「優秀な人」を集めても強い組織にならない?AI時代に考えるべき採用の勘所

採用では、候補者一人ひとりの能力や、予定人数を確保できるかに目が向きがちです。しかし、高い評価を得た人から順番に採れば、強い組織ができるのでしょうか。似た経歴や判断基準を持つ人ばかりが集まると、話は早くても、全員で同じ問題を見落とすことがあります。幅広い学部から採用する意味と、AI時代に文学や哲学を学んだ人が生かせる力を考えながら、採用を「個人選び」ではなく「組織づくり」として捉え直します。

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同質性の高い組織はなぜ判断を誤るのか

ダイバーシティという言葉から、性別や国籍などの構成比を思い浮かべる人は多いでしょう。しかし、見た目の数字を整えるだけでは、会議で出てくる意見も、会社の判断も変わりません。採用で本当に増やしたいのは、組織の中にある「ものの見方」です。

「異なる解き方」ができる集団の価値

同じ学部、似た経歴、同じ業界経験を持つ人が集まると、仕事は速く進みます。共通言語が多く、細かく説明しなくても話が通じるからです。過去の成功例も共有しやすく、定型業務を安定して回す場面では、この同質性が強みになります。ただし、何を問題と捉えるか、どの情報を信用するか、どこに危険を感じるかまで似てしまうと、同じ穴を全員で見落とします

採用面接でも、受け答えが滑らかで、自社の社員と話し方や価値観が似ている候補者は「一緒に働きやすそうだ」と評価されます。この感覚は無意味ではありませんが、面接官全員が話しやすさを重視すれば、既存社員によく似た人ばかりが残ります。選考は滞りなく進んでも、組織に足りない視点は補われません。話が早くまとまることと、より良い判断にたどり着くことは別です。

HongとPageは数理モデルを使い、異なる解き方を持つ問題解決者の集団が、一定の条件では、個人能力の高い人だけを集めた集団を上回り得ると示しました。実際の企業を対象とした調査ではないため、多様な組織なら必ず成果が上がるとは言えません。それでも、集団の力が個人評価の合計だけでなく、試せる解き方の数にも左右されることは採用を考える手がかりになります。候補者を見るときは点数だけでなく、その人が加わることで新しい解き方が増えるかも確かめる必要があります。

同質性を強める「居心地のよさ」

同質性は、経営者が意図的に異論を排除したときだけ生まれるものではありません。前提を共有する人が多ければ説明は短く済み、会議で衝突することも減ります。採用では「自社の雰囲気に合う人」、登用では「こちらの意図を理解している人」を選ぶほうが安心です。組織を動かしやすくし、働く人にとって居心地のよい環境をつくろうとする判断が積み重なった結果、似た経歴や価値観を持つ人が中心になります。

反対に、多様な人材がいる職場では、同じ言葉でも受け取り方が違い、異論も出ます。説明や調整に時間がかかるため、短期的には仕事が遅くなったように見えるでしょう。摩擦や手間は日々の会議で目につきますが、異なる視点によって回避された判断ミスは、問題が起きなかったため評価しにくいものです。同質的な組織の快適さはすぐ実感できても、多様な組織の強さは平時には見えにくいのです。

だからこそ、多様性を個人の善意に任せてはいけません。異なる意見が出ることを会議の停滞ではなく、検討範囲を広げる過程として扱う必要があります。採用で人材の幅を広げても、既存社員と同じ振る舞いだけを求めれば、時間とともに意見は均質化します。異論を述べた人が不利益を受けず、採用されなかった提案も検討の記録に残る仕組みがあって、初めて人材の違いが組織の判断に生かされます。

ブレインストーミングが早く収束する理由

新商品の会議で、最初の発言者が「若者向けの機能を増やそう」と提案したとします。続いてSNS連携や若者向けの料金プランが出れば、意見は活発に見えます。しかし、どれも最初の案を前提としており、「そもそも若者を狙うべきか」「既存顧客は何に困っているのか」という問いは置き去りです

