コールセンターマネジメントで最重要ともいえる顧客満足度の向上。顧客満足度を高めるには「感動の提供」が必要とついつい考えがちです。しかし顧客が実際に感じる満足は、感動体験ではなく「手間や不便がないサービス」だという調査結果があることをご存じでしょうか。いかに顧客の負荷を少なくするかがこれからのサービス提供の重要なポイントになるのです。
本記事では顧客に「手間」や「不便」を感じさせない「エフォートレス」という体験がもたらす満足と、その管理指標であるCES(カスタマーエフォートスコア)について詳しく解説します。
感動より、負荷がないサービスのほうが顧客は満足
期待値を満たすCSから発展した「カスタマーディライト」
顧客満足度のさらなる向上を進める取組をするとき、私たちは「感動体験」を提供しようと考えてしまいがちです。コールセンターでは、顧客の感動体験として寄せられた感謝のメールや、アンケート結果を共有する機会を設けたり、「感動」という言葉をコールセンターのミッションに掲げていたりすることが少なくありません。
取り扱う商品やサービスにもよりますが、感動体験を提供できれば、企業のファンになっていただくことができるだけでなく、家族や友人に「良質なサービス」として勧めてもらえることにもつながります。
このように、顧客の期待値を満たすだけでなく、期待値を「上回る」サービスを提供することは「カスタマーディライト」(Customer Ⅾelight)として、コールセンターに浸透してきました。顧客の期待を「満たす」という意味でのCS(カスタマー・サティスファクション)をさらに発展させた概念であるカスタマーディライトは、「魅力的品質」とも呼ばれることもあります。
「ディライト」とは逆の「エフォートレス」
ディライトに対して、「エフォートレス体験」という概念があることををご存じでしょうか。「顧客満足」や「顧客ロイヤルティ」などと比べると、聞き慣れない言葉です。
エフォート(effort)とは「努力」や「尽力」という意味の言葉です。顧客の「エフォートレス体験」とは、顧客が何かしらのサービスを利用した際に、いかに努力や尽力が少ない体験であったか、ということです。
「ウォ―ル・ストリート・ジャーナル」のベストセラー「チャレンジャー・カスタマー」の著者であるマシュー・ディクソンらの著書「おもてなし幻想 デジタル時代の顧客満足と収益の関係」に記載された、顧客満足に関する調査結果をご紹介しましょう。
9万人以上の顧客を対象にした本書の調査で、「感動的な顧客サービスは、顧客ロイヤルティー(企業に対する忠誠心)を上げていくことには関係がなく、ある程度の顧客サービスを行っていれば、顧客ロイヤルティは一定に保たれる」という結果が出ており、顧客の満足は「感動」を求めてはいないということがわかったのです。
顧客ロイヤルティの向上に直結するのは、感動ではなく、顧客が商品やサービスを利用する際に、手間や不便さを感じるなどの心理的な負担感を少なくすることだという結果となったのです。顧客にとっては、感動よりも「面倒くささ」を感じない、負荷のないサービスのほうに満足を感じているということです。
盲点になりがちな顧客の「負荷」を点検しよう
コールセンターにおける顧客の「努力」「負荷」とは
顧客が商品やサービスを利用する際に「面倒くさい」「手間がかかる」「不便だ」と感じるポイントはどこでしょうか。企業における最大の顧客接点となることが多いコールセンターは、顧客に負荷をかけない「エフォートレス体験」を提供することが重要です。コールセンターにおける、代表的な顧客努力にはどのようものがあるでしょうか。
オペレーターにつながるまで長い
コールセンターにおける代表的な顧客努力は「長く待たされること」です。コールセンター白書2021(リックテレコム)による調査でも、「直近でコールセンターに電話をかけた際、センターに不満を感じた理由」で最も多かったのは「電話はつながったが、オペレーターが出るまでの待ち時間が長い」という回答で26.8%(n=800)となっています。また「10分以上待った」との回答が9.8%にのぼっており、「エフォートレス」にはほど遠い状態のコールセンターが少なくないことがみてとれる結果です。
