AIで営業業務を効率化!産業機器メーカーの社内システム改善事例

営業現場で長年問題となっていた情報収集の煩雑さと提案資料のばらつき。私たちはコンサルティングとAIを活用したシステム導入で業務を劇的に効率化し、顧客情報の一元管理と提案力強化を実現しました。産業機器メーカーのリアルな営業課題をどう解消したか、最新技術導入の効果と運用までを解説します。

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「効率的な準備ができない」営業現場の悩みと私たちの提案

営業の現場で長年の課題となってきた準備の煩雑さを、弊社はどのように解決したのか。ここでは、顧客企業の課題をヒアリングと分析によって明確化し、業務効率化と営業力強化の具体的な施策を提案するまでをご紹介します。

顧客の概要と営業現場の現状

今回支援を行った企業は、産業用機器や制御盤の製造を主軸に据え、複数の拠点で営業、技術支援、生産・管理部門を組織し、BtoB取引を中心に事業を推進しています。システムはオンプレミスのCRMとAzureクラウド上のAI分析基盤が組み合わさったハイブリッド環境です。

しかし、営業現場では多くの課題がありました。新規顧客との面談前には、企業情報や導入事例、業界動向を調査する必要があり、準備に多くの時間がかかっていました。情報のばらつきやCRM内の企業プロファイル不足により、過去の成功事例や関連ニーズの連携が困難でした。提案資料の質にも差が出やすく、効率的な営業活動を妨げていました。さらに、新規顧客対応の属人化が進み、部門間でのナレッジ共有不足が潜在的なリスクとして企業の成長を阻んでいました。

営業担当者からは、「案件ごとに調査の優先順位が変わり、効率的な準備ができない」「CRMの情報更新が属人的で、履歴も散乱している」といった指摘が多数出ました。日常業務に追われる中、限られた時間で試行錯誤を強いられている状況が浮き彫りになりました。こうした現場の状況は、営業活動の質や企業全体の成長戦略にとって重大なボトルネックとなっていました。

コンサルタントによる事前調査

プロジェクト開始に先立ち、弊社コンサルタントは営業、企画、技術支援部門など多方面のキーマンから聞き取り調査を実施しました。調査手法としては、営業担当者へのインタビュー、CRMデータの分析、過去の商談記録や営業日報のレビュー、さらに定量的な工数計測も並行して行いました。

調査では、「顧客企業ごとに調査対象や範囲が異なり、準備工数を圧迫している」「類似案件の再利用が難しく非効率」といった要望が繰り返し挙げられました。また、「部門間連携が断片的で情報が分散している」「個々の営業レベルで対応品質に差が生まれている」といった課題も明らかになりました。

これらの意見をもとに、コンサルタントは営業現場の課題を整理しました。営業担当者が準備に多くの時間を費やしているため、本来の営業活動や顧客との対話に集中できない状況が企業全体の成長を妨げていることが明らかになりました。さらに、部門ごとの情報共有不足や対応の属人化といった課題が、営業力の低下や成長戦略の停滞に直結していることもデータと現場の声から確認できました。

私たちのアプローチと提案

こうした営業課題の解決に向けて、私たちはAIを活用した外部情報の自動収集と提案資料の自動生成システムの導入を提案しました。新規顧客がCRMに登録されるごとに、企業名や所在地、業種コードをトリガーとしてWeb検索APIで外部情報を収集します。収集した情報はCRM内に要約して格納し、社内の機密データベースと自動的に統合します。さらに、過去の商談データや成功事例を学習した自然言語生成(NLG)モデルにより、顧客属性に連動した課題仮説および提案例文を作成します。営業担当者はCRM画面上でボタンを押すだけで、外部情報と社内ナレッジを統合したPowerPoint提案書を生成できます。

この提案に対し顧客側は「営業準備の負担軽減と情報の一元管理で、初回提案の質向上に期待が持てる」と高く評価し、営業部門からは「提案書作成の属人化の解消やタイムリーな情報把握が期待できる」といった前向きな反応がありました。

現場からの声をもとに、複合的な課題を明確にし、弊社コンサルタントが綿密に分析し、解決すべきポイントを体系的に整理しました。営業準備の工数削減や属人化の解消、業務の効率化、営業の質の均一化、部門間連携の強化を同時に実現することが重要と判断しました。

