口下手でも大丈夫?顧客の信頼を得る営業の本質とは

多くの人が「営業は話が上手い人の仕事」だと思っています。
しかし実際に成果を出している多くの営業パーソンは、派手なトークより「丁寧に聞く力」で信頼を積み重ねています。
本記事では、“話すのが苦手”と感じていた2人の営業職が、聞く力を武器に成果を伸ばした実例を通じて、営業で本当に求められるスキルを掘り下げます。

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営業職に向いている人・向いていない人とは

営業というと、「コミュニケーション能力が高い人」「話すのが得意な人」が向いていると思われがちです。
しかし実際には、「営業に向く」「向かない」という分類にはステレオタイプや思い込みが含まれている ことも少なくありません。
ここでは、一般に言われる「営業に向いている人」「向いていない人」の特徴を整理し、多様な営業スタイルと実際の適性 について解説します。

一般に言われている「営業に向いている人・向いていない人」

営業に向いているとされる特性

  • コミュニケーション能力が高い
  • 相手の立場に立って考えられる(共感力)
  • メンタルが強く、失敗や批判に動じない
  • チャレンジ精神や目標達成への意欲が強い
  • 柔軟性や適応力がある
  • 自己管理能力や体力がある
  • 好奇心が旺盛

営業に向いていないとされる特性

  • 話すことが苦手、会話や社交性に乏しい
  • 打たれ弱く、プレッシャーや失敗に落ち込みやすい
  • 完璧主義やプライドが高すぎて、柔軟性や妥協ができない
  • 共感力が低く、相手の気持ちを理解できない
  • 競争心や向上心がなく、現状維持を好む
  • 計画倒れやめんどくさがり、行動力に欠ける
  • 行動範囲が狭く、積極的に動くことが苦手

これらの特徴は一見もっともらしく見えますが、「話すのが苦手=営業に向かない」 というのは代表的な誤解の一つです。

「コミュニケーションが苦手=営業に不向き」は本当か?

「コミュニケーションが苦手だから営業に向かない」という見方は誤りです。
営業の適性は、表面的な会話力ではなく、その人の資質やスタイル、環境との相性 によって大きく変わります。
むしろ、コミュニケーションが得意でない人ほど、相手の話を丁寧に聞き、本音やニーズを引き出す力 に優れていることがあります。
それが営業現場での信頼構築の強み となるケースも少なくありません。

たとえば、「聞き上手」であれば、顧客の信頼を得やすくなります。
無理に話す必要はなくても、相手のニーズや課題を正確に把握し、それに合った提案ができれば、成果は十分に上げられます。

【参考】人見知りは営業に向いている?

口下手と聞き下手の違い

口下手と聞き下手は、似ているようで実は大きく異なります。
口下手とは、話すのが得意でないというだけであり、プレゼンや会話の場で自分の考えを言葉にするのに時間がかかることがあります。
しかし、話すのが苦手でも相手の話を丁寧に聞き、誠実に理解しようとする「聞き上手」である場合も少なくありません。
一方の聞き下手は、相手の話に集中できず、本音や潜在的なニーズを引き出すのが苦手なタイプです。
営業では、顧客の課題を正確に把握して解決策を提案する力が求められるため、聞き下手は大きなハンデになります。
営業において「聞き上手」は最大の武器です。
顧客の声に耳を傾け、その背景や意図を汲み取ることが、信頼構築と成約に直結します。

会話と対話の違い

営業では、単なる会話ではなく、顧客の本音やニーズを引き出す「対話」が求められます。
会話は言葉のやりとりにとどまりますが、対話は互いの考えや気持ちを理解し合う双方向のプロセスです。
対話ができる営業パーソンは、相手の立場を理解し、信頼関係を築くことで、結果として高い成約率を実現します。

「プレゼン力」を考え直す

営業で求められるプレゼン力とは、単に情報を一方的に伝えるスキルではありません。
その目的は、顧客の課題やニーズを理解し、適切な価値を示しながら信頼関係を築くことです。
そのためには、相手の反応を読み取り、問いかけや会話を通して理解を深める力が欠かせません。
顧客の本音を引き出せれば、より的確な提案やアプローチが可能になります。
また、話しすぎず相手に発言の余地を与えることで、押しつけがましさを避け、信頼を得やすくなります。
営業のプレゼン力とは、相手に語らせ、共感を築く力でもあります。

「コミュニケーションが苦手」でも営業はできる!

