「会話理解×FAQ自動化」でコールセンターが変わる!ナレッジ循環の実装事例

FAQを開いて答えを探しつつ、沈黙を埋める――。
多くのコールセンターで日常的に見られるこの光景は、実は顧客との対話を損なう大きな要因です。
私たちギグワークスクロスアイティは、音声認識と会話理解を組み合わせ、
AIがリアルタイムで最適なFAQを提示できるシステムを構築しました。
“探す”作業から解放されたオペレーターは、“伝える”ことに集中できるようになり、
対応全体にスムーズな流れと一体感が生まれました。
AIと人が自然に協働する、ナレッジ循環型コールセンターの実践事例を紹介します。

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混乱の現場から、変革の第一歩へ

午後のピークを迎えたコールセンターのフロアでは、保留音が鳴り続けていました。
モニター上では「待ち呼」件数が次々と増え、オペレーターたちはFAQ画面とメモを行き来しながら、「少々お待ちください」を繰り返しています。
顧客対応の裏では、膨大な情報を検索し、内容を確認し、表現を整える時間が費やされていました。
私たちがC社のコールセンター改革を支援したのは、まさにこのような現場からでした。

C社が直面していた課題

C社は、地域に根ざした金融サービス企業です。保険商品や融資相談を中心に、法人・個人の幅広い顧客を対象に業務を展開してきました。
近年はデジタルチャネルの拡大に伴い、問い合わせ内容が多様化し、対応件数も増加傾向にありました。とくに保険約款の確認や融資条件の説明、法令改正に関する相談など、専門知識を要する問い合わせが多く寄せられていました。

平均応対時間は5分を超えることも珍しくなく、繁忙期には顧客の待ち時間が長くなり、通話離脱が発生していました。
オペレーターは、求める情報を複数の資料やFAQ画面、過去事例から探し出す必要があり、そのたびに対応が中断されてしまいます。
FAQ自体には情報があるものの、キーワードのゆれや掲載場所の違いにより検索ヒット率は低く、“探せないナレッジ”が現場の最大の課題となっていました。

属人化とナレッジ分断という構造的問題

C社には、長年の経験で培われた豊富な情報資産が社内に蓄積されていました。
しかし、その多くは部門ごとに管理されており、横断的に活用する仕組みは整っていませんでした。
熟練オペレーターは勘と経験によって迅速かつ正確に対応できましたが、新人や異動者は参照すべき情報にたどり着けず、対応時間が延びる傾向にありました。
結果として、ベテランへの依存が強まり、属人化が進んでいたのです。

応対の流れを整理したところ、次のような課題が明確になりました。

  • 即答が難しい:FAQだけでは質問の背景を十分に把握できず、的確な回答を導きにくい。
  • 検索効率の低下:語句の表記ゆれなどにより、目的の情報にたどり着けない。
  • ベテラン依存の固定化:経験者の知見が形式化されず、ノウハウが共有されにくい。
  • 確認作業の負担:回答表現の妥当性チェックや法令準拠の確認に時間を要する。

これらの問題は、オペレーターの心理的負担を増すだけでなく、顧客満足度を下げ、生産性の低下を招いていました。

現場の声が示した本質的な課題

C社は「現場の知恵をチーム全体で共有できる仕組みをつくりたい」と考え、私たちに改革支援の依頼をいただきました。
プロジェクト初期には、オペレーター、スーパーバイザー、コンプライアンス担当者、システム管理者など、各部門へのヒアリングを行いました。
さらに、個別インタビューやグループディスカッションを通じて現場の課題を深掘りした結果、表面化しにくい構造的な問題が明らかになりました。

  • 「FAQを検索しながらだと、説明に集中できません」(オペレーター)
  • 「新人が保留時間を稼ぐ間、結局ベテランが対応を引き取っています」(スーパーバイザー)
  • 「応対ログの確認やリスク表現の精査に時間がかかります」(コンプライアンス担当者)

こうした声をもとに、C社が抱えていた本質的な課題を次の三点に整理しました。

  1. 応対中に発生する検索遅延と属人化
  2. 専門的・複雑な問い合わせへの即時かつ正確な対応不足
  3. 応対内容に関するリアルタイム分析と改善サイクルの未整備

これらは単なる業務効率の問題ではなく、顧客との信頼構築やブランド評価にも影響を及ぼす重要な課題でした。

解決の方向性:会話理解とナレッジ循環

課題の克服に向け、私たちは人の判断を支援しながら知識を循環させる仕組みの構築を提案しました。
C社には、長年にわたって蓄積された大量の応対ログとマニュアルがあり、それらを活用することで、現場から自然にナレッジが循環する基盤を作り出せると考えました。
改革の中心となったのは、会話理解技術とFAQ自動サジェストを組み合わせたアプローチです。

