ダボス会議で注目された「EQ」とは?2025年に身につけたい「共感力」

AIやデジタル技術が進化する現代、ビジネスで成果を出すために本当に必要な力は何でしょうか?
世界のリーダーが集うダボス会議でも注目された「EQ(感情知能)」――それは、自分や他者の感情を理解し、共感し、信頼関係を築く力です。
本記事では、EQがなぜ今の時代に不可欠なのか、実際の営業現場のケーススタディやセルフチェックリストを交えながら、今日からできるEQの高め方をわかりやすく解説します。
「人間力」を磨いて、あなた自身と組織の未来を変えてみませんか?

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ダボス会議で注目された「EQ」とは

「EQ(感情知能)」という言葉が、いま世界のリーダーたちの間で大きな注目を集めています。そのきっかけの一つが、毎年1月にスイスで開催されるダボス会議での議論でした。
この記事では、ダボス会議の概要と、なぜEQがグローバルな課題解決やビジネスの未来に不可欠なスキルとして注目されているのかを分かりやすく解説します。

ダボス会議とはなにか

ダボス会議は、世界経済フォーラム(WEF)が毎年1月にスイス・ダボスで開催する国際会議です。
1971年の創設以来、世界の政治・経済・学術・市民社会のリーダーが集い、地球規模の課題や未来のビジネス、社会のあり方について議論します。

最大の特徴は、「経済」だけでなく、政治・環境・テクノロジー・社会など多様な分野のトップリーダーが集まる点です。
WEFが掲げる「ステークホルダー資本主義」とは、企業は株主だけでなく、従業員や顧客、地域社会、地球環境など、すべての利害関係者に責任を持つべきだという考え方です。
この理念のもと、気候変動・AI・格差・サステナビリティなど、現代社会が直面する課題が幅広く議論されます。

ダボス会議の参加者と影響

ダボス会議には、各国の首脳や政府高官、グローバル企業のCEO、学者、起業家、NGOリーダー、メディアなど、「世界の知恵と力」が集結します。
2025年の会議でも、AI、エネルギー、地政学リスク、気候変動、経済格差など多様なテーマで活発な議論が交わされました。

ここで生まれたアイデアや合意は、ESG投資の拡大やサステナブル経営、AI倫理ガイドライン、気候変動対策など、実際の政策やビジネスの潮流を生み出しています。

EQが注目された年のダボス会議

ダボス会議では、時代ごとに「これからの社会・ビジネスに不可欠な力」が取り上げられます。
2020年のダボス会議では、「The Future of Jobs Report 2020」で、AIや自動化が進む中「2025年にビジネスパーソンに求められるスキル」としてEQ(感情知能)が大きく注目されました。
このレポートでは、EQは11位にランクイン。テクノロジーの進化と人間の役割の再定義が主要テーマとなり、「AI時代における人間らしい能力」の重要性が強調されました。

【参考】The Future of Jobs Report 2020(WEF公式レポート)

EQは、リーダーシップやチームマネジメント、多様な働き方への対応など、ビジネス現場で不可欠なスキルとして位置づけられています。

EQとは?2025年に身につけておきたいスキル

EQ(Emotional Intelligence:感情知能)とは、「自分や他者の感情を認識し、理解し、適切にコントロール・活用する能力」です。
現代のビジネスパーソンにとって、EQは単なる“人当たりの良さ”ではなく、組織や社会の中で成果を出すための“戦略的な力”です。

EQは主に4つの要素から成ります。

  • 感情の識別:自分や他人の感情に気づく力。会議中の部下の表情や声のトーンから、不安や緊張を察知できる力です。
  • 感情の利用:感情を動機づけや思考に活かす力。プレッシャーをポジティブなエネルギーに変えたり、チームの雰囲気を盛り上げる力です。
  • 感情の理解:感情の原因や変化を分析する力。なぜ自分がイライラしたのか、なぜ相手が落ち込んでいるのか、その背景や流れを考えられる力です。
  • 感情の調整:自分や他人の感情を適切にコントロールする力。怒りや不安をうまくコントロールし、冷静に判断や行動ができる力です。

EQが高い人は、ストレスやトラブルに強く、チーム内の信頼関係を築きやすい、リーダーシップを発揮しやすいといった特徴があります。
たとえば、意見が対立したときに感情的にならず、相手の立場や気持ちを理解しながら冷静に対話を進めることで、チームの結束力が高まり、成果につながります。

また、グローバル化やリモートワークの進展により、多様な価値観や文化を持つ人々と協働する機会が増えています。EQが高い人は、異なるバックグラウンドを持つ相手とも円滑にコミュニケーションを取り、信頼関係を築くことができます。
AIや自動化が進む時代、「人間らしい力」としてのEQが、リーダーやビジネスパーソンにますます求められています。

