日本はIT先進国になれるか?
深刻なデジタル人材不足とその対策 

デジタル化に向けた政策が世界中で行われており、IT人材の需要は日々高まっています。日本でも、AIテクノロジーやシステム開発の発展を支える高度な技術を持つIT人材が求められる中、2030年にはIT分野における人手不足は約80万人に上ると予想されており事態は深刻です。IT人材不足がもたらす社会への影響は甚大で、経済発展の妨げとなるだけでなく、私たちの日常生活にも大きく影響します。日本ではこの危機的状況を解決するため、どのような対策が講じられているのでしょうか。現在のIT分野における人手不足による深刻な状況や問題点を確認し、IT人材確保に向けた対策について理解を深めましょう。 

IT分野の人材不足と起こりうる深刻な影響

ITの進歩には高い知識やスキルを持つ人材が必要不可欠です。しかし日本におけるIT人材は減少の一途をたどっています。その原因は主に、IT分野の基盤となる理数系学生の減少やIT技術者の就業環境です。IT人材不足ががもたらす影響についても見ていきましょう。 

難しさから加速する理数系離れ

世界中でIT人材の需要が高まっているにも関わらず、日本ではIT分野を志す人材が不足しています。その原因の一つは、理数系人口の減少です。義務教育が完了するまでは約40%の学生が理数リテラシーがあるにも関わらず、高等学校になるとその数は約20%弱と半減します。その後、大学進学で理数系を選択する学生は約10%にとどまり、進路選びの度に理系を履修する学生が先細りしている現状です。小中学生の頃は実験などを通して理科を「楽しい」と感じることが多いのに対し、高校では大学受験に向けた詰め込み式の教育によって「難しい」「面白くない」と感じることが増えるのが原因です。 

【参考】高校教育~大学・大学院教育における専攻分野の推移、深刻化する理系離れ 

IT大国アメリカと比較!日本のIT技術者が伸び悩む環境

IT技術者の需要は供給を大きく上回わり、2030年には約80万人のIT人材不足が予想されるなど、人手不足は年々深刻な問題となっています。また、新たに参入する若いIT技術者が減少しているため、IT技術者の高齢化も懸念材料です。それに加え、世界に比べて高レベルなIT人材の割合が少ないため、技術レベルの底上げが急務です。国内でIT技術者を目指す人が増えない理由は、その待遇にあります。日本では30代IT人材の平均年収が530万円であるのに対し、世界的なIT企業が多数存在するアメリカは1200万と2倍以上の差があります。また、日本では年功序列の賃金制度が足かせとなり、結果を出しても年功序列の年収には及ばないことが、IT分野で活躍したい若者の成長意欲を削ぎ、また優秀な人材の海外流出に拍車をかけています。  

【出典】IT人材育成の状況等について 

【参考】 IT人材の給与水準の実態(平成29年8月21日)

IT人材不足が引き起こす経済への大打撃

IT人材不足は日本社会に大きな影響を与えます。IT技術で支えているインフラの整備が行き届かなくなり、やがて国民生活に支障をきたすでしょう。また、企業においてもAIやビッグデータ解析、CXなどの最新IT技術が導入できないことでDX化が妨げられ、業務効率化やコストダウンが進まないため、企業の発展が停滞してしまいます。顧客サービスの低下のみならず、企業存続の危機を招き、やがて日本社会全体が世界での競争力を無くし、衰退していく状況に陥ってしまうのです。 

必要不可欠!IT人材を育てるための取り組み

IT人材不足を解消すべく、企業や教育機関が協力し合い、若者や社会人に向けた様々な学習環境を提供しています。IT分野に興味を持たせ、若年層や社会人に勉強する環境を与えるためのIT人材育成への取り組みについて詳しくみていきましょう。 