同質性の高いチームでは、このような早すぎる収束が起きやすくなります。多数派の見解に触れた人は、それを基準に情報を整理し、同じ方向へ考えを絞りやすくなるからです。反対に少数派から異論が出ると、賛成するかどうかにかかわらず、別の前提や選択肢を検討するきっかけが生まれます。多数意見は収束的な思考を、少数意見は発散的な思考を促しやすいとする研究もあります。

少数意見が常に正しいわけではなく、案を広げ続けるだけでは実行に移れません。必要なのは、案を探す段階では十分に発散し、評価する段階では期限を決めて収束させる切り替えです。多様な人を採用する目的は会議を長引かせることではなく、結論を急ぐ前に検討すべき範囲を広げることにあります。

「不祥事を止められなかった組織」に何が起きていたのか

日本でも、企業不祥事の調査で、同質性や閉鎖性が組織上の問題として挙げられることがあります。ある企業では、限られた関係者だけで重要な判断を行い、専門部門や外部の知見を十分に取り入れませんでした。別の企業では、長年成果を上げてきた事業モデルと高業績者への信頼が強まり、経営や管理部門によるけん制が働きにくくなっていました。

2つの事例は不祥事の内容も原因も異なるため、人材を多様にすれば防げたと単純には結論づけられません。どちらの事例にも共通するのは、組織を動かしてきた部門の論理や成功体験が強くなり、そこから外れる意見を判断へ取り込みにくくなったことです。思考の同質性は、誰も問題に気づかない状態だけでなく、気づいた問題を重大だと扱えない状態も生みます。

異なる経歴の人を採るだけでは、この問題は解消しません。その意見を聞き、実際の判断材料として扱う必要があります。多様性がもたらす摩擦は、組織が自分たちにとって都合のよい結論だけへ流れるのを防ぐためのコストでもあります。

文学・哲学はビジネスに役に立たないのか

文学や哲学は、仕事に直結しない学問だと思われがちです。確かに、文学作品や思想が、そのまま売上を生むわけではありません。ただ、大学で何を学んだかと、仕事で何ができるかを同じものとして扱うと、採用すべき人を見落とします。

文学・哲学が鍛える視野

文学や哲学に「浮世離れした」印象があることは否定できません。作品の解釈や哲学的な問いを考えても、すぐに商品が売れるわけではなく、業務手順を覚える近道にもならないからです。しかし、目の前で役立つかどうかだけで価値を決めると、これらの学問が鍛える力を見落とします。文学では、語り手がなぜその言葉を選んだのか、書かれていない情報は何か、時代背景によって意味がどう変わるのかが重要です。哲学では、普段は何となく使っている言葉を定義し、議論の前提や矛盾、判断が他者に与える影響が重要です。これらの学問は、当たり前とされている前提を疑うことに真価があります。

歴史に残りやすいのは、誰かが書き、保存した記録です。しかし、当時の人が当然だと思っていた習慣、言葉にしなくても共有できた判断基準、記録を残す立場になかった人の経験は、文書に表れないことがあります。書かれた内容だけを並べても、過去の社会を完全には捉えられません。誰が何のために書いたのか、なぜ詳しく残った出来事と残らなかった出来事があるのかを考えることで、その時代の暗黙の知や、記録からこぼれた人の存在が見えてきます。

ビジネスでも、重要な問題が資料に明記されているとは限りません。長年使ってきた商品カタログに対して、「この分類は顧客にとって分かりやすいのか」「社内の都合を押しつけていないか」と問い直せる人が必要です。売上データには既存顧客しか現れず、商品へたどり着けずに離脱した人や、自分向けではないと感じて訪れなかった人は見えません。人文系人材の可能性は知識を披露することではなく、組織が見慣れすぎて疑わなくなったものへ問いを差し込めることにあります。

学部名だけで向き・不向きは決められない

The British Academyの報告書では、芸術・人文・社会科学の学びが、批判的分析、問題解決、コミュニケーション、異文化理解、倫理的理解などの技能と結びつけて整理されています。人文系の学びを「直接利益を生まない教養」と見てしまうと、学ぶ過程で鍛えられる力を見落とします。

