
相手が動く提案には、仕掛けがある
なぜ多くの提案が、手間をかけて資料を作っても「聞き流されて」しまうのでしょうか。その理由は、伝えるべき“中身”がないのではなく、「構成」と「感情」が設計されていないからです。
資料作成やプレゼンの本質的な目的は、理解を得ることでも、納得してもらうことでもなく、聞き手の“行動”を変えることにあります。にもかかわらず、私たちはしばしば情報を詰め込みすぎたり、声のトーンや伝え方に無頓着だったりします。聞き手の心を動かすには、感情の流れに沿ったストーリーと、それを支える構成が欠かせません。
あなたの提案は、「相手を動かす設計」になっていますか?
本記事では、行動を生む提案の技術を、構成・感情・演出の3視点から解説していきます。
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提案資料のコツ|構成より「共感」で行動を引き出す

多くの提案が響かないのは、情報が足りないのではなく、聞き手の感情に届いていないからです。特にビジネスの場では、論理的な資料ばかりが重視されがちですが、それだけでは人の心は動きません。人が動くのは、共感や納得を通じて「腹落ち」したとき。つまり、感情に届く提案こそが行動を引き出す鍵なのです。
ストーリーが人を動かす理由:共感・笑い・サプライズ
人が行動を起こすとき、動機となるのは「納得」よりも「共感」です。脳科学の観点では、物語を聞いたとき、脳内で自分が体験しているかのような反応(ミラーニューロンの活性化)が起こると言われています。笑いや驚きといった感情の揺れが加わることで、記憶への定着率は一気に高まり、後の行動にもつながりやすくなります。つまり、ストーリーは提案内容を“自分ごと”に変える強力な装置なのです。さらに、聞き手が自分の経験と重ねられるようなストーリー展開があると、理解と納得の深さが一段と増します。
構成の鉄則:三幕構成+エモーションの仕掛け
効果的な提案の基本は、「現状」→「問題提起」→「解決策」の三幕構成に、感情の起伏を織り込むこと。最初に共通認識を築き、次に「このままではマズい」という課題感を共有し、最後に明るい未来を描く。この流れの中に、笑いや気づき、意外性といった“感情のスパイス”を仕込むことで、聞き手はストーリーの一部になり、行動に向けて心が動きます。加えて、プレゼンの冒頭や締めで感情に訴える言葉を用いると、提案の印象はより強く残ります。
【参考】お客様の心に刺さる「共感」と「納得」を作るマル秘テク!プレゼン×『図解思考』 (note)
【参考】プレゼン資料の理想的な構成方法〜最後まで読み手に意識を集中し続けてもらうために〜
読まれなくていい!プレゼン資料は「感じさせる」が正解

提案の成否は「話す力」よりも、「感じさせる工夫」にかかっています。多くの人がパワーポイントの内容をそのまま読み上げるだけのプレゼンに慣れすぎていますが、それでは情報が頭に残らず、感情も動きません。行動を引き出すには、資料を補助的な存在と捉え、伝え方を主軸に据えるべきです。
文字を減らす勇気、図と動きで伝える力
スライドに文字を詰め込み、「読まれるプレゼン」をしていませんか?
資料は視覚補助であり、読むものではなく“感じさせる”もの。1スライド1メッセージを原則とし、グラフ・イラスト・アイコンなどのビジュアルで情報を視覚化することで、理解と印象が飛躍的に高まります。また、アニメーションや視線誘導をうまく活用することで、話の展開にも自然な流れが生まれ、聞き手の集中力を保つことができます。ビジュアルは、内容の抽象度が高いほど効果的に働き、複雑な概念を直感的に伝える助けにもなります。
声・表情・沈黙を使いこなす“プレゼンの演技力”
もうひとつの主役は「あなたの声」と「感情表現」です。
テンポ、抑揚、間(ま)を効果的に使うことで、プレゼンは一気にドラマ性を帯びます。緊張を恐れず、あえて「沈黙」を使うことも説得力のある演出となります。聞き手の印象に残るのは、論理よりも“演じられた感情”なのです。話し手自身がメッセージに感情を込めて語ることで、聞き手との心理的距離が縮まり、共感が生まれます。声のトーンひとつで、伝わり方は大きく変わるのです。
伝えるのではなく、“共創”する提案へ

一方通行の提案から抜け出し、聞き手と一緒に価値をつくることが、これからの提案の鍵です。デジタル時代においては、変化が早く、答えも複数存在することが当たり前。その中で求められるのは、情報の正確さよりも「共に創る」姿勢です。
一方通行をやめて、双方向を設計する
従来のプレゼンは「話す側が情報を提供するもの」と捉えられてきましたが、これからの時代は違います。提案は「共創のスタートライン」。あらかじめ問いを仕込み、相手の意見やアイデアを引き出す設計をすることで、聞き手を“提案の共犯者”にできます。結果として、相手は自分の意見が反映された提案に対して当事者意識を持ちやすくなることで、実行率も高まります。たとえば、提案の途中で「どう思いますか?」と問いを投げかけるだけでも、場の空気はガラリと変わります。
提案のゴールは“決裁”ではなく“納得”
どれだけ理路整然としていても、聞き手が「納得」しなければ動きません。提案の本当のゴールは、上司のOKではなく、現場で動き出すこと。聞き手の感情や背景に寄り添い、提案内容が「自分たちの課題を解決するものだ」と思わせることが大切です。共創型提案は、実行される提案の条件ともいえます。さらに言えば、“納得”とは、押しつけられた理解ではなく、「自分の考えとして腹落ちしている」感覚です。
資料づくりの極意|現場で活きるプレゼンの実践Tips

提案力は才能ではなく技術です。今日から実践できるアウトプットの工夫を紹介します。完璧を目指すより、「少し変える」だけでも成果は大きく変わります。日々の仕事の中で繰り返し実践することで、提案力は確実に磨かれていきます。
1スライド1メッセージの原則とストーリーボード作成法
まず意識すべきは、1スライド1メッセージのルール。伝えたいことを1枚に1つに絞り、見せる順番をストーリーボードのように構成していくことで、論理も感情も整理された提案になります。ビジュアル化する段階では、不要な情報を削ぎ落とし、思考をシンプルに“見える化”するスキルが求められます。さらに、聞き手が「この順番なら理解しやすい」と感じる流れを意識することで、提案の吸収率も向上します。
よくあるNGとOK例:デジタル人材育成のケースで解説
たとえば「デジタル人材が不足しています」という提案でも、「何が不足しているのか」「それがどんなリスクを生むのか」「どうすれば育てられるのか」というストーリー設計があるかないかで、受け手の印象はまるで変わります。NG例ではただ統計データを並べるだけ、OK例では現場の声や未来のビジョンを織り交ぜ、行動へと導いています。提案の中に“現場視点”や“感情”が入っているかが、実行に移されるかどうかの分かれ道なのです。
【参考】パワーポイントでの資料作りを基礎から解説
「伝える」から「動かす」へ、提案の本質は“共感設計”

優れた提案とは、相手の感情を揺さぶり、心を動かし、行動を促すものです。重要なのは、ただ伝えるだけでなく、どう共感させるか。そのためには「ストーリー × 感情 × 演出」の三要素が必要です。論理を超えて印象に残る提案は、構成で理解を支え、感情で心に火をつけ、演出で記憶に定着させます。そして最も大切なのは、聞き手を“主人公”にする視点です。自分ごととして提案を捉えてもらうことで、初めて人は動き出します。あなたの提案が、誰かの行動を変え、組織を変え、未来を変える。その起点となる「共感設計」を、今日から意識してみてください。