Web3.0でライフスタイルが変わる?
新時代のWebサービスとその課題
 

大企業がビックデータを占有してきたWeb2.0時代が終わり、利用者全員が共同でデータを管理・運用するWeb3.0時代の到来が近づいています。Web3.0とそれを支えるブロックチェーン技術は、「メタバース」や「NFT」と呼ばれる代替の効かない暗号資産、分散型自律組織「DAO」の実現に欠かせません。次世代のインターネット技術であるWeb3.0時代の到来は、私たちの暮らしに大きな変化と新しい市場の可能性を与えてくれることでしょう。しかし、日本においてはWeb3.0や暗号資産に対する認知、理解、そして法整備が進んでおらず、Web3.0を活用したサービスが増えていないのが現状です。 
Web3.0時代の到来で広がりを期待される新技術とその課題について見ていきましょう。 

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Web3.0時代の新ビジネスとは

ブロックチェーンの分散管理技術によって支えられるWeb3.0は、これまでになかった様々なビジネスやサービスを生み出します。Web3.0時代の到来とともに注目されている事例について具体的に見ていきましょう。 

NFT

非代替性トークンとも呼ばれる「NFT」は、ブロックチェーン上のデジタルデータに唯一無二のしるしをつけることで、デジタルデータの唯一性を保証し資産価値を高めることができる技術です。NFTを得たデジタルデータは交換や複製が非常に難しいため、デジタルアートを作成したクリエイターの著作権が保護できると期待されています。これによって絵画や音楽などのデジタルアート作品や、ゲームやアニメのようなデジタルコンテンツ、著名人のSNSへの書き込みといった様々なものに付加価値をつけることができます。今後は更に幅広い分野で活用が広がっていくでしょう。 

メタバース・P2E

仮想空間「メタバース」も様々な広がりを見せており、多くの人がメタバースの一種であるオンラインゲームを楽しむようになりました。さらに、メタバース内で現実に酷似した経済活動を行えるようになったことで、「P2E( Play to Earn )」と呼ばれる遊びを通して稼ぐことができるゲームが次々と誕生しています。 

バーチャル空間で自由に建築やキャラクターデザイン、自作コンテンツ作成などが楽しめる「The Sandbox」やモンスターを使って対戦する「Axie Infinity」などのゲームではNFTの作成・取引によってお金を稼ぐことができるようになっており、新たな働き方の可能性として注目を集めています。

DAO

DAO(Decentralized Autonomous Organization)とは「分散型自律組織」を意味し、特定の所有者や管理者がいなくても、事業やプロジェクトを自律的に推進できる組織を指します。株式会社などの従来の会社組織とは全く異なり、一つのプロジェクトに対し不特定多数の作業者が自由に参加可能です。

DAOはガバナンストークンと呼ばれる仮想通貨を持つことで意思決定に参加することができます。ガバナンストークンは株式会社における株式に相当し、その保有量に応じて議決権が与えられます。意思決定の内容はブロックチェーン上のスマートコントラクトに記録され、これを書き換えることは困難なため、透明性の高い組織運営が可能です。

DAOはプロジェクトごとに組織され、好きなプロジェクトに参加することができます。また複数のDAOを掛け持ちすることも可能です。DAOによって、起業や転職、副業といった働き方の自由度も一気に拡大するでしょう。

Web3.0の課題① 技術的な課題

技術が進歩したことでWeb3.0やブロックチェーンの実用化が進みましたが、それに伴って技術的な課題も判明しつつあります。Web3.0が抱える技術的な課題について見ていきましょう。 

スケーラビリティの低さ・処理速度の限界

Web3.0の分散型インターネットは通信するデータ量が非常に大きく、取引履歴の処理をノードと呼ばれるネットワーク参加者のマシンパワーに依存しているため、スケーラビリティに問題があるとされています。利用者が増えれば増えるほど、データのやり取りに負荷がかかり、取引記録を処理するまでに時間がかかってしまうのです。 

一般的なクレジットカードの取引記録処理数が1秒間で最大56,000件であるのに対し、ビットコインやイーサリアムなどでは5~25件と極めて不十分な状態にあります。迅速な決済が行えないため、仮想「通貨」でありながら通貨としては非常に使いにくいのが実情です。

【参考】ブロックチェーンのスケーラビリティ問題(処理性能の問題) 

セキュリティ

分散型の管理を行うブロックチェーンは耐改ざん性が強いとされていますが、それでも悪意のある個人やグループによって攻撃を受けるリスクがないわけではありません。例えば、悪意のある集団がマイニングの計算能力の過半数を占めると、ネットワーク全体を支配できてしまうという問題が知られています。これによって即座に過去のデータが改ざんされるわけではありませんが、マイニングの独占や、これから行われる取引の妨害を行えることが問題です。

対策として、現在のPoWと呼ばれる承認アルゴリズムに代わる仕組みの導入が議論されています。

Web3.0の課題② 制度・運用面での課題

Web3.0には、制度や運用面でも様々な課題があります。これらの課題を通して、今後のインターネットのあるべき姿について考えていきましょう。

わかりにくい・使いにくいサービスが多い

Web3.0を利用したサービスやアプリはまだ日本語対応しているものが多くありません。Web3.0やブロックチェーンの概念が難しいうえ、使いやすいアプリも日本では少ないため、一般への認知が進まず、利用者が増えていかない点が大きな課題です。 
先ほど例にあげたP2Eゲーム「The Sandbox」内で使われる仮想通貨「SAND」も2022年5月24日に日本で初めてCoincheckで取り扱うようになったばかりという具合で、気軽にチャレンジするにはまだまだハードルが高いと言えます。 

自己責任の度合いが強い

Web3.0は利用者間の取引に仲介者が存在しないことが大きな魅力ですが、同時に利用者がリスクを背負う必要もあります。例えばIDやパスワードを忘れてしまった場合、従来であれば即座に再発行の手続きをすることができましたが、Web3.0では原則として再発行はできません。またシステムの不具合によって暗号資産が流出・消失してしまった場合も、利用者が損害を負担する必要があります。

実情に即した法整備が進んでいない

暗号資産や仮想通貨の売買で得た利益に対する税法上の扱いや著作権に関する問題など、日本でも徐々に法整備が進み始めました。しかし、前例が少なく暫定的に定められた法律であり、資金調達のためにNFTを発行したスタートアップ企業には厳しい税制だとも言われています。そのため暗号資産に課税しない国に拠点を移す企業が増えており、資産の海外流出が懸念されています。 

Web3.0がある未来

Web3.0は私たちの個人的な情報資産を企業に預けるのではなく、自分たちで管理していくという理念のもと生まれました。しかし、それを支えるブロックチェーンには技術・制度面で様々な課題が残っています。また仕組みそのもののわかりにくさに加え、自己責任の度合いが強いことも普及の足かせとなっています。Web3.0が世間一般にとって身近なものになるにはまだまだ時間がかかるでしょう。

しかし、こうした課題を乗り越えた先には、夢と可能性に満ちた世界が広がっていることも間違いありません。Web3.0が生み出す様々なコミュニティ、組織、そして働き方は、新しいグローバルな社会・経済圏として大きな期待が寄せられています。技術や制度も日々改善されています。常にアンテナを張り、今後の動向に注目しましょう。

この記事を書いた人

ビジネス・テクノロジスト 貝田龍太