【連載】

「感情分析」で変わるコールセンターマネジメント
その1 感情解析システムの導入で何ができる?

AI(人工知能)による「感情分析」が、マーケティングやプロモーション、医療や教育などさまざまな分野で注目されています。企業における最大の顧客接点を担うコールセンターも例外ではありません。顧客だけでなく、対応するオペレーターの感情を読み取ることを可能にした「感情分析」は、長年にわたりコールセンターが抱えてきた課題を解決するといわれています。本記事では、コールセンターにおける複数の課題に対し、感情分析がどのようにアプローチできるのかを連載でご紹介いたします。

そもそも感情解析とは

急速に普及した感情解析

AI(人工知能)が人間の感情を読み取る「感情分析」は、従来は不可能といわれてきた、人間の感情を読み取ることを可能にしました。ICT(情報通信技術)の発展により、現在、感情分析は急速に普及しています。

SNSや商品レビュー、口コミなど、消費者による意見が大量にインターネットに投稿される時代になりました。これらは企業にとっては、自社商品やサービスに対する「好き」「嫌い」というような率直な感情を入手できる重要な情報源です。

感情分析はこのような消費者の反応だけではなく、政治に関する世論の動向など、何かの出来事に対する世の中の声を分析することに力を発揮することから、あらゆるビジネスの場で活用されるようになりました。

またSNSなどの膨大なテキストデータは、クラウドサービスの登場と普及により管理が容易となったことも、感情分析の急速な普及を後押ししたと考えられます。また、テキストデータから読み取った感情を分析する手法の確立も普及の要因だといわれています。

「テキスト」「表情」「音声」3つの要素に基づいて判断

AIは「テキスト(文字情報)」「表情」「音声」の3つに基づいて感情を分析します。この3つの判断要素について簡単に解説しましょう。

「テキスト」(文字情報)による感情分析では、「自然言語処理」という無意識に使用している言語を処理する技術を使用し、文章中の単語や文脈、表現などのさまざまな要素に基づいて書き手の感情を判断します。AIにベースとなる知識を与え、判断基準と一定のデータを覚えさせておくことで、あとはAIが自分でデータを収集して学習することが可能なので、精度を高めていくことができるのです。

「表情」からは喜怒哀楽などの感情を読み取ります。笑顔は喜び、涙は悲しみという表情と感情の関連をAIに知識として与えることで感情を分析します。表面的な表情だけではなく、微細な表情のニュアンスや変化から、隠れている本心までも読み取ることができるのです。

「音声」による感情分析は表情の解析と同様に、抑揚や声の強弱など、人間の声に無意識に乗っている感情をAIに教え込むものです。人間は、発する言葉と気持ちが裏腹であることも多く、感情は音声などの非言語のコミュニケーションに表れる部分が多いため、「テキスト」(文字情報)からは読み取れない本音や本心を知ることができるという強みがあります。

音声データこそ本当の「VOC」

コールセンターは音声データの宝庫

言うまでもなくコールセンターは膨大な音声データを保有しています。AIに最初に教え込む必要があるデータが潤沢に用意できるのはもちろん、日常業務で常に音声データが収集され、AIが学習して精度を上げていきます。

音声分析の技術により、通話録音は、構造化された意味あるデータに変わるのです。企業の最大の顧客接点として、顧客満足度向上のミッションを担うコールセンターが、音声データを活用する感情分析を導入するのは当然の流れだといえるでしょう。

音声データこそまさに「VOC」

多くのコールセンターは、アンケート調査などを通してVOC(Voice of Customer)の収集と分析に注力しています。しかし、用意された質問への回答を集計したデータを基にして上がってくる「報告書」に、真の顧客の要望や不満が反映されているかの判断には難しい部分があり、もやもやした感覚が残ったご経験をお持ちのかたは少なくないのではないでしょうか。

そこで、顧客の音声から分析されるリアルな感情を把握できるのが感情分析です。感情分析の技術は、音声を発している話し手の演技や虚偽の申告をも見破ることができるようになっています。感情分析は、まさに本当の意味でのVOC(Voice of Customer)の収集と分析を可能にしたといえるのです。

顧客の感情は「想像」するものではなくなった

画面上で顧客の感情を確認しながら通話できる

多くのコールセンターで実施している「応対品質評価」を例に、感情分析導入のメリットを考えてみましょう。応対品質評価で常にぶち当たる問題に、オペレーターが「顧客の心情をくみ取れない」という問題があります。

当然のことながら、コールセンターの電話対応というものは、相手の表情や雰囲気を見ることはできません。顧客が言葉に出さない「いらだち」や「不安」などのさまざまな感情は、オペレーターに「抑揚」や「間合い」などの雰囲気のようなあいまいな要素からくみ取る力を要求します。しかし、これが苦手なタイプのオペレーターもいます。

感情分析システムを導入することにより、リアルタイムで顧客の感情を画面上に表示することができます。顧客の感情の変化を把握しながらトークを変えることが誰にでも可能になるのです。

顧客の感情は、想像したりくみ取ったり、雰囲気で感じ取ったりするのではなく、画面上で見て確認するものに変わるのです。顧客だけでなく、オペレーターにとっても大きなメリットがあると考えられます。

SVによる管理が変わる

オペレーターだけではなく、あらかじめ設定した閾値を超える感情を検知した場合に、SVにアラートを出す機能を持たせたシステムもあります。例えば、「怒り」や「ストレス」などの感情が一定の基準を超えた場合に、SVにメールなどで一斉にアラートを発信することで、クレームの防止や、オペレーター支援が円滑に行われる仕組みです。

複数のタスクを同時にこなしているSVが、たくさんのオペレーターの中から、常にフォローすべき対象を把握できるとは限りません。しかしアラートが出ていれば、確実なフォローを可能にします。

さらに、在宅勤務を行うオペレーターのフォロー体制として、この機能はこれまでにない大きなメリットとなるはずです。応対品質の向上だけでなく、在宅勤務で働くオペレーターの不安を解消する仕組みであることは間違いないでしょう。

感情を集計・分析できる

感情分析システムで顧客の感情を把握できるのは、リアルタイムだけではありません。過去の通話録音データを活用し、顧客の感情を集計して分析することも可能です。コールリーズン単位での顧客の感情推移や、オペレーター単位での顧客の感情挙動を定量で集計できるということです。

例えば、アウトバウンド業務であれば「成約につながった通話」と「失注した通話」の顧客の感情推移の違いやタイミングを分析することで、スクリプトを改善することができるでしょう。

もちろん顧客サイドだけではありません。オペレーターの感情を集計し分析することも可能です。感情分析でオペレーターのモチベーションを把握し、離職を未然に防ぐ取り組みも成果を上げています。

感情分析は、既にコールセンターのマネジメントに大きなインパクトを与えるものになりつつあるのです。

感情分析の技術は、開発した企業や提供されるサービスの種類によっても大きく異なります。導入を検討する場合には、複数のシステムから、自社に合った品質を提供できるものを慎重に選ぶ必要があることも覚えておくべきでしょう。

まとめ

いかがでしたか。膨大な音声データが集積されているコールセンターは、感情分析を活用することでさまざまな分野の課題が解決できる可能性があるのです。既に保険金請求の窓口などでは、申告時の音声から虚偽や演技を検知するなど、感情分析技術の活用が進んでいるのです。

次回は、感情分析による「離職率の改善」について、実際のコールセンターでの事例を踏まえながら詳しくご紹介いたします。

この記事を書いた人

ギグワークスクロスアイティ編集部