「コミュニケーションが苦手だから営業に向かない」と感じている人は少なくありません。
しかし、その「苦手さ」こそ、聞き上手さや丁寧な対応という強みにつながる場合があります。
大切なのは、自分の資質に合った営業スタイルを見つけることです。
適した方法で提案やコミュニケーションを磨き、信頼関係を築いていけば、自分の特性を活かした成果を出すことができます。
営業の成功に「完璧なコミュニケーション能力」は必須ではありません。
自分の強みを理解し、それを活かすことで、誰でも営業で成長できる可能性があります。

営業に「正解の形」はない:自分らしいスタイルで成果を上げた2人のケース

営業というと、社交的でトークが上手な人が成果を出す――そんなイメージを持たれがちです。
しかし実際には、必ずしも「話すのが得意な人」や「押しの強い人」だけが成果を上げられるわけではありません。
ここでは、「聞く力」で信頼を得たAさん、そして「技術知識と情報発信」で新たな販路を開いたBさんの事例を紹介します。

Aさんの場合:話すのが得意でなくても「聞くスタイル」で結果を残す

学生時代からAさんはどちらかといえば静かで、聞き役に回るタイプでした。授業で発言を求められても少し考え込む癖があり、頭の中では伝えたいことがあっても、いざ言葉にしようとすると上手くまとめられませんでした。
就職して営業部に配属されたときも、「自分のように口下手な人間に営業は向いていないんじゃないか」と感じていました。周囲の先輩たちは明るく、初対面の顧客とも自然に雑談を交わし、次々と成果を上げていった。Aさんはその輪の中で自分だけ浮いているように感じていました。

そんなある日、チームミーティングの合間に、成績上位者の先輩がこう話しました。
「自分も実は話すのが得意じゃなかった。でも、お客さんの話をひたすら聞いてたら、自然と信頼関係ができていったんだよ」
その言葉にAさんは驚きました。営業で活躍している人ほど「話すのが上手い」と思い込んでいたからです。興味を持ったAさんは、社内の別の営業たちの商談スタイルを観察するようになりました。

すると、話し上手なタイプもいれば、淡々と聞きながら的確に整理していく人や、雑談より課題ヒアリングを重視する人など、同じ営業でも驚くほど多様なスタイルがあることに気づきます。そこでAさんは、「自分も、聞くスタイルでやってみよう」と決めました。会話の中では自分が話すよりも質問を投げかけ、顧客の発言をメモしながら要点を整理。商談後には聞いた内容をもとに課題をまとめ、提案資料に反映させました。

時間はかかりましたが、やがて顧客から「あなたはいつも話をしっかり聞いてくれるね」「一緒に考えてくれるのが嬉しい」といった言葉をもらうようになりました。紹介案件や問い合わせの件数も徐々に増え、半年後には部署内でも安定して成果を出す存在になりました。上司からも「強引に売らないのがAさんらしい営業だ」と評価されました。

話すことが得意ではなくても、相手の話を丁寧に聞き、理解を積み重ねることで信頼関係を築く。Aさんは、自分に合ったスタイルで、信頼を積み重ねる営業パーソンへと成長しました。

Bさんの場合:技術職から営業へ転身し、情報発信で新たな顧客層を開拓

Bさんはもともとエンジニアとしてシステム開発部門で働いており、顧客の要望を整理し、要件定義を具体化するのが主な業務でした。
技術者としての専門性を深める一方で、開発プロジェクトの打ち合わせを重ねるうちに、Bさんは顧客が求めている本質に気づきました。
「顧客は必ずしも技術を深く知りたいわけではなく、『どう解決してくれるか』を理解したいんだ」ということです。
技術の話をわかりやすく説明すると、顧客は安心した表情を見せました。顧客の理解が深まる瞬間に大きなやりがいを感じ、Bさんは営業職への異動を自ら希望します。

異動当初は、営業経験のなさや人前で話すことへの不安もありました。社内には「営業は話が上手くないと難しい」という雰囲気もありました。
しかしBさんは、技術的な視点と誠実な説明を自分の強みに変える道を選びます。
「無理に“営業らしく”見せるより、技術者らしく正直に伝えよう」と決め、顧客が感じるシステム運用の不安や課題に対して、根拠を示しつつ丁寧に説明しました。その姿勢が信頼を呼び、少しずつ成果が出はじめます。

さらにBさんは、社内でオウンドメディアの立ち上げを提案しました。
「技術者だからこそ書ける言葉で、顧客の不安を解消する情報を発信したい」と上司に説明し、自ら記事の執筆を担当。導入事例やトラブル回避のコツなどを具体的に紹介し、記事は多くの読者から反響を呼びました。

さらに、オンラインセミナーやウェビナーの企画・配信にも取り組みました。技術的な課題をわかりやすく解説するスタイルで新規見込み客を獲得し、「あの記事を書いた人が説明してくれるなら安心だね」と信頼を得て、これまで接点のなかった業界からも問い合わせが増加。
その成果として新しい販路を開拓し、年間契約件数の自己最高を更新しました。

Bさんの取り組みは、社内でも新しいモデルケースとして注目されました。
技術の専門知識と情報発信力を掛け合わせた営業スタイルで、「売る人」ではなく「信頼されるパートナー」として顧客と関係を築いたのでした。

