繁忙期でも品質を落とさない!コールセンターBPM改善の記録

コールセンターの現場では、日々多くの問い合わせに対応していますが、特に繁忙期には「電話がつながらない」「対応が後手に回る」といった課題が噴出します。本記事では、地域密着型の共済団体であるE社が直面していた業務の属人化と、受付後のフロー分断という深刻な課題を、ギグワークスクロスアイティがいかにして解決したかを詳しく紹介します。

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なぜ保留と差し戻しが減らないのか

地域密着型の共済団体であるE社では、組合員からの契約変更や給付金の請求、支払状況の確認といった多岐にわたる問い合わせが毎日寄せられています。地域に根ざしたサービスを提供しているからこそ、一件一件の応対に丁寧さが求められますが、その一方で業務の複雑化が進んでいました。

組織間の情報の断絶

E社では、電話を受けるコールセンター、書類を審査する事務部門、そして最終的な支払や契約管理を行う基幹システムが、物理的にもシステム的にも分断されていました。オペレーターは電話で要件を聞き取った後、紙のメモや個別の管理ファイルに内容を記録し、それを事務部門へ回します。事務部門ではその内容をもとに基幹システムと照合しますが、この過程で多くの情報の目詰まりが発生していました。

特に問題だったのは、問い合わせの内容が多岐にわたり、それぞれの処理ルートが複雑に絡み合っていた点です。ベテランのオペレーターであれば「このケースは、あの書類とこの確認が必要だ」と即座に判断できます。しかし、経験の浅い担当者はそうはいきません。確認のために電話を保留にする時間が延び、結果として一次解決率の低下を招いていました。現場からは「この内容は事務に聞かないと判断できない」「確認項目が人によって違うので、結局やり直しになる」といった悲鳴に近い声が上がっていました。

あいまいな分類基準

第一の課題として、問い合わせの分類そのものが担当者の経験則に委ねられていた点が挙げられます。同じような「住所変更に伴う給付金の手続き」であっても、担当者Aは「緊急性の高い案件」として処理し、担当者Bは「通常案件」として処理するといったバラつきが生じていました。

判断基準が標準化されていないため、後工程の事務部門では、届いた案件の優先順位を付け直す作業から始めなければなりません。もし緊急性の判断が誤っていた場合には、組合員への対応が遅れ、さらなる督促の電話を招くという悪循環に陥ります。現場のリーダーは「このケース、前にもあったはずだけど、誰が詳しいんだっけ」と常に周囲に確認して回る必要があり、管理者の工数も圧迫されていました。

「保留」が増加する仕組み

第二の課題は、本人確認が完了した後のフローが明確に定義されていなかったことです。オペレーターは本人確認まではスムーズに行えますが、その先の「どの範囲までをその場で回答し、どこからを専門部署への照会に回すか」という線引きが曖昧でした。

新任のオペレーターは、少しでも判断に迷うと「少々お待ちください」と保留にし、周囲のベテランに相談します。これにより、一回の電話にかかる時間が大幅に延び、他の組合員が電話をかけてもつながらない「あふれ呼」が発生していました。「折り返しが増えるほど、次の着信にも追われてしまう」という現場の言葉通り、未完了の案件が積み重なることで、オペレーターの心理的な負担も限界に達していました。

差し戻しの連鎖

第三の課題は、事務部門に回した後の「差し戻し」の多さです。電話応対が終わり、オペレーターが作成した報告書が事務部門に届いても、そこに必要な情報が欠けていることが頻繁にありました。例えば、特定の特約に関する確認漏れや、添付書類の不足などが後から発覚します。

事務部門から「書類は受けたのに、後から必要項目が足りないと言われる」という不満が出る一方で、コールセンター側も「何が必要か、その都度指示が欲しい」と感じていました。このコミュニケーションの齟齬が、再確認の電話や書類の再送といった無駄な工程を生んでいました。情報の流れが分断されているため、一度の電話で完結できるはずの業務が、何度も往復する非効率な状態になっていたのです。

システムの分断がもたらす二重入力

最後に、受付内容と基幹システムが連携していないというシステム的な制約がありました。オペレーターが応対履歴を入力しても、事務部門ではそれを基幹システムへ再度入力し直さなければなりません。この二重入力は手間の増加だけでなく、入力ミスの温床にもなっていました。

対応履歴と処理結果が紐付いていないため、次に同じ組合員から電話があった際、前回の処理がどこまで進んでいるのかを即座に回答することができません。管理職の視点からも「品質を上げたいが、現場に負荷をかける運用強化では限界がある」という認識が広がっていました。人を増やすだけでは、この構造的な問題を解決できないことは明白です。人を増やす前に、判断基準と情報の流れを標準化する必要があったのです。

