量子プログラミングとは?
これまでのプログラミングとの違いや開発言語について解説 

いま最も脚光を浴びている先端技術のひとつに、「量子コンピュータ」があります。従来型のコンピュータでは容易に解くことのできない問題を、量子コンピュータを使って瞬時に解く可能性があるため、その活用がさまざまな分野から期待されています。コンピュータを操作するにはプログラミングが必要ですが、量子プログラミングとはいったいどのような技術なのでしょうか?この記事では、これまでの古典的なプログラミングとの違いや、量子プログラミングの要となる量子アルゴリズムの事例、量子プログラミング言語の種類や学び方について解説します。

量子プログラミングとは

量子プログラミングとは、次世代コンピュータと呼ばれる量子コンピュータを用いて、量子アルゴリズムの表現を実現するプログラミングのことです。量子コンピュータは、量子力学の現象を利用して、これまでのコンピュータでは膨大な時間をかけなければ解けなかった複雑な計算を、瞬時に解くことが可能です。プログラミングにあたっては、まったく新しい計算技術が必要となるため、従来のソフトウェアの開発手法は通用しません。量子コンピュータのための、新しい概念を持ったプログラミング技術を学ぶ必要があります。

量子コンピューティングと古典コンピューティングの違い

量子コンピュータの世界では、今まで一般的に使われてきたコンピューティング手法を「古典コンピューティング」と呼び、「量子コンピューティング」との違いをはっきりと区別しています。つまり、従来の情報技術とは別次元のものということです。

量子コンピューティングとは

量子コンピューティングとは、量子力学特有の原理を用いて、これまで不可能だった情報処理を可能にした新たなコンピューティングのことです。量子コンピュータは、「重ね合わせ」や「もつれ」「干渉」といった量子力学特有の振る舞いを、量子コンピューティングに応用します。

古典コンピューティングとの違いは

古典コンピューティングとは、今日のほぼすべてのコンピューティングのことを指します。情報を「Bit(ビット)」という単位によって「0」か「1」のどちらかで表現し、CPUに搭載された演算装置で処理を行います。それに対して量子コンピューティングの単位は「qubit(キュビット)」で、情報を「0」と「1」を重ね合わせた状態で、同時に表現します。ひとつの情報単位が0でもあり1でもある点が、古典コンピューティングとはまったく異なる点です。この違いによって、これまでにない圧倒的な処理能力が実現できるとされています。

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【参考】aws「量子コンピューティングとは」

量子アルゴリズムの事例

量子コンピュータの能力を引き出すためには、その中核技術としての「量子アルゴリズム」が必要となります。量子アルゴリズムとは、量子力学の原理を使って問題を解く方法のことで、量子コンピュータの頭脳ともいえる部分です。近年、量子アルゴリズムの開発は加速していますが、その中から代表的なアルゴリズムの事例を紹介しましょう。

グローバー(Grover)の探索アルゴリズム

量子アルゴリズムの事例としてよく知られているのが、1996年にロブ・グローバーによって開発された、「グローバーの探索アルゴリズム」です。これは、整列化されていないデータベースの中から、特定のデータを探索するための量子アルゴリズムです。たとえば「フルーツ名の日本語と英語の対応表から、マンゴーの英語名称を探索せよ」という問題が設定された場合、古典コンピュータでは表の上から順番にマンゴーの日本語名称をチェックしていきますが、探索アルゴリズムでは一度にすべての日本語名称を取り出し、マンゴーを選んだ上で次の処理に進むので、短時間で答えを出すことができます。

ショア(Shor)の素因数分解アルゴリズム

「ショアの素因数分解アルゴリズム」もまた、量子アルゴリズムの事例として非常に有名です。これは1994年にピーター・ショアによって開発されたアルゴリズムで、古典コンピュータよりもはるかに効率的に、大きな数の素因数を生成することができます。たとえば100桁の数の素因数を見つけるために、古典コンピュータでは複数の機器を使っても、因数分解に数年かかる可能性があります。しかしショアのアルゴリズムを実行すれば、1台の量子コンピュータを使って、簡単に問題を解決することができます。

