人工知能を意味する「AI」という言葉が生まれ、既に70年以上の月日が経ちました。当初想定されていた人間のような知性や感情を持つAIは、残念ながらまだ実現していませんが、この70年でAIを実現させるための「AI技術」が確実に進歩し、ビックデータの活用、ロボティクスやIoTの広まりなど、私たちの生活に大きな変革をもたらしています。今後もAIの躍進はとどまることはないでしょう。
AIの定義や今日までたどってきた進歩の歴史について理解を深め、AI技術の具体的な活用方法やAIの可能性について紹介します。
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人類が夢見たAIとは?
AIという言葉が浸透し、誰もがロボティクスやIoTの活用による新しい未来を思い描くようになりました。AIの意味や定義、AI技術との違いについて詳しく見ていきましょう。
AIが表す本来の意味
AIは「Artificial Inteligence」の略で、人工物「Artificial」と知能や知識 「Inteligence 」を組み合わせた「人工知能」を意味する言葉です。知能をどのように定義するかによってAIの捉え方が変わるため、人工知能であるAIを表す定義は研究者によって異なります。しかし、多くの人が想像するAIとは、人間に酷似した知能や感情のようなものを備えた機械なのではないでしょうか。そういう意味では真のAI、真の人工知能はまだ実現していません。
【参考】総務省|平成28年版 情報通信白書|人工知能(AI)とは
AIとAI技術の違い
近年AIと名の付く技術やサービスが増えていますが、こちらは正確にはAIそのものを使用しているわけではありません。AIを実現させるために開発された技術「AI技術」を利用したものがほとんどです。現在のAI技術は、自然言語処理や音声処理、画像処理などに優れており、さまざまな場面での活用が広まっています。また、自律的に行動できる真のAIとは異なり、AI技術は人間によって課題や方向性を与える必要がある点も大きな違いです。
実用化が進むAI技術とは?
現在AIと呼ばれているものの仕組みと具体的な活用事例について紹介します。
AIの仕組み
AIを実現するための技術には、自律的に学習を進める「機械学習」や「ディープラーニング」、情報を取り入れるための「画像認識」や「音声認識」「自然言語処理」などがあげられます。一つひとつの技術は実用化されているものの、それらを統括し、自ら課題や目的を生み出す「考える」AIの開発は発展途上です。
AI技術の導入事例:AIを活用した在庫管理
一般的な仕入れは、過去の売上データや在庫数、天気や季節のイベントなどを照らし合わせ、最終的には仕入れ担当者の経験値によって決定しています。しかし、AI技術を活用することで需要予測の精度を上げ、仕入れを最適化することが可能です。
ホームセンター事業を行う株式会社グッデイは、AIの導入で過剰在庫や在庫不足を解消し、売上は前年度比124%、平均在庫も16%減らすことができました。さらに、導入費たった10万円、モデル構築期間はわずか1.5日と、少ないリソースで十分すぎる効果が出たことがわかります。
AI技術の導入事例:AIで的確な劣化検知
海や川などに設置された護岸コンクリートの経年劣化が進んでいるため、日本全国で点検・改修が求められています。従来は目視による点検を行っていましたが、人手不足や作業者による基準の差異などの理由から、AIによる画像認識を活用する試みが行われました。
劣化を検知するアルゴリズムを備えたAIが、撮影した画像を判別するというものです。その結果、人の手による点検と遜色がなく、AIの有効性が実証されました。
【参考】ブレインパッド、河川の護岸コンクリートの劣化検知をAIで支援 - 八千代エンジニヤリングに「機械学習/ディープラーニング活用サービス」を導入 -
AIの歴史
AIという言葉が生まれてから70年以上が経ちました。今日までのAIの歩みについて見ていきましょう。
第一次AIブーム
第一次AIブームは、「AI」という言葉を生んだダートマス会議が開催された1950年代後半から1960年代にかけて起こりました。コンピューターによる推論や模索が実現し、特定の問題に対しての回答を導くことが可能になったため、急激にAIに対する期待値が高まったのです。しかし、当時の技術はまだ未熟で、AIが解決できる問題はルールや定義づけが明確なものに限定されており、期待されるような複雑な課題解決を提示できませんでした。結果として人々のAIに対する熱が冷め、1970年代の停滞期に入ることになります。
第二次AIブーム
AIに対する人々の関心を呼び起こした「エキスパートシステム」の誕生によって、1980年代から1990年代に再びAIブームが起こります。エキスパートシステムは、コンピューターに予め考えうる様々なパターンを理解させることで、課題解決へと導くシステムです。しかし、コンピューターが自発的にデータを収集するわけではなく、すべて人の手による入力が必要であったため、当時はそれ以上の広がりを見せることはありませんでした。
第三次AIブーム
インターネットが普及し、私たちは容易に大量のデータ「ビッグデータ」を得られるようになりました。このビックデータをより効率的に活用するため「機械学習」や「ディープラーニング」が実用化され、AIは再び脚光を浴びるようになったのです。第三次AIブームは2000年代から始まり、今なおブームは衰えていません。
AIはどこまで人間に近づけるのか?
人類が夢見る真のAI、人間のような思考や感情をもつAIは生まれるのでしょうか。現在におけるAIの限界や得手不得手について触れていきましょう。
AIは弁護士になれない!その訳
未だ真の意味でのAIは実現しておらず、今のAIでは周囲の状況を忖度して判断することができません。つまり、法律や判例を全部記憶し、それに基づいた判断はできるものの、その事件が起こるに至った経緯や心情、社会的背景に配慮した判断はできないのです。事件は類例はあっても一つとして同じものはありません。判例と照らし合わせつつ、実際の状況などを加味したさじ加減は、現在のAI技術では難しいでしょう。
AIの得手不得手
現在のAI技術では人間のようにマルチに対応することが難しく、得手不得手がはっきりと分かれています。AIが得意とするものは、インターネットなどを利用したビッグデータの収集とそれに基づく分析です。あらゆる事象を数値に落とし込み、論理的に解決策を導きます。一方、感情は時として理屈に合わないことも多く、現在のAIでは慮ることができません。例えば「ありがとう」という言葉一つをとっても、時と場合によっては単純に感謝を表す言葉とは限らないからです。その言葉がどういう意図をもって発せられたか、人間なら相手の表情や声のトーン、前後のやり取りから空気を読むことができます。AIはいわゆる「空気を読む」ほどの能力をまだ備えていません。
AIの非認知能力はまだ発展途上
AI時代の到来に備え、人が生き抜くために必要とされる能力が「非認知能力」だとされています。非認知能力は社会情動的スキルとも呼ばれ、いわゆるコミュニケーション社会で円滑に過ごすための数値に表せないスキルのことです。空気が読めないAIは、もちろんまだこのスキルを持っていません。人も始めから持っているわけではなく、社会の一員として過ごすうちに育まれるものです。その点においては、AIの非認知スキルはまだ発展途上と言えるでしょう。
AIと共存する未来
今はまだ真のAIは実現したとは言えません。しかし、AI実現のために開発されたAI技術は私たちに様々なメリットをもたらし、幅広い分野での活用が広がっています。少子高齢化や労働人口の減少による人手不足の解消、資源の有効活用のための様々な分野における効率化など、AIが担う役割はますます大きくなるでしょう。現在はAIが対応できない分野も多いため、AIの得意分野である自然言語処理や音声処理、画像処理能力や分析力などを活かしながら、人とAIで役割を分担していくことが大切です。AIのある未来はもっと快適なものになるでしょう。