全部を作り替えない:アジャイル型BPM改善の道

E社の抱える課題に対し、私たちが提案したのは、既存のシステムをすべて捨てて新しい巨大なシステムを構築することではありません。現場の混乱を最小限に抑えつつ、着実に効果を出していく「アジャイル型」のBPM(業務プロセス管理)改善です。

既存資産を活かす

私たちが最初に着手したのは、基幹システムには手を付けず、その手前にある「受付から事務照会、処理依頼」までのプロセスを整えることでした。すべてを一気に入れ替えるのではなく、まずは特定の業務領域に絞ってスモールスタートを切る方針を固めました。

BPMとは、業務の流れを可視化し、継続的に改善していく手法を指します。私たちは、E社のコールセンターにおける複雑なフローを「トリアージ(分類)」「標準フロー」「ステータス管理」の3つの軸で再設計しました。これにより、誰が対応しても同じ品質の初動が取れる基盤を整えることを目指しました。

kintoneによる業務基盤構築

この業務基盤として私たちが選定したのは、ノーコード・ローコードツールであるkintoneです。kintoneは、プログラミングの深い知識がなくても、業務に合わせて画面や項目を素早く変更できる柔軟性を持っています。現場の要望を聞きながら、その場で入力画面を修正し、すぐに試してもらうというサイクルを回しました。

「項目や画面を業務に合わせて素早く調整できる」というkintoneの特性は、変化の激しいコールセンター業務に最適でした。オペレーター、スーパーバイザー(SV)、事務部門の全員が同じ画面を見ながら、一つの案件が今どのような状態にあるのかを共有できる環境を構築しました。これにより、「あの案件はどうなった?」という社内の確認連絡を劇的に減らすことができました。

「ミスを防ぐ」仕組みを作る

新しいシステムを導入すると「入力の手間が増えるのではないか」という懸念が現場から出ることがあります。そこで私たちが重視したのは、入力を強いる仕組みではなく、入力をサポートする仕組みです。

問い合わせの種別を選択すると、その案件で確認すべき項目が動的に表示される「入力ガイド」を実装しました。これにより、経験の浅いオペレーターでも、画面に従ってヒアリングを進めるだけで、事務部門が必要とする情報を過不足なく収集できるようになります。「電話中にあと何が必要かが見えるので、聞き漏らしが減った」という声が現場から上がったのは、このガイド機能の効果でした。確認漏れを電話中に防ぐことで、後工程での差し戻しを未然に防止する仕組みを作ったのです。

AI-OCRとLLMによる高度な自動チェック

さらに、私たちはAI技術を組み合わせてプロセスの精度を高めました。まず、組合員から送られてくる申請書や証明書のデータ化にAI-OCR(光学文字認識)を活用しました。これにより、手書きの書類をいちいち手で入力する手間を省き、転記ミスを削減しました。

さらに重要なのが、LLM(大規模モデル)の活用方法です。私たちはLLMを単なる「文章作成」に使うのではなく、入力された内容の矛盾チェックや不足項目の検知に利用しました。例えば「給付金の請求内容と、添付された診断書の日付に矛盾がないか」といった、人間が目を皿のようにして確認していた作業をAIがサポートします。事務部門へ渡った後に書類の不備で戻ってくる件数が目に見えて減少しました。

API連携による二重入力の解消

kintoneで整理されたデータは、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を通じて既存の基幹システムへと連携させました。APIとは、異なるシステム同士をつなぐための窓口のようなものです。

これにより、受付時に入力した情報がそのまま基幹システムの処理に反映されるようになり、懸案だった二重入力が解消されました。受付情報と処理結果が一気通貫でつながることで、組合員からの進捗確認に対しても、オペレーターは即座に正確な回答ができるようになりました。「全部入れ替えないからこそ早く始められた」というスピード感は、既存資産を活かしつつ、必要な部分だけを最新の技術で補強した結果です。

成功の鍵は「例外処理の定義」

このプロジェクトがスムーズに進んだ最大の要因は、実は技術的な側面よりも、事前の「すり合わせ」にあります。私たちは、業務の「正常な流れ」だけでなく、イレギュラーな例外処理をどう扱うかを現場の担当者と徹底的に議論しました

「書類に不備があった場合、誰がどのタイミングで組合員に連絡するか」「判断に迷うグレーゾーンの案件は、どの基準でエスカレーションするか」といったルールを、事前にkintone上のフローとして組み込みました。どのケースを誰が判断し、何をもって次工程へ渡すかを明確にしたことで、システム導入後の混乱を最小限に抑えられました。精度の高いAIを入れたからではなく、流れと例外を先に設計したからこそ、新しい仕組みが現場に定着したのです。

E社の変化と次のステップ

ギグワークスクロスアイティが支援した今回のBPM改善プロジェクトは、導入から数ヶ月で明確な数字となって現れました。ここでは、改善の成果を具体的な指標(KPI)とともに振り返ります。なお、以下の数値はモデルケースとしての概数ですが、現場で起きた変化を如実に表しています。

