思考展開図を使った課題解決の極意とは?課題を広げて新しい設計につなげる方法

課題を解決しようとすると、私たちは早く答えを出そうとします。しかし、最初に思いついた解決策へ飛びつけば、別の可能性を検討しないまま結論を出すことになります。思考展開図は、中心となる要求から課題を枝分かれさせ、それぞれに解決策を結び付け、最後に全体設計へまとめるフレームワークです。まだ見えていない課題を発見し、解決策の選択肢を増やすために有効です。

【関連記事】「優秀な人」を集めても強い組織にならない?AI時代に考えるべき採用の勘所

思考展開図とは

思考展開図は、頭の中にある考えを書き出し、要求、機能、解決策、具体的な構造の関係を明らかにする方法です。枝を増やすこと自体が目的ではありません。何を実現したいのかを掘り下げ、必要な働きを考え、実際の製品や仕組みに落とし込むまでの過程を1枚に表します。

目的から手段へ向かって枝を伸ばす

思考展開図では、最初に「何を実現したいのか」を表す課題や要求を置きます。そこから、実現に必要な機能を分けます。さらに、それぞれの機能をどのような仕組みで実現するかを考え、具体的な部品、配置、制御方法へ落とし込みます。基本的な流れは、次のように表せます。

課題・要求
└─要求を満たすために必要な機能
   ├─機能を実現する仕組み
   │  ├─具体的な構造や部品
   │  └─別の構造や部品
   └─別の機能を実現する仕組み
      └─具体的な構造や部品

図の左側には「何のために行うのか」という目的を置き、右へ進むにつれて「何を使って実現するのか」という手段を具体化します。要求を機能に分ける側は「機能の系統」、機能を実現する装置や部品を考える側は「実体の系統」と呼ばれます。思考展開図は、この2つを対応させます。

例えば「安全な車を作る」という要求に対して、いきなり衝突被害軽減ブレーキを解決策として置くと、検討はそこで止まります。先に考えるべきなのは、安全な車にはどのような働きが必要なのかという問いです。事故を起こさない、事故に巻き込まれない、誤操作を防ぐ、故障を早く見つける、事故後の被害を抑えるといった方向へ要求を広げれば、衝突回避以外の課題も見えてきます。

枝の段数に決まりはありません。「事故を起こさない」から「危険を早く見つける」へ進み、さらに「前方の障害物を検知する」「運転者が気づいていない危険を知らせる」と分けることもできます。一方、細かく分けても新しい意味が生まれないところでは、それ以上伸ばす必要はありません。枝の数や深さではなく、課題と解決策の関係が分かることが重要です。

作成中は、枝をきれいにそろえる必要もありません。思いついた課題を書き、関連する言葉を加え、別の枝とのつながりに気づいたら配置を直します。完成形を先に決めず、考えの広がりに合わせて図の形も変えていきます。

類似の手法との比較

中心となるテーマから考えを広げる方法には、マンダラチャートやマインドマップがあります。問題を分解する方法としては、ロジックツリーも広く使われています。いずれも思考を目に見える形で整理しますが、何を整理し、どこまで考えるかが異なります。

マンダラチャートは、中心に目標を置き、周囲の8マスに目標を構成する要素や行動を書き込む方法です。3×3の枠があるため、考える場所が明確で、目標と行動を一覧にしやすい利点があります。その一方で、思考展開図のように枝を何段階にも増やし、要求から機構や構造まで連続して表すことを前提とはしていません。

マインドマップは、中心テーマから連想した言葉やイメージを放射状に広げます。決められた順序に縛られず、自由に発想できることが強みです。思考展開図も発想を広げますが、連想した言葉を並べるだけではありません。目的、機能、手段の関係をたどり、具体的な設計に結び付けます。

ロジックツリーは、問題、原因、解決策などを一定の切り口で分解する方法です。同じ階層の要素をそろえ、抜けや重複を確かめながら整理するため、原因分析や論点整理に向いています。

思考展開図では、分解した課題に複数の解決策を結び付け、具体的な仕組みや構造へ落とし込みます。問題を分けて理解するところで終わらず、新しい設計を組み立てるところまで進む点が大きな違いです。

広げた枝を1つの設計にまとめる

思考展開図は、発想を広げたまま終わるものではありません。要求を十分に分け、解決策の候補を出した後は、採用する案を選びます。選択した部品、配置、制御方法、運用方法などを組み合わせ、1つの製品やシステムとしてまとめます。

