カスハラにはどう対応すべき?対策の基本とAIによるカスハラ対策をご紹介

カスタマーハラスメント(通称:カスハラ)は、顧客が企業の従業員に対して行う不当な言動や要求を指します。近年、この問題の深刻さが社会的に認識されるようになってきました。特にコールセンターでは、直接対面することなく電話やオンラインでのやり取りが主となるため、カスハラが発生しやすい環境にあります。

カスハラの影響は従業員個人のメンタルヘルスにとどまらず、企業全体の生産性や顧客サービスの質にも及びます。日本コールセンター協会の調査によると、コールセンター従業員の約70%がカスハラを経験したことがあると報告されています。このような状況は、従業員の離職率上昇や、サービス品質の低下につながる可能性があり、企業にとって看過できない問題となっています。

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カスハラの主なパターン

コールセンターにおけるカスハラにはいくつかのパターンが存在します。ここでは、カスハラの主なパターンについて説明します。

感情的な怒鳴り声や暴言

最も一般的なカスハラのパターンの一つが、感情的な怒鳴り声や暴言です。顧客が自身の不満やフラストレーションをコントロールできず、オペレーターに対して大声で怒鳴ったり、侮辱的な言葉を投げかけたりするケースが多く見られます。例えば、「お前は何も分かっていない!」「こんな対応では二度と利用しない!」といった発言がこれに該当します。

過剰な要求や不当な言いがかり

顧客が企業のポリシーや法的制限を無視して、過剰な要求をするケースも少なくありません。例えば、返品期限が過ぎた商品の全額返金を要求したり、明らかに顧客側の過失であるにもかかわらず、企業側の責任を追及したりするような行為が挙げられます。「他社ではできるのになぜあなたの会社ではできないのか」といった不当な比較や、「上司を出せ」と繰り返し要求するなども、このパターンに含まれます。

長時間の拘束や執拗な要求

一つの問い合わせに対して異常に長時間の対応を要求したり、同じ内容を繰り返し問い合わせたりするケースもカスハラの一種です。例えば、1時間以上も電話を切らずに話し続けたり、毎日のように同じ内容で問い合わせをしたりする行為が該当します。このような行為は、オペレーターの時間を不当に占有し、他の顧客へのサービスにも影響を与える可能性があります。

個人情報の要求や脅迫

より深刻なケースとして、オペレーターの個人情報を要求したり、脅迫的な言動を行ったりするパターンがあります。「あなたの名前と住所を教えろ」「お前を訴えてやる」といった発言は、オペレーターに強い恐怖や不安を与え、深刻な心理的ダメージにつながる可能性があります。

カスハラへの対応のポイント

コールセンターにおけるカスハラは避けられない問題ですが、適切な対応策を知ることで、その影響を最小限に抑えることができます。ここでは、カスハラへの対応における重要なポイントを紹介します。

冷静さを保つこと

カスハラに直面した際、最も重要なのは冷静さを保つことです。感情的になったり、相手に同じように攻撃的な態度で接したりすることは、状況をさらに悪化させる可能性があります。

  • 深呼吸をして、自分の感情をコントロールする
  • 相手の言動を個人的に受け取らないよう心がける
  • 自分の役割と責任を思い出し、プロフェッショナルな態度を維持する

適切な言葉遣いと態度

適切な言葉遣いと態度は、状況を和らげる上で非常に重要です。

  • 常に丁寧な言葉遣いを心がける
  • 相手の話を注意深く聞き、共感の姿勢を示す
  • 「申し訳ございません」「ご不便をおかけして申し訳ございません」など、適切な謝罪の言葉を使用する
  • 相手の感情を認識し、「お客様のお気持ちはよく分かります」などと伝える

エスカレーションのタイミング

状況がコントロール不能になったと感じた場合、適切なタイミングでエスカレーション(上司や専門チームへの引き継ぎ)を行うことが重要です。

  • 顧客が同じ要求を繰り返し、解決の見込みがない場合
  • 脅迫や個人攻撃が始まった場合
  • 自分の権限を超える要求があった場合
  • 長時間(例:30分以上)対応しても進展がない場合

 エスカレーションを行う際は、顧客に対して丁寧に説明し、上司や専門チームがより適切に対応できることを伝えます。

証拠の記録と保管

カスハラの事例を適切に記録し保管することは、将来の対策や法的保護のために非常に重要です。

  • 通話の日時、顧客情報、問題の内容を詳細に記録する
  • 可能であれば、通話を録音する(ただし、法的規制に注意)
  • 特に悪質なケースについては、上司に報告し、組織として対応を検討する
  • 記録は安全に保管し、個人情報保護に十分注意する

これらのポイントを押さえることで、カスハラへの対応をより効果的に行うことができます。また、定期的なトレーニングや、ストレス管理のためのサポート体制を整えることも重要です。カスハラは単にオペレーターの問題ではなく、組織全体で取り組むべき課題であることを認識し、継続的な改善を図ることが大切です。

システムやAIを活用したカスハラ対策

近年、コールセンターにおけるカスハラ対策として、AIやテクノロジーを活用した革新的なソリューションが開発されています。これらの技術は、オペレーターの負担を軽減し、より効果的にカスハラに対応することを可能にしています。

