第3次AIブームの火付け役!
ディープラーニングの仕組みと活用事例、そして課題とは

AIの歴史は流行り廃りを繰り返し、現在は第3次AIブームを迎えています。実生活の中でもAIと共存する場面が増えており、そのAIの働きを支えているのがディープラーニング技術です。人間の手を介することなく、AIが独自で認識・判断・操作するためには欠かせない技術であり、現在のブームが続いている要因にもなっています。では、ディープラーニングとは具体的にどのようなものでしょうか。AIの歴史を振り返りつつ、ディープラーニングの仕組みや活用事例、まだ残る課題について紹介します。 

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AIブームの歴史

AIの研究は1950年代から続いており、10~15年おきにブームと低迷期を繰り返しています。ここでは、それぞれのAIブームについて見ていきましょう。 

第1次AIブーム

1956年、ダートマス会議で計算機科学者のジョン・マッカーシーが初めて「Artificial Intelligence(AI)」という言葉を使ったのを機に、多くの研究者が人工知能の研究を始めました。1950年代後半から1960年代にはコンピュータが「推論」や「探索」をし、特定の問題に対してその答えを出すことができるようになり、第1次AIブームを迎えます。しかし、単純な仮説に対する答えは出せても様々な要因が絡む現実社会の問題については答えられないと判明したことで、第1次AIブームは収束しました。 

第2次AIブーム

第1次AIブームの終了から10年ほどたった1980年代に、再びAIブームが訪れます。このブームではコンピュータに「知識」を与え、コンピュータが専門家のように振る舞うエキスパートシステムが多数生まれました。エキスパートシステム自体は1972年に開発されていましたが、日本では「第五世代コンピュータ」という大型プロジェクトの一環として研究が進められます。しかし、与えるべき「知識」量が膨大なうえ、コンピュータ自ら収集できずに人間が与える必要があったため、限界を感じるとともにブームは終わりを迎えました。 

第3次AIブーム

2000年代に入ると第3次AIブームが訪れます。ビッグデータと呼ばれる大量のデータからデータの規則性をAI自らが見つけ出して学習する、いわゆる機械学習が可能となったことがブーム到来の大きな要因です。この機械学習と、ディープラーニングの手法が開発されたことによってAIが著しい進化を続けており、画像認識や音声認識など様々な分野で活用され、実生活にも大きな影響を与えています。 

【参考】第1部 特集 IoT・ビッグデータ・AI~ネットワークとデータが創造する新たな価値~

ディープラーニングとは

第3次AIブームの要とも言えるディープラーニングは、コンピュータを人間の脳の構造と同じ仕組みにすれば人間と同じように解決できるようになるという仮説に基づいて考えられた技術です。 

ディープラーニングの仕組み

ディープラーニングの原型はニューラルネットワークと呼ばれる、脳の神経細胞とそのネットワークの働きを模倣したものです。ニューラルネットワークは「入力層」「隠れ層」「出力層」の3つの階層で構成されており、それぞれの層には複数の人工ニューロンがあります。この中で「隠れ層」が2層以上の多層化されたニューラルネットワークをディープラーニングと呼びます。中でも、畳み込みニューラルネットワークはデータから直接学習を可能にするためのネットワークアーキテクチャで、人間の手による特徴抽出が不要です。これにより画像や音声などを高い精度で解析できるため、様々な場面で活用されるようになりました。 

AI・機械学習・ディープラーニングの違い

機械学習はAIの1つの手法です。膨大なデータからルールや判断基準を学習し、それを元に予測・判断する技術のことを指します。機械学習は「教師あり学習」「教師なし学習」「強化学習」の3つに分類され、それぞれ回帰や分類、データのグループ分けや情報の要約に利用されたり、ゲームの人工知能として応用されたりします。一方、ディープラーニングは機械学習の新しい手法です。今までの機械学習では判断の基準を人間が教える必要がありましたが、ディープラーニングによってAI自身が判断の基準を見つけ出すことができるようになりました。

どこで使われている?ディープラーニングの活用事例

実生活の様々な場面で活用されているディープラーニングですが、どのように利用されているのでしょうか。活用事例を見てみましょう。 

天気予報

一般財団法人日本気象協会は2019年、ディープラーニングを利用することで降水予想の精度を上げる技術を開発しました。これにより従来の20km四方を3時間単位から、5km四方を1時間単位で予測できるようになり、ダムの効率的な運用や洪水予測の精度向上へ応用することで、防災面でも役立てることが可能となったのです。 

