
日本の暗号資産市場は、金融庁による登録制や厳格な規制のもとで発展してきましたが、今も法制度や税制は大きく変化し続けています。2025年以降は金融商品取引法への移行や税制改革など、規制緩和の動きも本格化する見通しです。
本記事では、最新の規制や税制のポイント、そして個人投資家が注意すべき実務上の注意点をFAQやケーススタディを交えて分かりやすく解説します。変化の激しい暗号資産の世界で、正しい情報をもとに賢く対応するためのヒントをお届けします。
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暗号資産の規制に関するFAQ
Q. 日本で暗号資産取引を行う際、どんな法規制がありますか?
A.
日本国内で暗号資産(仮想通貨)取引を行う場合、金融庁に登録された交換業者を利用することが法律で義務付けられています。無登録の事業者を利用した場合、利用者保護が受けられないリスクがあります。
Q. 海外の暗号資産取引所を利用する場合、日本の規制は適用されますか?
A.
原則として日本居住者は国内規制の対象です。海外取引所でも日本語対応や日本人向けサービスを行う場合、金融庁の規制対象となる場合があります。
Q. 暗号資産取引で得た利益にはどんな税金がかかりますか?
A.
現行法では、暗号資産の売買や交換で得た利益は「雑所得」として総合課税の対象です。所得額に応じて最大55%の税率が適用されます。
Q. 暗号資産の利益はどんなタイミングで課税されますか?
A.
暗号資産を日本円などの法定通貨に換金した時だけでなく、暗号資産同士の交換や、商品・サービスの購入に利用した場合も、その時点で利益が発生していれば課税対象となります。
Q. 暗号資産の損益通算や損失繰越はできますか?
A.
現行法では、暗号資産による損失は他の所得(給与・株式・FX等)と通算できません。また、損失の繰越も認められていません。
Q. 確定申告が必要なのはどんな場合ですか?
A.
サラリーマンなど給与所得者の場合、暗号資産取引による年間の雑所得が20万円を超えた場合に確定申告が必要です。自営業者などはすべての所得を合算して申告します。
Q. 申告時に注意すべきポイントは?
A.
- 取引履歴や取得価額、売却価額を正確に記録・保存することが重要です。
- 複数の取引所やウォレットを利用している場合、全ての取引を合算して計算する必要があります。
- 申告漏れや計算ミスがあると、後日追徴課税やペナルティの対象となる場合があります。
Q. NFTやステーキング報酬なども課税対象ですか?
A.
NFTの売買や暗号資産のステーキングによる報酬も、原則として雑所得として課税対象となります。詳細な税務処理については国税庁のガイドラインを参照してください。
日本の暗号資産規制の現状

暗号資産(仮想通貨)は、投資や決済の新たな手段として国内外で急速に普及しています。
日本は世界に先駆けて法整備を進めてきた国のひとつであり、利用者保護やマネーロンダリング対策などを目的とした規制が年々強化されています。
【参考】暗号資産の利用者のみなさまへ
【参考】暗号資産を使用することにより利益が生じた場合の課税関係
法的枠組みと規制の特徴
2017年4月、資金決済法の改正により、暗号資産交換業者の登録制が導入されました。
これにより、事業者は金融庁への登録が義務付けられ、顧客資産の分別管理や本人確認(KYC)、取引記録の保存など、厳格な管理体制が求められるようになりました。
現行法では暗号資産は「決済手段」として規定されていますが、実際には投資対象としての利用が主流となっています。
この法律上の建付けと実態のギャップが、現在の規制見直しや法改正の大きな背景となっています。
2020年には資金決済法と金融商品取引法が改正され、取引所のシステム管理体制や広告・勧誘ルールの整備、カストディ業務の明確化など、利用者保護や不公正取引防止のための規制が一段と強化されています。
こうした法的枠組みの変化には、いくつかの社会的・経済的な出来事が大きく影響しました。
特に2014年の大手取引所「マウントゴックス」の破綻事件は、利用者資産の保護や取引の透明性確保の必要性を社会に強く認識させる契機となりました。この事件をきっかけに、顧客資産の大規模な消失や不正アクセスによる被害が明るみに出て、法整備の遅れや規制の不十分さが深刻な課題として浮き彫りになりました。
また、ビットコインなど暗号資産の価格高騰や投資ブームによる消費者トラブルの増加も、規制強化の大きな要因となっています。
実際、セミナーや知人からの勧誘による購入トラブルや詐欺被害が相次ぎ、消費者庁や国民生活センターへの相談件数も急増しました。