音声認識AIによるカスハラ検知

最新のAI技術を用いた音声認識システムは、顧客の声のトーンや使用される言葉から、潜在的なカスハラを早期に検出することができます。例えば、NTTグループが開発した生成AIプログラム「tsuzumi」は、顧客の苦情内容をリアルタイムで分析し、適切な応答例を提示することで、深刻なトラブルを回避するのに役立ちます。

管理者への自動通知システム

カスハラが検出された場合、システムは自動的に管理者や上司に通知を送ることができます。これにより、状況が悪化する前に適切な介入が可能となり、オペレーターを保護することができます。オーストラリアのコモンウェルス銀行(CBA)は、支払い取引のメッセージに含まれる嫌がらせや脅迫、攻撃的な内容を特定するAIモデルを開発し、これを無料で世界中の銀行に提供することを発表しています。

怒鳴り声や感情的な声のトーン変換

ソフトバンクと東京大学が共同開発した技術は、怒っている顧客の声のトーンを変更して「怖さ」を軽減することができます。このAIは、数万の音声データを基に学習し、音量や抑揚に基づいて「怖い声」を識別します。この音声変換技術により、オペレーターが受けるストレスを大幅に軽減することができます。怒鳴り声や攻撃的な口調が和らげられることで、オペレーターはより冷静に対応することが可能となり、結果として顧客との建設的なコミュニケーションを促進することができます。

生成AIを活用したカスハラ対応支援システム

NTTコミュニケーションズは、生成AIを活用してカスハラに対応する新たなシステムを公開しました。このシステムは、オペレーターの心理的負担を軽減しつつ、効果的な顧客対応を支援することを目的としています。
【参考】コールセンターAIプロダクト「ForeSight Voice Mining」生成AIを活用したカスハラ検知機能(特許出願中)を年明けに製品化

リアルタイムの回答案提示機能

このシステムの特徴の一つは、生成AIがリアルタイムで回答案を提示する機能です。オペレーターが顧客との会話中に、AIが即座に適切な回答案を示すことで、オペレーターは心の余裕を持って応対することができます。これにより、カスハラのような困難な状況下でも、冷静かつ適切な対応が可能となります。

脅迫発言の検知と上司への連絡機能

さらに、このシステムには顧客の脅迫的な発言を検知する機能も備わっています。AIが会話の中で脅迫や攻撃的な内容を検出すると、自動的に上司に連絡する仕組みになっています。これにより、状況が悪化する前に適切な介入が可能となり、オペレーターの安全を確保するとともに、問題の早期解決を図ることができます。

テクノロジーの限界

AIやテクノロジーを活用したカスハラ対策システムは、確かに大きな可能性を秘めています。しかし、これらのシステムにも限界があることを認識しておく必要があります。

人間的な対応の重要性

AIによる定型的な応答だけでは、怒った顧客を落ち着かせることは難しい場合があります。「顧客の不満を丁寧に聞き、誠実に対応する」という人間的なアプローチが依然として重要です。

コンテキストの理解が不十分

AIシステムは、複雑な文脈や微妙なニュアンスを完全に理解することが難しい場合があります。人間のオペレーターの判断力や経験が、状況に応じた適切な対応を行う上で重要な役割を果たすことがあります。

技術的な制限

音声認識や感情分析の精度には限界があり、特に方言や特殊な表現を使用する場合、AIが正確に理解できない可能性があります。

プライバシーとセキュリティ

会話の内容をAIが分析することに対して、プライバシーやデータセキュリティの観点から懸念を抱く顧客もいるかもしれません。

AIやテクノロジーを活用したカスハラ対策システムは、オペレーターの支援と顧客対応の改善に役立つ可能性がありますが、人間の判断力や対応能力と組み合わせて使用することが最も効果的です。テクノロジーの限界を認識しつつ、人間とAIのそれぞれの強みを活かした総合的なアプローチが、最適なカスハラ対策につながるでしょう。

まとめ

コールセンターにおけるカスハラは、オペレーターのメンタルヘルスや業務効率に深刻な影響を及ぼす重要な問題です。カスハラの主なパターンとして、感情的な怒鳴り声や暴言、過剰な要求、長時間の拘束、個人情報の要求などが挙げられます。これらの行為に対しては、冷静さを保ち、適切な言葉遣いや態度を心がけることが重要です。また、エスカレーションのタイミングや証拠の記録と保管も、効果的な対応のためには欠かせません。

最近では、AIや生成AIを活用したカスハラ対応支援システムが登場し、オペレーターの負担軽減と顧客対応の質向上に寄与しています。NTTコミュニケーションズの新システムは、リアルタイムで回答案を提示し、脅迫的な発言を検知して管理者に通知する機能を備えています。これにより、オペレーターは冷静に対応できる環境が整えられています。

しかしながら、テクノロジーには限界も存在します。AIによる定型的な応答だけでは顧客の不満を解消することは難しく、人間的な対応が依然として重要です。また、AIが文脈やニュアンスを完全に理解することは難しく、そのためには人間の判断力が不可欠です。

今後は、AIと人間の強みを組み合わせた総合的なアプローチが求められます。カスハラ対策は企業全体で取り組むべき課題であり、継続的な改善と従業員のサポート体制を整えることが重要です。これにより、安全で快適な職場環境を実現し、高品質な顧客サービスを提供することが可能となります。

この記事を書いた人

ビジネス・テクノロジスト 貝田龍太