数のOSを採用していた自治体では、6割以上が第2期に採用するOSを変更しています。
この数値は調査に回答した自治体の採用予定を集計したもので、全国の学校で実際に稼働している端末の確定台数ではありません。それでも、Windowsの採用予定割合が大きく低下し、ChromeOSの割合が上昇しているのは明らかです。回答者がWindowsを低く評価した理由には、OSの更新など、運用の難しさや動作の遅さが挙げられています。
学校の端末では、企業のPCに比べてWindows専用ソフトを使う場面が限られます。教材の閲覧、文書作成、情報検索、課題の提出、教員との共有をWebサービスで行えるため、OS固有の機能に頼らずに済みます。多数の端末に同じ設定を配布し、故障や紛失にも対応しなければならないため、端末を一元管理しやすいかどうかも重要です。教育インフラでは、Windows用ソフトとの互換性よりも、管理のしやすさ、端末価格、起動時間、クラウドとの連携が重視されるようになりました。
共同調達で進むOSの見直し
GIGAスクール第2期でOSの採用割合が大きく変わった背景には、端末の一斉更新があります。政府はGIGAスクール第2期に向けて都道府県に基金を設け、2024年度から2028年度まで1人1台端末の更新を支援しています。都道府県には共同調達会議の設置が義務付けられ、市町村は原則として共同調達に参加します。
共同調達なら、まとまった台数を前提に、価格、保守、端末管理、納期を検討できます。周辺自治体と同じOSを使えば、教材、操作方法、障害対応の知識も共有しやすくなります。MM総研の調査でも、OSを変更した理由として、周辺自治体での採用実績や運用のしやすさが挙げられました。国の支援と都道府県単位の調整があり、端末の更新時期も重なったため、教育分野では従来のOSを見直しやすくなりました。
行政や企業では、多数の端末を同じ時期に更新する機会は多くありません。それでも、業務システムをWebブラウザーから利用できるようにし、文書を標準形式で保存し、認証や端末管理を複数のOSに対応させれば、Windowsを必要とする業務は減ります。窓口でWebシステムだけを使う端末、持ち出し用の端末、定型的な入力を行う端末など、用途が限られる端末から、別のOSが採用される可能性があります。
教育段階からChromeOSやiPadOSに慣れた人が増えれば、企業の端末選びにも影響します。新入社員がWindowsの基本操作を知っているという前提も、今後は成り立たなくなる可能性があります。企業側で入社後の操作研修が必要になれば、「多くの人が使い慣れている」というWindowsの優位性は小さくなります。Windowsは有力な選択肢として残りますが、業務用端末にはWindowsを選ぶのが当然という時代は終わりつつあります。
まとめ

「世界で脱Windowsが進んでいる」という見方は、実態を正確に捉えていません。Office製品の切り替え、Linuxの試験導入、移行計画、すでに完了した移行が区別されず、ひとまとめにされているためです。Windowsは現在も世界のデスクトップOSの約7割を占めており、すぐに主流の座を失うとは考えにくいでしょう。
一方、欧州の政府機関では、Microsoft製品への依存を減らすため、実際の切り替えが始まっています。目的はライセンス料の削減だけではありません。データ管理やシステム運用だけでなく、料金やサービスの継続まで1社に左右される状況を避け、必要なときに別の製品を選べる環境を整えようとしています。Microsoftも域内でのデータ処理や、顧客自身が運用を管理できるクラウドを用意し、こうした要求に対応しています。
日本で行政や企業が一斉にLinuxへ移行する可能性は低いものの、教育用端末ではChromeOSとiPadOSの採用が主流になりました。今後は、Webサービスを中心に使う業務や、用途を限定した端末では、Windows以外のOSが選ばれるようになると考えられます。Windowsが消えるのではなく、業務用PCならWindowsを選ぶのが当たり前だった時代が終わりつつあります。
参考文献
Update: Danish ministry only ditching Microsoft Office, but Windows is staying on their PCs
Souveraineté numérique : l’État accélère la réduction de ses dépendances extra-européennes
