仮想通貨に多用される既存のブロックチェーン「パブリック型ブロックチェーン」には様々な課題があり、それが企業活動への転用を阻む障害となっています。その課題を解決するため今注目されているものが、管理者が存在する「エンタープライズブロックチェーン」です。
この新しいタイプのブロックチェーンは、今まで難しかった取引情報の秘匿やデータの修正、不正取引の制限などが可能になります。いわゆる無法地帯であったブロックチェーンにルールを敷き、コントロールされた安全な取引環境を構築することも不可能ではありません。仮想通貨の基本を押さえつつ、ブロックチェーンの種類とそれぞれのメリット・デメリットについて紹介します。
仮想通貨の認知度と課題
仮想通貨は通貨として認められ、オンライン上で実際に様々な決済ができるものの、日本ではあまり普及していません。暗号資産所有率の世界平均が15.5%であるのに対し、日本では5.8%にとどまっています。仮想通貨の概要と日本で普及が進まない要因を見ていきましょう。
仮想通貨とは
仮想通貨とは暗号資産とも呼ばれる、インターネット上でやり取りができるデータ資産です。商品やサービスなどの代金支払いに使用でき、レート変動するとはいえ、法定通貨と相互に交換することもできます。代表的な仮想通貨には「ビットコイン」や「イーサリアム」などがあり、これらは銀行などを介すことなく入手や換金することが可能です。
仮想通貨の課題
法定通貨のオンライン決済や他のデータ資産にも同じことがいえますが、仮想通貨の課題はオンライン上でのデータ管理になるため、常にサイバー攻撃の対象となる点です。また、法的な整備も進んでおらず、資産としての扱いがいつどのように変更されるかはわかりませんし、不正取得した資産を仮想通貨に転嫁することで追及を逃れたりなど、犯罪に利用される可能性もあります。さらに、決済の速度が遅かったり、レートが安定しないなど通貨としては使い勝手が決して良くありません。
ビットコインに見る「仮想通貨の急落」
仮想通貨の歴史は常に暴落とともにあります。価値が日ごとに急変動するため、通貨というより投機商品といったイメージも強いでしょう。実際に2017年1月から2011年11月までの5年弱でビットコインの価格はおよそ80倍になったとされています。一方、毎年のように50%以上の急落が繰り返されているのも事実です。中国での仮想通貨取引所の閉鎖や仮想通貨バブル崩壊、G20の仮想通貨規制への懸念や新型コロナウイルスの世界的流行など様々な要因で仮想通貨の暴落が発生しました。この不安定さが通貨として信頼されにくい要因です。
【参考】ビットコイン暴落の理由は?ピーク時から60%下落で今後はどうなる?「仮想通貨が急落する」6つの原因
エンタープライズブロックチェーンとは
現在は管理のしやすさから「エンタープライズブロックチェーン」という管理者を持つタイプのブロックチェーンが注目されています。その概要とブロックチェーンの種類について押さえておきましょう。
エンタープライズブロックチェーンとは
「許可型ブロックチェーン」とも呼ばれ、企業や団体など特定の管理者が存在するブロックチェーンです。管理者がブロックチェーンを直接管理することが可能で、ルールに従わない取引や捜査機関に求められた取引のブロックが行えるため、不正取引の防止やデジタル資産の分散抑制にも対応できます。また、ビットコインを代表とする既存のブロックチェーンとは異なり、取引履歴を取引先以外に秘匿することが可能です。
ブロックチェーンの種類
ブロックチェーンは「パブリック型」「プライベート型」「コンソーシアム型」に大別されます。単にブロックチェーンと言えば「パブリック型」を指すことが多く、特定の管理者を持たない開かれたブロックチェーンです。一方、許可型ブロックチェーンであるエンタープライズブロックチェーンは、一つの企業や団体で管理する「プライベート型」と複数の企業や団体で管理する「コンソーシアム型」に分けられます。
パブリック型ブロックチェーンとは
「パブリック(公共の)」と呼ばれるようにパブリック型ブロックチェーンは、インターネットに接続したユーザーなら誰でも自由に取引ができ、特定の管理者がいません。ブロックチェーンのひな形とも言え、多くの仮想通貨はこのタイプのブロックチェーンで流通しています。