本プロジェクトの要求機能

  • 営業準備の工数削減
    新規顧客対応にかかる情報収集や資料作成の手間をAIで自動化することで、営業担当者の準備時間の短縮を実現します。
  • CRMでの情報一元管理とナレッジ共有の強化
    企業情報や商談履歴、成功事例をCRM内に集約し、部門横断で容易に共有できる環境を構築することで、情報の散逸や属人化を防ぎます。
  • 提案資料作成の属人化解消
    AIによる提案書自動生成機能を導入することで、営業担当者の個人スキルや経験に依存しない標準的な提案資料の作成が可能になります。
  • 部門間連携の円滑化
    CRMとナレッジマネジメントシステムを連携させることで、営業・技術・企画部門間の情報共有と連携がスムーズになります。
  • 提案の標準化と品質向上
    AIが過去の成功事例や顧客属性に基づいた提案書を作成することで、提案の質を均一化し、全体の品質向上を図ります。
  • 外部情報の迅速な収集
    Web検索APIを活用し、リアルタイムで業界動向や企業情報を収集・更新することで、最新情報をもとにした営業活動が可能になります。
  • 成功事例や過去事例の活用促進
    CRMに蓄積された過去の商談データや成功事例をAIが分析・活用することで、新たな提案や営業戦略立案の支援が行えます。

弊社コンサルタントは顧客の潜在的な課題を明確化しました。そして、課題解決のためのプロジェクトチームが始動しました。

プロジェクトチームの歩み:CRM連携と提案資料の自動生成

本プロジェクトでは、オンプレミスCRMとAzureクラウドAI基盤をAzure Arcで統合管理し、営業データと外部情報を活用した提案資料の自動生成を実現しました。ここではその挑戦の軌跡について紹介します。

既存システムの理解

プロジェクト初期、チームは現行環境を詳しく調査しました。コンサルタントのヒアリングから、「CRMの情報更新が属人的で最新情報の一元管理ができていない」という課題が浮かびました。調査の結果、情報の散逸や属人化が営業準備の工数増加や提案の質のばらつきにつながっていることが分かりました。既存システムの運用におけるボトルネックや連携の難しさを具体的に把握し、課題解決の起点としました。

技術選定

チームは社内の営業データを管理するオンプレミスCRM(.NET Framework 4.7+SQL Server 2017)と、AzureクラウドのAI分析基盤(Azure OpenAI Service、Azure Machine Learningなど)を、Azure Arcでハイブリッド連携させる技術を選びました。Azure Arcは、オンプレミス環境とクラウドリソースを一元管理できるため、運用が効率化されます。

データの抽出・転送にはAzure Data Factoryを用いて、安全で効率的に処理しています。外部情報の収集や分析にはAzure FunctionsLogic Appsを使っています。さらに、Azure OpenAI Serviceで自然言語生成モデルを構築し、提案資料の自動生成に利用しています。

メンバーは「Azureの豊富なサービスと強力なセキュリティを活用しつつ、必要な機能を選定・整理するのは大変でしたが、システムの信頼性と柔軟性を高めるために欠かせない作業でした」と話しています。

決定したシステム仕様

  • オンプレミスCRM:.NET Framework 4.7+SQL Server 2017(社内営業データ管理基盤)
  • AzureクラウドAI分析基盤:Azure OpenAI Service、Azure Machine Learning、Azure Functions、Logic Apps
  • データ連携:Azure Data FactoryによるCRMデータの定期抽出・転送、Azure Blob StorageやAzure SQL Databaseによる分析結果格納
  • 連携方式:Azure Arcによるオンプレミスとクラウドの統合管理、Azure Active Directoryによる認証・アクセス制御
  • 運用管理:Azure Update Managerによる両環境のサーバー更新一元管理

この仕様により、安全かつ効率的なデータ連携と高度なAI処理が可能となりました。設計に関わったメンバーは「Azureはサービスが充実しており、セキュリティ面にも強みがあります。求められる機能を選んで整理するのは一苦労でしたが、システムの信頼性と柔軟性を高めるために不可欠です」と語っています。

セキュリティと運用の検討

本プロジェクトでは、システムの安定稼働と情報セキュリティを確保するため、Azure Arcを用いてオンプレミスサーバーとAzureリソースを一元管理する体制を構築しました。Azure Arcは、OSやホストの場所にかかわらず、Azureのセキュリティ、監視、ポリシー適用機能を一元管理できるサービスです。これにより、複数拠点やクラウド上のリソースでも、セキュリティとガバナンスを一貫して運用できます。

また、Azure Active Directoryを活用した統一認証・アクセス制御を導入し、セキュリティレベルの向上と管理コストの軽減を実現しました。Azure Update Managerにより、全環境のサーバーのパッチ適用やアップデートを集中管理し、瞬時に最新の状態を維持しています。これらの仕組みにより、「運用体制の確立がシステムの安定稼働とセキュリティ強化に不可欠」とするメンバーの指摘を踏まえ、継続的な監視とリスク管理を徹底しています。

さらに、Azure Security CenterやAzure Sentinelの連携により、セキュリティイベントの一元監視と脅威に対する早期対応を可能とし、不正アクセスやサイバー攻撃のリスクを最小化しています。Azure Arcに対応したデータベースやサーバーのセキュリティ設定は、Azureポリシーにより自動監査・強制されており、ハイブリッド環境全体のガバナンスを徹底しています。