米国の新卒採用を対象としたJob Outlook 2025では、回答企業の23.2%が業界に関係する専攻だけを採用すると答えました。一方、50.8%は業界関連の専攻とそれ以外の専攻の両方を採用し、24.3%は業界との関係を問わず、あらゆる専攻を対象としていました。企業が特に重視していたのは、コミュニケーション、批判的思考、チームワークなどです。米国の調査結果を日本企業へそのまま当てはめることはできませんが、多くの回答企業が専攻名だけで採用対象を絞っていないことが分かります。

だからといって、「文学部や哲学部なら読解力が高い」と決めつけるのも危険です。学部名は、その人が何を学ぶ機会を得たかを示しますが、そこで何を身につけたかまでは保証しません。面接で卒業論文について聞くなら、テーマの珍しさではなく、「資料をどう選んだか」「最初の仮説が崩れたときに何を変えたか」「別の解釈ではなく、その結論を選んだ根拠は何か」まで尋ねます。採用側が確認すべきなのは学問の優劣ではなく、学んだ経験を仕事で使える力へ変えられているかです。

AIの「平均的な答え」に対抗する「違いをつくる力」

World Economic ForumのFuture of Jobs Report 2025では、雇用主が現在の中核技能として最も重視したのは分析的思考でした。2030年に向けて重要性が増す技能には、AIとビッグデータなどの技術技能だけでなく、創造的思考、柔軟性、好奇心と生涯学習、リーダーシップなども挙げられています。AI時代だから技術系の人だけを採ればよい、という話ではありません。

生成AIは、文章や要約、企画案、コードの初稿を短時間で作れます。出力の量が増えるほど、「そもそも何を問うべきか」「前提に抜けはないか」「この案で不利益を受けるのは誰か」を判断する役割が重くなります。文系的センスとは、言葉をきれいに整える感性ではありません。文脈を読み、当然と思われている前提を疑い、別の意味を見つけ、判断の先にある影響まで考える力です。AIに企画案を10本出させても、すべてが同じ顧客像を前提にしているなら、11本目を足すより、その前提を疑うほうが価値があります。

短編小説の執筆を対象とした実験では、生成AIのアイデアを使える参加者の作品は、創造性や文章の質を高く評価されました。その一方で、AIを利用した作品同士は、人だけで作った作品同士より似ていました。限られた課題による実験であり、すべての仕事に当てはまるわけではありません。それでも、同じAIを使う人が増えるほど、案も似る可能性を考える材料にはなります。組織に必要なのは理系か文系かという二者択一ではなく、技術、事業、人や社会を理解する人が一緒に判断できる環境です。

人数ではなく「どんな集団をつくるか」を考える

多くの企業では、予算や事業計画に合わせて採用予定人数が決まっています。応募が少なければ基準を下げ、応募が多ければ基準を上げる。そうして人数をそろえれば、それで良いのでしょうか。採用の目的は人員の補充ではありません。これからの仕事に必要な集団をつくり、一人ひとりが力を発揮できる場所まで考えることが採用です。

「優秀な順に採る」と既存組織の再生産になる

「優秀な順に予定人数まで採る」という方法は、公平で分かりやすく見えます。ただし、何を優秀と呼ぶかは、すでに会社の中にある価値観から逃れられません。過去に活躍した社員の経歴や受け答えを基準にすれば、その人たちに似た候補者ほど高く評価されます。現在の強みを引き継げる一方で、弱みや見落としまで再生産する可能性があります。

例えば、営業部門で5人を採用するとします。最終候補者には、対話力が高く、新規顧客への提案を得意とする人が何人もいます。個人評価だけなら、上位5人をそのまま採ればよいでしょう。しかし、既存の営業部門にも同じタイプが多く、顧客データの分析や契約後の課題整理を苦手としていたら、似た強みを重ねてもチームの弱点は残ります

5つの採用枠を別々の椅子としてではなく、5人でつくる一つのチームとして見ると、選び方が変わります。顧客の発言から潜在的な要求を読める人、データから反証を探せる人、技術上の制約を分かりやすく説明できる人、周囲が見過ごした前提に異論を出せる人が必要かもしれません。得点が高い同じタイプの候補者を重ねるより、組織に足りない視点を持つ候補者を迎えたほうが、チームとして対応できる仕事は広がります。これは評価基準を甘くする話ではありません。誠実さや学習力など全員に求める条件は保ち、そのうえで採用者全体がどのように強みを補い合うかを考えます。

