データの分断に挑む!中堅小売企業の課題解決事例

販売・顧客・ポイント情報が分断され、オペレーションが煩雑化していた中堅小売企業が、どのようにして「見える化」と「効率化」を同時に実現したのかをご紹介します。
私たちギグワークスクロスアイティは、AI搭載型CRM「デコールCC.CRM」と販売管理システム「ソルクラfor販売管理」を連携させ、業務効率化と顧客体験向上の両立を支援しました。システム導入にとどまらず、業務設計から統合運用までを一体的に支援し、全社的なデータ連携とオペレーション改革を実現しています。

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「データの分断」という課題

EC市場の拡大は、小売業における「データの分断」という深刻な課題を生み出しています。全国に15店舗を展開する中堅小売企業のC社もその影響を受けていました。店舗・EC・コールセンターがそれぞれ独立運用され、顧客や在庫がばらばらに管理されていたため、経営判断のスピードも顧客対応の質も維持が難しい状況でした。
ここでは、C社がこの課題にどう取り組み、改革の一歩を踏み出したのかを紹介します。

顧客の概要と抱えていた課題

C社は衣料品とライフスタイル雑貨を扱う専門店を全国に展開する中堅企業です。地域密着型の経営で成長を続けてきましたが、消費者行動の変化に十分対応できず、EC拡大の過程でさまざまな歪みが表面化していました。

各店舗が独立して販売管理を行い、売上・在庫・発注情報が店舗単位で分散していたため、本部では各店舗から送られるExcel報告を毎日集計し、ようやく全体像を把握していました。ところが手作業での集計は時間がかかり、数値の不整合や反映の遅れが常態化。結果として、在庫過多と欠品が同時に発生する非効率な状態が続いていました。

顧客管理システムは構築から10年以上が経過したレガシー環境で、店舗・EC・コールセンター間の連携がない構造でした。顧客の購買履歴を照会する際は複数のシステムを横断する必要があり、問い合わせ対応のスピード低下を招いていました。

さらに、店舗とオンラインで別々のポイントシステムを採用していたため、チャネルをまたいだ利用ができない状況が続き、顧客から不満の声が上がるようになっていました。店舗スタッフも日々、データ整合性の確認に追われていました。

こうした課題を受け、C社は「販売・顧客・ポイントを一元的に管理し、どのチャネルでも共通の体験を提供したい」という考えのもと、当社に相談を寄せました。

業態の違いが生む運用のばらつき

現場ヒアリングを進める中で明らかになったのは、店舗業態ごとに異なる運用ルールが存在するという構造的な問題でした。
アパレル店舗ではサイズ・カラー別の在庫を重視する一方、雑貨店舗では商品カテゴリー別の在庫追跡を中心にしており、ひとつの企業内で複数の管理基準が併存していました。

データ構造が業態間で揃わないままでは、統合時に不整合が発生し、運用が混乱する可能性がありました。
私たちは全業態のヒアリング結果をもとに業務パターンを分類し、データ統合を前提とした標準化に取り組みました。業務の統一にとどまらず、将来的に販売・在庫・顧客データを横断的に分析できる基盤を整備しました。

合意形成の壁を越えて

標準化方針を提示した当初、一部の店舗からは「現場の負荷が増えるのでは」「既存のやり方を変えたくない」といった懸念も出ました。
そこで私たちは、経営層・店舗代表・システム部門が同じテーブルで議論する体制を整え、業務ルールを共同で設計しました。現場担当者が意見を直接反映できる仕組みにしたことで、全員が「やらされる改革」ではなく「自分たちで創る仕組み」として受け止めるようになりました。

最終的に経営層の正式承認を経て、全社共通ルールとして統一モデルが採択されました。調整には時間を要しましたが、後工程のトラブルを防ぎ、導入の定着を確実にする結果につながりました。

確定した課題解決の方針は以下の通りです。

  • 販売・在庫・顧客データの標準化と統合
  • ポイントカードと会員IDの一元化による顧客体験の向上
  • 受発注業務の電子化による属人化の排除

データ統合を支える2つの中核システム

統合を支える基盤として、販売・業務領域を担う「ソルクラfor販売管理」と、顧客管理を担う「デコールCC.CRM」の2システムを中核に据えました。

ソルクラfor販売管理

ソルクラfor販売管理は、小売・流通業向けに特化した販売管理および受発注統合プラットフォームです。
在庫・販売・仕入・発注といった業務を一元的に管理でき、リアルタイムデータ連携により、店舗・本部・ECが同じ情報を基に意思決定できる環境を実現します。
柔軟なマスタ設計と部門別の権限管理により、多様な業態を持つ企業でもスムーズに対応できます。

デコールCC.CRM

デコールCC.CRMは、AI分析機能を備えた次世代型の顧客管理システムです。
顧客属性・購買履歴・問い合わせ履歴・ポイント情報を統合し、あらゆるチャネルのデータを一元管理します。
顧客はチャネルを意識せずにポイントを利用でき、企業は行動データを基に最適なアプローチを行えます。
さらにAIが購買傾向やリピート予測を自動分析し、マーケティング施策の立案を支援します。

