
企業や組織の現場では、会議や報告などの業務に時間を奪われ、本来の企画や営業などの重要業務に集中できない状況が深刻化しています。本記事では、経営層と現場が連携して進めた業務効率化の具体的な取り組みや、AI活用からリーダーシップのポイントを紹介します。現場の負荷軽減と組織の成長を両立させるヒントをお届けします。
【関連記事】成長企業を次の段階へ導く!「自社の強み」の見つけ方とは

効率が悪いのは誰のせい?本来の業務に注力できない理由
企業や組織で「効率が悪い」と感じる場面は多いものです。会議や報告業務に時間を取られ、肝心の企画・開発・営業活動が後回しになることも少なくありません。生産性の低下は社員のモチベーションを下げ、最終的には経営判断の質にも影響を及ぼします。しかし、その「非効率」を個人の努力や能力の不足だけで片づけてしまうと、本質を見誤ってしまいます。
本来の仕事に集中できない現場のリアル
現場でよく聞かれるのは、「本来の仕事に集中できない」という不満です。雑務が増え、確認や承認の手続きに時間を取られ、成果を生み出すための業務が後回しになってしまうのです。組織内で情報が錯綜し、何に優先して取り組むべきか判断に迷う状況も少なくありません。結果として業務が滞り、疲弊感だけが残ってしまいます。
こうした「非効率」は単なる時間の浪費ではありません。コミュニケーションのすれ違いや責任の所在の不明確さが重なり、ミスや再作業が増えることで、さらに効率が悪化する悪循環が発生します。現場は疲弊し、経営側は原因を正確に把握できないまま指示を重ねてしまいます。この構造こそが、慢性的な生産性低下を生む根本的な原因となっています。
データが示す「働けていない時間」の現実
国内外の調査によると、1日に集中して生産的に働ける時間はわずか3〜4時間ほどとされています。残りの時間は会議、メール、資料作成、システム入力などの非生産的な活動に費やされているのが現状です。特に営業職の場合、顧客提案や商談以外の「非売上活動時間」が全体の3割以上を占めるとの調査もあります。
デジタル化の進展は業務効率化をもたらす一方で、情報の乱立という新たな課題も生み出しました。共有ツールが増えるほど、どのデータが最新で正しいのか分かりにくくなり、確認作業や再送依頼が増えています。結果として、IT導入が目的化し、運用ルールの不徹底が非効率の要因となっていることもあります。
そもそも「効率化」は正しいのか?
効率の低下には、業務負荷の偏りという構造的問題もあります。仕事が特定の社員に集中し、属人化が進むとボトルネックが発生します。担当者不在で業務が止まる、引き継ぎが機能しないといったリスクも高まり、組織全体の生産性を下げてしまうのです。「誰が何をどこまで担うのか」が曖昧なまま業務が進むことが、負荷集中の最大の原因です。
さらに、「効率」と「ガバナンス」のバランスも重要な論点です。統制強化によってリスク管理や透明性は高まりますが、その分現場の自由度が失われ、意思決定が遅くなります。逆に、現場主導を重視しすぎれば統制が甘くなり、リスク対応が後手に回ることもあります。どちらか一方を重視しすぎると、組織は柔軟さを失ってしまいます。
また、すべての場面で効率化が正しいとは限りません。品質維持やリスク防止のための二重チェック、一見無駄に見える確認作業など、実は必要な「非効率」も存在します。効率化による経費削減効果を優先するあまり、慎重な議論や熟考の時間を削ることが、かえって組織の力を弱めてしまうこともあります。「直すべき非効率」と「守るべき非効率」を見極めることが重要です。
経営と現場をつなぐ「効率改革」の進め方
課題解決の第一歩は、経営層が現場の実態を正しく理解し、キーパーソンを巻き込んで問題意識を共有することです。現場の事情を無視した効率化の取り組みは、かえって混乱を招くおそれがあります。経営が方針を打ち出し、現場が知恵を出す「双方向型の改善」が、継続的な成果につながります。
次に必要なのは、業務の棚卸しと負荷分散です。担当と優先度を明確にし、業務量の偏りを防ぐことが重要です。複数人が共同で業務を担える仕組みを整備し、権限を段階的に委譲すれば、意思決定スピードを高めながらガバナンスを維持することができます。
