
生成AIで作られた広告は、一見すると写真のように精細です。それでも、人物の表情や商品の形、背景の小物などを見ているうちに、説明しにくい違和感が残ります。原因は手指や文字の崩れだけではありません。画面に多くの情報が詰め込まれていても、何を伝えたいのか分からない広告があります。さらに、実物との違いや既存作品との類似を十分に確認しないまま公開される場合もあります。見た目だけは整っていても、広告としての設計が不十分なため、見る側は「何かがおかしい」と感じます。
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リアルなのに不自然な「AI広告」
静止画のAI広告では、生成画像の細かな誤りが話題になりがちです。しかし、目立つ誤りを修正しても、違和感が消えるとは限りません。人物、商品、背景がそれぞれ自然に描かれていても、互いにかみ合っていなければ、画面全体は不自然に見えます。
全体に一貫性がない
人物を使った広告では、目、口元、顔の向き、姿勢、手の動きから、その人が何を見て、どう感じているのかを読み取ります。生成AIは、笑顔、商品を見る視線、手に取る動作を個別には描けます。しかし、視線が商品からわずかに外れていたり、口元は笑っていても目が無表情だったり、手を添えていても商品を持っているように見えなかったりすると、人物が何をしているのか分からなくなります。
商品にも同じ問題が起こります。容器の正面と側面で輪郭がつながらない、光の方向と影の向きが合わない、鏡や窓に映った像が元の物体と一致しないといった矛盾です。ひとつずつ見れば小さな誤りでも、重なるとひとつの場面として成立しません。旅行広告であれば、人物の服装と季節、空の色と影の長さ、土地の雰囲気と建物の様式がかみ合わず、実在しそうでどこにもない場所に見える場合があります。
人が写真やイラストを作る場合は、画面に置く要素同士の関係を考えます。人物が商品を見るなら、顔と視線の向きを合わせます。冷たい飲料を見せるなら、容器の水滴だけでなく、人物の手の動きや周囲の様子も含めて画面全体を整えます。広告で表現したい状況を先に決め、その状況に必要な要素を配置するためです。
生成AIは、広告主の意図に沿って、人物、商品、背景の関係まで確認しているわけではありません。指示された言葉から、それらしく見える要素を組み合わせます。個々の要素は自然でも、ひとつの場面として見ると矛盾が表れます。
写実的なほど小さな違和感が目立つ
イラストでは、線や色を簡略化しても表現として受け入れられます。顔を数本の線で描き、背景を単色にしても、見る側は省略された部分を想像で補えます。最初から現実をそのまま再現する表現ではないと分かっているからです。
写真に近い画像では、受け止め方が変わります。肌の質感、髪の毛、衣服の繊維、商品表面の反射まで精密に描かれていれば、見る側はほかの部分も現実どおりに描かれていると期待します。そこで瞳の焦点、歯の並び、指の曲がり方、文字の形などが少しでも崩れると、その部分だけが強く浮かび上がります。
生成画像の品質が上がれば、目立つ破綻は減ります。しかし、写実性が高まるほど、表情と視線、身体の動き、物体同士の接触が自然につながっているかまで問われます。単純な描き間違いが減っても、写真のように見せるには、より多くの要素を正確にそろえなければなりません。リアルさを高めれば違和感も自動的に消えるわけではありません。
広告は、商品への信頼を高めるために画像を使います。見る側が画像そのものに不安を感じれば、商品や企業への印象にも影響します。画面の隅に小さな崩れがあるだけでも、見る側は広告全体が十分に確認されていないと感じるからです。
商品を正確に描いていても、周囲の人物や背景が不自然なら、その商品まで架空に見えます。見る側は広告を1枚の画面として捉えるため、主役だけを整えても十分ではありません。
情報が多いのに内容が乏しい
AI広告では、背景、小物、光、質感、装飾などが過剰に描かれ、主役が分からなくなる場合があります。
生成AIに「都会のカフェで新商品を楽しむ若者」と指示すれば、人物と商品だけでなく、テーブル、椅子、窓、街路、照明、観葉植物、食器、衣服の模様まで補います。画面は華やかになりますが、商品と無関係な要素も増えます。見る側の視線が各所へ分散し、商品名や商品の特徴に目が向きにくくなります。