公平性が高い!パブリック型のメリット
パブリック型は特定の管理者がおらず、ユーザー間で情報共有と相互監視が行われる仕組みのため、管理者による恣意的なデータの改ざんや不公平なルールの設定が行われません。また、管理者都合による一方的な取引停止も防ぐことができます。データの透明性に優れ、誰もが自由に情報を閲覧し取引できる点が魅力です。
コントロールが難しい!パブリック型のデメリット
特定の管理者が存在せず、データ管理にかかるリソースはそのブロックチェーンを利用する個々のユーザーのPCによって賄われています。書き換えのための処理手順も多く、データの反映に時間がかかり即時性が維持できないことが大きな課題となります。また、マイニングで多くのリソースが費やされることや取引のファイナリティが担保されないこと、データの流出を止めたり誤情報の修正ができないことなども問題です。
代表的なパブリック型ブロックチェーン
パブリック型ブロックチェーンで良く知られているものは、ビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨です。管理者による許可が必要ないため、誰でも制限なしに「スマートコントラクト」と呼ばれる特定の条件を満たした時に行われる自動決済のシステムを開発し、ネットワークに組み込むことができます。
プライベート型ブロックチェーンとは
プライベート型はエンタープライズブロックチェーンの一つで、「プライベート(個人的な)」からわかるように、特定の単独管理者によって運用される閉ざされたブロックチェーンです。こちらのメリット・デメリット、代表的な実例を見ていきましょう。
コントロールがしやすい!プライベート型のメリット
プライベート型は一つの企業または団体が独自に構築したブロックチェーンです。運用者が定めたルールに則った運用ができ、不正な取引を抑止することが可能です。パブリック型では、一度追加したデータを修正・消去することはほぼ不可能でしたが、プライベート型なら利用者の合意があればデータ修正を行えます。また、「マイニング」に対する報酬などのインセンティブがなくなる一方、不特定多数のユーザーによる合意形成が不要となり、処理速度が早く実用的です。
ブロックチェーンの魅力が失われる?プライベート型のデメリット
プライベート型ではブロックチェーンの「データの透明性」「取引の公平性」「データの耐改ざん性」といった多くの魅力が失われます。管理者によるコントロールが容易な反面、管理者による恣意的な運用を防ぐことができません。また、管理者に何かトラブルが生じた場合、システムに支障をきたす恐れがあります。さらに、従来型のデータベースと比較しても初期コストが多くかかる場合があるため、導入する際は十分な検討が必要です。
代表的なプライベート型ブロックチェーン
仮想通貨の中でもリップルはプライベート型ブロックチェーンを採用しています。パブリック型の弱みであった即時性が改善され、素早い決済や送金が可能です。また日本でも、東芝デジタルソリューションズ株式会社によって、企業が気軽にプライベート型ブロックチェーンを導入できるサービス「DNCWARE Blockchain+」の提供が始まりました。これによりブロックチェーンのネットワーク管理や運用が容易となるため、専任担当者がいない企業にも導入が進むことに期待ができるでしょう。
【参考】エンタープライズ向けブロックチェーン「DNCWARE Blockchain+」を提供開始 ~簡単にアプリケーションが作成できる、プライベートブロックチェーンを開発~
より使い勝手の良いブロックチェーンへ
ブロックチェーンの登場により、多くの人がオンライン世界に新しい可能性を見出したことでしょう。しかし、その魅力でもあった「データの透明性」「耐改ざん性」は実際に企業として業務に活用していくためには、個人情報の保護などの観点から不都合もあります。特に個人の資産情報や信用情報、通院履歴などを扱う業種は注意が必要なため、今後はエンタープライズブロックチェーンへシフトしていくでしょう。次回の記事では、パブリック型とプライベート型のメリットを併せ持つ「コンソーシアム型ブロックチェーン」について紹介します。