1つの課題に対して複数の解決策が考えられる場合もあれば、1つの解決策が複数の課題に役立つ場合もあります。例えば、同じセンサーから得た情報を、運転者への警告と自動制御の両方に利用できるかもしれません。記録装置は、事故原因を調べるだけでなく、設計の改善点を見つける材料にもなります。枝同士の関係を見直すことで、個別の案を単純に寄せ集めるのではなく、互いに機能を補う設計を考えられます。

もちろん、すべての要求を同時に満たせるとは限りません。安全性を高める装置が重量や費用を増やすこともあれば、自動制御を増やした結果、操作が分かりにくくなることもあります。思考展開図は、このような衝突を解消するものではありません。どの要求にどの解決策が対応し、1つを採用したときにほかの要求へどのような影響が出るのかを明らかにして、設計上の判断を支えます。

安全な車を作る

思考展開図の形を理解するには、実際に課題を広げてみるのが近道です。「安全な車を作る」という要求を中心に置き、車に必要な働きと、それを実現する仕組みを考えていきます。最初から既存の安全装置を並べるのではなく、まず「安全」が何を意味するのかを分けて考えます。

「安全」とは何か

安全な車と聞くと、頑丈な車体や自動ブレーキを思い浮かべるかもしれません。しかし、それだけでは安全の一部しか扱っていません。事故の発生を防ぐだけでなく、他車の動きによって事故に巻き込まれる危険、運転者の誤操作、部品の劣化、事故後の救助や原因究明まで視野に入れる必要があります。

思考展開図の一部を文字で表すと、次のようになります。

安全な車を作る
├─事故を起こさない
│  ├─前方や周囲の危険を早く見つける
│  │  ├─障害物を検知する → カメラ、レーダー、センサー
│  │  └─危険を知らせる   → 音、表示、振動による警告
│  ├─危険な動きを抑える
│  │  ├─衝突前に減速する   → 制動制御
│  │  └─車線逸脱を知らせる → 車線認識、警報
│  └─運転者の状態を把握する
│     └─注意低下を検知する → 運転者の監視、休憩の警告
├─事故に巻き込まれない
│  ├─後方や側方の車両を把握する → 周辺監視
│  ├─接近する車両を知らせる     → 接近警告
│  └─危険な位置から離れる       → 回避を支援する制御
├─誤操作を防ぐ
│  ├─アクセルとブレーキを間違えにくくする
│  │  ├─踏み間違いにくい配置にする
│  │  └─操作の違いを感覚で分かるようにする
│  ├─不自然な急加速を検知する → 操作状態の監視
│  └─誤った加速を抑える       → 加速抑制、警告
├─故障による危険を防ぐ
│  ├─部品の劣化を検知する → 状態監視、自己診断
│  ├─点検時期を知らせる   → 表示、通知
│  └─危険な動作を止める   → 出力制限、安全停止
└─事故後の被害を抑える
   ├─乗員を守る           → 車体構造、拘束装置
   ├─救助を早める         → 事故の検知、緊急通報
   └─事故前後を記録する   → 走行・操作データの記録

実際の思考展開図では、この先にも枝が伸びます。例えば「部品の劣化を検知する」には、何を測るのか、どの程度の変化を異常と判断するのか、運転者へどのように知らせるのかという課題があります。「踏み間違いにくい配置にする」なら、ペダルの位置だけでなく、形、踏み込んだ感触、着座姿勢、運転者の体格や身体機能の違いも検討対象になります。

同じ言葉でも、どこまで掘り下げるかによって見える課題は変わります。「事故に巻き込まれない」を周辺監視だけで終わらせず、駐車中、交差点、車線変更時などの場面に分ければ、必要な検知範囲や警告方法の違いが分かります。最初の枝には書かれていなかった課題が、別の枝を伸ばす途中で見つかることもあります。

解決策を選び、設計へまとめる

枝を広げた後は、各課題に対する解決策を選びます。国土交通省が紹介する先進安全技術には、前方の障害物との衝突を予測して警告や制動を行う衝突被害軽減ブレーキ、車線から外れそうなときに知らせる車線逸脱警報、誤操作による急発進や急加速を抑える装置などがあります。これらは、思考展開図に書かれた要求機能を実現する具体的な仕組みの例です。

ただし、装置名を書けば枝が完成するわけではありません。ペダル踏み間違い時加速抑制装置であれば、障害物の有無、車両の速度、アクセルの踏み込み方などから誤操作の可能性を判断し、急加速を抑え、音や表示で運転者へ知らせます。その一方で、あらゆる条件で誤操作を防げるわけではありません。どのような状況まで検知できるのか、運転者が意図して強く加速した場合とどう区別するのかも考える必要があります。