また、デジタル化の推進では、単なるツール導入にとどまらず、情報の一元管理と運用最適化こそが鍵となります。情報の重複や断片化を防ぎ、リアルタイムで整合性を保つ仕組みを整えることで、現場の判断がスムーズになり、業務全体の透明性も高まります。
そして忘れてはならないのが、労働時間の「量」ではなく「質」を高める取り組みです。適度な休憩の促進や健康管理の支援は、集中力や創造性を高める投資です。疲弊した社員に効率は求められません。本来の業務に集中できる「余白」を意識的に作ることが、真の効率化への第一歩と言えるでしょう。

ケーススタディ:バックオフィスの業務分析と改善

ここでは中堅広告代理店の事例をもとに、バックオフィス業務をどのようにして効率化したかについて見ていきます。
重要業務の遅延と不満が積もる現場
D社は従業員約200名の中堅広告代理店で、営業や制作の現場は順調に推移していました。しかし一方で、バックオフィス業務には根深い問題が山積していました。特に経理や総務の処理業務は、一部のベテラン社員に過度に依存し属人化していました。この属人化が原因で、担当者が急病や緊急の用事で休むと、請求書発行や入金管理、取引先との連絡調整といった重要な業務に支障が出て、全体のボトルネックになっていました。
さらに、多くの業務がデータの二重入力や手作業による承認遅延、書類整理でのミスなど非効率なプロセスに頼っており、その結果、ミスや再作業、トラブルが頻繁に発生していました。経営層はバックオフィスを直接の収益源と見なさず、IT投資や人員増加に慎重でしたが、現場の不満と危機感は日に日に強まり、「バックオフィスの停滞が組織全体の足を引っ張っている」という切迫した声が増えていきました。
こうした状況を受け、社長はバックオフィス強化を経営課題の最重要テーマと位置づけました。
社長の決断と変革の第一歩
社長の強いリーダーシップのもと、D社は早急な問題解決に向けて外部専門コンサルタントを招聘しました。また、改革推進のため、社長直下にバックオフィス改善チームを設置しました。業務知見のある選抜メンバーの中には、現場経験豊富な社員を中心に据え、組織横断の連携を進めました。
社長は社員に何度も「バックオフィスを強化しなければ会社の持続的成長はありえない」と訴え、改革の必要性を浸透させました。これにより従業員の意識変革と共同責任の醸成が進み、プロジェクトは社内を横断する大きな動きに成長しました。
業務分析と改善への取り組み
改革の最初の段階として、プロジェクトチームはバックオフィスの業務内容を漏れなく詳しく洗い出しました。全ての業務を「定型作業」と「非定型作業」に分類し、それぞれに適した改善策を検討しました。定型作業についてはフォーマットの統一と自動化を進め、入力ミスや作業負担、作業時間の削減を図りました。一方、非定型作業は専門部署に集約し、知識共有や標準作業手順の整備を進めて属人化を解消しました。
業務の洗い出しを進める中で、これまで課題とされていた二重入力や手作業の多さなどの非効率が明らかになりました。課題を把握することで、優先的に時間やリソースを配分すべき業務が見え、効率化戦略の基盤が整いました。
さらに、AIを活用した作業記録や管理簿の分析ツールを導入し、日々のタスク遅延や抜け漏れを自動検知できる体制を整えました。さらに、データ入力フォームやチェックリストを全社で統一し、AIによる入力ミスのリアルタイム検出と通知機能を追加しました。これによりデータ品質が向上し、ミス修正にかかる時間を大幅に削減。結果として、業務全体の処理スピードと正確性が大きく改善しました。
新システム導入当初は操作に戸惑う社員が多かったため、丁寧なサポートマニュアルを整備し、段階的かつ繰り返し勉強会を実施しました。チームリーダーは「ITリテラシーの差を埋めることが最も重要」と述べ、継続的なフォローアップ体制を整えた結果、社員の操作スキルは着実に向上しました。この支援体制によりシステムは安定運用され、現場にも安心感が広がっています。
成果発表と高まる期待
プロジェクト開始から約1年後の年度末に成果報告会が開催されました。定型業務の効率化により作業時間が38%も短縮され、また問い合わせ対応の応答率は52%向上したことが発表されました。