ケーススタディから学ぶ「本当に必要なスキル」とは

話すのが得意でなくても、自分に合ったスタイルを活かせば成果を残せます。ここでは2つのケースを踏まえて、営業に本当に必要なスキルについて考えます。

自分らしい営業スタイルで信頼を築く

営業職において、「話がうまいかどうか」や「社交的かどうか」は、もはや成功を左右する決定的な要素ではありません。
むしろ、自分の強みを営業スタイルにどう結びつけるかが非常に重要です

Aさんのように「聞く力」を活かすスタイルもあれば、Bさんのように「専門分野の知識」や「情報発信力」を武器にするスタイルもあります。
共通しているのは、どちらも自らの個性を尊重し、それを基盤に顧客との関係を築いたことです。
この自己理解と適応のプロセスこそが、営業で長く成果を出すための最も重要な能力だといえます。

営業の強みは必ずしも「話す力」ではありません。顧客の本音やニーズを丁寧に聞き出す「傾聴力」は、信頼関係を築く上で大きな武器になります。コミュニケーションに苦手意識があっても、誠実に相手の話に耳を傾け、共感を示す姿勢があれば、顧客からの信頼を得やすく、商談が自然かつ効率的に進むことが多いです。

また、営業には「飛び込み営業」や「反響営業」、「ルート営業」、「コンサルティング営業」など、多様なスタイルが存在します。自分の特性に合った営業方法を選べる点が、営業職の大きな魅力です。最近では、マーケティングや提案力、データ分析といったトーク以外のスキルを活かせる場面も増えています。

どんな手法や業種の営業であっても、根底にあるのは信頼の構築です。
話し方やトークスキルだけではなく、「誠実さ」「一貫性」「相手を理解しようとする姿勢」が顧客の心を動かします。
近年では、顧客自らが多様な情報を比較・検討する傾向が強まり、営業担当者には単に「商品を売る人」ではなく、「課題解決を共に考えるパートナー」としての役割が求められています。

その意味で、傾聴力・共感力・説明力といったヒューマンスキルは、どんな営業形態にも共通する“基盤スキル”といえるでしょう。
成功のカギは、「自分に合った営業スタイル」を見つけることにあります。一生懸命に相手のことを考え、誠実に対応する姿勢は顧客に好印象を与え、顧客の立場を理解した提案は信頼関係を築きやすく、成績向上にもつながります。

成長のためのポイント

自分の強みを活かせる営業スタイルを見つける

営業で成果を出すには、自分の得意な部分を活かせるスタイルを選ぶことが大切です。たとえば、話すのが得意なら説明中心のスタイル、聞く力に自信があるならヒアリング重視のスタイルなど、自分に合った方法を意識することで、商談の効率や顧客の満足度が高まりやすくなります。

小さな成功体験を積み重ねる

日々の小さな成功を積み重ねることで、自信とモチベーションが高まりやすくなります。顧客からの感謝の言葉や、小さな成約も、確かな成長の実感につながります。

研修やPDCAサイクル、自己分析を活用する

PDCAサイクルで「何がうまくいったか・課題は何か」を分析することで、自分の強みと改善点が見えてきます。失敗もまた成長の糧になり、結果に一喜一憂するのではなく、経験をスキルに変える習慣を意識しましょう。

ロールモデルの模倣や学びを意識する

模倣と改善を繰り返すことで、自分だけの営業スタイルが少しずつ育っていきます。成果を出している先輩や同僚の商談スタイルを観察し、部分的に取り入れてみるのも効果的です。

苦手を言い訳にしないキャリア形成

自分の特性から出発したスタイルを築くことが、営業職におけるプロフェッショナリズムにつながります。営業職には、外向的な性格や華やかな話術が必ずしも必要というわけではありません。重要なのは、顧客と真摯に向き合う姿勢と、自分の資質を理解し、それを武器に変える工夫です。

営業に必要なスキル(まとめ)

営業で成果を上げるためには、以下のスキルが重要です。

  • 信頼獲得力(誠実さ、一貫性)
  • 傾聴力(顧客のニーズを深く理解)
  • 説明力(分かりやすく伝える力)
  • 判断力(状況に応じた柔軟な対応)
  • 共感力(相手の立場に立つ力)
  • 目標達成力(地道な努力とポジティブ思考)
  • 柔軟性(変化への対応力)
  • メンタルの強さ(失敗から学ぶ力)
  • タイムマネジメント能力
  • チームとの協調性

これらのスキルは、営業の現場で顧客との信頼を築き、成果を出すための基盤です。自分に合ったスタイルを選びながら、これらの力をバランスよく磨いていくことで、長く活躍できます。

キーワードは「自分の強み」と「傾聴力」

営業に“正解のスタイル”はありません。
大切なのは、自分の強みを理解し、それを活かして顧客に誠実に向き合うこと。
巧みな話術よりも、「相手の声を聞き、理解する姿勢」こそが信頼を生み、成果につながります。
そして、聞く姿勢こそが営業を支える最大の武器です。

この記事を書いた人

ビジネス・テクノロジスト 貝田龍太