AIエージェントが切り拓く!事例で学ぶカスタマーサクセスの新時代

企業が持続的に成長していくためには、顧客を支援し長期的な関係を築く「カスタマーサクセス」が欠かせません。しかし、担当者の属人化や業務効率の限界、解約リスクの予測といった課題に悩む企業も少なくありません。
こうした課題を解決し、顧客体験とビジネス成果を同時に高める新たな手段として、今、AIエージェントの活用が注目されています。本記事では、AIエージェントの基本や導入効果、最新事例、そして実践のポイントまでをわかりやすく解説します。

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AIエージェントが変えるカスタマーサクセスの未来

カスタマーサクセスは企業成長の要ですが、従来の運営には属人化や効率化の壁、解約リスク管理の難しさといった課題がありました。こうした課題を解決する新たな手段として、AIエージェントの導入が急速に進んでいます。ここでは、AIエージェントの特徴と、AIエージェントによるカスタマーサクセスの実現についてご紹介します。

【参考】Salesforce流AIエージェントの使い方。

AIエージェントとは?

AIエージェントとは、人工知能を活用して自律的にタスクを遂行するプログラムやシステムです。人間と自然な会話を行い、意思決定や課題解決を支援する役割を持ちます。AIエージェントは、自然言語処理や機械学習技術を活用し、顧客の問い合わせや要望に対して柔軟かつ的確に対応することが可能です。たとえば、チャットボットや音声アシスタントとして24時間365日稼働し、顧客の質問に即座に答えたり、必要な情報を提供したりします。

また、AIエージェントは膨大な顧客データをリアルタイムで処理し、顧客の健康スコアリングやセンチメント分析、解約予測などの高度な分析を瞬時に実施できます。これにより、顧客の満足度や利用状況を定量的に把握し、適切なタイミングで最適な対応を取ることが可能となります。さらに、AIエージェントは定型的な問い合わせへの即時対応や、顧客ごとに最適化された提案の自動化によって、カスタマーサクセスチームの業務効率化と顧客体験の質向上を同時に実現します。

AIエージェントの導入により、企業は人的リソースに依存しすぎることなく、一貫性のある高品質なカスタマーサービスを提供できるようになります。また、AIエージェントは業務の自動化だけでなく、継続的な学習と改善を通じてサービス品質を向上させることができる点も大きな特長です。

カスタマーサクセスの重要性と課題

カスタマーサクセス(Customer Success)は、顧客が製品やサービスを最大限に活用し、期待以上の成果を得られるよう支援する活動です。特にサブスクリプション型ビジネスやSaaS(Software as a Service)の普及により、顧客との長期的な関係構築が企業の成長に不可欠な要素となっています。

カスタマーサクセスを実現するためには、単に顧客からの問い合わせに対応するだけでなく、顧客の利用状況や満足度を継続的に把握し、課題やニーズを先回りして解決する姿勢が求められます。顧客一人ひとりの状況に応じたサポートや提案を行うことで、解約リスクの低減やアップセルの機会創出につなげることができます

しかし、従来のカスタマーサクセス運営にはいくつかの課題がありました。担当者ごとに対応方法やノウハウが異なり、顧客体験にばらつきが生じやすい「属人化」。顧客数の増加に伴い、情報共有や対応の効率化が難しくなる「業務効率化の壁」。さらに、顧客の解約リスクを早期に把握し、適切な対策を講じることが難しい「解約リスク管理の難しさ」などが代表的です。これらの課題を放置すると、顧客満足度の低下や解約率の上昇を招き、企業の成長を阻害する要因となります

カスタマーサクセスを実現するために必要なこと

  • 顧客データの一元管理:顧客の属性、利用履歴、問い合わせ履歴などを統合し、全体像を把握できる仕組みを整える。
  • プロアクティブなサポート:顧客の行動や利用状況をもとに、課題が発生する前に先回りして提案やサポートを実施する。
  • パーソナライズされたコミュニケーション:顧客ごとのニーズや状況に応じて、最適なタイミングと内容でアプローチする。
  • 業務プロセスの標準化と自動化:属人化を防ぎ、誰でも一定品質の対応ができるよう業務を標準化し、自動化を進める。
  • 継続的な顧客満足度の測定と改善:NPS(ネットプロモータースコア)などの指標を活用し、サービス改善に活かす。

AIエージェントによるカスタマーサクセスの実現

こうした課題を解決するために、AIエージェントの活用が急速に広がっています。2023年のガートナー社の調査では、80%の企業がAIエージェントの導入を進めているとされ、その数は今後も増加が見込まれています。

