経営課題解決の鍵は「定型作業の自動化」だった!生産性向上を阻む壁とは

日本の中堅中小企業の多くでは「定型作業」が生産性向上の障壁となっています。本記事では、AI-OCRやRPAなどの業務効率化のツールを活用し、どのように課題を捉え変革を進めるべきかについて詳しく解説します。

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なぜ定型作業が経営課題につながるのか

日本の中小企業の生産性向上が叫ばれる中、その実現を阻む根源的な課題の一つが「定型作業」の存在です。日々、業務時間の大半を占める単純・反復的な作業は、企業成長のための付加価値創出を困難にし、競争力低下を招いています。

【参考】中小企業白書2025年版

中小企業の生産性

日本の中小企業は企業全体の99.7%を占めていますが、労働生産性は大企業に比べて30年以上にわたり停滞しています。中小企業白書2025年版によれば、一人当たり付加価値額の伸び率は大企業が同期間に約1.5倍となったのに対し、中小企業はわずかに減少傾向にあります。特に非製造業やサービス業の中小企業で顕著です。

さらに大企業はデジタル技術活用や設備投資を強化し、生産性の向上と人件費の効率的な配分を実現。一方で多くの中小企業では技術導入の遅れや資金、人的リソースの不足により、大企業との格差が広がっています。

また海外の同規模企業との比較でも、日本の中小企業は労働生産性で遅れが顕著であり、成長機会の逸失が課題とされています。

増える定型作業

定型作業とは、手順が明確で繰り返し実施される業務で、社員の時間を大きく占める代表例です。たとえば以下のような業務が挙げられます。

  • データ入力(受注情報や伝票の手作業記入)
  • 請求書発行や受領処理
  • 勤怠管理の集計・確認
  • 在庫や売上などの定期報告作成
  • 問い合わせ対応の初期対応・一次回答

これらは自動化しやすい一方で、作業量の多さや担当者の属人化により負担が重くなり、生産性を押し下げる要因ともなっています。現場の人員不足と相まって、業務効率化の効果が限定的になりやすい点も特徴です。

定型作業の自動化技術

こうした定型作業の削減に有効なのがRPAやAIエージェントです。
RPA(Robotic Process Automation)は、人間がパソコン上で行っている定型作業をソフトウェアロボットが代行する技術で、データ入力や帳票処理といったルールベースの単純作業を高精度かつ高速で実行可能にします。大企業では経理・人事・総務といったバックオフィス部門で導入が進み、従業員の時間を大幅に削減する効果が確認されています。

一方でAIエージェントは、生成AIや自然言語処理技術を組み合わせ、顧客対応や意思決定支援といったより高度な業務に活用されています。問い合わせ応対の自動化、営業資料の作成補助、業務フロー改善の提案など、単なる自動処理を超えた活用が可能であり、これまで人力に依存していたホワイトカラー業務の効率化を実現します。

これらの技術は中小企業にとっても大きな可能性を秘めていますが、導入コストや運用のノウハウ不足が普及の壁となっています。

大企業とのIT投資ギャップ

中小企業は経営資源が限られ、情報システム導入や自動化投資において大企業に大きく遅れています。たとえばRPA導入率は大企業が30%以上であるのに対し、中小企業は10%程度にとどまります。これが生産性格差の一因となっています。

さらに近年、生成AIや会話型AIを活用したAIエージェントの登場により、単純な自動化を超えて、意思決定支援や問い合わせ対応の効率化も進んでいます。AIは自然言語処理技術により、顧客からの複雑な質問も理解し対応可能で、営業やカスタマーサポートの負担軽減に寄与しています。

こうした最新技術への投資や活用は今後の中小企業の成長に欠かせませんが、導入のための予算や専門人材の確保が課題となっているのが現状です。

ケーススタディ:中堅製造業者の場合

定型作業の自動化や生成AIの活用は今後ますます中小企業に不可欠な施策となります。しかし実際の現場では、「テクノロジーを導入すればすぐに課題が解決するわけではない」という声も少なくありません。ここでは、創業50年を迎える中堅製造業B社の事例を紹介します。