事故前後の状況を記録する方法にも選択肢があります。事故情報計測・記録装置であるEDRは、事故直前の加速度、ステアリング操作、安全装置の作動状態などを記録します。車両の周辺映像を残すドライブレコーダーとは役割が異なります。「状況を記録する」という枝をさらに伸ばすと、何を、いつからいつまで、どの精度で残すのか、誰が利用できるのかといった新しい課題も生まれます。

選択したセンサー、警告装置、制御機能、操作系、記録装置は、最後に1台の車としてまとめなければなりません。同じセンサーを複数の機能で共有できれば、部品数を抑えられる可能性があります。一方、警告を増やしすぎれば、どの危険を知らせているのか分かりにくくなります。自動制御による介入を強めれば事故を避けられる場面が増えるかもしれませんが、運転者の意図と異なる動きをする可能性も検討しなければなりません。

思考展開図では、各枝の解決策を個別に採用するのではなく、相互の関係や矛盾を確かめながら1つの全体設計にまとめます。費用、重量、電力、整備性、使いやすさなども含めて判断し、採用しない案を決めます。広げる段階と選ぶ段階を分けることで、最初から実現しやすい案だけに検討を狭めずに済みます。

思考展開図の汎用性の高さ

思考展開図は設計工学で使われてきた方法ですが、対象を機械に限定する必要はありません。システム設計であれば、「信頼できるシステムを作る」という要求から、停止しにくい、誤操作を防ぐ、情報を漏らさない、障害から復旧できる、処理の経緯を確認できるといった方向へ課題を広げられます。それぞれの課題に、冗長化、権限管理、入力確認、バックアップ、ログ記録などの仕組みを結び付けられます。

さらに、「信頼される人になりたい」「賃金を上げたい」「生活の質を良くしたい」といった個人の課題にも応用できます。ただし、あらかじめ決められた展開例や模範回答があるわけではありません。同じ言葉を中心に置いても、置かれた環境や知識、経験、価値観によって伸びる枝は変わります。

思考展開図の汎用性は、どの課題にも同じ答えを当てはめられることではありません。自分で課題を書き、言葉の意味を問い直し、別の方向から枝を伸ばすという考え方を、対象にかかわらず使える点にあります。完成例を写すだけでは、自分が見落としている課題は見つかりません。実際に手を動かし、思いついたことを書き、枝同士の関係を眺めるところから思考が始まります。

思考展開図を大きく育てるために

思考展開図の大きさは、書き手が持っている視点の数に左右されます。同じ課題を見ても、設計者、利用者、保守担当者、営業担当者では気づくことが異なります。課題を広げる段階では、誰が正しいかを決めるよりも、それぞれが気づいたことを図に書き出す必要があります。

広げる前に畳まない

課題を広げる段階で最も避けたいのは、実現しやすい解決策に早々に絞ることです。「費用が高い」「今の技術では難しい」「既存製品には組み込めない」と判断して枝を切れば、なぜ難しいのかを考える機会まで失います。現在は実現できない案であっても、障害になっている条件が分かれば、新しい材料、技術、制度、運用方法を探すきっかけになります。

発散中は、課題や解決策の候補を増やします。実現可能性、費用、効果、副作用を評価するのは、その後の収束段階です。この2つを同時に行うと、書いた直後から案を否定することになり、思考展開図はすでに知っている範囲に収まってしまいます。

枝を増やすには、柔軟に考えればよいという精神論だけでは足りません。部品がどのように劣化するのかを知らなければ、状態監視という枝は出にくくなります。事故が起きる場面を知らなければ、正面衝突以外の危険を見落とします。高齢者、子ども、障害のある人、整備担当者などの利用状況を知らなければ、設計者の感覚だけで使いやすさを判断することになります。

視野や見聞を広げる個人の努力は、思考展開図を育てる土台です。本や論文を読むだけでなく、実物を見る、利用者の行動を観察する、事故や失敗の記録を読む、異業種の仕組みを知るといった経験が、新しい枝の材料になります。直接関係がないと思っていた知識が、別の課題と結び付くこともあります。

多様なメンバーが意見を出せる場を作る

1人で得られる知識と経験には限界があります。そこで有効になるのが、チームで1つの思考展開図を広げる方法です。設計、製造、保守、営業、利用者対応など、異なる仕事をしている人が参加すれば、同じ中心課題から別の枝を伸ばせます。

