人材不足時代の新規事業開発とは?成功企業と実践事例で学ぶ現場の知恵

人材不足が深刻化する今、新規事業の立ち上げはかつてない難しさに直面しています。多くの企業が「人材確保」を最大の課題として挙げるなか、現場ではどのような工夫が求められているのでしょうか。本記事では、実際の企業事例や現場の声をもとに、人材難時代における新規事業開発の突破口と実践的な解決策を詳しく解説します。

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新規事業開発の最大課題「人材確保」と企画提案のポイント

新規事業開発は企業の成長に不可欠ですが、多くの企業が直面する最大の課題は「人材確保」です。パーソル総合研究所の調査によると、約4割の企業が新規事業における人材確保の難しさを最重要課題と認識しています。この記事では、新規事業開発の意義や企業の事例、そして成功のためのポイントを解説します。

新規事業開発とは

新規事業開発は、企業が持続的な成長を実現し、変化の激しい市場環境に柔軟に適応するための重要な戦略です。既存事業だけに依存していると、市場の縮小や技術革新といった外部要因によるリスクに直面しやすくなります。新たな事業分野への進出は、収益源の多様化や企業価値の向上につながるため、多くの企業が積極的に新規事業開発に取り組んでいます。実際、2025年度に向けた企業の中長期的な戦略テーマとして「新商品・新事業開発」は「収益改善」に次いで高く位置づけられており、経営の根幹を支えるテーマとなっています。新規事業開発は企業の成長戦略の中心的な役割を果たしています。

【参考】企業の新規事業開発の成功要因における組織・人材マネジメントの重要性

企業の事例に学ぶ事業変革の重要性

時代の変化に応じて柔軟に事業構造を変革してきた企業は、長期的な成長を実現しています。
ソニーはエレクトロニクスからエンタテインメント、金融サービスまで多様な事業ポートフォリオを展開し、2000年代には不採算事業の撤退や構造改革を断行。近年はゲーム・音楽・映画などエンタテインメント領域への集中投資や、イメージング&センシング技術の強化を進めています。さらに、社内の新規事業提案制度「Sony Acceleration Platform」を通じて、社員のアイデアを積極的に事業化し、新たな成長の芽を育てています。ソニーは多様な事業と人材を活かし、変化に強い企業体質を築いています。

ヤマハは、楽器や音響機器の枠を超え、1960年代以降はスポーツ用品やリゾート事業など多角化を推進。近年は、アコースティック技術とデジタル技術の融合による革新的な製品開発や、半導体の内製化による独自LSI開発など、技術基盤を活かした新規事業を展開しています。また、楽器の生産技術を応用しFA機器や自動車内装部品など異分野にも進出し、事業領域を大きく拡大しました。ヤマハは時代や市場の変化に応じて事業構造を柔軟に変化させ、持続的成長を支えています。

新規事業開発を成功させるために

新規事業開発を成功させるには、従来の枠組みにとらわれない発想や未知の分野に挑む人材が不可欠です。新規事業の成功には、一定の市場シェアや収益性、競争優位性の維持、そして将来の成長性が求められます。また、ターゲット市場の明確化や競争過多でない市場選定、事業内容が時代のトレンドに合っていること、戦略をマーケティング活動に落とし込むことも重要です。さらに、社内の体制整備や人材確保が大きなカギとなります。パーソル総合研究所の調査でも、新規事業開発における最大の課題は「人材確保」であり、知識・ノウハウ不足や意思決定の遅さを上回る深刻さが示されています。

なぜ人材確保が最大の課題となるのか

新規事業の推進には、既存事業とは異なるスキルやマインドセットが求められます。例えば、前例のない課題に挑戦する柔軟性や、失敗を恐れずにアイデアを形にする推進力、さらには社内外の関係者を巻き込むコミュニケーション力など、幅広い能力が必要とされます。しかし、こうした人材を既存の組織内で見つけることは容易ではありません。多くの企業では、エース級の社員や有望な若手が本業で多忙を極めており、新規事業プロジェクトに専念できる人材が限られています。外部から新たな人材を採用する場合も、コストやカルチャーフィット、定着率の課題がつきまといます。「人材確保」は新規事業開発における最大の課題であり、企業の成長戦略実現の成否を左右する要素です。

既存人材を活かす具体的なアプローチ

既存人材の活用は、新規事業開発における現実的かつ効果的なアプローチです。以下のような多角的な施策を組み合わせることで、既存人材の能力を最大限に引き出し、新規事業の成功確率を高めることができます。