EQは生まれつきの性格だけでなく、日々の意識や経験、トレーニングによって高めることができる能力です。たとえば、相手の話を最後まで聞く、感情を言葉にして伝える、自分の気持ちを客観的に振り返る、フィードバックを素直に受け止める――こうした小さな積み重ねが、EQの向上につながります。

ダボス会議で注目されたEQ(感情知能)は、今や世界のリーダーやビジネスパーソンにとって不可欠な力となりました。
AIや自動化が進む時代だからこそ、「人間らしさ」を発揮し、他者と信頼関係を築き、共感し合いながら課題を解決するEQの重要性がますます高まっています。
ダボス会議の議論が示すように、これからの社会や組織で成果を出すためには、知識や技術だけでなく、EQを高めて自分と周囲の感情を理解し、前向きな変化を生み出す力が求められます。

ダボス会議は、これからもEQをはじめとする「人間力」が世界を動かす時代の羅針盤であり続けるでしょう。

ケーススタディ:新人営業マンの失敗と成長

営業の現場では、商品知識や話術だけでは成果につながらないことも少なくありません。顧客の本音や感情に寄り添う「共感力=EQ(感情知能)」が、信頼関係の構築や受注獲得のカギを握ります。ここでは、新人営業マンAさんの失敗と成長のエピソードを通じて、共感力の重要性と実践ポイントを具体的に解説します。

新人営業マンAさんがぶつかった壁

新人営業マンのAさんは、明るく前向きな性格で、社内でも先輩たちから可愛がられる存在でした。入社後は先輩の同行やロールプレイング、商品知識の勉強など、地道な努力を重ねてきました。いよいよ自分ひとりで商談を任される日がやってきたとき、Aさんは「これまでの準備と自分の持ち前の明るさがあれば、きっと成果を出せる」と自信を持っていました。

初めて担当する顧客は、先輩営業が長く信頼関係を築いてきた企業。Aさんは「このお客様なら、しっかり話を聞いてもらえるはず」と期待し、事前にプレゼン資料も何度も見直しました。当日は緊張しつつも、笑顔で名刺交換し、アイスブレイクも意識して会話を進めました。

「本日はお忙しい中ありがとうございます。弊社の新製品は、業界でも高い評価をいただいておりまして…」と、Aさんは自社製品の魅力を熱心にアピールします。顧客も時折うなずきながら話を聞いてくれ、「なるほど、面白いですね」と反応してくれます。Aさんは「これはいける」と手応えを感じ、最後まで自信満々で説明を終えました。

しかし、結果は失注。Aさんは驚き、何が悪かったのか分からず、会話の内容をノートで何度も振り返りました。「商品説明もきちんとできたし、場も和んでいたはず…」と、納得できない気持ちでいっぱいでした。

上司の指摘とEQの重要性

落ち込んだAさんは、上司に相談しました。上司はAさんの話をじっくり聞いたあと、「Aさん、君は会話の表面だけを追いかけてしまっていなかったか?お客様の本当の悩みや感情に寄り添う姿勢が足りなかったのかもしれない」と指摘します。「営業は商品を売るだけじゃない。相手の立場や気持ちを理解し、信頼を築くことが大切なんだよ」と続けました。

さらに上司は「EQ、つまり感情知能の高さが営業には不可欠だ。相手の表情や声のトーン、沈黙の意味まで感じ取る力を意識してみてほしい」とアドバイス。

「まずは、お客様の話を最後まで遮らずに聞くこと。質問を投げかけて、本当に困っていることを引き出すことを心がけてみよう」と具体的な行動も伝えました。

Aさんは「自分は盛り上げ役に徹していたけれど、本当はお客様の立場に立つことが大事だったんだ」と気づきます。

共感力を高めるための実践

次の商談から、Aさんは意識を大きく変えました。まずは「今日はどんなことでお困りですか?」と率直に尋ね、顧客の話を途中で遮らず、じっくり耳を傾けるようにしました。相手が少し言葉に詰まったときも、焦らず待ち、表情や声のトーンから感情を読み取るよう努めました。

ある商談では、顧客が「実は、今期は予算が厳しくて…」と本音を漏らしました。Aさんは「そうだったのですね。それはご心配ですよね」と共感を示し、「もしよろしければ、初期費用を抑えるプランや段階的な導入方法もご提案できます」と柔軟な提案をしました。

こうした姿勢を続けていくうちに、「Aさんは本当にこちらのことを考えてくれている」と顧客から信頼されるようになり、徐々に受注も増えていきました。

Aさんは、場を盛り上げることよりも、相手の本心を聞き取り、適切に対応することの重要性に気づいたのです。共感力を意識したコミュニケーションが、営業成績の向上と信頼関係の構築につながりました。

会話例で学ぶEQ

悪い会話の例

プレゼンが終わり、質疑応答の時間になりました。

顧客:「とても分かりやすいご説明ありがとうございました。一点だけ、コスト面が少し気になっています。導入費用やランニングコストについて、もう少し詳しく教えていただけますか?」

