ジェネレーティブAI(生成AI)とは?
~第2部 ジェネレーティブAIの活用事例と今後の課題について解説~

第1部ではジェネレーティブAIの歴史や仕組みについて解説しましたが、今回はジェネレーティブAIが実際にどのように活用されているのか、具体的な事例を挙げてご紹介します。また、新時代を切り拓く技術として注目されるジェネレーティブAIですが、倫理的な問題など、解決すべき課題が数多くあることも事実です。ジェネレーティブAIの登場によって新たに生まれた問題と、これから求められる対策についても、合わせて解説します。

ジェネレーティブAI(生成AI)の活用事例

ユーザーの質問に会話形式で答える「ChatGPT」

ジェネレーティブAIの活用事例といえば、真っ先に挙げられるのが「ChatGPT」です。もはや説明の必要がないほど有名になったのはChatGPTですが、活用の仕方は実にさまざまあります。

たとえば「LINE公式アカウント」の中にあるLINEBOTとChatGPTを連携させると、LINE内でChatGPTの機能を使えるようになります。株式会社piconが提供している「AIチャットくん」は、LINEで友達追加をするだけで、LINE内でChatGPTの機能が気軽に使えるようになります。
まるでLINEで知人とやり取りをするように、何でも相談できるので、いま急激にユーザーが増えています。
また、オンラインで講師が生徒に学習を行う「オンライン学習サービス」にも、ChatGPTが活用されています。「みんがく」というオンライン学習サービスでは、生徒の添削をする際に、ChatGPTが対応できる部分はChatGPTに任せ、業務の効率化を図っています。

それ以外にも、カスタマーサービスやコンテンツ制作、調査分析、ソフトウェア開発など、ビジネスのさまざまな場面でChatGPTが活躍しています。

段差を乗り越えられる、現代自動車の「歩く自動車」

韓国の自動車メーカーである現代自動車(ヒュンダイ)は、四足歩行ができる自動運転EVのコンセプトカー「Elevate」を発表しました。
この「歩く自動車」のコンセプトデザイン設計には、ジェネレーティブAIが採用されています。
それによって、強度や重量、コスト、製造上の複雑さなどをクリアするアイデアを、AIから創出することができました。Elevateは、舗装された道を走るときは、脚を折りたたんで普通の車として走ります。
そしてオフロードに出たら、脚を少し伸ばして走ることで、悪路でも車体を水平に保って走行することができます。
哺乳類と爬虫類の動きを再現した、2種類の歩き方を使い分けるので、段差を乗り越えるなど複雑な地形にも対応できるという優れモノ。実用化が進めば、さまざまな場面で活躍することでしょう。

創薬の時間とコストを削減する、エヌビディアの「BioNeMoサービス」

ジェネレーティブAIの活用が大いに期待される分野のひとつに、ヘルスケアがあります。
たとえば製薬会社では、ひとつの医薬品が世の中に出るまでに10年以上かかるため、創薬の時間とコストをジェネレーティブAIによって削減することができれば、経営に大きなプラスとなります。その期待に応えたのが、エヌビディアの創薬向け生成AIプラットフォーム「BioNeMoサービス」です。
製薬の研究者が、このサービスを新たな分子構造の生成や予測に活用することで、医薬品開発が加速することが期待できます。

まるで本物!データグリッドの「全身モデル自動生成AI」

ジェネレーティブAIを活用して、この世に存在しない画像や動画を生み出す技術として話題を呼んでいるのが、「GAN(敵対的生成ネットワーク)」です。GANを使うことで、たとえば企業のブランドイメージにピッタリの架空の人物を作り、服装や髪型などを自由自在にカスタマイズすることができます。これを活用することで、モデル撮影が不要になり、手間とコストを大幅に削減できるのが大きなメリットです。AIベンチャーのデータグリッドは、このGANを使って、実在しないモデルの全身画像を自動生成するAIシステムを開発しました。1024×1024ピクセルの高解像度の画像を生成でき、広告やアパレル関連企業などでの活用が期待されています。

【関連記事】ChatGPTの社内ナレッジ対応を実現!ビジネスを加速させる「ファインチューニング」とは?

【参考】パナソニックの顔認証ゲート

【参考】ヘルスケア領域における生成AI活用事例――医薬品開発、患者対応に高い期待

【参考】AIがモデルのライバルに? 「全身画像」量産サービスが始動

ジェネレーティブAIの今後の課題

ジェネレーティブAIの驚異的なテクノロジーは、人々に多大な恩恵をもたらした半面、倫理上の問題などこれまでにない問題も引き起こしました。開発者は、こうした新たな問題とも真摯に向き合い、人間とAIが共生する道を模索していく必要があります。

AIの急速な発展に、法整備が追い付かない現状

ジェネレーティブAIは膨大なデータを活用するため、データの著作権を侵害するのではないかという問題が沸き上がっています。

たとえばクリエイター向けの業務効率化サービスを提供するラディウス・ファイブは、AIイラストメーカー「mimic(ミミック)」を公開しましたが、わずか1日で公開停止となってしまいました。AIがさまざまなイラストの特徴を学習し、それに似た画風のイラストを自動生成するため、「クリエイターが作成したイラストを悪用する可能性があるのでは?」など、さまざまな懸念の声が挙がったためです。

AIが急速に発展し、その技術に法整備が追い付かないというのが、現在のAI倫理の現状です。

事実と異なる情報を生成してしまう危険性

倫理上の課題以外に、「ハルシネーション」の問題も指摘されています。
ハルシネーションとは、直訳すると幻覚という意味で、人工知能(AI)が事実に基づかない情報を生成してしまう現象のことです。たとえばChatGPTのような会話型のAIサービスの場合、万が一質問に対する回答が誤情報だったときに、ユーザーがその情報を信じ込んでしまう可能性があります。
AIがどのデータをもとに回答したのかによって、情報の信頼性に問題が発生するというのが、ジェネレーションティブAIの課題のひとつとなっています。

開発者に求められる、責任ある研究とイノベーション

ジェネレーティブAIのツールの開発者は、いまAI倫理のフレームワークをしっかりと持つことが、求められています。簡潔で実行しやすい原則を決め、それに沿って技術を開発していくことで、責任ある研究とイノベーションを実現することができるでしょう。

利用者の倫理感も、今後の大きな課題

開発者だけでなく、利用するユーザー側の倫理観も、今後の大きな課題となっています。
AIから得た不正確な情報をSNSで拡散してしまったり、画像などのデータを不適切な目的に使ったりする危険性もあります。
また、個人のプライバシーや名誉を侵害するような情報を、意図的に発信することもあり得ます。開発する側と、それを受け取る側、双方の倫理観がしっかりしていないと、安心してAIの開発を進めることはできません。

【参考】画像生成AIが巻き起こした「盗用」問題 追いつかぬ倫理規定と法整備

【参考】ハルシネーション

未知の領域に果敢に挑む、ジェネレーティブAIの開発者

ジェネレーティブAIはまだ開発途上の技術だけに、倫理や誤情報の問題など、解決しなければならない課題が山積しています。
しかし私たち人類にとって、ジェネレーティブAIがけっして欠かすことのできない技術であることは、間違いないでしょう。ときには、せっかく公開したサービスが利用停止になるなど、予想もしないトラブルが起こることもあります。
しかし、ジェネレーティブAIの開発者はあきらめることなく、壁にぶち当たりながら突き進んでいます。AIサービスを利用するユーザー側も、そんな開発者に敬意を払いつつ、自分自身もしっかりとしたAI倫理観を持つことが大切でしょう。

この記事を書いた人

ビジネス・テクノロジスト 貝田龍太