広告の複雑さを扱った研究では、色や明暗、輪郭などの細部が入り組んだ「視覚的な複雑さ」と、物体や形を意図的に組み合わせた「デザイン上の複雑さ」を区別しています。249点の広告を視線計測で調べた結果、細部が密集すると、ブランドへの注目が減り、広告の評価も下がりました。一方、物体や形を意図的に組み合わせた広告は、画像や広告全体への注目を集め、理解と評価も高めました。
情報の多さ自体が悪いわけではありません。複数の商品を比較する広告や、利用場面を詳しく見せる広告には多くの要素が必要です。ただし、それぞれの要素に役割を持たせ、見る側の視線を主役、補足情報、商品名、行動を促す文言の順に導く必要があります。
AIが加えた細部によって画面が豪華に見えても、商品の魅力が伝わりやすくなるとは限りません。高精細な画像を作る能力と、必要な情報だけを選ぶ能力は別です。何を残し、何を削るかという判断が欠けているため、AI広告には違和感が生じます。

見た目だけ高品質な「手抜き広告」

広告の品質は、画像の美しさだけでは決まりません。誰に何を伝え、見た人にどう行動してもらうのかを決めたうえで、画像、文字、色、構図を選ぶ必要があります。AI広告では、画像を作る前の設計が不足しがちです。
広告には設計がある
広告制作では、最初に対象となる顧客を決めます。同じ化粧品でも、初めて使う人に商品を知ってもらう広告と、既存の利用者に新商品を勧める広告では、伝える内容が異なります。食品であれば、味、量、価格、手軽さ、健康への配慮など、どの特徴を前面に出すのかを選ばなければなりません。
伝える内容が決まれば、画像の役割も決まります。商品の形を正確に見せるのか、商品を使ったときの気分を伝えるのか、利用場面を想像してもらうのかを決めます。人物を描く場合は、年齢や服装だけでなく、商品を手に持たせるのか、実際に使わせるのかまで決めます。背景や小物は、主役を引き立てるために選びます。
イラスト広告では、顧客に伝えるために必要な情報を過不足なく盛り込みます。必要な情報が欠けていれば、商品の魅力は伝わりません。反対に、不要な情報を増やせば、主役が埋もれます。余白には、商品を見やすく、文字を読みやすくし、視線の流れを整える役割があります。
広告を構成する人物、色、商品の大きさには、それぞれ役割があります。各要素を選んだ理由が明確なら、画面が複雑でも伝えたい内容はぶれません。反対に、理由のない要素を足し続けると、見た目は豪華でも、何を伝えたいのか分かりにくくなります。
生成AIが必要な工程を省いてしまう
従来は、要件が曖昧なまま制作を始めても、デザイナーや撮影担当者から、誰に何を伝えるのか、どの商品をどう見せるのか、どの素材を使えるのかと尋ねられました。依頼者はそれに答えながら考えを整理し、足りない情報を補って要件を固めていきました。
生成AIは、広告の要件が固まっていなくても画像を作れます。「高級感のある食品広告」「未来的な化粧品広告」と入力すれば、数十秒で完成品のように見える画像を作れます。依頼者は複数の候補から、最も目を引く1枚を選べます。そのため、画像ができただけで広告の要件まで固まったように思い込みやすくなります。
しかし、「高級感」や「未来的」という言葉だけでは、広告の目的は決まりません。どの顧客層に、何を根拠に高級感を感じてもらうのか、商品のどの特徴によって価格に見合う価値を示すのか、なぜ未来的な印象が購入の決め手になるのかまで詰める必要があります。この作業を省くと、金色の装飾、強い光沢、無機質な背景など、高級感や未来らしさを示す分かりやすい要素を並べただけの画像になります。
画像の質を高めるためではなく、時短とコスト削減だけを目的に生成AIを使うと、広告の企画にかける時間まで削ってしまいがちです。企画を十分に検討せず、撮影や美術制作、生成後のレタッチや監修、実物との照合、既存作品との類似の確認まで省けば、短時間で作れても広告の品質は下がります。
AIを使えば、ラフ案の作成や構図の比較にかかる時間を短縮できます。そこで生まれた余裕を企画や確認に充てれば、制作全体の質を高められます。ところが、時間と費用をどれだけ削減したかだけで導入の成果を評価すると、必要な確認まで省いてしまいます。AIを時短とコスト削減にしか使わなければ、必要な工程まで省いた「手抜き広告」が増えやすくなります。
