実用化は2030年?
量子コンピュータの可能性と今後の見通しを紹介

~第2部 量子コンピュータの可能性~

実用化が進められている量子コンピュータは、今後も市場が拡大し、大きな経済効果をもたらすと言われています。現在注目している事業は多岐にわたり、金融や医療、物流など多くの分野で様々な実証実験が行われています。

しかしながら、量子コンピュータの発展によるセキュリティへの脅威も懸念され、量子コンピュータの進化にあわせ対策を進めているのも現状です。

今回は量子コンピュータの可能性から、それぞれの事業分野でどのような活用が期待できるのか、セイキュリティ面での脅威も含めて紹介します。

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量子コンピュータの可能性

量子コンピュータの大きな特徴として、膨大な情報量と処理速度の向上があげられています。その結果、様々な産業に大きな影響を与えるとされ、世界的に数十兆円規模の経済効果を及ぼすと予想されています。

それでは、量子コンピュータの可能性を見ていきましょう。

省電力化

従来のコンピュータは作業を行うために電力を消費し熱を発します。超伝導を用いた量子コンピュータは電気抵抗が0になるため熱を発することがなく、永遠に電力が流れているためほとんど電力を消費しない仕組みです。

例えば「D-Wave」は、冷却装置を含めても25kW程度の消費電力で稼働するとされています。また計算時間が少ない分だけトータルの消費電力も抑えられます。

画像認識の向上

現在はAI機械学習の技術によって、顔認証や指紋認証、自動運転などの画像認識が急発展していますが、量子コンピュータを活用することでその精度がさらに高まるとされています。

実際に2021年には、画像処理時間の短縮や処理するデータ量が増加することで、人の顔の修復などの画像処理に用いることが可能な「量子敵対的生成ネットワーク」が開発されました。これにより、マスク着用時でも、量子計算に基づくアルゴリズムがビッグデータ解析と画像修復を総合すれば、隠れている部分についても認識が可能です。

経済効果

2021年の矢野経済研究所の調査によると、国内の量子コンピュータ市場規模は2025年度には550億円、2030年度には2,940億円に達するとの予測です。

2020年度、量子コンピュータは物流や学術用途を中心に実証実験が活発に行われました。2025年度には金融や化学などの先行分野において実証実験フェーズから本番環境での活用フェーズへと移行する動きが始まるとされています。さらに2030年度には、車両用バッテリーの開発や医療分野での本格的な量子コンピュータの活用が始まり、多くの分野でその活用が期待されています。

【参考】量子コンピュータ市場に関する調査を実施(2021年)

量子コンピュータが影響を与える事業分野

量子コンピュータは多くの企業や組織が注目し、様々な事業分野での活用が期待されています。また現在のシステムに大きな影響を及ぼす可能性もあるため、早急に開発を進める必要がある業種も発生しています。

では具体的に、それぞれの事業分野でどのような影響があるのか確認していきましょう。

金融

市場やポートフォリオの分析を行う金融アナリストは、可能性や仮定を織り込んだ数理モデルを活用して予測をしています。量子コンピューターを活用することでデータ解析を迅速化し、より長期的で高精度な予測モデルを実行できるでしょう。

また、2020年にはアメリカIBMによって、リスクや不確実性の影響を考慮するために使う「モンテカルロ・シミュレーション」でも、量子アルゴリズムは従来のモンテカルロ・シミュレーションよりも優れた結果を示した研究が発表されました。

その他にも、世界の大手金融機関が量子コンピュータのスタートアップに出資し、数週間かかっていた不良債権の処理に必要な費用の計算時間を、数秒に短縮することに成功したとの報告もあります。

医療・製薬

量子コンピュータは医療や製薬の分野でも期待されています。

量子コンピュータを活用することで、より正確に複雑な分子の相互作用をシミュレートすることが可能になり、薬剤候補の効果が予測しやすくなるでしょう。

またカナダのProteinQureは量子コンピュータを使って、たんぱく質が体内でどう立体構造になるかを予測しています。これにより、有効なたんぱく質に基づく創薬の開発が簡単になると言われています。

そして、いずれは量子コンピュータを使用して遺伝子情報を解析し、患者一人ひとりに応じた治療も期待できるでしょう。

物流

物流の配送ルートやサプライチェーンの調整は複雑で、量子コンピューティングが直面している課題を解決すると大いに期待されています。

すでにドイツのDHLは小包の梱包を効率化し、世界の配送経路を最適化するだけでなく、注文のキャンセルや再配達にも対応できる量子コンピュータを目指しています。

量子コンピュータの活用は、配達の迅速化のみならず、交通渋滞の改善にも注目され、短時間で多くの地点に配達することが可能になるのです。

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量子コンピュータは、デジタルモデルの構築にも期待されています。量子コンピュータは膨大な変数を短時間で調整することができるので、ユーザーに合わせたデザイン決定を支援することが可能です。

仮想通貨

量子コンピュータの影響はブロックチェーンや暗号資産にも及んでいます。現在の取引は、量子コンピュータに解読される暗号方式を使用しているため、高性能な量子コンピュータが開発されれば、取引が妨害されるなど大きな影響を受けかねません。

そのため、現在は多くの企業がブロックチェーン技術の安全性向上に乗り出し、量子耐性を備えたブロックチェーン技術の開発に取り組んでいます。

セキュリティへの脅威

急速に発展しているAIや量子コンピューティングなどの技術は、セキュリティ上の脅威も生み出します。

2020年にMI6(英国秘密情報部)の長官は、テロリストなどによるサイバー攻撃が、AIや量子コンピューティングのテクノロジーの進歩で、指数関数的に増大していると初めて公開の講演で警告しました。

では、どのような脅威があるのか、現在の動向を含めながら見ていきましょう。

量子コンピュータの脅威

現在のセキュリティ対策は、多くのデータが暗号化されています。中でも広く使われている非対称暗号は量子コンピュータが解くことができる2つの数学的問題(整数の因数分解問題と離散対数問題)の変形に基づいているのです。例えば、機密通信や金融取引、多くのインフラでこれらの暗号が使用されているため、破られればすべてのデータが危険にさらされるでしょう。

耐量子の暗号化

耐量子アルゴリズムは新しく安全性がまだ証明されていないため、サイバー攻撃を受ける可能性があることから、現在使用している暗号アルゴリズムを単純に耐量子アルゴリズムに置き換えられません。

しかしながら、多くの企業がポスト量子暗号を応用した実験を進めており、従来のアルゴリズムと量子セキュアなアルゴリズムを併用するプロジェクトも開始されています。

暗号化は急速に変化し、量子に対抗できる新しいセキュリティ対策を生み出すため様々な取り組みが今後も進んでいくでしょう。

量子コンピュータの未来

量子コンピュータは、活用に向け様々な事業分野で検証が行われ、国内だけでなく世界的に注目されています。特にAIとの相乗効果で、専門的なものから身近なものまで、生活に必要不可欠になる可能性を秘めています。

しかしながら量子コンピュータの技術発展により、現在のセキュリティ対策には大きな脅威となり、サイバー攻撃に備えることが必要です。量子コンピュータの可能性を考えるとともに、安全対策をしっかりと行うことで量子コンピュータの市場はこれからさらに発展していくことでしょう。

この記事を書いた人

XIT編集部 ビジネス・テクノロジスト 貝田龍太