システムアーキテクトの役割とは?DX時代に求められる専門職の全貌

システムアーキテクトは、企業のIT戦略やビジネスの根幹を支える存在です。本記事では、アーキテクトの定義や主な役割、システムエンジニア(SE)との違い、求められるスキルセットとキャリアパスについて解説します。また、レガシーシステムのモダナイゼーションやAI・生成AIの活用といった注目テーマも紹介し、今後のシステムアーキテクトに求められる能力を整理します。

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システムアーキテクトの役割と求められるスキル

システムアーキテクトは、システム全体の構造を設計・統制する中心的存在です。ここでは、アーキテクトの定義や主な業務、システムエンジニア(SE)との違い、求められるスキルセット、そして2025年のアーキテクチャ設計の最新トレンドを解説します。

システムアーキテクトとは

システムアーキテクトは、「システム全体の構造を設計する人」と定義されます。主な業務はアーキテクチャ設計非機能要件設計技術選定全体方針策定などです。具体的には、システムの構想や要件定義、アーキテクチャ設計、技術選定、非機能要件(セキュリティ、パフォーマンス、拡張性など)の設計、プロジェクト全体の方針策定を担当します。分類としては、エンタープライズアーキテクト(組織全体のIT構造を設計)、ソフトウェアアーキテクト(ソフトウェアシステムの構造を設計)、インフラアーキテクト(インフラ構造を設計)などがあり、それぞれの専門分野でシステムの構造を設計します。

たとえば、大手小売企業がオンライン決済システムを新しく構築する場合、システムアーキテクトは「顧客情報のセキュリティをどう確保するか」「システムが大規模なアクセスにも耐えられるようにするにはどう設計するか」「既存の店舗システムとどう連携するか」といった全体像を設計します。システムアーキテクトが作成するシステム全体図やグランドデザインは、開発チームの開発作業の土台となる設計図です。

【参考】システムアーキテクトとは

システムアーキテクトの主な役割

  • システム全体の構想や要件定義に参画する
  • システムアーキテクチャや非機能要件の設計を行う
  • 技術選定や全体方針策定を担当する
  • クライアントと開発チームの橋渡し役として調整を行う
  • 開発チームの意識を合わせ、円滑なコミュニケーションを図る
  • 開発のサポートやトラブル解決を行う

システムアーキテクトは、プロジェクトの初期段階(提案・要件定義)から設計、開発、テスト、移行展開まで、各フェーズで全体最適を意識した設計を担当します。特に要件定義段階では、ビジネス要求とシステム要求の両方を把握し、全体像を設計図にまとめることが求められます。

システムエンジニア(SE)の役割との違い

SEは、要件定義から設計、開発、テスト、保守・運用まで、実務を担う中心的存在です。担当領域ごとの個別最適化を行い、システム要求事項を実現することが求められます。一方、システムアーキテクトはシステム全体の構造を設計し、技術選定や最適化を行うのが主な業務です。ビジネス要求事項を満たすシステム全体像を作成し、システム要求事項を実現することが求められます

たとえば、前述の小売企業のオンライン決済システムでは、SEは「決済処理のロジックをどう実装するか」「データベースの設計をどうするか」といった個別領域の開発を担当します。一方、システムアーキテクトは「決済処理と顧客情報管理、店舗システム連携をどう統合するか」「全体としてのパフォーマンスやセキュリティはどう確保するか」といった全体最適化を担当します。

よく言われるように、SEは現場の職人、システムアーキテクトは建築家です。システムアーキテクトには、ビジネスやシステムの要求を具体的なシステムアーキテクチャに反映させる高度な知識と、ビジネス要求への理解が求められます。

システムアーキテクトは、ビジネス側(経営・業務部門)と開発側(SE・プログラマー)の間で、双方の要望や制約を整理し、現実的で実現可能な設計案を提示する能力が求められます。この調整力は、プロジェクトの成功に直結します。