組織を変えた「現場主導の共創プロジェクト」

店舗・EC・本部が同じデータを見ながら動く仕組みを、どう構築するか。
今回のプロジェクトは、単なるシステム刷新ではなく、業務の再定義に踏み込む挑戦でした。私たちは現場・経営・システム部門が協働する体制を築き、設計から運用定着まで一貫して支援しました。その取り組みの軌跡を紹介します。

要件の整理

要件定義では、業務標準化とデータ設計を同時進行で進める方針を取りました。これにより、システムが業務を変えるのではなく、業務をシステムに合わせて最適化するアプローチが可能となりました。

まず、店舗・本部・ECをまたぐ業務フローを可視化し、情報の滞留箇所を洗い出しました。現場ヒアリングの結果、同じデータを複数の部署で入力している、更新遅れで在庫調整が後手に回るなどの非効率が明らかになりました。

次に、データ設計の指針として「入力負荷を減らす」だけでなく、入力データを経営判断に活かすことを重視しました。店舗スタッフの入力情報が分析や意思決定に直結するよう設計し、現場が「数字を作る」立場から「数字を活用する」立場へと意識を変えられる仕組みを整えました。

設計で重視したポイントは以下の通りです。

  • リアルタイム在庫管理:ソルクラを中心に販売・入出庫データを自動集約し、全チャネルで瞬時に同期。欠品や過剰在庫を防ぎ、販売機会の損失を抑制。
  • 受発注ワークフロー統一:申請から承認、検収までを電子化し、担当・承認者・期限を明確化。進捗を可視化することで、業務の属人化を防止。
  • 顧客・ポイント統合管理:デコールCC.CRMを用いて顧客情報とポイント履歴を一元化。店舗とECの双方で同じ会員IDを利用できる仕組みを整備。
  • データ分析基盤の構築:Power BIとLooker Studioを採用し、リアルタイムの販売・顧客・在庫データを可視化。経営層から現場まで、共通の指標で判断できる体制を実現。

これらの仕組みを支える基盤として、Java/Spring BootベースのREST APIアーキテクチャを採用しました。堅牢なトランザクション管理を備え、POSや仕入システムとの連携拡張にも柔軟に対応します。さらにセキュリティ面では、ゼロトラストの概念を導入し、アクセス権限を部門ごとに細かく設定。データ活用と安全性を両立させました。

この設計フェーズを経て、私たちは“作るプロジェクト”から“運用を育てるプロジェクト”へと視点を広げました。

プロジェクト推進と支援体制

本プロジェクトでは、現場・経営・システムが連携して進める共創体制を構築しました。
要件定義からテストまでの各フェーズでワークショップを実施し、店舗スタッフ・管理部門・IT担当者が共通データを基に課題を共有しました。特に画面設計では、実際の業務を想定した操作テストを繰り返し、現場の意見を迅速に反映させました。

プロジェクト運営には、アジャイルアプローチを採用し、要件定義・設計・テストを小さな単位で繰り返すことで、現場からのフィードバックを毎サイクルに反映する体制を整えました。初期テストでは、一部の在庫更新画面の操作ステップが多いことが判明したため、次スプリントで配置や文言を見直し、改善をスピーディーに進めました。

また私たちは、単なるシステム導入支援にとどまらず、現場主導で継続的に改善できる体制づくりに取り組みました。
現場担当者をプロジェクトメンバーとして迎え入れ、SlackやBacklogなどのツールで開発進捗をリアルタイムに共有しました。技術的な理解を深めると同時に、業務設計スキルを身につけられるよう支援しました。その結果、C社内では自ら運用と改善を継続する意識が定着しました。

支援体制は、経営から現場運用までを切れ目なく支援できるよう、戦略層・技術層・運用層の三層構造で設計しました。
まず戦略層では、経営層とともにKPIやデータ活用方針を定義し、システム構築の目的を明確にしました。技術層では、ソルクラとデコールCC.CRMの連携基盤やデータモデルを設計し、全社の標準仕様を策定しました。
運用層では、導入後の教育体制、FAQ、マニュアル、改善フローを整備し、現場が自立して運用を継続できる仕組みを構築しました。

それぞれのフェーズで重視したのは、「完成」ではなく「定着」でした。
私たちは現場と対話を重ね、仕様の見直しだけでなく、運用プロセスや意思決定の方法まで改善を進めました。こうした取り組みの積み重ねにより、システムを単なるツールから現場を動かす仕組みへと発展させました。

新たに構築した統合基盤は、C社のオペレーションに着実に定着しています。
データをリアルタイムで共有できるようになった結果、スタッフが数値に基づいて判断し、経営層が即座に意思決定を行える状態を実現しました。C社では、データに基づいて行動するデータ循環型組織としての基盤が確立しつつあります。