この仕組みでは、デコールCC.CRMを基盤に、通話内容をリアルタイムで音声認識してテキスト化します。
AIが会話の文脈を解析し、関連するFAQを即座に提示。オペレーターは複数の画面を切り替えることなく回答候補を確認でき、応答を中断せずに案内を続けられるようになりました。
さらに、通話ログやFAQの利用履歴を学習し、新しい質問パターンを自動的に検出・登録する機能も備えています。
これにより、運用を重ねるほど精度が高まる“学習型ナレッジ基盤”の構築を実現しました。

C社が踏み出した最初の一歩

提案会では、CTI連携と独自音声認識エンジンを中核に据えた新アーキテクチャを提示し、導入によって期待される短期・中期のKPI改善効果を明確に示しました。
KPIは次の四項目として設定されました。

  • 応対時間の短縮
  • FAQ検索時間の削減
  • 初回解決率の向上
  • 顧客満足度スコアの改善

C社の関係者からは「現場の実運用を十分に想定した設計だ」と高く評価され、正式にプロジェクトが始動しました。
これを契機に、混乱していた現場は着実に変革へと向かい始めました。
この取り組みはやがて、人とAIが協働するコールセンターという新しい運営モデルの確立へとつながりました。

FAQの構築とシステムの稼働

提案が正式に承認されると、C社のコールセンターは次の段階へと進みました。
それは、構想を具体的な実装に落とし込み、現場の中で確実に機能させるフェーズです。
私たちはC社と協働で会話理解型FAQシステムを中核とする実行プロジェクトを立ち上げ、改革を現場の成果へと結びつける体制を整えました。

改革の中核をなす4つの技術要素

今回のシステム改革は、FAQの再構築にとどまるものではありません。
AIと音声認識を活用し、顧客対応プロセス全体をデータに基づいて最適化することを目的として実施されました。
その中核を成す技術は、次の四つの要素にまとめられています。

  1. CTI・音声認識基盤:通話内容を即時にテキスト化し、AIが会話の前後関係を解析しました。
  2. FAQサジェスト機能:会話の文脈に基づき、AIが最適な回答候補をリアルタイムで提示しました。
  3. テキスト要約機能:長い応対記録から要点を自動抽出し、記録作業の効率化を支援しました。
  4. 分析ダッシュボード:個々の応対データを集約・可視化し、マネジメント層が業務改善を迅速に判断できる仕組みを提供しました。

C社の業務では「正確性」「迅速性」「コンプライアンス遵守」の3点が特に重視されており、要件定義ではこれらを最優先事項として設計を進めました。
特に次の仕様は、金融業務固有の重要要件として設定されています。

  • 通話開始から1秒以内に顧客情報を画面へ表示する仕様としました。
  • FAQサジェストは上位3件+代替案1件を提示し、情報過多を防ぐようにしました。
  • すべてのやり取りを高い精度で暗号化し、金融庁ガイドラインに準拠したアクセス制御を適用しました。

これらの要件設計により、「速度・精度・安全性」を同時に満たす実運用基盤の方針が明確になりました。

ナレッジの体系化:現場の知恵を構造化する

システム構築の初期段階では、FAQの再設計を実施しました。
長年の運用で蓄積されていたマニュアルと応対ログをもとに、業務パターン別のFAQ体系を再編しました。
この作業の目的は、情報を単に整理することではなく、現場で暗黙的に共有されてきた知識を「体系知」として再構築することにありました。

C社では10名のオペレーターが参加したワークショップを開催しました。
「火災保険の免責説明」や「住宅ローンの金利切り替え」など、実際の問い合わせ例を付箋で整理し、頻度・リスク・対応フローといった観点から分類を行いました。
「この聞き方では誤解を招きやすい」「この順番で説明すると理解を得やすい」といった、現場ならではの知見が次々に共有されていきました。
その結果、抽出されたFAQは約500件に上り、全員でレビューを重ねて重複や表現の差異を整理。
最終的に、実運用に適した品質水準へと磨き上げられました。

このプロセスを経て、ナレッジデータは単なる文書群ではなく、現場文化を映し出す仕組みとして機能し始めました。

システム開発:段階的アプローチで現場と並走

開発は次の4段階で進めました。

  1. 要件定義・UI設計
  2. 音声認識とFAQサジェスト機能の実装
  3. 分析ダッシュボードの構築
  4. セキュリティ・統合テスト

C社では同時に、実業務担当者がテスト環境でシステムを操作し、画面構成や操作性について即時にフィードバックできる方式を採用しました。
この取り組みにより、開発チームと現場担当者がリアルタイムで改善を重ねる現場密着型のアジャイル開発体制が確立しました。