Aさん:「ご質問ありがとうございます!弊社の製品は、同じ価格帯の他社製品と比べても圧倒的にコストパフォーマンスが高いのが特徴です。例えば、A社やB社と比べても初期費用が抑えられ、長期的なメンテナンスコストも非常に安く済みます。実際に導入いただいたお客様からも、コスト面でご満足いただいていますので、ぜひご安心ください!」

顧客:「そうですか…。ありがとうございます。」

Aさん:「他社よりもお得にご利用いただけますので、ぜひご検討ください!」

この例では、Aさんは顧客の「コスト面が気になる」という発言に対し、他社との比較やコストパフォーマンスの良さを一方的にアピールするだけで、顧客の本当の懸念や背景に寄り添おうとはしていません。

良い会話の例

プレゼンが終わり、質疑応答の時間になりました。

顧客:「とても分かりやすいご説明ありがとうございました。ただ、コスト面が少し気になっています。導入費用やランニングコストについて、もう少し詳しく教えていただけますか?」

Aさん:「ご質問ありがとうございます。コスト面についてご不安な点があるとのことですが、もしよろしければ、どのような点が特にご懸念でしょうか? たとえば初期費用なのか、運用コストなのか、もしくはご予算のご都合など、差し支えない範囲でお聞かせいただけますか?」

顧客:「実は、今年度は予算がかなり厳しくて、初期投資を抑えたいというのが本音です。」

Aさん:「そうだったのですね。ご事情を教えていただきありがとうございます。もしよろしければ、初期費用を抑えられるリースプランや、段階的な導入方法もご提案できますが、ご関心はありますか?」

顧客:「リースプランがあるなら、ぜひ詳しく聞いてみたいです。」

Aさん:「かしこまりました。御社のご負担が少しでも軽くなるようなご提案を考えさせていただきます。ほかにもご不安な点があれば、何でもご相談ください。」

この例では、Aさんは顧客の「コスト面が気になる」という発言の背景にある本音や事情を丁寧に引き出し、相手の立場に寄り添いながら、より適切な解決策を提案しています。

これらの事例から、表面的な会話だけではなく、相手の本音や感情に寄り添うEQの力が、ビジネスシーンでの信頼関係や成果に直結することが分かります。

Aさんのように失敗から学び、共感力を磨くことで、営業の現場は大きく変わります。これからの時代、AIやデジタル技術が進化しても、人と人との信頼を築く“共感力”の価値はますます高まっていくでしょう。

あなたのEQをセルフチェック

EQ(感情知能)は、自分自身の感情を理解するだけでなく、他者との関係づくりやコミュニケーションにも大きく影響します。
自分のEQがどれくらい発揮できているか、以下のリストで振り返ってみましょう。
「自分だけでなく、周囲とのやりとりや評価」にも目を向けてチェックしてみてください。

  • 他人のアドバイスや指摘を素直に受け入れ、行動に移すことができる
  • 自分の発言や態度で相手を不快にさせたり、誤解を招いたりすることが少ない
  • 周囲から「話しやすい」「相談しやすい」と言われたことがある
  • 困っている人から頼られることが多い
  • チームや職場で対人トラブルが起きにくい
  • 他者の感情や立場を考慮して、自分の言動を調整することができる
  • フィードバックや批判を前向きに受け止め、改善に活かしている
  • 自分の行動や言葉が周囲にどんな影響を与えているか意識している
  • 周囲の雰囲気や空気を読み、適切なタイミングで発言や行動ができる
  • 自分の働きかけで、チームや職場の雰囲気が良くなったと感じた経験がある

当てはまる項目が多いほど、EQが日常で発揮されているサインです。
もし「できていない」と感じる項目があれば、日々のコミュニケーションや行動を少しずつ見直すことが、EQ向上への第一歩です。

※本格的なEQ診断では、自己評価と他者評価(360度評価)を組み合わせる方法もあります。
セルフチェックは“気づき”のきっかけとしてご活用ください。

EQを磨くことが、あなた自身と組織の未来を変える

ダボス会議やケーススタディで見てきたように、EQ(感情知能)は、これからの時代を生き抜くための最重要スキルのひとつです。
EQが高まれば、自分自身の感情をコントロールしやすくなるだけでなく、周囲との信頼関係やチームの雰囲気も大きく変わります。
日々のコミュニケーションや行動を少しずつ意識して変えていくことで、あなたのEQは確実に伸ばすことができます。

ビジネスの現場でも、プライベートでも、EQを意識して行動することが、より良い人間関係や成果につながります。
自分と他者の感情に寄り添い、前向きな変化を生み出す力を、ぜひ今日から意識してみてください。
あなたのEQが、これからの未来を切り拓く大きな武器になるはずです。

この記事を書いた人

ビジネス・テクノロジスト 貝田龍太