B社の歩みと製造業の課題

B社は従業員約500名を抱え、地域に根差しながら金属加工と部品供給を行ってきた企業です。創業以来50年、地元とのつながりを大切にしながら「安定した品質と納期」を強みに成長してきました。しかし製造業界全般で進む人材不足の影響を避けることは難しく、ここ数年は慢性的な労働力不足に直面しています。

この課題に対応するため、B社は柔軟な人材活用策を実施してきました。定年後も働く意欲を持つ熟練社員を再雇用し、繁忙期には短時間勤務やスキマバイトを積極的に受け入れることで工場の稼働を維持する体制を築いています。こうした仕組みにより、現場の技術力を維持しつつ、限られた人材を最大限に活用してきました。

一方で、中小製造業全体では大企業に比べDXの取り組みが遅れており、紙書類や手作業への依存がいまだ根強い状況です。その結果、データの一元管理や業務の最適化が進まず、競争力低下の要因となっています。B社も同様の課題を抱えていましたが、経営層が早期に危機感を持ち、数年前からペーパーレス化を推進しました。帳票や契約文書を順次電子化し、従来の紙ベース文化を見直して効率化の土台を構築してきました。

AI-OCRの導入とその効果

B社は業務効率化の一環としてAI-OCRを導入しました。
AI-OCR(Optical Character Recognition with AI)は、紙の書類に記載された文字をAIが読み取りデータ化する仕組みです。従来型OCRと異なり、文字の揺れやフォーマットの違いにも柔軟に対応するため、帳票処理における精度と実用性が向上します。

納品書や請求書など、紙ベースで処理してきた帳票作業を自動化したことで、経理部門の社員は次のような効果を実感しています。

「事務処理のスピードが格段に速くなり、入力ミスも減りました。」

導入から半年で、事務処理時間は従来より約3割削減され、社員の負担軽減に直結しました。 しかし、その一方で新たな課題も浮かび上がりました。営業部マネージャーはこう指摘しています。

「データは揃っているのに、部門ごとに分かれていて横断的に使えないのが悩みです。」

ペーパーレス化そのものには成功しましたが、日々蓄積される膨大なデジタルデータを有効活用できないという新たな壁に突き当たっています。検索や参照システムが整備されていないため、過去の類似案件を探すだけで時間がかかるなど、データの利活用が限定的な状況となっています。

経営企画部門からも次のような声が聞かれています。

「数字がそろっても、経営判断にはまだ活かしきれていません。」

つまり、データは蓄積されていても、全社横断的に活用する仕組みが整わず、経営改革や新規戦略への反映にはつながっていない現状です。

社員の意識変革が鍵に

こうした状況を受け、B社の経営層は強い危機感を抱いています。ある役員は会議で次のように述べました。

「効率化ツールは便利ですが、社員の意識が変わらなければ成果は限定的です。付加価値を生む仕事に時間を振り向ける文化を育てたい。」

自動化の導入によっても、現場で日々の業務に追われる状況がすぐに改善されるわけではなく、部分的な効率化が全体最適につながらないという課題があります。経営層は、技術と同時に「意識と文化の改革」を不可欠な要素として捉えるようになっています。

この方針を受け、現場でも議論が活発になっています。営業部の社員は次のような提案をしました。

「毎月のレポート作成を自動化できれば、その分もっと顧客訪問に使えます。」

こうした現場の声を反映し、社員が主体的に改善に取り組む文化を醸成する動きが始まっています。

また、働き方改革として、有給休暇の取得促進やフレックスタイム制度の導入を進めています。効率化で生まれた余裕を「働きやすさの実感」につなげる仕組みとして、社員満足度の向上を目指しています。

ある執行役員は以下のように語りました。

「社員が顧客との対話や提案に専念できる環境をつくりたいですね。」

ケーススタディから学ぶ定型作業の自動化プロセス

B社のケーススタディにあるように、単なるデジタル技術の導入だけでは十分な効果は得られません。真の生産性向上を実現するためには、現場の余裕創出や意識改革、制度設計を含めた複合的アプローチが必要となります。ここでは、定型作業の自動化に伴う課題を具体的に整理し、今後企業が目指すべき方向性を示します。