このような背景を受けて、資金決済法の改正では取引所に対する最低資本金や顧客資産の分別管理、システムの安全管理義務、本人確認(KYC)やマネーロンダリング対策の強化など、利用者保護を中心とした制度的枠組みが整備されました。
さらに、FATF(金融活動作業部会)による国際的なマネロン対策強化や、諸外国の規制動向も日本の法改正に影響を与えています。
- 2017年の資金決済法改正:世界初の暗号資産交換業者登録制が導入された
- 顧客資産の分別管理義務:利用者保護のため、事業者は顧客資産と自社資産を厳格に分けて管理
- 2020年の法改正:利用者保護や不公正取引防止のための規制が強化
直近の動向と課題
金融庁は2025年6月までに「暗号資産の規制の在り方に関する有識者研究会」の結論をまとめ、同年秋から年末にかけて新たな法案を作成し、2026年の通常国会での提出を目指しています。
今後は、暗号資産を有価証券並みの金融商品として位置付け、規制の中心を資金決済法から金融商品取引法(金商法)へ移すことが検討されています。
この動きにより、情報開示規制の強化や投資助言業務に対する登録義務の導入なども議論されています。
特に、投資家保護や市場の透明性向上に向けたルール整備が重要なテーマです。
一方で、国際的な規制動向や海外取引所の日本市場参入への対応など、グローバルな視点での制度設計も求められています。
- 金商法への移行検討:暗号資産が有価証券並みの金融商品として扱われる可能性
- 情報開示規制の強化:発行体や取引所への情報開示義務が拡大
- 投資助言業務の登録義務化:投資家保護の観点から新たな登録制度が検討中
今後の規制緩和の見通し
特に注目されているのは、金融商品取引法(金商法)への移行です。これが実現すれば、ビットコイン現物ETFのような金融商品が日本でも上場可能となり、市場の発展が期待されています。
税制面でも大きな変化が検討されています。現状の総合課税(最大税率55%)から分離課税(税率20%)への移行が議論されており、これが実現すれば投資家の税負担が大幅に軽減され、個人投資家の参入が促進されると見込まれます。
金融庁は国際的な規制動向も参考にしつつ、柔軟かつ実用性を重視した制度設計を目指しています。
規制の明確化と緩和により、多くの暗号資産交換業者が第一種金融商品取引業者となる可能性が高まっています。
これにより、ビジネスリスクの低減やサービス開発の自由度向上が期待され、業界全体の発展につながると考えられます。加えて、機関投資家の市場参入も進み、市場の流動性や信頼性が一層高まることが予想されます。
- 金融商品の多様化:ビットコイン現物ETFなど新たな商品が上場可能に
- 税制の分離課税化:投資家の税負担が大幅に軽減される見通し
- 業界の発展:規制の明確化で事業者・投資家双方の利便性向上、市場成長が期待
日本の暗号資産規制は、投資対象としての実態を反映し、資金決済法から金融商品取引法への移行を含む大きな転換点を迎えています。
今後は、情報開示や投資家保護の強化とともに、税制の分離課税化など投資環境の緩和が検討されており、2026年頃までに新たな規制枠組みが整備される見通しです。
規制緩和によって、暗号資産市場の発展と投資家の利便性向上が期待されています。
ケーススタディ:暗号資産投資を始めた会社員の場合
日本国内で個人が暗号資産を運用する場合、どのような点に注意する必要があるでしょうか。ここでは暗号資産投資を行っている会社員の事例を参考に、暗号資産投資における規制と税制のポイントを解説します。
暗号資産投資の開始
Aさん(40代・会社員)は、30代からNISAを活用した積立投資を続けてきました。そんなAさんに、ある日、投資仲間の知人が「今後はポートフォリオの多様化が大切だよ。暗号資産も検討してみたら?」とアドバイス。
Aさんは慎重な性格ですが、これをきっかけに暗号資産の世界に足を踏み入れることを決意します。
まずAさんは、毎月1万円ずつビットコインを積立購入することにしました。株式や投資信託で培った「積立投資」の考え方を、そのまま暗号資産にも応用しようと考えたのです。
金融庁登録済みの国内取引所に口座を開設し、スマートフォンのアプリで積立設定。最初は「値動きが激しい」と感じつつも、少額からコツコツと買い増していくことでリスクを抑え、長期的な成長に期待を寄せていました。
利益確定と課税タイミング
ある日、ビットコインの価格が大きく上昇。Aさんは「せっかく利益が出ているし、一部を現金化してみよう」と思い立ち、初めて売却を実行しました。
さらに、SNSで話題になっていたNFTアートにも興味を持ち、イーサリアムを使ってデジタルアート作品を購入。「新しい資産クラスに触れるのはワクワクする」と感じる一方で、「これって税金はどうなるのだろう?」と疑問も湧いてきました。