AIエージェントが注目される背景には、顧客接点の多様化と顧客ニーズの高度化があります。デジタルチャネルの拡大により、顧客は24時間いつでもサポートを求めるようになりました。従来の人的リソースだけでは、こうした多様なニーズに迅速かつ一貫して応えることが難しくなっています。AIエージェントは膨大な顧客データをリアルタイムで分析し、24時間365日対応できるため、効率的かつ高品質なカスタマーサクセスの実現を後押ししています。

また、AIエージェントは単なる問い合わせ対応だけでなく、顧客の行動データをもとに解約リスクの予兆を察知したり、個々の顧客に最適な提案を自動で行ったりと、従来の人手では難しかった高度な業務も担えるようになっています。たとえば、Salesforceの「Agentforce」では、AIエージェントが問い合わせの81%を自動処理し、従来のボットよりも2倍のパフォーマンスを実現しています。

さらに、Zendeskなどのカスタマーサポートツールでは、AIエージェントがメールやチャット、SNSなど複数チャネルにまたがって一貫した対応を行い、顧客満足度の向上とサポート業務の効率化を両立しています。AIエージェントは、顧客の声やフィードバックを分析し、サービス改善や新たな価値提案にも活用されています。

AIエージェントのユースケース

AIエージェントの導入によって、顧客対応の質と効率は大きく変化しています。ここでは、AIエージェントの導入によって実際の業務がどのように変わるのか、具体的な事例をもとに紹介します。

返品依頼の自動処理による顧客体験の刷新

化粧品の通信販売を展開するC社では、近年、返品依頼の増加が大きな課題となっていました。従来はカスタマーサポート担当者が一件ごとに注文情報を確認し、返品可否の判断や返品用ラベルの発行、進捗連絡までを手作業で進めていたため、処理に時間がかかり、手続きが煩雑で分かりづらいという顧客の声が多く寄せられていました

C社はこの課題に対応するため、チャットやWebフォームを通じたAIエージェントによる返品受付を導入しました。顧客が返品希望を入力すると、AIが自動的に注文情報を抽出し、返品条件に基づいて即座に可否を判定。返品が可能な場合は、その場で返品用ラベルを発行し、返送方法や進捗状況も自動で通知する仕組みを整えました。例外的なケースや条件外の依頼は、AIが適切に人間担当者へエスカレーションします。

この取り組みにより、返品処理の平均対応時間は従来の半分以下に短縮。現場の従業員からは「繁忙期でも処理の遅延がなくなり、クレーム対応に追われることが減った」「単純作業が減り、より難易度の高い顧客対応や提案業務に集中できる」といった声が聞かれるようになりました。スタッフの負担が大きく軽減され、業務全体の質が向上しています

アップセル提案の推進

C社では、顧客単価の向上も大きな課題でした。従来は一律のメールや電話で定期購入や関連商品の案内を行っていましたが、タイミングや内容が顧客ごとに合っていないことが多く、効果が限定的でした。

AIエージェント導入後は、購入履歴や利用状況、過去の問い合わせ内容をもとに、顧客ごとに最適なタイミングと内容で定期購入やアップセル商品の提案を自動化。たとえば、化粧水の残量が減る時期や、肌悩みを相談した直後など、AIが「今この顧客に必要な提案」を判断し、チャットやメールでパーソナライズされたオファーを送信します。

申込やプラン変更もAIがガイドし、バックエンドシステムと連携して即時に反映。この仕組みにより定期購入への転換率は20%以上改善。営業担当者からは「提案の自動化でフォロー漏れがなくなり、顧客からの反応も良くなった」「AIがニーズを先回りして提案してくれるので、より戦略的な営業活動に注力できる」といった評価が上がっています。

顧客接点全体を支えるAIエージェントの多様な活用

日用品ECを展開するD社では、配送状況の案内や再配達受付、アカウント設定やパスワードリセットなど、日常的な問い合わせにAIが24時間対応する体制を構築しました。

配送状況の問い合わせでは、AIがリアルタイムで追跡情報を提供し、再配達依頼もチャット上で即時受付。顧客の手間や不安を大幅に軽減し、サポートへの満足度が向上しています。また、ログインやパスワード忘れといったトラブルにもAIが本人確認からリセット手続きまで自動で対応し、深夜や休日でもスムーズに問題解決できる体制を実現しています。

さらに、FAQや複雑な問い合わせにもAIが一次対応し、必要に応じて人間担当者へスムーズに引き継ぐことで、対応漏れや遅延を防止。D社のカスタマーサポート責任者は「AI導入後、夜間や繁忙期の対応品質が安定し、顧客からの問い合わせ対応満足度が大きく向上した」と語っています。

AIエージェントは単なる業務効率化ツールではありません。顧客一人ひとりに寄り添った体験価値の向上を実現し、企業の競争力そのものを底上げする存在となっています。
AIエージェントの導入は、顧客体験の向上と企業の成長を両立させる新たなスタンダードとなりつつあります。今後もその進化と活用範囲の拡大に大きな期待が寄せられています

