
私たちが生きる現代は、予測不能な変化が次々と押し寄せる「VUCA時代」と呼ばれています。デジタル技術の進化、グローバル化、働き方の多様化など、かつての常識が通用しない場面も増えています。
こうした時代において重要なのが、環境の変化に適応しながら、自らも成長していける“しなやかな強さ”です。
組織や個人が長く成果を出し続けるためには、この力が大きな差を生むようになりました。
その核心にあるのが、「柔軟性」と「研鑽力」という2つの力。
本記事では、この2つの力をどのように日常で育てていけるのかを、実践的な視点から紐解いていきます。
柔軟性とは何か?

柔軟性とは、単に環境に合わせるだけではなく、変化を前向きに受け入れ、自分自身の在り方を見直しながら進化させていく力です。
生まれつき備わっているものというよりも、日々の習慣や思考の積み重ねによって育てていくものと言えるでしょう。
心の柔軟性:メンタルのしなやかさを鍛えるには
柔軟性というと、まず思い浮かぶのは「心の余裕」や「環境への適応力」ではないでしょうか。心の柔軟性とは、状況の変化に感情的に振り回されず、自分の状態を客観的に見つめられる力でもあります。例えば、職場で突然の方針転換があったとき、「なんで今さら」と反発するか、「まず受け止めて、何ができるか考えよう」と切り替えられるかで、その後の行動と評価は大きく変わります。心の柔軟性を鍛えるには、「正しさ」への執着を減らし、意見の違いや変化を前提にする思考習慣を持つことが効果的です。
思考の柔軟性:多角的に物事を見るトレーニング
思考の柔軟性とは、ある問題に対して一方向からではなく、様々な視点で捉えられる力です。
例えば、業務上のトラブルが発生したときに「誰が悪いか」ではなく、「なぜこうなったか」「他の立場ならどう見えるか」と考えることができます。これには、意識的に“立場を変えて考える練習”が有効です。また、ロールプレイングやフィードバックを受ける習慣を持つと、思考の視野が広がります。
複数の正解がある時代には、このような多角的視点こそが個人の信頼や判断力の礎になります。
【参考】マインドセットとは? 意味や種類、ビジネスにおける重要性を解説
柔軟性を高める実践的アプローチ

考え方を変えることに加えて、日々の行動習慣を見直すことで柔軟性はより深く根づいていきます。
「実際に動くこと」で得られる変化への耐性は、頭だけで考えるよりもずっと効果的です。
小さな変化を楽しむ習慣の作り方
柔軟性は「思考」だけでなく、「行動」によっても鍛えられます。特に有効なのが、日常に小さな変化を意図的に取り入れること。通勤ルートを変えてみる、普段選ばないジャンルの本を読む、新しいアプリを試してみる -そんな些細な挑戦の積み重ねが、「変化を楽しむ脳」を育てます。
例えば、ある営業職の方は、毎日5分だけ立場の違う相手の視点で社内メールを読み返すことで、クレーム対応力が格段に向上したそうです。
変化に慣れるとは、日々の小さな選択を“変えてみる”ことから始まるのです。
多様な価値観に触れる:人・環境・情報との接点を増やす
柔軟性を育てるもう一つの鍵は、「異なる価値観との接触」です。
異業種の人と話す、異文化の情報に触れる、年齢や背景が異なる人の話を聞くなど、視野を広げるきっかけは日常にあふれています。
例えば、社外の勉強会やオンラインサロンに参加することで、まったく異なる物の見方や思考のロジックに出会うことができます。こうした経験は、自分の考えが唯一の正解ではないと理解する土台となり、柔軟な判断力と発想力を育むのです。
研鑽力とは何か?

キャリアを長く持続させる鍵は、変化のなかで自ら学び、進化し続けられる力にあります。
特に不透明な時代においては、“学び続ける力”こそが最も信頼できる自己投資です。
自己研鑽の定義と、今それが必要とされる理由
研鑽力とは、平たく言えば「自らを高めるために学び続ける力」です。
かつては、入社後にある程度スキルを身につければ、長く働ける時代でした。しかし今は、技術や知識の陳腐化が加速しており、学びを止めた瞬間に「時代に取り残される」リスクが高まります。
例えば、AIやクラウドといったITスキルは、3年前の知識がすでに古くなっていることも少なくありません。
こうした時代において、学び続ける姿勢こそが、キャリアの持続力を生み出します。自己研鑽は、もはや個人の努力ではなく、必要な“戦略”なのです。
デジタル時代に求められる学習スタイルの変化
現代の自己研鑽は、単に「勉強時間を確保する」だけでは不十分です。変化の激しいデジタル時代に求められるのは、「効率的かつ実践的な学び」です。YouTubeやオンライン講座、ポッドキャストなど、学びの選択肢は増え続けています。
例えば、通勤時間に音声で学習する「ながら勉強」を習慣にしているビジネスパーソンは、週に5時間以上の学びを確保しているという例もあります。
重要なのは、学びを“イベント”にせず、生活の一部として無理なく取り込む視点です。
【参考】デジタルスキル標準 – 経済産業省
研鑽力を伸ばすための実践法

継続的な学びには、根性よりも仕組みと工夫がものを言います。
学びを自然な流れとして暮らしに取り入れられるかどうかが、継続のカギとなるのです。
時間がない中でも「学ぶ人」になる方法
多くの社会人にとって「学びたいけれど、時間がない」は切実な悩みです。しかし、忙しい人ほど“スキマ時間”を活かして学んでいます。
ポイントは、学びのハードルを下げること。1日10分のニュース解説動画を観る、SNSで有益なアカウントをフォローする、短時間で読める要約記事を活用する -これだけでも、日々の情報感度や知識の解像度が高まります。時間の多寡よりも、「継続できる設計」が学びの成果を左右します。
学びを習慣化する「3つの仕組み」
学びを継続するには、仕組み化が鍵です。
第一に「目的を明確にする」こと。なぜその知識が必要なのかが明確になると、学びが主体的になります。第二に「学ぶ環境を整える」こと。例えば、スマホに学習アプリを入れる、朝の時間を固定して使うなど。
第三に「アウトプットの機会を持つ」こと。学んだ内容を誰かに話す、SNSでシェアする、仕事で試すなど、知識が定着しやすくなります。
この3つを意識するだけで、学びは日常に自然と根付いていきます。
変化にしなやかに対応できる人材になるために

変化の激しい時代を前向きに生き抜くには、「柔軟性」と「研鑽力」の両輪が不可欠です。
日々の選択や思考が変われば、自ずと行動が変わり、未来の自分にも変化が現れます。
柔軟に物事を受け入れる力が、新たな学びの扉を開き、学び続ける姿勢が、さらに柔軟性を育てる -この好循環が“しなやかな強さ”を形づくります。
重要なのは、大きな変化を恐れず、小さな一歩を積み重ねていくこと。
たとえば、新しい視点を持つ努力をしてみることや、興味のある分野について少し学んでみることから始められます。
「変化に強い人材」とは、特別な存在ではありません。
今日から始める小さな行動こそが、未来の自分をつくる第一歩です。