自動運転

車の自動運転はレベル1~5まで設定されており、レベル3~5はドライバーではなくシステムによる監視です。日本国内では2025年までに高速道路での完全自動運転(レベル4)を実現できるよう開発がすすめられています。車に取り付けられたカメラやセンサーから得られる情報により、システムが状況を認識・判断・操作をする技術はディープラーニングが利用されています。 

【参考】国土交通省 自動運転のレベル分けについて 

医療分野

最も代表的なものがレントゲンやMRIなどの画像認識による診断です。最終的には人間の医師が判断しますが、AIを用いることで短時間で大量に診断することができます。また、医薬品の開発には通常数年かかりますが、ディープラーニングの活用により生産性の向上が可能です。 

製造業

製造業では検品や在庫管理、生産ラインの安全確保などにディープラーニングが活用されています。これにより、ヒューマンエラーの低減、労働力不足の解消、生産性・安全性の向上だけでなく、熟練者の知識や技術を継承することができるため品質の低下を防ぐことが可能です。 

音声認識

音声データをテキストデータへ変換する音声認識でも、ディープラーニングを活用することで誤認識などによるエラーが減り、精度が格段に上がりました。一般家庭にも浸透しているスマートスピーカーだけでなく、コールセンターや医療現場での電子カルテなどビジネスの場面など様々な場所で用いられており、今後も活躍の場は広がっていくでしょう。 

【関連記事】音声認識でコールセンター業務を効率化!音声認識の仕組みとノイズ対策

AIの責任は誰が背負う?ディープラーニングが生み出す様々な課題

ディープラーニングにより進化を続けるAIですが、AIが社会に浸透したことで新たな課題も生まれています。ここではディープラーニングの課題について解説します。 

【関連記事】AIが人を差別する?AI倫理の課題、そしてAIに善悪の判断はできるのか

自動運転の課題

ディープラーニングによって高度な自動運転が実現しつつありますが、それに伴いAIが事故に巻き込まれる・事故を引き起こすといったケースが想定されるようになりました。AIが人に危害を及ぼしてしまった際に、誰が罰せられるのか・責任を負うのかといった点には議論があります。またどのような判断をしても誰かが損害を負うという、いわゆる「トロッコ問題」のような状況でどのような判断をすべきか、といったことも課題です。

ブラックボックス問題

AIは膨大なデータから特徴を読み取り判断を下すことは得意ですが、判断の理由を説明することは苦手としています。そのため、AIによる自動運転車が事故を起こした場合、なぜ事故に至る判断をしたのかがわからず、そのため改善の手立てが見つからないといった事態が起こるかもしれません。こうした問題を「ブラックボックス問題」と呼びます。

他にも、AIによって人材採用を自動化したところ男性ばかりを採用してしまい女性が除外された事例や、ローンの審査で有色人種に不利な判定が行われた事例など、学習データそのものに偏りがある場合に公平な判断ができないといった課題もあります。

破壊的忘却

AとBという2つの文字を識別できるように学習させたAIに対して、新しくCという文字を学習させると、以前は識別できていたAとBが識別できなくなるといった事態が起こります。一度覚えたことを忘れてしまったように見えることから、この現象を「破壊的忘却」と呼びます。新しい学習データを追加することでかえって性能が低下してしまうことから、破壊的忘却はニューラルネットワークの重大な欠陥とされています。GoogleのAI開発部門であるDeepMindはデータを記憶し、連続的に学習ができるアルゴリズム「Elastic Weight Consolidation(EWC)」を開発しました。こうした取り組みによって、破壊的忘却の問題は時間とともに解決されていくでしょう。 

AIの進化に欠かせないディープラーニング

今や私たちの生活になくてはならないと言っても過言ではないAIの進化を支えているのは、ディープラーニングの技術です。人間が情報をインプットせずとも、AI自ら必要な情報を探し出し、そこから答えを出していくためにはディープラーニングが欠かせません。この技術を活用することにより、防災や交通網などの安全面もますます発展していくことでしょう。しかし、ディープラーニングには課題が残っていることも事実です。倫理的な課題もありすぐに解決することは難しいですが、進化を続けるAIによって私たちの社会がより良くなることを期待しましょう。 


この記事を書いた人

ビジネス・テクノロジスト 貝田龍太