ただし、所属や経歴が異なる人を集めるだけでは、多様な視点を生かせません。参加者が「こんなことを言えば知識がないと思われる」「上司と違う意見を出せば不利になる」と感じれば、無難な案しか出なくなります。心理的安全性とは、意見、疑問、失敗、未完成の案を口にしても、拒絶されたり不利に扱われたりしないとメンバーが感じられる状態です。

リーダーの振る舞いは、発言の幅に影響します。最初から完成度の高い案を求めるのではなく、リーダー自身が率先して奇抜な案や不完全な案を出せば、参加者も発言しやすくなります。発言の途中で遮らない、実現性を理由にすぐ退けない、役職や専門分野にかかわらず意見を図へ書き込むといった進め方も必要です。

発散段階では、他人の案を批判しません。ある人には現実離れして見える案でも、別の人の知識と組み合わさることで実現方法が見つかる可能性があるためです。一方、収束段階では、安全性、費用、矛盾、実現可能性を厳しく確認します。心理的安全性は、すべての意見を採用することでも、問題点を指摘しないことでもありません。案を出す段階では自由に発言できる状態を守り、選ぶ段階では内容を検証するという区別が必要です。

多様なチームの強みは、意見の数だけではありません。設計者が出した機構に対して、保守担当者が点検の難しさを指摘し、利用者対応の担当者が誤解しやすい操作を挙げ、営業担当者が顧客の使い方を補うことで、別々だった知識が結び付きます。1つの枝を別の人がさらに伸ばす過程で、個人では見つけられなかった課題が現れます。

完成した図が新しい発見を生み出す

思考展開図には、解決できなかった課題も残ります。すべての枝を新しい設計へ組み込む必要はありません。現在の技術では作れない、費用が高すぎる、別の機能と両立しないといった理由で採用されない案もあります。採用しなかったという結果だけでなく、何が実現を妨げているのかも図の中に残ります。

実現できない理由が分かれば、そこから次の課題が生まれます。センサーの精度が足りないのであれば、精度を上げる方法や複数の情報を組み合わせる方法を考えられます。費用が問題なら、部品の共通化や機能の統合が新しい枝になります。両立しない要求があるなら、利用場面を分ける、運転者に選択させる、別の仕組みで補うといった方法も検討できます。

思考展開図は、一度作ったら完成するものではありません。試作品を作れば、想定どおりに動かなかった理由が分かります。利用者が使えば、設計者が考えていなかった行動が見つかります。事故や不具合が起きれば、新しい課題や制約が現れます。そのたびに枝を追加し、関係を見直すことで、図はさらに大きくなります。

大きく育った思考展開図は、作成者だけの思考記録にはとどまりません。図を見る人は、自分とは異なる視点から伸びた枝をたどることで、それまで考えていなかった課題に気づきます。「安全」を衝突防止だけで考えていた人が、部品の劣化、誤操作、事故後の記録という枝を見れば、安全という言葉の捉え方そのものが変わります。さらに、自分の知識と既存の枝を結び付け、新しい解決策を思いつくこともあります。

これは単なる情報共有ではありません。誰かが作った思考展開図を別の人が自分の知識や経験と照らし合わせることで、作成時にはなかった発見が生まれます。良い思考展開図は答えを保存するだけでなく、見る人に新しい視点と発見を与えます。

まとめ

思考展開図は、中心となる課題や要求から必要な機能を分け、それぞれを実現する仕組みや構造を考え、最後に全体設計へまとめるフレームワークです。自動車やシステムの設計だけでなく、仕事や生活に関する課題にも応用できます。

課題を広げている途中で答えを決めず、知識や経験を増やし、多様な人の視点を取り込むことが重要です。すべての枝を採用できなくても、実現できない理由が分かれば、そこから次の課題が生まれます。完成した図を見た人にも、作成者とは異なる新しい発見が生まれます。

良い答えを早く出せる人だけが優れているわけではありません。他の人が見落としていた課題を見つければ、これまでとは異なる解決策を考えられます。多くの視点から課題を発見する力が、新しい設計や大きな成果につながります。

課題解決の質は、最後に選んだ案だけで決まるものではありません。どれだけ多くの可能性を検討し、採用しなかった案や解決できなかった課題から何を見つけたかも、次の設計を左右します。思考展開図は、課題の発見と設計の改善を続けるための土台になります。

参考文献

革新的問題発見・解決の方法

失敗学フレームワークを活用する創造的なエンジニアリング・デザイン・モデリング・プロセス

この記事を書いた人

ビジネス・テクノロジスト 貝田龍太