中小案件や規模の小さなプロジェクトでは、SEがシステムアーキテクト的な業務を兼任するケースがあります。その場合、設計の決定権や責任範囲が曖昧になりやすく、プロジェクトの進行にリスクが生じることがあります。たとえば、社内システムのリニューアルプロジェクトで、SEが「全体の設計」を兼務した結果、「個別最適化ばかりが進み、全体としての整合性が取れなかった」ケースがあります。このように、役割の境界は、組織のフェーズやプロジェクト規模によって変化します。

アーキテクトに求められるスキルセット

アーキテクトには、クラウドセキュリティ非機能要件(パフォーマンス、可用性など)に関する知識が求められます。ビジネス面では、要件の整理リスクの評価関係者との調整力が重要です。また、全体を俯瞰する力抽象化する力現実的な落とし所を見つける力も必要です。複数の領域(アプリケーションインフラネットワークなど)を統合するスキルや、幅広い知識・経験が求められます。

たとえば、アーキテクトがクラウド環境を設計する場合、「コストとパフォーマンスのバランスをどう取るか」「障害発生時の復旧設計をどうするか」といったリスクの評価が求められます。また、ビジネス側と開発側の調整役として、双方の要求を整理し、現実的な設計案を提示する能力も必要です。

アーキテクチャ設計のトレンド

近年は、AI生成AIの活用が進み、要件定義や設計段階でコード生成設計パターンの提案が一般的です。クラウドネイティブサーバーレスアーキテクチャが普及し、スケーラビリティコスト最適化が重視されています。マイクロサービスコンテナ技術(Docker/Kubernetes)の活用、DevSecOpsシフトレフトAPIファースト開発レガシーシステムのモダナイゼーションも重要なトレンドです。マルチクラウドハイブリッドクラウドの導入、エッジコンピューティングIoTアーキテクチャの発展も注目されています。ローコード/ノーコード開発GitOpsIaC(Infrastructure as Code)によるインフラ構成管理も普及し、開発・運用の効率化が進んでいます。アーキテクトは、ビジネス要件将来の変化に対応できる柔軟な設計が求められます。

システムアーキテクトが注目される理由と成功の条件

近年、企業のDXやクラウド化の加速に伴い、システム構成はますます複雑化しています。ここでは、システムアーキテクトの役割と需要の背景、そして成功するアーキテクトに求められる資質について解説します。

なぜ今「システムアーキテクト」が注目されるのか

近年、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進やクラウド化が加速する中で、システム構成はますます複雑化しています。2025年現在、クラウド移行が進み、企業の8割以上がクラウド環境を導入しています。基幹システムの刷新や新たなデジタルサービスの構築が求められています

こうした環境では、単なる「個別最適」ではなく、システム全体を俯瞰し、「設計全体の最適化」を担うシステムアーキテクトの存在が不可欠です。アーキテクトは、ビジネス要件と技術要件を結びつけ、システム全体の整合性と将来性を確保する役割を担います。特に、AIやIoT、ビッグデータの普及により、システム間の相互運用性やセキュリティの確保、クラウドの最適化といった課題を解決するためには、技術的視点と経営的視点を両方持つアーキテクトが求められます

また、金融、製造、医療など業界ごとにニーズが異なり、それぞれのビジネス課題に応じた柔軟なアーキテクチャ設計が求められています。たとえば、金融業界では安全性や効率性を重視したシステム構築、製造業界ではIoTやスマートファクトリーの導入に伴う生産効率化、医療業界では電子カルテや遠隔診療の普及に伴う安全かつスケーラブルなシステム設計が重要視されています。

しかし、システムエンジニア(SE)との役割の境界が曖昧なため、アーキテクトの役割が誤解されたり、軽視されたりするケースも少なくありません。特に中小企業や小規模プロジェクトでは、SEがアーキテクト的な業務を兼務することが多く、全体最適と個別最適のバランスを取ることが難しい場合があります

