コールセンターに人材が根付くことは、コールセンターの品質向上のための重大な要素です。どちらのコールセンターでも、そのために研修や処遇を工夫して大切に育成していることでしょう。ところが、電話応対のアルバイトやパートタイマーからスタートしてリーダー、スーパーバイザーと順調にキャリアアップして信頼も厚くなった頃、突然退職を申し出られるケースをたくさん耳にします。もったいないことです。コールセンターは今や企業にとって大切な顧客接点であり、営業部隊であり、情報源です。現場を知っている管理職は何人いても多すぎるということはありません。彼らをつなぎとめ、管理職を志してもらうためにすべきことを書いてみたいと思います。
目指す選択肢を増やす
「将来が見えない」という退職理由が多いのをご存知でしょうか。10年前に比べると、現場に電話応対で入ってきた人材をコールセンター管理者に登用する道はずいぶん整備されてきました。リーダーになり、スーパーバイザーになり、指導や品質管理などを覚えて活躍できる道があります。ところがその先のマネージャーになると急激に席数が減少したり、正社員試験に合格しなければならなかったりと、このままここにいても、自分にはチャンスがないと感じることが多いようです。希望をつなぐためには、その先のキャリアがコールセンターのマネージャー、センター長コースに限らないことを可視化して示すことが大切です。
営業職への道
今やコールセンターは企業に欠かすことのできない営業部隊です。アウトバウンドはもちろんですが、インバウンドのチームでも営業を仕掛けます。顔が見えない状態で「聞く」「聴く」「訊く」を駆使してアクティブリスニングを行っています。アクティブリスニングはお客様自身が気づいていないニーズを掘り起こし、お客様のベネフィットを想像してオンリーワンの提案をすることにつながり、お客様との距離をグッと縮めてくれます。アクティブリスニングの研修をしていると、この人は素でアクティブリスニングができていると感じることがありますが、そのような才能を持った人も、持っていなかった人も研修でロジカルに理解したうえに、繰り返し実践練習の機会があるのですから営業センスはみがかれていきます。コールセンターの中だけでなく、会社として営業のポジションに付くことができるという選択肢はコールセンターの人材にとってだけでなく、会社にとっても有効でしょう。
研修講師への道
電話応対の次のステップとしてリーダーと呼ばれることが多い役割があります。大抵の場合は応対者からの質問に回答し、難しい応対を代わって収め、応対ログをチェックするというあたりの役割です。この時から既に、質問に対する回答は応対者がそのままお客様に伝えても良いような言葉で、ポジティブに伝えるようしつけられます。研修講師に必要な基礎を繰り返し練習することになる訳です。また、コールセンターでは度々新人を迎える機会があるのが普通ですから、いかに簡潔にわかりやすく伝えるかの訓練も繰り返されます。オブザーブしてみると講師としての才能が光っている人がいるものです。プロの研修講師もキャリアの選択肢のひとつとしてあれば努力のしがいもあります。
人間力教育をする
コールセンターで顧客応対人材からのステップアップのために行われる研修は、現場オペレーションのテクニカルな内容がほとんどです。正しいプロセスで生産性高くそのテクニカルな内容ができれば、優秀な管理スタッフと呼ばれるようになります。この優秀な管理スタッフをその先の管理職に登用しない、もしくはできない理由は何でしょうか。それは自ら考え、判断して責任を持って行動することができると評価されないからです。顧客応対はきっちり決められたスクリプト通りに行い、イレギュラーなケースでは自己判断せず必ず上席に確認するのが良い応対者であり、自己判断で行動しないようしつけられているのですからある意味仕方ないのかもしれません。ではどのような育成をすれば管理職の資質が身に付くのでしょうか。
顧客応対から考える習慣をつける
顧客応対はスクリプト通りのやり取りが正確にできることを目指してスタートします。導入研修では繰り返し基本のロープレを行い、スクリプト通りにお客様とやりとりできるようになるとデビューです。しかし本来顧客応対はスクリプト通りにすることが理想ではありません。しなければならないこと、すると良いことを最短ルートで盛り込んだものがスクリプトであり、本来はお客様ごとに、状況に応じて使う言葉も、話す順番も最適解が異なるはずです。正しくオペレーションできるようになったら、そのフレーズをその場所で言う理由をしっかり教えてスクリプトを外し、お客様ごとの最適解を考えて応対する指導が必要です。管理しやすいからとスクリプト通りのトークを強制し続けると考えることをやめてしまうのです。