事例から学ぶAIエージェント活用のポイント

ここまで見てきた事例を踏まえ、AIエージェントを最大限に活用するために押さえておきたいポイントを、現場の実践例や最新の知見をもとに解説します。

1. 業務効率化とコスト削減の両立

AIエージェントの最大の強みは、定型的かつ反復的な業務を自動化し、人的リソースの最適化を実現できる点です。例えば、パスワードリセットや配送状況確認、FAQ対応など、従来はオペレーターが対応していた業務をAIが24時間365日対応することで、対応件数や稼働時間を大幅に削減できます。これにより、限られた人材で多くの顧客に質の高いサービスを提供でき、応対コストの抑制と業務効率の向上を同時に実現できます。

2. 応対品質・顧客体験の安定と向上

AIエージェントは、一貫した品質で迅速かつ正確な対応を提供できるため、顧客満足度(CSAT)やNPSの向上に直結します。人手によるばらつきやヒューマンエラーが減り、顧客は「すぐに、的確な対応が受けられる」という安心感を得られます。また、AIが対応履歴や顧客データを参照しながらパーソナライズした対応を行うことで、顧客ごとのニーズに合った体験価値の提供が可能になります。

3. データ基盤とシナリオ設計の重要性

AIエージェントを効果的に活用するには、シナリオやFAQの整備、データ基盤の構築が不可欠です。現場の問い合わせログや過去の対応履歴を分析し、「よくあるが想定外だった質問」も含めて対応パターンを用意することが求められます。さらに、CRMやCDPなどの顧客データと連携することで、AIはより文脈に合った回答や提案を行えるようになります。事前準備の質が、AIエージェントのパフォーマンスを大きく左右します

4. 人的対応との連携・引き継ぎ設計

AIエージェントは万能ではなく、複雑な問い合わせや例外対応では人間の介入が不可欠です。AIが対応できないケースや顧客の感情的な要望には、スムーズにオペレーターへ引き継ぐ設計が重要です。この連携がうまく機能することで、AIと人の強みを活かしたハイブリッドなカスタマーサポート体制が実現します。

5. 継続的な改善と学習サイクルの構築

AIエージェントは導入して終わりではありません。運用開始後も、問い合わせ内容や顧客の反応を分析し、シナリオやデータを継続的にアップデートすることが不可欠です。AIの学習サイクルを回すことで、対応精度や提案の質が向上し、顧客体験のさらなる最適化につながります。

6. 導入目的・役割の明確化

AIエージェント導入の成否は、目的や役割を明確に定義できているかに大きく左右されます。単なるコスト削減や自動化だけでなく、「どの業務をAIに任せ、どこで人が介在するのか」「顧客体験をどう変えたいのか」を明確にし、プロジェクト全体を設計することが重要です。

7. 多様なチャネル・業務への展開

AIエージェントは、チャットやメール、電話、SNSなど複数チャネルを横断して活用できる柔軟性があります。また、カスタマーサポートだけでなく、営業支援や社内ヘルプデスク、採用・人事、受発注管理など幅広い業務領域での活用が進んでいます。自社の業務プロセス全体を俯瞰し、最適な適用領域を見極めることがポイントです

8. リスク管理とガバナンス

AIエージェントは便利な一方で、誤回答や個人情報の取り扱いなどリスク管理も不可欠です。AIの出力内容を定期的に監査し、セキュリティやプライバシーに配慮した運用体制を整えることが求められます。

AIエージェントの活用は、カスタマーサクセスの新たなスタンダードとして定着しつつあります。業務効率化やコスト削減だけでなく、顧客体験の質や現場の働き方改革までを見据えた全体設計が、今後の企業成長の鍵となるでしょう。

AIエージェントで実現する新しいビジネスのかたち

こんなお悩みはありませんか?

  • 顧客対応の品質やスピードにムラがあると感じていませんか?
  • 担当者ごとのノウハウに頼りきりで、業務が属人化していませんか?
  • 問い合わせ対応に追われて、重要な業務に手が回らなくなっていませんか?
  • 顧客の解約リスクや満足度の変化を、いち早く把握できずに困っていませんか?
  • 追加提案や関連商品のご案内が十分にできていますか?

これらのお悩みは、AIエージェントの導入で解決できます。

AIエージェントを活用すれば、顧客体験の向上と業務効率化を同時に実現できます。
これからのカスタマーサクセスを支える新しい選択肢として、AIエージェントの導入をぜひご検討ください。
ビジネスの成長と競争力強化に、AIエージェントはきっと大きな力になります。

この記事を書いた人

ビジネス・テクノロジスト 貝田龍太