このように、DX推進やクラウド化、AIやIoTの普及が進む中で、システムアーキテクトの需要はますます高まっています。企業の競争力を維持するためにも、アーキテクトの役割は今後ますます重要になるでしょう

ケーススタディ:ECサイトの刷新プロジェクト

ある中堅企業では、ECサイトのシステムがモノリス構成で、突発的な負荷に弱く、業務の拡張や新機能追加に時間がかかりました。そこで、システムアーキテクトが主導して、Kubernetesとマイクロサービスによるシステム刷新の計画を立てました。導入の目的は「スケーラビリティの向上」「開発効率の改善」「サービスの独立運用による保守性の向上」でした。
しかし、結果として予算と納期を大幅に超過する事態になりました。

この失敗の主な原因は、ビジネス要件や既存システムの状況を十分に把握していなかったことです。アーキテクトは、モノリス構成の既存システムの構造や運用体制、開発チームのスキルセットについて十分に調査せず、API設計やサービス間連携、Kubernetesの運用ノウハウについても準備や教育が不十分でした。また、ビジネス側との要件確認も不十分で、既存の業務プロセスや運用フローとの整合性が取れていないまま、技術的な利点だけを強調して導入を進めました。

その結果、開発チームは技術習得やシステムの設計・連携に苦労しました。運用段階ではトラブルが頻発し、障害対応に多くのリソースを割くことになりました。ビジネス側も技術的な説明が不足し、プロジェクトの目的や成果が理解されず、全社的な協力も得られませんでした。

ケーススタディから学ぶ良いシステムアーキテクトの条件

この事例から良いシステムアーキテクトに求められる資質が見えてきます。上記の事例では、アーキテクトが最新技術を追うだけで、ビジネス要件や既存システムの状況を十分に考慮しませんでした。技術選定の理由やリスクについても説明が不足し、関係者との合意形成が取れず、プロジェクトが頓挫しました。このようなアーキテクトは、技術だけに偏り、全体最適やビジネスとの整合性を欠いています

したがって、良いシステムアーキテクトとは、ビジネス要件と技術要件を両方理解し、全体最適の視点を持ちながら、関係者との合意形成を図れる人です。技術選定の理由やリスクについても、丁寧に説明し、プロジェクト全体の成功に貢献できる能力が求められます。

システムアーキテクトになるために

システムアーキテクトは、企業のIT戦略やビジネスの根幹を支える存在です。ここではキャリアアップの道筋や求められる資質、レガシーシステムのモダナイゼーション、AIや生成AIの活用など、今後のシステムアーキテクトに必要な知識とスキルについて解説します。

システムアーキテクトのキャリアパス

システムアーキテクトは、単なる技術者ではなく、企業のIT戦略やビジネスの根幹を支える存在です。キャリアアップの道筋としては、システムエンジニア(SE)として開発現場で実務経験を積み、プロジェクトリーダーやプロジェクトマネージャーとしてチーム管理やシステム導入の経験を重ねるのが一般的です。この過程で、アーキテクチャ設計に必要な視野やスキルを育て、小規模なシステム設計から徐々に大規模なシステムや企業全体に関わるプロジェクトへと携わっていきます。こうした経験を積むことで、技術的リーダーとしての資質が身につきます。

アーキテクトとしてのキャリアは、大きく分けて「スペシャリスト」「ゼネラリスト」の2つの方向性があります。スペシャリストは、特定の技術領域(例:クラウド、AI、セキュリティ、IoTなど)に特化し、高度な専門性を磨くことで、その分野の第一人者として活躍します。一方、ゼネラリストは、プロジェクト全体を統括する立場に立ち、技術だけでなくビジネスや経営の視点も持ち合わせ、CTO(最高技術責任者)や経営層を目指すキャリアパスです。どちらの道を選んでも、現場での実務経験を整理・分析し、自分の強みとして活かすことが重要です。

