ChatGPTで業務を効率化!
検索拡張生成(RAG)による社内ナレッジ活用法

AIの技術が格段の進歩を遂げる中で、企業の専門分野の知識や内部情報などを、もっと効率的に活用したいと思っている人は多いのではないでしょうか。この記事では、AIを活用する際に欠かせない「大規模言語モデル(LLM)」と「検索拡張生成(RAG)」の知識について解説するとともに、さまざまな分野におけるAIの活用事例を紹介します。

大規模言語モデル(LLM)とは

 

巨大なデータセットとディープラーニング技術を用いた言語モデル

「大規模言語モデル」(LLM/Large language Models)とは、非常に巨大なデータセットとディープラーニング(深層学習)技術を用いて構築された言語モデルのことです。あたかも人間が話しているかのような、流暢な会話や文章を作成できるのが、LLMの大きな特徴です。

LLMはチャットボットのような質問応答や、文章の要約、記事生成、翻訳など、さまざまな自然言語処理(NLP/Natural Language Processing)の作業に活用されています。

「ChatGPT」や「BERT」などのサービスにも使われるLLM

「ChatGPT」が彗星のごとく登場し、文字による質問に対して完璧なまでの回答を返す技術のすごさに、驚いた人も多いでしょう。このChatGPTにも、LLMが使われています。

LLMがこれまでの言語モデルと違うのは、「計算量」「データ量」「モデルパラメータ数」の3要素が、巨大化していることです。ChatGPTは、この3要素を著しく巨大化することで、極めてナチュラルな優れた応答を可能にしました。

ChatGPTの他にも、Googleの「BERT」や、Metaの「LlaMA」など、さまざまな企業が大規模言語モデルの開発を進めています。

【関連記事】ChatGPTで話題沸騰!大規模言語モデル(LLM)の威力と活用方法とは

検索拡張生成(RAG)とは

LLMと外部のデータベースや情報源を結びつける技術

LLMの分野で注目されている新しい技術のひとつに、「検索拡張生成」(RAG/Retrieval-Augmented Generation)があります。RAGは、LLMと外部のデータベースや情報源を結びつけるための新技術です。

このRAGを活用することによって、LLMの生成能力と、外部データベースの取得能力を組み合わせることが可能になります。利用者からの質問や指示にAIが回答する際に、RAGが外部のデータから関連する情報を取り出し、その情報をもとにして新たな文章を生成します。

たとえば企業で使用している機器のマニュアルを外部データとして設定すると、社員が機器の使い方について質問をしたいときに、RAGがそのデータから関連する情報を取り出して回答を生成することができます。

従来の生成モデルを超える正確さと詳しさを実現

RAGは従来の生成モデルよりもさらに正確で、詳しい情報を提供することができ、情報の即時性も向上します。会話の文脈を意識し、人間のような方法で回答を生成するので、より関連性の高い回答を得ることができます。

質疑応答や記事生成、顧客サービスなどに利用できる

RAGは、チャットボットのような質疑応答や、ブログ記事などの自動生成、顧客からの問い合わせ対応など、多岐にわたる用途に活用できます。

【参考】RAGの解説: LLMとベクトルデータベースを活用したアプローチのまとめ

RAGの活用事例

【医療】症状や治療方法などの情報を迅速に入手
~医療分野は専門的な情報が多いため、RAGが大活躍~

医療分野は専門的な情報を数多く持っており、RAGが活躍できる場面が沢山あります。たとえば、RAGを活用することで、医師や看護師の業務をスムーズに行うためのサポートができます。

病気の症状や治療方法などに関する情報を外部のデータベースとして持ち、医師や看護師が患者さんの症状や治療方法を調べたいときに質問をすると、RAGが外部のデータベースから関連情報を取り出し、その情報をもとにして文章を生成します。

医師や看護師が膨大な資料の中から情報を探し出す必要もなく、AIに質問することで回答が迅速に返ってくるので、日々の業務を効率化することができます。

RAGを活用することで大幅な業務の効率化が図れる

症状や治療方法だけでなく、薬の副作用や相互作用など、さまざまな医療情報をデータベースとして持つこともできます。これによって、人間の記憶や情報収集能力だけでは気付けなかった対処法などにも、気づくことができます。

医療従事者以外に、患者さんがチャットボットなどを使って自分の健康状態を相談したり、病気について質問したりすることもできます。

臨床研究の分野は非常に数多くの医療データがあり、研究論文なども山ほどあります。これは法務の分野などにもいえることがですが、膨大な専門分野の情報を有している企業や機関は、RAGを活用することで大幅な業務の効率化が図れるでしょう。

【製造】設備の故障などのトラブルに迅速に対処
~設備トラブルの迅速な解決に役立つのが、RAGを活用したAIシステム~

製造業もまた、RAGの活用が期待される業界です。たとえば、製造業の会社にはさまざまな製造設備があり、その設備がトラブルを起こすとラインが止まってしまい、収益にも関わる一大事となります。

一刻も早くトラブルに対処するために役立つのが、RAGを活用したAIシステムです。製造設備のマニュアルや、過去のトラブル事例、トラブルが起きたときの対処法などを、あらかじめ外部のデータベースとして保有しておきます。

そして製造設備が故障したときには、設備の名称やトラブルの状況をAIに伝えて、質問します。そうすると、RAGが機器のマニュアルや過去の事例などから関連情報を集め、トラブルの具体的な解決方法を教えてくれるという仕組みです。

トラブル解決の情報をすぐに入手できれば、短時間でラインを復旧できる

これまでは、製造機器にトラブルがあったときには、担当者がマニュアルから当てはまる項目を探し出し、あれこれと試行錯誤しながらトラブルを解決していくのが一般的でした。しかし、その間製造ラインが止まってしまうと、会社としての損失も大きくなります。RAGを活用してトラブルシューティングの情報を迅速に入手することで、短時間でラインを復旧させることができます。

【金融】金融商品やサービスに関する顧客からの質問にAIが回答
~AIが問い合わせに迅速に対応し、サービスの向上に貢献~

金融業界でも、RAGの活用が業務をサポートします。主に顧客サービスの向上や、リスク管理の強化の観点から、金融業務に役立てることができます。

たとえば、顧客データや金融商品に関するデータを、外部のデータベースとして保有しておきます。そして顧客から金融商品やサービスに関する問い合わせがあったときには、RAGがデータベースから関連情報を取り出し、その情報をもとに文章を生成して顧客に提供することができます。

人間が対応するよりも、迅速に詳しい回答が返ってくるので、顧客満足度も高まります。機械による対応なので、営業時間に関係なく対応することもでき、専門の人材を置かなくてもいいので人件費の削減にもなります。

RAGを投資戦略や市場分析に役立てることができる

RAGを活用することで、投資戦略や市場分析にも役立てることができます。たとえば、さまざまな産業や企業の詳しいデータを、外部のデータベースとして保有しておきます。

そして市場の動向や経済指標を考える際に、AIに質問をすると、RAGがデータから必要な情報を取り出し、人間が解析するよりもより多面的な要素を含めた回答を生成します。こうした解析をAIに任せることで、業務の効率化とともに、人件費の削減にもつながります。

さまざまな分野での活躍が期待されるRAG

RAGを活用してLLMと外部のデータベースを結びつけることで、より高度で充実した回答を得ることができるため、いまRAGはさまざまな業界から注目を集めています。働き方改革や生産性の向上にもつながるため、今後のRAGの活躍に期待したいところです。

この記事を書いた人

ビジネス・テクノロジスト 貝田龍太