見た目と中身のギャップが気持ち悪さを生む
画像が簡素だったり、制作費を抑えていたりするだけで、「手抜き広告」になるわけではありません。対象顧客を決める、伝える内容を絞る、商品と画像を照合する、著作権を確認するといった工程を省いた広告が「手抜き広告」です。
生成AIを使わない広告でも、十分に検討されていないものはありました。ただし、以前は制作工程を省くと、写真やイラストが粗くなり、レイアウトが乱れ、説明も不足しやすいため、手間をかけていないと見る側にも分かりました。
生成AIを使うと、工程を省いても、肌の質感、光の反射、背景の奥行きまで作り込まれた画像が得られます。多額の費用と長い時間をかけて制作したように見えても、制作者が商品を深く理解し、広告の狙いを明確にしているとは限りません。見た目の品質だけが高く、広告の内容が伴わない状態になります。
見る側は、画像の細部から制作者が何を意図したのかを読み取ろうとします。人物の視線には意味があり、背景の小物からは商品の利用場面が伝わり、光の当て方からはどこを見せたいのかが分かると考えるためです。ところが、AIがそれらしく描き加えただけなら、一貫した意図は読み取れません。画面には多くの情報があるのに、それぞれの意味が分からないため、見続けるほど違和感が強まります。
「きれいなのに気持ち悪い」という感覚は、AIを使ったという事実ではなく、広告に必要な判断を省き、見た目だけを完成させたために生まれます。
AI生成物の使い方
AI広告の問題は、見た目の違和感だけではありません。商品と画像が一致しているか、既存作品の著作権を侵害していないか、企業が公開前に確認する必要があります。生成結果を十分に検証しないまま完成広告として使えば、実物との差や既存作品との類似を見落とすおそれがあります。
問題はAIの使用そのものではない
食品広告では、生成AIで作った画像が実際の商品と異なる場合があります。たとえば、実物より具材が多い、肉が厚い、焼き色が鮮やかに見えるといった違いです。野菜が実物より新鮮に見えたり、盛り付けの量が多くなったりする場合もあります。商品名や説明文が正しくても、画像によって実物よりも優れた商品だと思わせる可能性があります。
景品表示法は、商品やサービスの品質などについて、実際より著しく優良であると示し、消費者の自主的で合理的な選択を妨げるおそれのある表示を、優良誤認表示として禁止しています。食品広告が優良誤認表示に当たるかどうかは、特定の文言だけでなく、写真を含む表示全体が与える印象と実物との差に基づき、個別に判断されます。
すべての差が直ちに違法になるわけではありません。撮影時の照明や盛り付けによって、写真と実物の見え方は変わります。店頭の食品サンプルも実物ではありません。広告写真では、商品の特徴を伝えるために色や明るさを調整する場合もあります。実物ではない表現を使っただけで問題になるわけではありません。広告が与える印象と実物との差を確認せず、消費者の判断を誤らせるような表現のまま公開すれば問題になります。
生成AIは実物を撮影するのではなく、入力した情報を基に形や量、色、質感を描きます。そのため、広告主が実物と照合しなければ、どこが違うのか分かりません。生成時に商品写真を参照させても、細部が自動的に変わり、実物と一致しなくなる可能性があります。
意図的に偽った場合だけでなく、誤って表示した場合も、優良誤認表示に該当すれば規制の対象になります。「AIが勝手に変えた」「担当者が違いに気付かなかった」という事情は、確認を省いてよい理由にはなりません。広告主は公開前に、画像が商品の内容を正しく伝えているかを確認する必要があります。
生成画像の著作権リスク
生成画像を広告に使う際は、商品を正確に表しているかだけでなく、著作権も確認しなければなりません。文化庁の資料では、生成AIが学習データに含まれる既存作品と似た生成物を出す場合があり、利用者が元の作品を知らなくても、生成や利用が著作権侵害となる可能性が示されています。