このアプローチにより、「クラウドとオンプレの融合した堅牢なセキュリティ体制」と「一元管理による運用効率の向上」を実現し、システムの安全性と安定性を高めました。

検証と顧客レビュー

構築した連携システムでは、顧客CRMシステムのデータが自動的に提案資料へと反映されます。具体的には、CRMに登録された企業情報や商談履歴が解析され、営業担当者はCRM画面の操作だけで、外部情報と統合されたPowerPoint形式の提案資料を瞬時に生成できます。

テスト環境での検証で、資料作成に毎日何時間も費やされていた営業担当者たちは、ボタン一つで資料が完成する様子に驚き、期待の表情を見せました。資料作成に追われていた日々が一瞬で終わる現実に、現場の空気が大きく変わったことが感じ取れました。

AIの調整に関わったメンバーは、「一番怖いのはハルシネーションです。AIは時に事実と異なる情報を生成してしまうことがあり、誤った情報が提案資料に載ると大きなリスクになります。そのため、検証を念入りに繰り返し、正確性を保つことを最優先にしています」と語り、システムの信頼性を確保するため細心の注意を払っています。

運用開始とその後

検証を繰り返し、顧客からの指摘事項や不具合を修正した上でプロジェクトは佳境を迎えました。本番環境への移行作業では、プロジェクトチームは緊張しながらデータ移行やシステム設定を進め、現場の営業担当者たちもその様子に注目していました。経験豊富なメンバーも「システムが動く瞬間はいつも緊張の連続です」と語ります。

システムが安定稼働するまで油断はできませんが、Azure Arcによる一元管理で、オンプレミスとクラウド環境の運用を統合し、効率的な監視とリスク管理を実現しています。

プロジェクトの総括

本プロジェクトでは、AI導入により営業現場の業務効率を大幅に改善しました。ここではプロジェクトの成果を紹介し、チームの取り組みと反省点を振り返ります。

AI導入による営業活動の変化

本プロジェクトでは、AIを活用した自動収集・提案資料自動生成システムを導入し、営業準備の工数を大幅に削減しました。従来、各案件ごとに膨大な時間を要していた情報収集や資料作成を、ボタン一つで完結できるようにしました。これにより営業担当者は本来の営業活動や顧客対応に専念でき、生産性が飛躍的に向上しました

さらに、AIはCRM内外の多様なデータを統合・解析し、顧客属性に即した課題仮説や提案例を自動で提示。提案資料の質も安定し、その結果、商談成立率の向上や新規顧客開拓の効率化が実現しています。

  • 営業準備工数の削減率:最大40%減
  • 提案資料作成時間の短縮:平均70%以上短縮
  • 商談成立率の向上:20~30%改善
  • 営業サイクル期間の短縮:最大30%減
  • 顧客満足度(NPS):10ポイント以上向上

今後は新たな分析機能の追加やAI活用の他部門展開を進め、データ品質と運用効率の改善を継続していきます。より一層の営業力強化と企業成長を目指します。

顧客の反応

顧客のプロジェクト責任者からは、「初回提案の準備負担が大幅に軽減され、営業チーム全体の情報共有と連携が格段に良くなった」と高く評価されました。営業現場からは、「提案資料作成が個人のスキルに依存せず、誰でも質の高い資料を作成できるようになった」との喜びの声が多数寄せられています。

また、「顧客ニーズに即した最新情報をリアルタイムで反映でき、営業先での信頼感が増した」との声もあり、顧客満足度の向上にもつながっています。

プロジェクトチームの振り返り

プロジェクトチームは導入効果と現場の反応に大きな達成感を感じています。メンバーからは、「AIの力で営業活動の質と効率を同時に改善できた」と評価され、営業担当者の準備時間が平均40%削減、商談成立率も20%以上向上し、現場のモチベーションアップに貢献しました。

一方で、プロジェクトの進行の課題も指摘されました。AI提案精度の向上にはモデルのリトレーニングやフィードバック収集に時間がかかり、運用ルールの整備が遅れました。また、部門間の情報連携は断片的で、ナレッジの共有は不十分でした。これを受けて、ワークショップの開催やコミュニケーション強化による改善策が提案されました。これらの課題を踏まえ、今後のプロジェクトへ活かします。

AI導入で企業の価値創造を支援

振り返ると、本プロジェクトが成功した最大の要因は、AI導入の主目的を「作業工数の削減」に明確に定めたことにあります。導入効果を数値で可視化し、具体的な目標を設定できたことで、取り組むべき方向性がぶれず、一貫した方針のもとでプロジェクトを計画通りに完遂できました。
弊社はこの経験を活かして、今後もクライアント企業の価値創造を支え続けていきます。

この記事を書いた人

ビジネス・テクノロジスト 貝田龍太