
現代の働き方が多様化し、組織運営も「与えられた指示をこなす」だけでなく「自身で考え・動く」ことを求められています。そんな中、個人の成長と組織パフォーマンスを両立させる仕組みとして、いわゆる「目標管理制度=MBO(Management by Objectives)」が再び脚光を浴びています。
本記事では、より進化させた「人材評価を進化させる目標管理制度」という観点から、仕組みや導入のヒントを整理します。もちろん、制度を形だけで終わらせず「実効性ある運用」に繋げるためのポイントも併せて考えていきます。
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目標管理制度(MBO/MBP)とは何か

基礎的な定義
MBOは、経営学者のピーター・ドラッカーが提唱したマネジメント手法で、「個人が自ら目標を設定し、その達成に向かって行動する」ことで、組織の方針と調整しつつ成果を追う制度です。
日本で導入される際には「目標管理制度」として、評価・育成・報酬など人事制度と紐づけられることが多くなっています。 ここで「MBP」という言葉を使うなら、「Management by Performance(目標から成果へ)」「Management by Progress(進捗重視)」「Management by People(人材重視)」など、MBOの次のフェーズを意識したバージョンとして捉えるとよいでしょう。たとえば、評価だけでなく「成長/プロセス/人材の変化」にも重きを置く制度です。
なぜ「進化型」が必要か
単に目標を設定して期末に振り返るという運用では、以下のような課題が出てきます。
・目標が組織の方針とズレており、「個人の好きなこと」だけになってしまう。
・目標が抽象的・漠然としていて、達成状況があいまいになる。
・目標管理が「評価のために目標を設定・達成」になり、学びや改善、挑戦が軽視される。
こうした反省を踏まえ、MBPでは「目標→プロセス→成長→評価」という流れを意図的に設計することで、人材力の底上げ・定着・エンゲージメント向上を狙います。
仕組み:MBP制度の基本構成

目標設定(目標設計)
まず重要なのは、経営方針や部門の目標と個人目標をしっかりと結びつけることです。個人が立てる目標が組織全体の方向性から逸れてしまうと、制度の効果は半減します。そのため、組織全体、部門、個人という三層構造で目標を整合させることが欠かせません。
また、上司が一方的に決めるのではなく、従業員自身が「自分は何を達成したいのか」「どのように貢献できるのか」を考え、自ら目標を立てるプロセスを重視することも大切です。そのうえで、上司との対話を通じて目標をすり合わせることで、納得感が
高まり、自発的な行動を促します。
さらに、目標を設定する際にはSMART原則(Specific=具体的、Measurable=測定可能、Attainable=達成可能、Relevant=組織との関連性、Time-bound=期限付き)を活用するのが効果的です。これにより、曖昧な目標を避け、達成基準が明確で行動しやすい設計が可能になります。
行動計画/進捗管理
目標を立てた後は、その達成までのプロセスを具体的に設計することが求められます。たとえば、「いつ」「どのような方法で」「誰が」「どの程度の成果を目指すのか」を明確にした行動計画を立案し、目標管理シートなどを使って可視化します。これにより、進捗が明確になり、行動の優先順位も整理されます。
また、計画を立てただけで終わらせず、定期的に上司と進捗を確認することが大切です。月次や四半期ごとなど、あらかじめ決めたタイミングで面談を実施し、目標のズレや課題を早期に発見・修正することで、継続的な改善が可能になります。
振り返り・評価・フィードバック
振り返りと評価の段階では、単に「目標を達成できたかどうか」だけでなく、そこに至るまでの過程や努力の質、挑戦の姿勢も評価対象とすることが重要です。結果が未達であっても、そこに成長や改善の意欲が見られる場合は、前向きに評価されるべきです。
さらに、上司と本人による評価のギャップを埋めるために、自己評価と上司評価を突き合わせるプロセスを設けると、制度全体への納得感が高まります。そのうえで、評価結果を次の目標設定やキャリア形成に反映させることで、制度が「成長のサイクル」として機能するようになります。
制度運用の補助要素
制度を円滑に運用するためには、日常的な対話やサポートの仕組みも整える必要があります。たとえば、1on1ミーティングや定期的な個別面談を実施し、部下の状況や課題を把握することで、「目標を立てただけで放置される」状態を防ぎます。
また、管理職自身が適切な目標設定や進捗フォローを行えるよう、マネジメントスキルの育成も欠かせません。制度が定着するかどうかは、上司の関わり方次第といっても過言ではありません。
さらに、目標設定や進捗管理を効率化するために、デジタルツールやシステムの導入も有効です。ツールを活用することで、シートの共有や進捗の可視化が容易になり、制度運用の負担を軽減できます。
導入のヒント:MBPを実効化するためのステップ

MBPを効果的に導入するには、次のステップを意識することが大切です。
まず第一に、制度導入の目的を明確にし、「なぜ実施するのか」「何を実現したいのか」を経営陣・管理職・従業員全員で共有します。目的が曖昧なまま制度だけを導入しても、現場には定着しません。
次に、目標設定のルールやフォーマットを整備します。目標、達成基準、行動計画、期限といった基本項目を標準化し、上司と部下が対話を通じてすり合わせを行うプロセスを制度に組み込みます。
運用段階では、月次や四半期ごとの進捗確認をルール化し、必要に応じて目標を修正します。同時に、1on1ミーティングを活用して部下の悩みや課題を聞き取り、心理的安全性を確保します。
最後に、制度を回したあとは振り返りを行い、達成度だけでなく成長や挑戦の過程を評価します。そのうえで、制度そのものの運用状況を定期的に見直し、改善を重ねていくことが成功への近道です。
まとめ

「人材評価を進化させる目標管理制度(MBP)」は、単なる「目標を立てて評価する」仕組みから、個人の成長・組織の成果・対話・プロセス・改善サイクルを包括的に捉える制度です。制度設計や運用においては、目的の共有、目標の明確化、進捗把握、振り返り・改善という流れを丁寧に回すことが肝要です。また、管理職・人事の支援体制やツール整備も欠かせません。
なお制度はあくまで手段であり、最終的に求められるのは「人が動き、変わること」。MBPを通じて、従業員一人ひとりが自律的に成長し、組織としても成果を生み出せる文化を育むことが、真の成功につながります。
【参考】https://www.101s.co.jp/column/mbo/
【参考】https://www.persol-group.co.jp/service/business/article/303/
【参考】https://www.recruit-ms.co.jp/glossary/dtl/0000000233/