  • 社内公募・異動:新規事業に関心や適性のある社員を社内公募や異動によって発掘し、適材適所の配置を実現する。
  • スキルマッピング・適性評価:社員のスキルや適性を可視化し、プロジェクトに最適な人材を選定する。
  • 研修・OJTの実施:新規事業に必要な知識やスキルを、研修や現場でのOJT(On-the-Job Training)で強化する。
  • インセンティブ設計・キャリアパス提示:新規事業に取り組む社員のモチベーションを高めるため、報酬やキャリアパスを明確にする。
  • チーム単位での推進:属人的な推進ではなく、役割分担を明確にしたチーム体制で事業を進める。
  • 外部プロ人材・コンサルタントの活用:自社にないノウハウや経験を補うため、外部の専門家やプロ人材を柔軟に活用する。
  • デジタルツールの活用:データ解析やAIなどのデジタルツールを活用し、効率的な意思決定や業務推進を支援する。
  • 実務を通じた育成:新規事業の立ち上げプロセスそのものを人材育成の場とし、実践を通じてスキル・マインドを養う。

これらの多角的なアプローチを組み合わせることで、既存人材の能力を最大限に引き出し、新規事業開発の成功確率を高めることができます。

ケーススタディ:中堅運送業者の場合

新規事業開発のケーススタディとして、ここでは不用品の買い取りサービスの立ち上げを題材に、新規事業の立ち上げのためのプロセスと課題について見ていきましょう。

市場環境の変化と新規事業の必要性

O社は、県内に複数の事業所を持つ地元密着型の中堅運送・引っ越し事業者です。近年、全国展開する大手配送・引っ越し企業が地域市場に進出し、価格競争が激化し、従来のやり方だけでは生き残れないという危機感が社内に広がっていました。

経営会議では、
「このままでは地域の雇用も守れない。新しい収益源を探さないと」
「他社との差別化が必要だ」
といった声が相次ぎました。こうした環境変化を受けて、O社では新たな収益源を確保するため新規事業開発が急務となりました。

アイデア公募と最初の壁

まず社内で新規事業アイデアの公募を実施しました。しかし、第1回の公募で集まった案は、既存事業の延長線上のものばかりでした。
「引っ越しと荷物の一時預かり」「高齢者向け引っ越しパック」など、目新しさに欠けるものが多かったのです。

経営陣は頭を抱え、
「これでは現状維持の延長に過ぎない。もっと自由な発想がほしい」
という意見が出ました。そこで、「外部の知見も取り入れよう」と方針転換。経営陣は事業開発セミナーや異業種交流会に参加し、
「若手やアルバイトの意見も聞いてみては?」
という助言を受けました。

外部知見の導入とブレストの展開

そこで、事業開発の専門家を招き、1dayセミナー・ワークショップを開催。社員が参加し、
「業界の常識にとらわれない発想を持とう」
「顧客の困りごとを徹底的に洗い出そう」
といったアドバイスを受けながら、実践的なワークを行いました。

セミナー後には、学生アルバイトも含めたブレインストーミングを開催。
ある学生が、「最近、引っ越しの現場で“これ捨てられますか?”と聞かれることが増えました」と発言。
別の社員は、「フリマアプリやリサイクルショップも増えているし、買い取りサービスはどうか?」と提案しました。
「ネットで予約や査定ができる仕組みがあれば若い世代も使いやすい」
「家電や家具のリユースは環境にも良い」
といった意見も出て、社内だけでは出なかった柔軟なアイデアが次々と生まれました。

チーム編成と組織の課題

新規事業チームを立ち上げようとした際、
「通常業務が忙しくて新しいプロジェクトには手が回らない」「自分にできるか不安だ」
といった声が多く、なかなか手を上げる社員が現れませんでした。

経営陣は、まず管理職や中堅社員とじっくり面談を重ね、
「新しいことに挑戦したい気持ちはあるが、既存業務との両立が不安だ」
「現場の負担を減らす工夫があれば参加したい」
といった本音を把握。
最終的には、事業開発に専念する人材と、既存業務と並行して新規事業開発のマネージャーを担う体制を確保しました。
「働きやすい環境」「意見を言いやすい風土」づくりにも取り組み、徐々にメンバーが集まりました。

事業化に向けた準備と実行

コンサルタントの助言を受けつつ、既存人材を中心に許認可の取得やサービス設計、集客方法の検討などを着実に進めました。
「古物商許可の申請は警察署で行う。書類は多いが事前相談でスムーズに進められる」
「資金は日本政策金融公庫の融資も検討しよう」
「現場で直接案内するのも効果的だ」
といった具体的な会話を重ねながら、役割分担を明確にしてプロジェクトを推進しました。
現場の知見と外部のノウハウを融合させ、実行力のあるチームで事業化を進めました。