人と仕組みをつなぐ:定着のための教育と運用支援

統合基盤の構築により、C社は業務とデータをリアルタイムに連動させる環境を整備しました。
しかし、改革はここで終わりではありません。新しいシステムを現場が自分の言葉で理解し、日常業務に取り込むことこそが、デジタル変革を定着させる重要な段階でした。
私たちはこのフェーズを、技術移行ではなく人と仕組みをつなぐためのプロセスと位置づけ、教育・支援・検証の三段階で現場を支援しました。

教育・運用支援

システム導入時に最も重視したのは、「“使える”だけでなく、“使いこなせる”状態をどれだけ早く実現できるか」という点でした。
C社の業務特性やスキルレベル、運用文化を踏まえ、「習う」「慣れる」「活かす」の三段階で教育プログラムを構築しました。

共通基盤を理解する「基礎操作研修」

全スタッフを対象に、ソルクラとデコールCC.CRMの基本操作を学ぶ研修を実施しました。
単なる操作説明にとどまらず、「なぜこの入力が必要なのか」「入力結果がどのように在庫や顧客分析に反映されるのか」を具体的に説明しました。自分の入力が全社のデータを動かしていることを実感することで、現場全体の理解と当事者意識を高めました。

業務フローを定着させる「運用ルール研修」

標準化された受発注や顧客情報の更新手順を、実際のデータを使って検証しました。
店舗リーダーを中心に、現場内トレーナーがチーム単位で指導を行う「リレー形式の研修」を採用しました。
この形式により、店舗ごとの課題や疑問を吸い上げやすくなり、教えることで理解が深まる学習サイクルを設計しました。現場が自らルールを体現し、社内全体へ自然に展開できるようになりました。

データを意思決定に活かす「応用活用研修」

定着後は、販売・在庫・顧客データを分析し、実際の意思決定に活かす研修を実施しました。
Power BIやLooker Studioを活用して、売れ筋商品やリピート顧客の傾向を可視化し、目標設定や提案活動に反映する方法を学びました。
データを活用する習慣を根づかせ、経験と数値を組み合わせて判断する体制を整えました。

導入初期には、オンラインFAQ・動画マニュアル・ヘルプデスクを設けました。
FAQは現場から寄せられた質問を週次で更新し、よくある疑問を即時に共有できるようにしました。
チャット形式のヘルプデスクでは、短時間で回答を得られる仕組みを整え、問い合わせしやすく迅速に解決できるサポート体制を実現しました。

この教育と支援の取り組みによって、C社では「システムを導入する」段階から「業務として使いこなす」段階へと意識が変化しました。
スタッフ同士が自発的に操作方法を共有し合う文化が生まれ、システムが現場の一部として自然に定着していきました。

運用開始と効果検証

3段階の研修を終えて全店舗で新システムが定着した後、運用実証フェーズへ移行しました。
まず本店とECサイトを対象にパイロット運用を実施し、販売から顧客・ポイントまでのデータ連携における正確性とレスポンスを検証しました。
API連携による自動更新の動作を確認し、現場スタッフから寄せられた改善要望を反映することで、安定稼働を実現しました。

全店展開後は、在庫・購買・ポイントのデータがリアルタイムで結合・更新され、部門やチャネル間の情報差が大幅に解消されました。
「昨日の在庫を翌日に確認する」運用から、「いまの在庫を即時に確認できる」運用へと変わり、業務スピードと精度の双方を高い水準で維持できるようになりました。

導入の効果は、以下のようになりました。

  • 発注処理時間:45分 → 26分
  • 在庫過剰率:12% → 5%
  • 顧客データ統合率:65% → 99%
  • ポイント利用率:35% → 62%
  • 顧客リピート率:23% → 36%
  • 管理レポート作成時間:1日 → 15分

定量効果に加えて、「顧客履歴をすぐに確認できるようになり、対応の幅が広がった」「他店舗の売れ筋が見えることで、自店の運営に自信が持てた」といった現場の声も寄せられました。
数値では表せない、現場主導の働き方が根づいたことこそが、この改革の本質でした。

C社では、当初は慎重だったスタッフも、現在では日常的にデータを確認しながら顧客対応を行っています。
特に顧客ポイントの一元化後は、「いつどこで購入しても同じ顧客体験」を実現し、リピート率の向上につながりました。

プロジェクトを振り返って

このプロジェクトでデコールCC.CRMとソルクラという自社製品を通じて、課題解決の方向性を具体的に示せたことは、私たちにとっても大きな財産となりました。
2つの製品によって「顧客の統合」と「業務の統合」という2つの視点から、C社が抱える構造的課題を整理し、単なるシステム導入にとどまらない改善計画を立案することができました。

その基盤となったのが、事前のコンサルティングによる課題抽出です。
現場業務のプロセスとデータ構造の両面を徹底的に分析し、表面化していなかったボトルネックや運用のばらつきを可視化しました。
こうした診断を出発点とすることで、システム設計そのものが目的ではなく、「真に解くべき課題」に焦点を合わせた改革ロードマップを描くことができました。

私たちは今後もこの経験を活かし、顧客企業の持続的な成長を支援していきます。

この記事を書いた人

ビジネス・テクノロジスト 貝田龍太