まるで本物の人間と見間違うような、リアル感に溢れた「バーチャルヒューマン」が、いま注目を浴びています。バーチャルヒューマンは、いったいどんなビジネスシーンで、どのように活躍しているのでしょうか。また、私たちのビジネスや私生活に、バーチャルヒューマンはどんなメリットをもたらしてくれるのでしょうか。マーケティングの世界を変えつつあるバーチャルヒューマンの、概要と活用法について解説します。
【参考】メタバースの活用でカスタマーサクセスを実現! 顧客ロイヤルティを高めるコミュニティマーケティングとは?
バーチャルヒューマンとは
あたかも本物の人間のように見えるリアルなキャラクター
「バーチャルヒューマン」とは、言葉の通りバーチャル上の人間のことで、あたかも本物の人間のように見えるリアルなキャラクターのことを指します。コンピュータグラフィックスやAIの人工知能技術を用いて作られ、音声合成技術や3Dモデリングなどの技術を駆使し、人間そっくりの動作や表情ができます。
バーチャルヒューマンは、音楽番組などエンターテイメントの世界でも活躍しますが、企業の案内役として人間の代わりにアナウンスをしたり、携帯電話ショップで接客をすることもあります。ECサイト内で、ユーザーとコミュニケーションをとるバーチャルヒューマンもいます。
バーチャル案内係に受付の一部を任せることもできる
たとえば、東京都千代田区の凸版印刷神田和泉町ビルの受付には、等身大のリアルな女性の姿をしたバーチャル案内係がいます。これはVHサイネージと呼ばれるシステムの実証実験として設置されているもので、センサーで人を検知して、バーチャル案内係がアクションを起こします。
お客様は実際の人間と対話するように、バーチャルヒューマンを通じて受付や物品購入など、さまざまなサービスを受けることができます。アニメキャラクターやAIの音声案内とは違い、リアルな人間と話している感覚があり、受付業務の一部を任せることで省人化にもつながります。
【参考】「ほぼ人間」等身大バーチャル案内係が受付に着任
マーケティングへの活用
企業のブランディング戦略にバーチャルヒューマンを起用
これまでは企業がCMなどを使ったブランディング戦略を立てる際に、タレントを起用してスタジオで撮影するなど、人を使った方法で行ってきました。しかし、タレントの起用にはかなりお金がかかり、撮影後の撮り直しができないなど、不便な点も数多くありました。
人間そっくりのバーチャルヒューマンを活用することによって、理想のブランドイメージ通りのキャラクターを立てることができ、企業や商品の広告塔として起用することができます。タレントのように莫大な契約料を払うこともなく、タレントの不祥事が発覚してイメージを下げることもありません。
CMからWebサイト、SNSまで何にでも自由に登場させることができ、ヘアスタイルやメイクなども自由に変えることができます。企業のブランドであり、パーソナリティでもあるバーチャルヒューマンが、あらゆる媒体で昼夜を問わず活躍してくれます。
バーチャルヒューマンがパーソナライズ化された顧客体験を実現
バーチャルヒューマンを活用することで、リアルなキャラクターとの対話や感情表現を通して、よりパーソナライズ化された新しい顧客体験ができるようになります。
バーチャルヒューマンは、無機質で冷たいイメージのあるデジタル空間に、人間的な温かみを与えてくれます。ECサイトを開いたときに、笑顔の素敵なバーチャルヒューマンが話しかけてくれて、ちょっとした表情の移ろいや仕草を見せてくれるだけでも、顧客は安心感と信頼感を覚えます。
たとえばジャケットを買おうとしたときに、話しやすい雰囲気のデジタルヒューマンが「いまクローゼットにどんなジャケットが何着ありますか?」と話しかけてくれると、デジタルだからこそ気軽に答えられるという部分もあります。
そうしてさまざまな質問をヒアリングした後、バーチャルヒューマンが自分のために的確なジャケットを提案してくれたとき、顧客の満足度はかなり高まります。
バーチャルヒューマン活用のメリット
顧客ロイヤルティを向上させることができる
バーチャルヒューマンを活用することによって、顧客との間に感情のやり取りが生まれ、ユーザーをより引き付けることができます。バーチャルヒューマンに好感を持つことで、商品やサービスに対する親しみやすさが増し、顧客ロイヤルティを向上させることができます。
顧客は、たとえ機械とやり取りをしているのだとわかっていても、チャットポットよりバーチャルヒューマンの方に感情的なつながりを感じます。人間とコミュニケーションをとった感覚になり、結果的に購買率がアップします。
効果的なオムニチャネル戦略を立てられる
バーチャルヒューマンを活用したオムニチャネル戦略が、さまざまな業界で進みつつあります。オムニチャネル戦略とは、アパレルなどの小売業でよく行われる販売戦略のひとつで、店舗やECサイト、SNSなど、顧客とつながるあらゆる接点(チャネル)で最適な購買体験を提供できるように戦略を立てることです。
企業のブランドイメージに合ったバーチャルヒューマンのキャラクターが、店舗に行くとそこにいて、優しく対応してくれます。電話をかければキャラクターの声で対応し、ECサイトを見ると、そこにもキャラクターが登場していろいろと応対してくれます。さらに、InstagramなどのSNSでは、バーチャルヒューマンのキャラクター自身が投稿して、顧客とコミュニケーションをとるといったやり方です。
2020年にオープンした「IKEA原宿」では、オープン記念に人気バーチャルヒューマンのimmaさんが、店舗に登場しました。ショップウィンドウで自らのリアルな暮らしを発信するとともに、SNSを通じてimmaさんの日常を配信。彼女が描いた絵をInstagramにアップしたり、YouTubeでライブ配信するなどして、実店舗とSNSを連携させたマーケティング戦略を行いました。
人的コストを削減できる
バーチャルヒューマンを活用することで、企業の人的コストを削減することもできます。人間の人材を育成するには時間がかかりますし、せっかく育成しても辞めてしまうなど、何かとコストがかかります。
その点、バーチャルヒューマンは短時間にミスなく業務を遂行でき、何時間働いても疲れることがなく、病気もしなければ休暇もとりません。汎用性があり、低コストでさまざまな要望にも無限大に応えてくれます。
マーケティングやブランディング、販売促進のために、これまで人間のモデルやタレントを起用してきた企業も、バーチャルヒューマンの活用に目を向け始めています。
【参考】【近未来】バーチャルヒューマンが私たちに与える影響とは?
顧客行動分析と最適化
バーチャルヒューマンがパーソナライズされた接客やアフターケアを行うことによって、それに対するユーザーからの反応も聞くことができ、行動を分析することでより最適化できるようになります。
これまでのように「ECサイトのどのページに何分アクセスしたか」といった数字上の情報だけでなく、顧客が何を考え、どんな商品やサービスを望んでいるのかを、バーチャルヒューマンから引き出してもらうことができます。そのデータをもとに、顧客行動をより深く分析することができます。
企業経営の新時代を創るバーチャルヒューマン
バーチャルヒューマンの登場によって、企業経営に新時代が到来したといっても、言い過ぎではないかもしれません。マーケティングの手法や広告戦略、人材の雇用といった企業経営に関わるさまざまなことに、バーチャルヒューマンの活用が期待されています。
企業経営だけでなく、人々の生活シーンにも、バーチャルヒューマンが続々と登場しています。これからどのように人間と共存していくかが、試されようとしているところですが、今後もバーチャルヒューマンが拡大の一途をたどることは間違いないでしょう。