思考の過程を評価する

幅広い学部から採用するために必要なのは、物差しを捨てることではなく、仕事に必要な力を測れる物差しへ変えることです。文学や哲学を学んだ候補者には、読解や議論の経験を顧客理解、企画、要件定義などへどう応用するかを聞きます。技術系の候補者には、専門知識を持たない相手へ分かりやすく説明し、異なる職種と協力できるかを確かめます。

「自分は論理的です」「コミュニケーションが得意です」という自己評価だけでは、実際の能力は分かりません。短い資料から論点と不足情報を整理してもらう、同じ事象に対する複数の解釈を比べてもらう、反対意見を受けて提案を修正してもらう、といった課題が役立ちます。正解だけでなく、どの情報に注目し、どんな前提を置き、何を確認できなかったかを説明してもらえば、学部名の印象に頼らず思考の過程を評価できます。

採用会議では、個人の点数に加えて、次の5点を確認します。

  • 満たす基準:全員に求める最低条件を安定して満たしているか。
  • 加わる強み:既存組織や同時期の採用者にない視点や能力を持ち込めるか。
  • 配置の見通し:入社後に能力を生かせる仕事、チーム、育成担当を考えられるか。
  • 相互補完:既存社員や他の採用者と、それぞれの強みを補い合えるか。
  • 発言できる環境:異なる意見を持つ人が孤立せず、異論を判断材料にできるか。

こうした観点を加えることで、「面接で一番印象が良かった人」だけに評価が偏るのを防げます。同時に、多様性という曖昧な言葉を、採用後の役割や受け入れ体制まで含む具体的な判断へ変えられます。

配置と育成を設計する

異なる強みを持つ人を採用しても、その強みを生かせる仕事がなければ定着しません。「今までにいないタイプだから、将来どこかで活躍するだろう」という期待だけで採るのは、候補者にも受け入れる部署にも無責任です。入社後に担当する仕事、身につけるべき技術や事業知識、相談できる上司や育成担当まで考えておく必要があります。

配置の見通しが立たないときは、受け入れる組織に能力を使う準備がない可能性もあります。既存の前提を問い直せる人を採っても、上司が異論を「協調性がない」と評価すれば、その強みは消えてしまいます。データ分析に強い人を迎えても、必要なデータへアクセスできなければ成果は出ません。採用時に期待した役割と、入社後に渡す仕事をつなげることが大切です。

入社後は、採用時に評価した強みが、提案の幅、顧客理解、部門間の協力、リスクの発見などへどう表れたかを確かめます。想定した強みが見えなければ、本人の評価を下げる前に、担当業務や育成方法との組み合わせも見直します。採用時の判断は、入社後の活躍を予測する仮説です。結果を次の採用計画へ戻すことで、会社に必要な人材像が明確になります。採用、配置、育成、評価を一つの流れとして設計することで、初めて異なる強みが組織の力になります。

採用とは「優秀な個人選び」ではなく「組織づくり」である

採用で考えるべきなのは、予定人数の中で誰が上位かだけではありません。その人が加わることで、組織が今まで見落としていた何に気づき、どんな問題を解けるようになるかが重要です。同質性の高い集団は意思疎通が速い一方で、同じ前提と見落としを共有する危険があります。幅広い学部から人を採るのは、構成比を整えるためではなく、異なる問いや解釈、専門性を組織へ取り込むためです。

文学や哲学を学んだ人が、そこで得た読解力や批判的思考を仕事へ応用できれば、AIが平均的な答えを大量に出す時代に大きな役割を果たせます。全員に求める基準を保ちながら異なる強みを組み合わせ、その力が生きる配置と育成まで考える。採用後に異論を受け止める環境がなければ、せっかく迎えた人材も既存の型へ同化してしまいます。採用とは候補者を選ぶ作業であると同時に、これから必要になる組織をつくる仕事です。

参考文献

Groups of diverse problem solvers can outperform groups of high-ability problem solvers

When Convergent Thought Improves Performance: Majority Versus Minority Influence

Evidence for a collective intelligence factor in the performance of human groups

この記事を書いた人

ビジネス・テクノロジスト 貝田龍太