感謝とポジティブアウトプットを心掛ける
人材を育成する立場にあるみなさんは日頃から「ありがとう」「おかげさま」「素敵です」のように、感謝とポジティブアウトプットをしているでしょうか。人は「自分は公正に評価されている」と感じると、「私は望まれる人材である」と思うようになり、帰属意識を持てるようになります。すると「そのチームに貢献する結果を出したい」という前向きな気持ちが生まれてきます。つまり満たされながら仕事ができていることで前向きになれるのです。そのためには日ごろから挨拶を欠かさないことはもちろん、プロセスに対する感謝の声掛け、相手が大切にしている価値観への共感などポジティブなアウトプットを常々行うことが大切です。これらのアウトプットこそが人が公正に評価されていると感じるポイントなのです。日頃から誰もが前向きにいられる文化を創ることを目指します。
業務の全体像とフィードバックを可視化する
多くのコールセンターで人材育成の手段として目標管理面談を取り入れています。目標管理面談は人の成長をサポートするために大変有効な手段であります。しかしながらたいていは限られた時間の中で、賞賛にしても、改善の指摘にしてもその部分だけが提示されることが多く、自分がどの時期までにどれだけのことができなければならないかの全体像がつかめないまま、課題に取り組むことになりがちです。効果的な人材育成のためにまずは業務の全体像を知らせることが重要です。
コールセンター業務の棚卸
業務の全体像を知らせるためだけでなく、コールセンターのマネジメントには、誰が何をどれだけやって運用が回っているのかを、感覚ではなく定量的に可視化することが必要です。管理者研修を受講する人にインタビューすると、この業務の棚卸ができていないセンターも多いようです。どのポジションの人がどの仕事をするべきなのか、現状がそうなっているのか、しなくて良い仕事をしていないか、必要な仕事が漏れていないかを大まかに確認しながら全体像を書き出します。その際リストと共に業務フローを作成してください。業務フローにしてみると、与えられた仕事の前後の工程や、その先で誰とどのように関わっていくのかなどを理解して仕事をすることができ、仕事の意義を見出しやすいのでモチベーションになります。その中で自分がどこまでできているかを知ることは、コールセンター全体での自分の立ち位置や目指したいことが見えるようになるための手掛かりでもあります。
ポジションに必要な業務と資質の一覧と習得状況
例えば現在リーダーのスタッフから、スーパーバイザーを目指したいと申告された場合、センター全体の仕事、そのうちスーパーバイザーの仕事、現在そのスタッフができている仕事、更には階層ごとに身につけていなければならない資質を可視化して提示することはできますか。これができると、時間軸と共に不足しているスキルや資質を習得する具体的な方法を、最も納得できる計画に落とすことができます。ここで大切なことは業務のテクニカルな内容だけではなく、人として成長していくために役割ごとに必要となる資質を言語化して可視化しておくことです。
スキル以外の、人として大切なこと
面談をしていると「明らかに自分の方が仕事ができるのになぜあの人が先にマネージャーになるんですか?」という質問あるいは苦情を受けることがあります。運用のテクニカルな要素は素晴らしい精度と生産性だったとしても、それ以外の何かで別の人の方に、マネージャーとしてより優れた資質があると判断されたのだ、と気づけていないことが残念な点を象徴しています。人に感謝する、自ら先に奉仕するという、人として大切なことが足りていないのです。人材を育てる立場にある人は、その人材が自ら考え感謝して行動を変えていけるよう問いを投げかけ、行動を承認し、失敗を許して、結果に責任を持ちます。目的志向での振り返りと次の行動を意識させると、早晩変化を感じられる日がやってきます。人は存在を認められ気づきとチャンスを与えられ、自分で選択して行動したことで人の役に立つことを幸せと感じ成長するものなのです。