最大の課題は、会話ログを活用したFAQの自動生成フローの構築でした。
応対終了後、システムは次の手順で自動的にナレッジを更新しました。

  1. 通話ログを解析して、キーワードと応答パターンを抽出しました。
  2. 抽出結果をもとにFAQ候補を生成し、分類タグと関連マニュアルを自動で紐づけました。
  3. 管理者がワンクリックで承認すると、FAQデータベースに即時反映されました。

この仕組みにより、FAQは利用のたびに精度が高まる自己更新型ナレッジベースへと発展しました。
従来のように月単位で手動メンテナンスを行う必要はなく、日々の応対を通じて知識が継続的に蓄積・改善される運用基盤が確立しました。

実証実験で磨かれた精度と使いやすさ

システム完成後、C社では5名のオペレーターによる2週間の集中的な実証テストを実施しました。
実際の顧客通話データを用いて、音声認識の精度、FAQ提示の適合率、要約機能の正確性などを定量的に検証しました。

オペレーターからは「FAQが自動で表示されるので、質問を聞きながら即座に回答できます。」 「新人でも迷わず対応できるようになりました。」 といった声が寄せられました。

その一方で、改善が必要な課題も明らかになりました。
融資相談に関する専門用語の認識精度や、長い会話での要点抽出処理に改善の余地があることが確認されたのです。
この結果を受け、AIモデルをBERTベースで金融ドメイン向けに再学習させ、最適化を図りました。

再学習後のテストでは、FAQサジェストの正答率が約15%向上し、実運用に十分な精度を達成しました。

本番稼働に向けた最終フェーズ

本格稼働前に、全40席の運用環境で最終セキュリティ監査を実施しました。
C社の情報セキュリティ担当と外部監査機関が共同で検証し、暗号化、アクセス制御、操作ログの完全性を確認しました。
そのうえで、オペレーター全員を対象にハンズオン研修を行い、実際の応対シナリオを用いた操作訓練を実施しました。
短期間ながら、現場は新しい仕組みを着実に受け入れました。

C社の担当者は次のように振り返りました。
「開発段階から現場が参加できたことで導入への抵抗感が少なく、効果を実感しています。」

これにより、C社のコールセンターは業務効率化に向けて着実に改善を進めました。
本プロジェクトで導入された仕組みは、単なるツール導入にとどまらず、ナレッジを中核に据えた新しい業務文化を定着させる基盤となりました。

変貌するコールセンター

システム導入から数か月後、C社のコールセンターでは運用状況の改善が確認されました。
導入当初の目的は「検索時間の短縮」と「回答精度の均質化」でしたが、実際にはそれ以上の効果が得られました。
オペレーターの意識とコミュニケーションの在り方が、着実に変わっていきました。

運用初期に見えた手応え

システム切り替え初週のフロアでは、運用状況が従来と大きく変化していました。
保留音の発生回数が大幅に減少し、モニター上の「待ち呼」件数も日ごとに減少しました。
オペレーター全員がFAQ画面を同時に参照できるようになり、回答を探す時間がほとんど不要になりました。

あるオペレーターの業務の流れは、次のように変化しました。

9:00 保険約款の確認問い合わせ
以前は該当条項を探すのに数分を要していましたが、AIが「火災保険の免責事項」を即座に提示し、確認作業の負担を大幅に軽減しました。

10:30 中小企業の融資相談
「固定金利と変動金利の違いを知りたい」という質問に対し、システムは比較表を提示。オペレーターはFAQを参照しながら短時間で説明を完了しました。

14:00 午後のピークタイム
従来30件を超えていた時間帯でも最大8件まで減少し、保留ゼロの時間帯も発生しました。

オペレーターの役割は「情報を探す」から「顧客理解を深める」へと移りました。

定量データで見る成果

運用開始から3か月後、C社は効果を定量評価しました。
導入前後で主要KPIを比較した結果、次のような成果が得られました。

改善実績

  • 平均応対時間:25%短縮(5分 → 3分45秒)
  • FAQ検索回数:80%削減
  • 初回解決率:68% → 89%
  • FAQ自動生成:月50件(累計150件)
  • 顧客満足度スコア:82点 → 95点

C社にとって特筆すべきは、現場のナレッジが自走するサイクルが実現した点です。
FAQサジェストにより応対精度が均一化し、蓄積ログが次の改善につなげる循環が形成されました。
FAQ利用履歴の定期分析により、問い合わせ傾向や制度改正対応の優先度も早期に把握できるようになりました。