システムアーキテクトに求められる資質

2025年以降のIT業界では、DXやAI、クラウド、IoTの進展により、システムアーキテクトの需要はますます高まると予想されます。特に、以下のような能力が重視されます。

  • 最新技術の知識と活用力:クラウド、AI、IoT、セキュリティなど、最新技術の動向を把握し、それをビジネスに活かす力が求められます。技術の進化が速い中、常に新しい技術を学び、企業の競争力を維持できるように活用することが重要です。
  • ビジネス課題への理解力と解決提案力:技術だけでなく、ビジネス課題を理解し、その解決に向けたアーキテクチャ設計を行う能力が不可欠です。ビジネス要件を正確に捉え、最適な設計案を提示することが求められます。
  • 関係者との調整力とコミュニケーション力:開発チーム、ビジネス部門、経営層など、多様な関係者と円滑にコミュニケーションを取り、合意形成を図る力が重要です。複数の利害関係を調整し、プロジェクト全体の成功に貢献する力が必要です。
  • 柔軟な設計と変化への対応力:技術やビジネス環境の変化に柔軟に対応し、将来を見据えた設計を行う能力が求められます。変化に柔軟に対応できる設計は、システムの長期的価値を高めます。

資格(例:IPAシステムアーキテクト試験)を取得することで、スキルの証明やキャリアのブランディングにもつながります。また、業界ごとのニーズに応じて、金融、製造、医療など特定の領域に特化することで、専門性を高めることも可能です。

アーキテクトは、技術の進化やビジネス環境の変化に柔軟に対応し、企業の競争力を支える役割を担い続けるでしょう。今後も、高度な専門知識と幅広い視野を兼ね備えたアーキテクトが、企業のDX推進や競争力強化に貢献することが期待されます。

レガシーシステムのモダナイゼーション

2025年現在、多くの企業が抱える「2025年の崖」問題に対応するため、レガシーシステムのモダナイゼーションが注目されています。レガシーシステムは、技術の老朽化や業務の属人化、柔軟性の欠如などにより、新たなビジネスニーズやDXへの対応が困難になっています。モダナイゼーションでは、システムの課題やニーズを明確にし、将来の目標(To-Be)を定めた上で、段階的に刷新を進めることが重要です。

具体的には、リプレースリホストリファクタリングなどの手法が活用され、一度にすべてを変えるのではなく、リスクを軽減しながらロードマップを描き、予算やコスト、リスク、効果を適切に管理することが求められます。また、経営層の意識変革やITガバナンスの強化、事業部門との連携も重要です。

AI・生成AIの活用

AI生成AIは、システム開発や業務効率化の中心になっています。要件定義や設計段階では、生成AIがコード生成設計パターンの提案を担い、開発効率を大幅に向上させています。また、レガシーシステムのモダナイゼーションにおいても、生成AIを活用して設計書の復元や自然言語による補完を行い、関係者間の理解を深めるなど、実践的な事例が増えています。

AIガバナンスや倫理的課題への対応も重要であり、技術の活用と同時に、リスク管理コンプライアンスの対応も必要です。

これらの領域は、今後のシステムアーキテクトにとって避けて通れない重要なテーマです。企業の競争力強化やDX推進のためには、これらの課題に積極的に取り組む必要があります。

「多様な役割を持つ価値創造の担い手」として

システムアーキテクトは、単なる技術者にとどまらず、ビジネス課題の理解、関係者とのコミュニケーション、システム全体を俯瞰する視点など、幅広いスキルを兼ね備えた総合技能職です。課題を解決するだけでなく、時には新たな課題を生み出し、価値を創出する役割も求められます。アーキテクトが生み出す価値は計り知れず、企業のDX推進や競争力強化に大きな影響を与えます。その多様な役割に挑戦することで、技術とビジネスの両面で成長できるでしょう。ぜひ、システムアーキテクトの世界に一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。

この記事を書いた人

ビジネス・テクノロジスト 貝田龍太