IVRがわかりにくい
顧客をお待たせしないことを目的として用意しているはずのIVRですが、顧客の負荷になっていることは少なくありません。手順がわかりにくい、操作回数が多すぎるなど、顧客努力を要するプロセスになってしまいがちです。コールセンター白書の調査結果でも、不満を感じた理由として2番目に多いのが「接続時に、問い合わせ内容の番号入力が面倒」という回答となっており、全体で14.9%(N=800)、業種別では携帯通信事業者で19.0%(n=200)との結果となっています。
FAQがわかりにくい・FAQにたどりつけない
長く待たされるのが面倒だからという理由で、顧客がFAQを参照して自己解決を図る機会は大幅に増えています。しかし、FAQの文章がわかりづらかったり、解釈によって意味が変わってしまう書き方だったりすることが少なくありません。専門用語の羅列になっているFAQも、顧客が自分で用語を調べる手間が発生することがあります。このように、企業側や担当者視点では気付けない顧客の努力が盲点になりがちです。さらに問題なのは、ホームページや商品パッケージなどの問い合わせ先の記載やFAQのありかが分かりづらいケースです。顧客は不明点や不満を抱えたまま放置される結果となり、満足度は下がる一方です。
問い合わせ手段が選べない
LINEなどのチャットで問い合わせができれば、すぐに解決できるようなことなのに、電話で問い合わせしなければならなかったり、望む方法での問い合わせ窓口の設置がないと、顧客努力を強いることになります。FAQを読んでも解決できず、チャットで問い合わせると、今度はFAQに誘導されることなども少なくありません。顧客努力を強いた上に、その努力を無駄にするような結果になってしまうことがあるのです。顧客の事情や好む手段は多様化しており、難しい側面はありますが、さらなる工夫が必要となっています。
エフォートレス体験を提供するためには
VOCによる顧客体験の把握
コールセンターを利用する際、顧客の努力をゼロにすることはできません。しかし、サービス簿の利用体験に顧客が価値を見出していることを考えれば、価格競争などで競合他社との差別化を図ることより、エフォートレスな利用体験を提供することでのリピートを目指すべきといえるでしょう。
コールセンターの設立目的として、VOC(Voice Of Customer)の収集を挙げる企業の割合は半数以上であるというデータがあります。VOC分析に基づいて、顧客努力を強いているプロセスを把握し改善することが大切です。
CES(カスタマーエフォートスコア)を導入する
顧客がサービスを利用する際のストレスや手間を数値化するCES(カスタマーエフォートスコア)が近年注目されています。CESはリテンション率(顧客を維持できる割合)との相関性が高く、重要性が高いものなのです。
コールセンターの利用者にアンケートを実施するなどして集計する方法があるでしょう。しかし、このアンケートそのものが顧客のストレスになる可能性もあり、慎重なアンケート設計が必要な側面もあります。
CES(カスタマーエフォートスコア)の計測のしかた
CESでは、顧客の努力が少なければスコアが大きくなり、努力が多いほどスコアが小さくなります。コールセンターなど、顧客接点を利用した直後にアンケートを実施してCESを収集します。7段階での集計が一般的ですが、5段階や11段階に分けて集計する方法もあります。
ストレスにならず、簡潔に回答できる設問の工夫もポイントです。また、集計しただけではなく、結果をどのように活用するかが最も重要です。次回のブログで、CESの集計と活用方法について詳しくご紹介します。
まとめ
いかがでしたか。今回は「エフォートレス体験」についてご紹介しました。コールセンターに問い合わせをした際の顧客努力は、そのコールセンターが取り扱う商品やサービスによっても大きく異なります。コールセンター単体でなく、自社のサービス全体を通して、顧客の負荷が発生するポイントを減らす努力が必要ではないでしょうか。次回はカスタマーエフォートスコアの計測のしかた、分析結果の活用方法について詳しくご紹介します。