改善指標と運用の変化

今回の取り組みにより、当初掲げていた目標の多くを達成、あるいは上回る結果となりました。主な指標の変化は以下の通りです。

  • 平均処理時間(AHT): 改善前 約8分30秒 → 改善後 約6分50秒(目標:7分未満)
  • 後処理時間: 改善前 約4分 → 改善後 約2分30秒(目標:3分未満)
  • 差し戻し率: 改善前 約18% → 改善後 約7%(目標:10%未満)
  • 一次解決率: 改善前 約62% → 改善後 約78%(目標:75%以上)

また、以前は多発していた二重入力についても、対象業務の大半において解消されました。これらの数字は、単にオペレーターが作業を急いだ結果ではありません。AHTの短縮は、入力ガイドによって初動判断と必要事項の確認がスムーズになったことで、迷う時間が減った結果です。後処理時間の短縮は、案件ステータス管理と入力画面が最適化されたことで、報告書の作成が大幅に簡略化された恩恵です。

負担軽減と品質向上の両立

数値以上に大きな変化は、現場で働く人々のストレス軽減にありました。「その場で説明できる範囲が増え、折り返し前提の会話が減った」というオペレーターの声は、組合員をお待たせしないという本来のサービス品質向上につながっています。

事務部門においても、情報の精度が上がったことで「必要情報がそろった案件」として業務を受け取れるようになりました。これにより、差し戻しに伴う感情的な対立も解消され、組織全体の風通しが良くなったという副次的な効果も報告されています。また、標準化されたフローがシステム上に実装されているため、繁忙期の新任者であっても、短期間の研修で即戦力として流れに乗れるようになりました。

生きた運用基盤を作る

私たちがE社に提供したのは、単なるシステムのパッケージではありません。コールセンターと事務部門の間にあった「業務の断絶」を埋めるための、生きた運用基盤です。

既存の重厚な基幹システムを刷新しようとすれば、膨大なコストと数年の月日が必要になります。しかし、私たちが提案した「既存システムを活かしながら周辺のフローを整える」手法であれば、数ヶ月という短期間で現場の課題に直接アプローチできます。業務フローの見える化と段階的な改善を、現場と一緒に歩みながら実現したことが、今回の成功の鍵でした。

次の拡張に向けて

今回のBPM改善はゴールではなく、さらなる進化に向けた土台となります。E社では現在、以下のような拡張ステップを検討しています。

まず第一に検討しているのが、音声認識技術を活用した通話要約の自動登録です。現在は手動で行っている応対履歴の入力を、音声データから自動生成することで、後処理時間をさらに短縮することを目指しています。さらに、蓄積された対応データを活用したナレッジ連携も進めていく予定です。過去の類似事例や判断根拠をAIがサジェストすることで、難易度の高い問い合わせへの対応力も底上げしていきます。

これらの高度なAI活用が可能になるのは、今回のプロジェクトで「案件の状態」や「必要な情報の定義」が正しく整理されたからです。データの形式がバラバラなままでは、どんなに優れたAIを導入しても効果は限定的です。先に流れを整えたことで、AI活用が単なる便利機能ではなく、運用品質を継続的に高めるための強力な武器になったのです。

BPM改善の鍵は「スモールスタート」

E社の改善において最も重要だったのは、単に問い合わせ対応を速くすることではありませんでした。受付から処理完了までの流れを標準化し、個人の経験や勘に頼る「属人化」を徹底的に排除したことです。

今回の成功要因は、大きく分けて3つのポイントに集約されます。一つ目は、システム導入の前に、問い合わせの分類や標準フロー、そして案件のステータス管理という「業務の骨組み」を定義したこと。二つ目は、AI-OCRやLLMといった技術を単なる自動化のためではなく、ミスや差し戻しを防ぐための「ガードレール」として活用したこと。そして三つ目は、既存のシステムを否定せず、API連携によって二重入力をなくし、新旧のシステムを共存させたことです。

私たちは、お客様の現場に深く入り込み、現状の課題を一つずつ解きほぐしていくことで、こうした変革を実現しました。BPM改善は一度で完成させるものではなく、運用の変化に合わせて段階的に育てていくものです。たとえ小規模なスタートであっても、事前のすり合わせ、特に例外処理の定義を丁寧に行うことで、確実な成果を出せます。

もしあなたの組織でも「特定のベテランがいないと業務が回らない」「部署間での情報の差し戻しが絶えない」といった課題を抱えているのであれば、まず「どこで流れが止まっているか」「誰の判断に依存しているか」を洗い出すことから始めてみてはいかがでしょうか。私たちは、その一歩からお客様と共に歩むパートナーでありたいと考えています。

この記事を書いた人

ビジネス・テクノロジスト 貝田龍太