C社のプロジェクトマネージャーは次のように語りました。
「当初はAIの効果に疑問を持つ声もありましたが、今ではFAQの自動表示が当たり前になりました。 オペレーター全員が同じ基盤の上で応対できる安心感があります。」

現場の声と心理的変化

導入効果は定量データだけでは測れません。現場のオペレーターや管理者から寄せられた声には、心理的な変化も明確に確認されました。

  • 「FAQが自動表示されるため、会話に集中できます。検索に費やす時間がほぼ不要になりました。」(一般オペレーター)
  • 「保留ゼロの日が実現しました。チーム全体の対応力が均一化してきました。」(スーパーバイザー)

オペレーターの検索負担が軽減されたことで、顧客の理解や納得に焦点を当てた応対が可能になりました。
スーパーバイザーは品質監視から指導やチーム運営に注力できるようになり、C社全体の生産性とサービス品質がともに向上しました。

成功の鍵となった3つの要素と今後の展望

C社のコールセンター改革の成功要因は、次の3点に集約されます。

  1. FAQデータ駆動型運用の確立
    現場の知見を体系化し、システムが自動的に更新・最適化する仕組みを構築しました。
  2. PDCAを回すログ活用設計
    応対ログを分析するダッシュボードを導入し、業務負荷・教育効果・KPIを継続的に可視化しました。
  3. 段階的な導入プロセス
    実証実験から部分展開、全面稼働へと段階的に進め、現場の理解と定着を両立させました。

これらの取り組みにより、C社ではAIが知識を支え人が判断する運用文化が定着しました。
金融業務のリスク管理にも配慮し、コンプライアンス部門と監査チームが定期検証を実施。
誤案内率は導入前の半分以下に低下し、FAQ改訂履歴の自動管理・照合も実現しました。
AIが知識を整理し人が最終判断を行う協働体制が確立されました。

C社は得られた知見をもとに、ナレッジ活用の範囲を拡大しています。
融資審査、店舗業務、チャットボット対応など、顧客接点全体を横断する一貫したナレッジ基盤の構築を進めています。
現場で生まれた知識を全社で共有し、継続的な改善につなげるサイクルを全社レベルで定着させることを目指しています。

C社のコールセンター改革は、単なるシステム導入ではなく、テクノロジーと現場知を融合させた変革でした。
FAQサジェストが現場の会話を支え続け、顧客との関係の質を日々向上させています。
かつて保留音が絶え間なく響いていたフロアは、今や落ち着いた応対の場となりました。

デコールCC.CRMが支えた現場改革

今回のプロジェクトでは、デコールCC.CRMCTI連携・音声認識・FAQ自動サジェスト・ダッシュボード分析の4機能が最大限に活用されました。
これらの機能が相互に連携することで、C社のコールセンターは会話をデータ化し即座に知識として活用する体制へと変わりました。

CTI連携では、通話開始と同時に顧客情報を自動表示し、応対前の確認作業を大幅に短縮しました。
音声認識が会話をリアルタイムでテキスト化し、AIが文脈を解析。FAQ自動サジェスト機能が内容に応じた最適な回答候補を提示することで、オペレーターの検索負担を劇的に軽減しました。
これにより、顧客とのやり取りの流れが途切れることなく、スピーディーで一貫性のある説明が可能になりました。

応対後に残るログデータは自動解析され、新たなFAQ候補や改善点が抽出されました。
現場担当者が簡単に承認・登録できる仕組みにより、FAQは運用するほど精度が向上するナレッジベースとして機能しました。
属人化していた知識が共有され、システムが業務経験を学習するサイクルが定着しました。

ダッシュボード分析機能により、応対時間・検索回数・FAQ利用率などのデータがリアルタイムに可視化されました。
マネジメント層はこれらの指標をもとに業務負荷の偏りや教育効果を把握し、迅速な改善策を講じることができました。
結果として、現場の運営判断と経営判断が同じデータ基盤で結びつく運用文化が形成されました。

セキュリティ面でも、金融業務基準に準拠した高水準の暗号化処理とアクセス制御が導入され、法令遵守と顧客情報保護を両立しました。
こうした堅牢性が、金融現場でのAI活用を可能にしました。

C社では現在、この仕組みを他拠点やデジタルチャネルへ展開する計画を進めています。
通話だけでなく、チャット・メール・店舗業務を含む全チャネル一貫の顧客対応基盤の構築を進めています。

デコールCC.CRMは、ナレッジ活用を中核とした新しい顧客対応の形を実現し、C社の現場変革を継続的に支えました。
このプロジェクトは、AIと人が協働する「知識循環型コールセンター」の実現に向けた重要な一歩です。

この記事を書いた人

ビジネス・テクノロジスト 貝田龍太