【参考】三菱総合研究所50周年記念サイト「量子コンピューターの特徴を活かすアルゴリズムの開発」

量子プログラミングに用いるプログラミング言語

 量子プログラミングに用いる、代表的なプログラミング言語やツールをご紹介します。

「Q#」

量子コンピュータのプログラミング言語として代表的なものに、マイクロソフトが中心になって開発した「Q#」があります。Q#は量子アルゴリズムを開発・実行するためのプログラミング言語で、マイクロソフトの「Quantum Development Kit」に含まれています。Quantum Development Kitは、アプリケーション構築のための総合開発環境である「Visual Studio」に統合されているので、非常に使いやすいという特徴があります。

「QuTiP」

「QuTiP」はQuantum Toolbox in Pythonの略で、理化学研究所が中心になって開発した、量子系の数値計算に特化したソフトウェアです。Pythonから呼び出すことができるので、日頃Pythonを使っている人にとっては使いやすく、量子力学のライブラリとして活用できます。

「IBM Quantum Composer」

開発者が量子回路を設計、可視化、実行することができる量子プログラミングツールが、「IBM Quantum Composer」です。実際の量子システム上で実行するための量子回路を、「IBM Quantum Composer」を使うことによって、視覚的に構築することができます。ブロックを組み立てるようにして量子回路を作成するので、グラフィカルでわかりやすいのが特徴です。さまざまなプログラミングレベルに対応しており、量子プログラミング初心者の方にもおすすめです。

【参考】Microsoft「Q# 量子プログラミング言語ユーザー ガイド」
【参考】IBM Quantum Computing

量子プログラミング言語の学び方

Qiskitを活用する

初心者の方が新しく量子プログラミングを学ぶ場合に、利用しやすいソフトウェアとしておすすめなのが、IBMが中心になって開発した「Qiskit」です。Qiskitは量子コンピューティングのためにオープンソース化されたソフトウェアで、Pythonをベースとしています。Qiskitを使って実際の量子コンピュータに命令を出すことができ、学習コストも比較的安く、テキストや動画などの教材も豊富です。コミュニティが活発なので、疑問点があればそこで質問することもできます。

プログラミングセミナーを受講する

プログラミングセミナーを受講するのも、ひとつの方法です。たとえば量子コンピューティングのプラットフォームを開発する企業などが、エンジニアを対象として、無料版の自社製品を使ったプログラミングセミナーを開催しています。「Pythonの基本的な知識があること」といった条件はありますが、実際にプログラミング体験をすることで、量子コンピューティングの大まかな仕組みを理解することができます。

Webのプログラミング講座を受講する

Web上で量子プログラミングの学習ができる講座もあり、仕事の空き時間や休日などに、こうした講座を受けるという方法もあります。古典プログラマー向けに、量子プログラミングの入門編から受けられる講座もあるので、自分のレベルに合わせてマイペースで学ぶことができます。

書籍や動画で学ぶ

量子プログラミング言語に関して、初心者向けにさまざまな書籍が販売されているので、それを何冊か読むことでかなり知識がつきます。また、インターネット上の動画にも、量子プログラミングについてわかりやすく解説したものが出ています。JavaScriptなどのメジャーなプログラミング言語に比べるとまだまだ数は少ないのですが、わかりやすく学べそうなものを選んで視聴することで、自分の知識にすることができます。

量子コンピュータの実用化に期待が高まる

量子プログラミングについて解説しましたが、現時点ではまだ量子プログラミングのできる人材が圧倒的に少なく、政府は国を挙げて優れた人材の育成に力を入れています。今後量子コンピュータが実用化されれば、次世代コンピュータを扱う技術者の数も、大幅に増えることでしょう。将来に備えて、量子プログラミングの知識を身につけておくことも、重要かもしれません。


この記事を書いた人

ビジネス・テクノロジスト 貝田龍太