「何も考えず、よく寝ること」が最高の自己投資?脳を育てる習慣とは

スマートフォンがあれば、空き時間をいくらでも情報収集に使えます。しかし、次々に情報を取り込んでいると、学んだ内容を振り返る時間も、十分に眠る時間も失われてしまいます。知識を身につけるには、学習の合間にぼんやりする時間と、その後の睡眠も必要です。休んでいる脳の働きや、夢と記憶の関係を知ると、休息や睡眠が学習に必要な理由も分かります。睡眠環境や寝具、スマートフォンの使い方を見直すのも、学習や仕事を支える自己投資です。

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現代人は情報を取り込み過ぎている

情報を探す手間が減った一方で、情報に触れずに過ごす時間も減っています。休憩や移動のたびに画面を開けば、仕事を中断していても、脳には新しい情報が入り続けます。スマートフォンは、現代の「情報入力過多」を生む主な要因です。学んだ内容を仕事に生かすには、情報を集めた後に考えを整理する時間も必要です。

休憩時間も情報が増え続ける

スマートフォンには、SNS、ニュース、動画、メッセージ、検索、生成AIなどが集まっています。調べたい内容があれば、その場で検索でき、理解できない部分は生成AIに質問できます。仕事や勉強に便利な反面、1つの疑問が解けた後も、関連記事や新しい投稿を読み続けてしまいがちです。仕事の合間だけでなく、移動中、食事中、入浴中、就寝前まで画面を見る習慣があれば、1日のほとんどを何らかの情報に触れながら過ごすようになります。情報の量が増えただけでなく、情報を取り込む時間に区切りがなくなっています。

通知による中断も負担になります。2022年に発表された実験では、認知課題に取り組む参加者にスマートフォンの通知音と比較用の音を聞かせたところ、通知音が鳴ったときに反応が遅くなりました。脳波にも、注意や反応を調整する際の負担を示す差が見られています。通知が届くと、今すぐ確認するか、後で返信するかが気になります。画面を開かなくても、音が鳴るだけで作業に影響する可能性があるため、スマートフォンを操作した時間だけでは負担を捉えきれません。

2023年には、スマートフォンの使い過ぎと精神的疲労との関連を調べた研究も発表されています。状況に合わせて考え方を切り替える「認知的柔軟性」との関係も検討されており、過剰な利用が精神的疲労の危険因子となる可能性が示されました。仕事の疲れを取ろうとして動画やSNSを見ていても、その間は内容を理解し、次に見る情報を選び続けています。休んでいるつもりでも、情報を処理する作業は続いています。学習に役立つ内容であっても、空き時間をすべて埋めてしまえば、立ち止まって考える余裕はなくなります。

脳はぼんやりしている間も働いている

何もせずにぼんやりしているときも、脳は働いています。こうしたときに活動しやすい複数の脳領域からなるネットワークを、デフォルトモードネットワークと呼びます。外部の課題に集中していないときに、過去の経験を思い出したり、未来の出来事を想像したり、自分の気持ちを振り返ったりする働きに関わっています。複数の研究をまとめたレビューでも、こうした内向きの思考とデフォルトモードネットワークの関係が説明されています。何もしていないように見える時間にも、頭の中では記憶や考えが浮かんでは移り変わっています。

画面から新しい情報を得る時間と、頭に浮かぶ考えに任せて過ごす時間では、注意を向ける先が異なります。動画を見ているときは、映像や話の展開を追っています。スマートフォンをしまって歩いているときには、先ほどの会話や、以前読んだ内容をふと思い出す場合があります。外から情報を取り込むのをやめると、自分の経験や考えを振り返る時間が生まれます。知識の整理には複数の脳の働きが関わっています。

情報収集が習慣になっていると、何も見ていない時間を無駄に感じるかもしれません。しかし、記事を読み終えた直後に別の記事へ移れば、読んだ内容と自分の経験を照らし合わせる機会も少なくなります。画面を閉じて過ごしていると、印象に残った話を思い出し、自分の仕事とのつながりに気づく場合もあります。情報収集ばかりに時間を使わず、すでに得た知識について考える余裕も残す必要があります。

良質な「ぼんやり」が発想を助ける

考えが行き詰まったときには、一度課題から離れると別の案が浮かぶ場合があります。2012年の実験では、参加者が創造的な課題に取り組んだ後、負荷の低い作業を挟みました。その間に自由に思考を巡らせやすかった参加者は、同じ課題へ戻った際に成績を伸ばしています。まず課題に取り組んで必要な知識を得たうえで、いったん離れて休むという順序が大切です。

散歩、入浴、単純な家事などは、新しい情報を追い続ける状態から離れる機会になります。動画や音声を流さず、歩いたり家事をしたりしながら、自然に浮かぶ考えに任せて過ごせます。休憩中まで答えを出そうと力む必要はありません。考えが行き詰まったときは、無理に答えを出そうとせず、いったん課題から離れて休みます。課題に集中する時間と、自由に思考を巡らせる時間を分けるのが、良質なぼんやりの基本です。