AI生成物がすべて著作権を侵害するわけではありません。著作権侵害を判断する際は、既存作品との類似性に加え、その作品に依拠しているかどうかも問題になります。既存作品と似ていなければ、その作品について許諾を得る必要はありません。
ただし、完成広告を広く公開した後で既存作品との類似が見つかれば、影響は大きくなります。広告の差し替えだけでなく、掲載の停止や取引先への説明が必要になり、ブランドイメージを損なうおそれもあります。画像を短時間で作れたとしても、公開後の対応に時間と費用がかかれば、時短やコスト削減の効果は失われます。
業務で使う場合は、利用するサービスの規約、商用利用の条件、学習済みモデルに関する情報を確認しなければなりません。完成した画像についても、画像検索などで既存作品と似ていないかを調べます。特定の作品名や作家名を指定した場合は、入力した指示や参考画像の扱いも確認する必要があります。
さらに、法律上の侵害に当たらなくても、既存の広告や有名な作品に酷似していれば、企業の姿勢を疑われます。広告では、違法かどうかだけでなく、自社が責任を持って公開できる表現か、ブランドの信用を損なわないかまで考えなければなりません。
AI生成物の正しい使い方
実物との照合や著作権の確認が必要になるため、AI生成物をそのまま完成広告に使うのは避けた方が安全です。ただし、広告制作から生成AIを排除する必要はありません。AIは、依頼者が思い描くイメージを制作担当者へ伝える際に役立ちます。
依頼者が「明るく開放的な雰囲気」「落ち着いた高級感」「親しみやすい人物」と説明しても、同じ言葉から思い浮かべるイメージは、人によって異なります。生成AIで参考画像を作れば、色合い、構図、光の当て方、人物の位置、背景に入れる情報の量などを見ながら話し合えます。「この色は近いが、人物を小さくしたい」「背景は良いが、商品をもっと目立たせたい」と具体的に伝えられます。
構図案やムードボード、ラフの作成にも使えます。複数案を短時間で並べれば、依頼者と制作者が方向性を早く共有できます。選んだ要素を基に、デザイナーが広告を設計し、必要に応じて撮影や作画を行います。生成AIが出した画像を納品物にするのではなく、制作を始めるための材料として使います。
この使い方なら、ラフの作成にかかる時間を短縮し、その分、対象顧客や伝える内容を詰め、画像と実物が一致しているか、権利上の問題がないかを確認できます。AIを使えば依頼者と制作者の打ち合わせを進めやすくなりますが、公開する広告の責任は広告主が負います。
完成広告を公開する前に、商品と画像が一致しているか、広告の意図が顧客に伝わるか、法令や権利上の問題がないか、ブランドに悪影響を与えないかを確認する必要があります。AIは、依頼者が思い描く広告のイメージを制作者へ伝え、両者が方向性を共有するために使うのが適しています。
まとめ

絵を描く技能を身につけるには、長年の修練が必要でした。形や色を表現する技術だけでなく、何を主役に据え、どこへ視線を導き、どの情報を省くかという判断も、制作を重ねるなかで身につけていきます。
生成AIによって、誰でも短時間で画像を作れるようになりました。しかし、画像を生成できるからといって、構図を組み立てる力や、目的に応じて要件を定める力、広告を設計する力まで自然に身につくわけではありません。曖昧な指示でも完成品らしい画像が出てくるため、むしろ何が不足しているのか見えにくくなります。
AI広告の強烈な違和感は、手指や文字の崩れだけでなく、何を伝えたいのかが画面から読み取れない場合にも生じます。生成結果の誤りを見つけ、不要な要素を削り、商品の特徴や顧客層に合わせて構成を整えるには、絵を描く過程で培われる観察力と設計力が欠かせません。
画像生成AIを使えば、手を動かして描かなくても画像を作れます。しかし、生成結果を見極め、広告として完成させるには、こうした観察力や設計力が必要です。AI広告の違和感は、画像生成AIを使いこなすうえでも、結局は絵を描く技能が必要だと示しているのではないでしょうか。
参考文献
The Stopping Power of Advertising: Measures and Effects of Visual Complexity
メニュー・料理等の食品表示に係る景品表示法上の考え方について