社員からは「業務遅延が減り、仕事が格段にスムーズになった」「負担が軽減され余裕ができた」と好評の声が多く寄せられ、数値だけでなく現場の実感も伴っています。こうした変化が社内の信頼感を高め、プロジェクト継続への強力な推進力となっています。
成功を受け、現在はヘルプデスク業務にAIチャットボットの導入を検討中です。約9割の定型問い合わせを自動対応し、担当者はより専門的な業務に集中できる体制を目指しています。
これまでの取り組みで蓄積した独自のIT活用ノウハウを活かし、D社はさらに働き方改革と業務効率化を推進しています。今後のさらなる進化が期待されます。
ケーススタディから得られた教訓
効率化の取り組みは、単なる業務のスピードアップだけではありません。本事例からは、組織全体の構造や文化、テクノロジーの活用、人材育成まで幅広く考慮し、段階的かつ持続的に改善していくことの重要性が見えてきます。ここでは、その具体的な教訓をいくつかの観点から詳しく解説します。
組織文化とリーダーシップの重要性
効率化を成功させるには、経営トップのリーダーシップが欠かせません。経営層が現場の声に耳を傾け、双方向のコミュニケーションを通じて意思決定を重ねることで、社員の理解と協力を得ることができます。また、業務改善だけでなく組織文化の変革も伴うことが、長期的な成果を生むポイントです。強いリーダーシップが現場のモチベーションを高め、組織全体に一体感をもたらし、課題解決を円滑に進めやすくします。
業務の可視化と標準化の効果
効率化の第一歩は、業務を見える化し課題を明確にすることです。業務の棚卸しを行い、属人化や重複作業の原因を洗い出します。これに基づき業務フローや作業手順を標準化し、共通のフォーマットを整備します。標準化された作業は誰でも一定のクオリティで実行できるため、ミスが減り、新人教育や業務の引き継ぎもスムーズになります。これが効率向上と品質安定につながります。
IT・AIの適切な活用と運用ルールの徹底
AIや自動化ツールは効率化に役立つ重要な手段ですが、導入だけでなく現場での運用ルールの徹底が重要です。情報の一元管理やシステム設計により、二重入力やミスを防ぎます。また、操作マニュアルや研修を通じて社員のITリテラシーを向上させる支援体制も必要です。こうしてテクノロジーの恩恵を最大限に活かすことが、持続可能な改善につながります。
小さな改善の積み重ねと段階的な取り組み
業務改善は一度に大きな変革を目指すより、小さな成功体験を積み重ねていくことが効果的です。日報の自動化や定期的な勉強会を段階的に実施することで、社員の抵抗感を和らげつつ意識改革を促します。小さな改善は組織全体の変化を後押しし、継続的な業務効率化文化の定着に結びつきます。
数値と現場の声の両立
改革の進捗や効果を評価するには、定量的なKPIだけでなく現場の実感を重視する必要があります。数値は経営判断の基準となり、現場の声は実情や改善点を示します。両方の視点をバランスよく取り入れることで、より正確かつ効果的な改善策を計画・実施できます。また、社員の納得感とモチベーション維持にもつながります。
継続的改善と定期的な効果測定
効率化は一回限りの施策ではなく、PDCAサイクルのように継続的に改善を行うべきです。定期的に成果を測定し、改善点を見つけて改善策を講じることで効果を持続させられます。成果を社内で共有し、全社員の理解と協力を促すことも長期的な成功の秘訣です。
業務改善は「必要」と「価値」の問いかけから

「本来やるべき業務だけできればいいのに」とは誰もが考えることです。しかし、「本来の業務以外にやるべきことがある」という状況が必ずしも悪いとは限りません。例えば、無駄な会話が一切ない職場は理想的でしょうか。適度な雑談やコミュニケーションは視野を広げ、イノベーションの源泉となることもあります。組織の健全な運営には「避けられない非効率」も存在します。本来の業務以外の負の側面だけに注目するのではなく、それらがどのような必要から生じ、どのような価値を生み出しているかを問い続けることが、改革の第一歩となります。