ただし、過去の失敗を何度も思い返したり、将来の不安から離れられなかったりすると、気持ちは休まりません。過去の出来事を繰り返し考える「反芻」は、不眠のある人を対象とした研究で、睡眠の質などとの関連が報告されています。画面を閉じた後も同じ悩みを考え続けているなら、気がかりを紙に書くなどの対処も必要になります。情報を集め続けるほど、仕事の質が上がるわけではありません。新しい情報から離れ、考えを整理し、休むための時間を確保する必要があります。

脳は睡眠中も学習している

学習後の睡眠には、日中に得た記憶を定着させる働きがあります。勉強のために睡眠を削っていると、覚える時間を増やす代わりに、覚えた内容を定着させる時間を減らしているかもしれません。

覚える時間と定着させる時間

新しい情報を覚えた後も、脳はその記憶を定着させるために働き続けています。睡眠と記憶に関する複数の研究をまとめた論文では、起きている間は新しい情報を覚えやすく、眠っている間はその記憶が定着しやすいと説明されています。学習直後に覚えている内容も、長く記憶に残すには定着させる時間が必要です。読んだページ数や受講時間だけでは、知識がどれほど身についたかを判断できません。

睡眠には、脳の活動状態が異なるノンレム睡眠とレム睡眠があります。深いノンレム睡眠では、最近形成された記憶に関わる脳の活動が再び起こります。この「再活性化」を通じて、新しい記憶が長期記憶へ組み込まれていくと考えられています。その後のレム睡眠は、ノンレム睡眠中に整理された記憶を安定させる役割を担う可能性があります。勉強の成果が思うように出ないときには、学習後に十分な睡眠を取れているかも確認する必要があります。

「脳は寝ている間にも学習している」といわれるのは、起きている間に読んだり聞いたり練習したりして得た記憶が、睡眠中に整理されるためです。眠るだけで未知の知識を身につけるという意味ではありません。資格の勉強や仕事に必要な学習では、少しでも先へ進もうとして夜更かしを重ねがちです。しかし、教材に触れる時間を延ばすために眠る時間を減らしてしまえば、記憶を定着させる時間も短くなります。教材に向き合っている時間と、眠っている時間では、記憶に関わる脳の働きが異なります。

夢には最近の経験や感情が表れる

日中に経験した出来事や気にかかっている話が、夢に現れる場合があります。夢はレム睡眠だけでなく、ノンレム睡眠でも見られます。最近の経験がそのまま再現される場合もあれば、一部だけが現れたり、別の経験と混ざったりする場合もあります。睡眠中には記憶の再活性化が起きるため、こうした夢の内容と記憶の処理との関係が研究されています。奇妙に感じる夢にも、最近学んだ内容や、そのときの感情が形を変えて表れている可能性があります。

2023年には、学習課題に関係する夢と記憶の定着について調べたメタ分析が発表されました。メタ分析は、複数の研究結果を統計的にまとめて検討する方法です。この分析では、16件の研究結果を統合し、学習した課題に関係する夢を見たかどうかと、眠った後にその内容をどれほど覚えているかの関係を調べています。その結果、課題に関係する夢を見た人ほど、眠った後も学習内容をよく覚えている傾向が確認されています。

睡眠中に進む記憶の処理が、夢の内容に表れている可能性があります。夢の内容は、眠っている脳が学習した内容をどう処理しているかを探る手がかりになります。

休息と睡眠を予定に組み込む

学習の予定を立てる際には、開始時刻だけでなく終了時刻も決める必要があります。資料を読み終えた後に関連動画を見て、さらにニュースやSNSを確認していると、勉強を終えても情報収集は続きます。布団に入ってから画面を見続ければ、その分だけ眠り始める時刻も遅くなります。仕事や勉強の気分転換に見始めた動画でも、就寝を後回しにしてしまえば、十分な睡眠を取りにくくなります。勉強を終える時刻、スマートフォンの画面を閉じる時刻、布団に入る時刻を分けて考えると、就寝前に何に時間を使っているかを振り返りやすくなります。学習が終わってから就寝するまでの時間は、新しい情報を追わず、落ち着いて過ごすために使えます。

18~94歳の成人844人を対象とした調査では、消灯後の携帯電話によるメッセージや通話が、寝つきの遅れ、睡眠効率の低下、睡眠中の中断、日中の疲労と関連していました。睡眠効率は、寝床で過ごした時間のうち、実際に眠っていた時間の割合です。ただし、一時点の状態を調べた調査のため、携帯電話の利用が睡眠の問題を引き起こしたとまでは確認されていません。夜の過ごし方を考える際には、布団に入る時刻に加え、画面を閉じる時刻にも目を向ける必要があります。

