AI技術の躍進は目覚ましく、2000年代から始まった第三次AIブームは衰えることを知りません。コールセンターにおいても、チャットボットやボイスボット、FAQの作成・検索や音声認識など、多様な場面でAI技術が活用されるようになりました。人材不足解消や業務効率化を実現するためにも、AIがコールセンター運用の姿を変えていくであろうことは容易に想像できます。AIに求められる役割がますます大きくなり、あらゆる業務がAIに置き換わる中で、コールセンターのオペレーターに求められるスキルやAIとの関わり方について考えていきましょう。
また、銀行や大手鉄道会社など様々な企業への導入が進む、IBMが開発した人工知能「Watson」についても紹介します。
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AIがコールセンターを変える!
AI技術は様々な分野で活用されており、それはコールセンターにおいても例外ではありません。AIを活用することで業務の自動化や効率化が飛躍的に進み、コールセンターの運用方法が大きく変わります。それではコールセンターにおけるAI活用法を具体的に見ていきましょう。
IVRシステムによる問い合わせ窓口の振り分け
「自動音声応対システム」とも呼ばれるIVRシステムを用いることで、かかってきた問い合わせの電話に自動的に応対し、お客様の要望に応じた適切な窓口への誘導ができます。さらにAIを活用したボイスボットを導入することで、簡単な問い合わせなら解決まで導くことが可能です。
オペレーターをサポートするFAQ作成・検索に活用
AI搭載型のFAQシステムなら、AIが自律的にオペレーターの対応履歴を収集し、表記の揺れや同義語なども考慮したうえでFAQのグループ分けを行います。また、必要なFAQページの提案や特徴的なキーワードの自動抽出で、FAQページ作成のサポートも可能です。さらに、語句の揺らぎに強いAIの自然言語処理能力を利用することで、キーワード検索の精度があがり、回答を導くまでの時間が短縮されます。
AIチャットボットによる問い合わせ対応
チャットでのお問い合わせは増加傾向にあり、オペーレーターの負担を減らすという観点からも積極的にコールセンターへの導入が進んでいます。中でもAIを利用したチャットボットは、導入時のコストや手間は大きいものの、言葉の揺らぎに強く幅広いお問い合わせに対応でき、学習を繰り返すことで精度があがる点が魅力です。さらに、サイト内などに設置すればお客様の自己解決につなげることができます。
音声認識システムによる自動テキスト化
お客様とのやり取りをテキスト化することで、履歴の検索性があがり、文字での確認ができるため、お問い合わせの経緯の把握が迅速になります。音声データよりも文字データを確認するほうが時間や手間がかからず、さらに自動要約機能があれば状況の把握が簡単です。
コールセンターにおける人の役割
AIの導入とともに人が行うべき業務にも変化が現れます。コールセンターでも簡単なお問い合わせ対応は徐々にAIに置き換わっていくでしょう。その中で人が果たすべき役割とは何でしょうか。
現在のコールセンター
現在のコールセンターは、SV(スーパーバイザー)が実際に電話応対を行うオペーレーターをまとめながらコールセンターの運営に当たっています。近年はコミュニケーション手段が多様化し、電話以外にメールやチャットなどへの対応も必要です。そのため、オペレーターの負担が増加する傾向にあり、コールセンター業務を管理するSVも人員確保や各種教育、マルチチャネル対応した顧客管理といった管理業務に忙殺されています。
オペレーターにもコミュニケーションスキルやトークスキル、取り扱う商品やサービスの知識、機器の取り扱いなど幅広い能力が必要です。研修にも時間がかかるため人手不足はすぐには解決できないしょう。
AIと協同していく場合のオペレーターの役割
AIシステムを導入することで、よくある問い合わせへの自動応対や24時間365日対応も不可能ではありません。オペレーターはAIでは対応することが難しい専門的な相談やクレーム対応を中心に行っていくこととなるでしょう。今までは簡単な応対なら経験値の浅いオペレーターでも対応できましたが、今後はより専門性が高い応対を求められるため、オペレーター自身のスキルアップも望まれます。スキルアップという面でも、AIはFAQの提示などを通じてオペレーターのアドバイザー役を果たすことも可能です。
銀行のコールセンターに導入された「Watson」
「Watson」とはIBM社が開発したAIで、創始者であるThomas J. Watsonにちなんで命名されました。前記事でも触れましたが、現在は完全なAIは確立されていないこともあり、厳密には「拡張知能」と定義されています。
オペレーターが問い合わせ内容を復唱する本当の理由
言葉のイントネーションや言い回し、人の話し方は千差万別で、人間でもその違いから聞き間違うことがあります。それは人工知能であるAIも同じです。優れた音声認識システムを持つ「Watson」でも、オペレーターによる発話の認識率は88%と高い値を出しているものの、お客様の発話による認識率は62%にとどまっています。つまりオペレーターが問い合わせ内容を復唱するのは、AIに正確に内容を認識させるためなのです。復唱することで、AIがオペレーターに提示する回答候補上位5位以内の正答率を70%から85%に上昇させることができました。
【参考】みずほ銀行のコールセンターに導入した「ワトソン」の正答率は?
「Watson」が正解をオペレーターに伝える方法
現在のAI技術では音声データから直接内容の解析・検索ができないため、まず音声認識システムが応対内容をテキストに変換し、その文字データを「Watson」に送信するステップが必要です。「Watson」は、その文字データからお客様の質問を解析し、与えられたFAQの中から該当するキーワードを検索、オペレーターのパソコン画面に回答候補を確度が高い順に提示します。オペレーターの作業は提示された候補の中から適切な回答を選んでお客様に伝えるだけです。
自己学習する「Watson」広がる「学習済みWatson」
オペレーターが「Watson」によって提示された候補から適切な回答を選択・クリックすることが、そのまま「Watson」へのフィードバックになります。「Watson」はそのフィードバックを蓄積し、回数を重ねるごとに回答精度を高めることが可能です。さらに「Watson」には、様々な学習セットを予め搭載した「学習済みWatson」が用意され、各分野での実用化が進められています。学習データをテンプレート化することで、導入にかかるコストや時間を軽減し、導入へのハードルを下げるのに一役買っています。
AIにできないことは人が
技術開発が進み、AIができることが飛躍的に広がっています。もはや注文の確認やお届け日の変更などといった簡便な問合せは、全てAIに置き換わっていく可能性もあるでしょう。しかし、現在のAIはまだ未完成で、人間のように思考を廻らすことは難しく、行間や言葉じりなどから隠された意図を読み取ることはできません。今後オペレーターは、AIのサポートを受けながら業務を行い、AIが対応できない部分を補う働き方にシフトしていくでしょう。
AIとの分業を確立していくためには、人間である私たちもバージョンアップが必要です。