若年層への取り組み

IT分野の未来のため、若年層を取り込むことは今や必要不可欠です。企業では、中高生や大学生など若年層に向けたIT人材育成の取り組みが行われています。アマゾンウェブサービス(AWS)ではクラウドのトップベンダーとして、高校生向けに「AWS Academy」、14歳以上向けに「AWS Educate」と、クラウド技術を養うための学習プログラムを展開し、今後の人材不足対策としての先行投資を行っています。また、優秀なIT人材を育成するためのプロジェクトとして、情報処理推進機構(IPA)発の「MITOU」(未踏)プロジェクトがあります。これは25歳以下を対象に、将来のIT分野を牽引する有望な人材を選出し、9ヶ月の特別講習や開発費用の支援等を通じて才能を実践的に伸ばす取り組みです。

【参考】未踏事業ポータルページ

働きながら学べる環境作り

若年層だけでなく、社会人にもIT分野に興味を持たせ、IT人材へと育てることも大切です。働き方が変化する中、パソコン一つで受講できるプログラミング講座も近年人気が高く、ITへの興味を持つ人も増加傾向にあります。企業や大学が社会人でも学べる講座を開講することで、日本全体のITレベル向上を目指すのが狙いです。また、社会人が学習しやすいコンテンツであるe-ラーニングの充実や、経済産業省の「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」で認定された講座の受講者には給付金を支給するなど、IT教育を促進する対策も講じられています。 

【参考】第四次産業革命スキル習得講座認定制度

目指せIT人材230万人!内閣府が掲げる指針

政府は日本のデジタル化に向けた「デジタル田園都市国家構想」において、2022年からの5年間でデジタル人材を230万人増員すると目標を掲げています。その達成に向けどのようなことが実際に行われているのでしょうか。 

デジタル人材育成プラットフォームの構築

デジタル人材育成の目標に向けて、経済産業省とIPAは「マナビDX」という、ITスキルを学ぶためのポータルサイトを開設しました。個人のDXリテラシーを向上させ、AIをはじめとするITの知識を身につけ、一人ひとりのスキルを養うことが目的です。そして知識を得た人材を地域の企業とマッチングさせ、社会全体のITレベル向上を図ります。 

【参考】マナビDX-あなたの学びに変革を!学んで身につくデジタルスキル

デジタル分野に重点を置いた職業訓練

企業のデジタル化促進や離職者職業支援の一環として、厚生労働省はハローワークの職業訓練でデジタル分野における講座を開講した企業や教育機関に、訓練委託費用を上乗せして給付するなど行い、育成環境の充実を促しています。ハローワークが地域のIT人材の供給源となることで、地域企業のDX化を促進し、生産性向上に結びつけることが期待されています。

教育機関等におけるデジタル人材育成の環境づくり

文部科学省は高等教育機関におけるデジタル人材育成のための対策として、小学校教育から1人1台のデバイスで行う授業やクラウド環境の整備などを掲げた「GIGAスクール構想」を推進しています。また高等教育においては、高速大容量ネットワークを利用して海外の教育機関と連携し国際的な教育を受ける機会を増やすことで、世界で通用するIT人材の育成を目指しています。

これから育つIT人材に期待

日本のIT人材の需要と供給の差は年々広がり、2030年には80万人の不足が予想されています。国内のIT技術の進化が遅れることは、国際的な競争力が低下すると同時に、日本経済そのものの衰退をもたらします。そこで、政府や企業、教育機関が一丸となり、IT分野への若年層や社会人の取り込みのため、ポータルサイトや各地で講座を開講するなど、学ぶ機会を増やす工夫をしています。年功序列によらない評価制度の整備や、現在業務に従事しているIT人材の待遇改善など様々な課題がありますが、日本のIT人材確保に向けた本格的な対策は今始まったばかりです。これからIT分野の発展を担う人材の増加、IT先進国になれるかが、日本の今後の発展を左右する鍵となるでしょう。 
 

この記事を書いた人

ビジネス・テクノロジスト 貝田龍太