新規事業のビジネスモデルと体制

新規事業として立ち上げた不用品買い取りサービスは、引っ越しサービスと連携し、引っ越し現場で不要品を査定・回収し、自社で買い取り、再販やリサイクル業者への販売を行うワンストップモデルです。
事業開発専任メンバーと現場の運送スタッフが連携し、現場での提案から回収・査定・販売までを一気通貫で対応できる体制を構築しました。

このモデルは、既存顧客との接点を活かし、引っ越し業務の付加価値を高めるとともに、地域密着型企業ならではのきめ細かなサービスを提供できることから、既存事業との相乗効果も期待されています。

まとめ:新規事業企画のための実践ポイント

  • 市場・顧客ニーズの徹底調査
     社会や業界の変化、顧客の本質的な課題を多角的に調査し、未充足のニーズを発見する。
  • 自社の強み・地域性の活用
     地域密着型企業ならではのネットワークや信頼、既存のリソースを活かし、大手にはない独自性を打ち出す。
  • 多様な視点の導入と現場の声の重視
     現場スタッフや若手、外部の専門家・学生など多様な意見を積極的に取り入れ、アイデアの幅を広げる。
  • 差別化ポイントの明確化
     競合他社と比較し、自社ならではの価値や独自のサービス設計を明確にする。
  • 段階的な計画とリスク管理
     スモールステップで事業を進め、リスクを最小限に抑えながら柔軟に軌道修正する。
  • 社内外の巻き込みと体制整備
     社員が挑戦しやすい環境を整え、役割分担や心理的安全性を確保。必要に応じて外部リソースも活用する。
  • 実行力とスピード感の両立
     現場主導で素早く動きながら、計画的な準備と改善を繰り返す。
  • 既存事業とのシナジー設計
     新規事業が既存サービスや顧客基盤と連動し、相乗効果を生む設計を意識する。

これらを意識し、まずは「自社の強み」と「顧客の課題」を見直すことから始めると、地域密着型企業でも実効性の高い新規事業開発が可能になります。

ギグワークスクロスアイティの経営課題解決支援サービスとは

ギグワークスクロスアイティ株式会社は、中小・中堅企業の事業パートナーとして「経営課題解決支援サービス」を幅広く展開しています。新規事業創出やビジネスモデル変革、デジタルトランスフォーメーション(DX)推進、業務・オペレーション改善、システム開発・導入・保守、経費削減など、企業が直面する多様な経営課題にワンストップで対応できるのが大きな特徴です。

社外参謀としての伴走支援

同社は「社外参謀」として、経営者や実施責任者の意思決定をサポートしています。経営課題の可視化から解決策の検討、実行計画の策定・推進・定着化まで一貫して伴走し、現場に入り込んだ実践的な支援を強みとしています。

IT・DX支援と人材育成

ITサービスの導入やセキュリティ対策支援、人材・ノウハウ不足の解消、DX推進ノウハウと人材育成支援など、中小企業の実情に即した助言と実行支援を提供しています。クラウドやAIなどの最新ITソリューションを現場の課題に合わせてカスタマイズし、導入から運用・保守まで包括的にサポートします。

新規事業立ち上げの課題解決

新規事業立ち上げ時に課題となる「人材確保」や「ノウハウ不足」についても、経営者が直面するリアルな悩みに対し、戦略立案から実行までワンストップでサポートします。必要に応じて外部の専門家やパートナー企業と連携し、企業ごとの課題や成長段階に合わせた最適な解決策を提案しています。

多様な業界での実績

銀行、証券、製造、流通、医療、教育、官公庁など多様な業界での実績があり、業種・規模を問わず幅広い経営課題に対応できる柔軟性と実行力を備えています。プロジェクトの初期段階から運用後のサポートまで一貫したサービスを提供し、クライアントの持続的な成長と競争力強化を支援しています。

人材戦略と外部支援の活用が新規事業成功のカギ

新規事業開発では、「人材確保」が最大の課題となるケースが多く、自社の既存人材の活用や育成が成功のポイントとなります。企画提案やプレゼンテーションの段階で人材戦略を明確にし、必要に応じて外部の専門家や支援サービスを組み合わせることで、スムーズな事業推進が可能になります。

ギグワークスクロスアイティは、経営課題の可視化から戦略立案、実行支援まで一貫して伴走し、社内リソースやノウハウの不足を補う実践的なサポートを提供しています。まずは自社の人材リソースの棚卸しから始め、現状を正確に把握することが、新規事業開発や経営改革を成功させるための第一歩です。

この記事を書いた人

ビジネス・テクノロジスト 貝田龍太