調べてみると、暗号資産を日本円に換金した時だけでなく、ビットコインでイーサリアムを購入した場合や、NFTを買った場合も、その時点で利益が確定し課税対象になることが判明。
たとえば、ビットコインを10万円で購入し、値上がり後15万円分のイーサリアムに交換した場合、5万円の利益が雑所得として課税されるのです。
「知らずにやっていたら申告漏れになるところだった」と、Aさんは肝を冷やしました。
NFT売買やステーキング報酬の課税
Aさんは、NFTアートを10万円で購入し、半年後に20万円で売却することができました。さらに、イーサリアムをステーキングして、年2万円相当の報酬も受け取りました。
「NFTやステーキングで得た利益も全部課税対象になるんだな」と、Aさんは改めて税金の厳しさを実感します。
NFTの売却益やステーキング報酬は、その受け取った時点の時価で雑所得として計算しなければなりません。新しい分野だからこそ、記録の取り忘れや申告漏れには特に注意が必要です。
損益通算不可と確定申告の壁
2024年、Aさんはアルトコイン投資で30万円の損失を出してしまいました。一方で、ビットコインの売却益が20万円あり、「損益通算できるから大丈夫だろう」と軽く考えていました。
しかし、調べてみると暗号資産の損失は他の所得(給与・株式・FX等)と通算できず、損失の繰越も不可であることが判明。
「利益が出た年だけ課税されて、損失は救済されないのか……」と、Aさんは現行ルールの厳しさを身をもって知ることになりました。
また、暗号資産による雑所得が20万円を超えたため、人生で初めて確定申告に挑戦。複数の取引所やウォレットの履歴を集計し、NFTやステーキング報酬も含めて損益を計算する作業は、想像以上に大変でした。
「取引履歴の記録・保存」「計算ミスや申告漏れによる追徴課税リスク」「税率が累進課税で最大55%」――Aさんは、暗号資産投資の“見えない手間”を痛感しました。
海外取引所・未登録業者のリスク
Aさんの知人は、より高い利回りを求めて海外取引所を利用していましたが、突然アカウントが凍結され、資産が引き出せなくなるトラブルに遭遇。
「やっぱり金融庁登録業者じゃないと、何かあった時に守ってもらえないんだな」と、Aさんは国内登録業者の重要性を改めて認識しました。
暗号資産投資のポイント
- 課税タイミングに注意
暗号資産の売却だけでなく、暗号資産同士の交換やNFT購入、報酬受領時にも課税対象となる。知らずに取引すると申告漏れのリスクがある。 - 損益通算・損失繰越は不可
暗号資産の損失は給与や株式、FXなど他の所得と相殺できず、翌年以降への繰越もできない。利益が出た年だけ課税される点に注意。 - NFTやステーキング報酬も課税対象
NFTの売却益やステーキング報酬も雑所得として申告が必要。時価で計算し、記録を残すことが大切。 - 確定申告は20万円超で必須
給与所得者は雑所得が20万円を超えたら確定申告が必要。取引履歴の管理・保存が重要で、申告作業は想像以上に手間がかかる。 - 金融庁登録業者を利用すること
国内登録業者以外の利用は、資産凍結や詐欺などのリスクが高まるため、必ず登録業者を利用。 - 計算ミス・申告漏れに注意
損益計算や申告ミスがあると追徴課税やペナルティのリスク。専用ソフトや専門家の活用も検討。
このように、個人が暗号資産を運用する際には、税制・規制・実務の細かいポイントを正しく理解し、記録・申告を徹底することが重要です。
特に初めて確定申告をする場合やNFT・ステーキングなど新しい取引に挑戦する場合は、最新の法令やガイドラインを確認し、必要に応じて専門家に相談しましょう。
未来を見据えた暗号資産投資:変化を味方につけるために

暗号資産は、革新的なテクノロジーとグローバルな市場の中で急速に進化を続けています。その一方で、法規制や税制は今なお発展途上であり、制度の変更や新たなリスクが次々と現れるのが現実です。投資や運用の現場では「知らなかった」では済まされない税務・申告・規制のポイントが数多く存在します。
また、NFTやステーキングなど新しいサービスが登場するたびに、課税ルールや申告実務もアップデートされていきます。暗号資産の世界では、最新情報のキャッチアップと正確な記録・申告が、資産を守るための最良の防御策です。
今後も制度や市場環境は大きく変化していくことが予想されます。だからこそ、投資家一人ひとりが「変化を味方につける」柔軟な姿勢と、リスク管理・情報収集への意識を持ち続けることが、成功への第一歩となるでしょう。
最新の法改正や税制変更については、金融庁や国税庁の公式情報を必ずご確認ください。