RPA・AIエージェントの重要性

RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)は、ルールベースの繰り返し業務を自動化する技術であり、手作業のボタン操作やデータ転記などを人間に代わって正確かつ迅速に実行します。AI-OCRは人工知能を用いた文字認識技術で、紙の書類に記載された文字を高精度でデジタルデータ化し、手入力の負担を軽減します。これらの技術は業務の効率化に大きく貢献しますが、蓄積されたデジタルデータを活用するためには、検索・分析基盤の整備やセキュリティ対策も同時に強化する必要があります。

生成AIや会話型AIによるAIエージェントは、単純作業の自動化を超え、より高度な意思決定支援や顧客コミュニケーションの効率化を実現します。中小企業にとって、限られたリソースを戦略的に活用する鍵となる技術です。

経営戦略としてAIエージェント活用を位置づけることは、デジタル時代の競争力強化に直結します。B社のように、AI技術と働き方および組織文化の改革をセットで推進する企業が、持続的な成長を実現できます。

自動化だけでは効果は限定的

B社の事例でも示されたように、AI-OCRやRPAといった自動化技術の導入は業務効率を大幅に改善しますが、これだけで生産性向上は完結しません。現場に十分な余裕が生まれて初めて、社員は新たな業務や戦略的思考に資源を振り向けられます。また、制度的な支援や社員の意識変革が伴わなければ、自動化によって生まれた時間や能力が他の単純作業に再分配されるリスクがあります。

効果的に自動化を推進するためには、経営層と現場がしっかりと目線を合わせ、導入の目的を明確に共有することが必要です。効率化施策が部分最適に陥ると組織全体のパフォーマンスは限定的になり、経営目標の達成は困難になります。現場の課題解決と経営戦略の整合を図りながら自動化を推進することが不可欠です。

人材価値の変化とリスキリングの必要性

自動化による働き方の変化は、人材に求められるスキルや価値を大きく変えています。これまでは「単に定型業務を正確に遂行する能力」が重視されていましたが、今後はAIと協働し業務プロセス全体を設計・改善する能力が求められます。

具体的には、例えば営業担当者がAIエージェントを活用して顧客データの分析を行いながら、提案内容を効果的にブラッシュアップするといった形が考えられます。また人事担当は、AI分析をもとに適切な人材育成プランを策定し、個々の能力を最大限に引き出す役割を担います。こうした能力は単純作業ではなく、戦略的な判断や創造的な仕事にシフトしています。

そのため、従業員自身のリスキリングが不可欠であり、社員参加型の意識改革も同時に求められます。B社でも社内討議を活性化し、働き方改革を推進することで、社員が新たな役割意識を持つ土壌を形成しています。

経営層に求められる統合的な視点

定型業務の自動化を成功させ、競争力を強化するには、経営層が以下の視点を持ってバランスよく推進することが求められます。

  • 自動化投資を進めるだけでなく、組織文化や働き方改革を包括的に設計・実施すること。
  • 社員に時間的・精神的余裕を持たせ、革新的な業務に集中できる環境を整備すること。
  • 浮いた時間を活用して新たな成長価値の創造に資源を配分すること。

B社の事例では、AIエージェントによる問い合わせ対応自動化が、営業社員の顧客提案活動への時間増加に貢献しています。こうした経営視点の統合的取り組みが不可欠です。

定型作業の自動化は単なるデジタル技術導入だけでは十分ではありません。現場での余裕の創出や意識改革、制度整備を含めた多面的な対応が必要です。

業務効率化は「環境づくり」から

「自動化は進めたものの、次にやるべきことになかなか手がつかず、トータルの作業時間が変わらない」という状況は多くの企業で起こっています。自動化の本来の目的は遊休時間を生み出すことではなく、重要な業務に集中できる時間を確保することにあります。

そのためには、定型作業に追われる現場だけでなく、管理職や経営層が一体となって働きやすい環境を整備することが不可欠です。現場の意識改革と適切な環境づくりがそろって初めて、自動化の恩恵を実感できるようになります。

この記事を書いた人

ビジネス・テクノロジスト 貝田龍太