学習の予定には、情報を取り込んだ後の休息と睡眠まで含める必要があります。資料を読んだり課題に取り組んだりする時間を決める際には、学習が終わってから眠るまで、どのように過ごすかも考えます。関連する情報をさらに探す時間と、画面を閉じてぼんやりと考えを整理する時間を分け、眠る時間を後回しにしない予定を立てます。翌日の仕事に必要な勉強でも、睡眠を削らずに済むよう、夜の予定を詰め込み過ぎない工夫が必要です。何時間勉強できたかだけでなく、学習後に休息と睡眠を十分に取れたかを振り返ると、情報の取り込みに偏った学習計画を見直せます。

熟睡と良質な「ぼんやり」を取り戻す

休息と睡眠を確保するには、毎日の過ごし方を見直す必要があります。就寝前の習慣や寝室の環境、起床後の体調を振り返ると、自分に必要な対策を考えやすくなります。スマートフォンも、情報を取り込む時間を区切って使う工夫が必要です。

熟睡できる環境を整える

必要な睡眠時間には個人差があります。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」も、睡眠時間の確保に加え、睡眠で十分に休めたと感じるかを重視しています。寝床にいた時間の長さだけでなく、起床時に休めた感覚があるか、日中に強い眠気が続いていないかも、睡眠の状態を知る目安になります。

寝室を暗く静かにし、暑過ぎず寒過ぎない温度に整えると、眠りを妨げる刺激を減らせます。起床後に朝の光を浴び、就寝と起床の時刻を大きく変えない生活も、良質な睡眠を支えます。カフェインと、たばこに含まれるニコチンには覚醒作用があり、寝つきや眠りの深さに影響します。寝酒は一時的に寝つきを良くしても、夜の後半に眠りが浅くなるため、睡眠の質を下げる原因になります。遅い時間の食事や就寝前の強い光、デジタル機器の利用も、睡眠を妨げる場合があります。

すべての習慣を一度に変える必要はありません。夜更かしが続く場合は、就寝時刻を決め、寝る前のスマートフォン利用を控える工夫が必要です。充電場所を寝室の外に移す方法もあります。夜更かし、明るさ、騒音、暑さなど、眠りを妨げている原因に合わせて対策を選ぶと、生活に取り入れやすくなります。

寝具は体の痛みや寝心地を手がかりに見直す

寝具を見直す際は、価格や評判よりも、今感じている体の痛みや寝心地を重視します。朝の首や腰の痛み、寝返りの打ちにくさ、沈み込み過ぎ、底付き、蒸れ、同居者が動くと目が覚めるなど、困っている点を具体的に挙げると、改善したい点が明確になります。体格や寝姿勢によって寝具の合う・合わないは異なるため、評判だけでは判断できません。

マットレスの比較試験を扱った24本の論文を検討したレビューでは、中程度の硬さと感じられるマットレスや、利用者が調整できるマットレスについて、寝心地と睡眠の質が良好で、背骨を自然な位置に保つうえでも適していると報告されています。ただし、適した硬さは体格、寝姿勢、痛みの有無などによって変わります。中程度という表示だけで決めず、横になったときに無理な姿勢にならないか、寝返りを打ちやすいかも確かめる必要があります。

枕は首に無理な角度がつかないか、掛け寝具は暑さや蒸れがないか、マットレスは無理のない姿勢で眠れ、寝返りを打ちやすいかを確認します。寝具の見直しと併せて、就寝や起床の時刻、寝室の環境を整える必要があります。買い替えを検討する場合も、一式を高価な製品に替える前に、痛みや寝返りのしにくさ、蒸れを手がかりに、どの寝具が自分に合っていないのかを確かめます。

過去や未来について考えすぎない

布団に入っても、過去の失敗や将来への心配が頭から離れなければ、気持ちは休まりません。不眠症と診断された242人を対象とした研究では、反芻の強い人と弱い人の間で、睡眠効率や夜中に目覚める程度、本人が感じる睡眠の質に違いが見られました。同じ悩みを考え続ける状態は、思考を自由に巡らせる「良質なぼんやり」と異なります。

気がかりを無理に頭から追い払おうとせず、翌日の予定を就寝前に紙へ書き出す方法があります。18~30歳の健康な成人57人を対象とした実験では、就寝前の5分間に今後の予定を書いたグループは、完了した活動を書いたグループより早く眠りにつきました。具体的な項目を多く書いた人ほど、入眠までの時間も短くなりました。小規模な実験の結果であり、誰にでも同じ効果があるとは限りませんが、予定が気になって眠れないときに試せる方法です。

過去の失敗が気になる場合も、後で振り返りたい点をメモに残す方法があります。気がかりを書き出しておけば、忘れないように何度も思い返す負担を減らせます。その場ですべてを解決しようとせず、続きは翌日考えると決めれば、就寝前の考え事に区切りをつけられます。スマートフォンで記録すると別の情報まで見てしまう場合には、紙に短く書く方法が適しています。

「スマホ認知症」になっていないか確認する

スマートフォンから大量の情報を取り込み、注意を頻繁に切り替えていると、脳が疲れ、物忘れや集中力の低下が現れる場合があります。医師が監修する健康情報でも、こうした状態が「スマホ脳疲労」として説明されています。直前に聞いた内容を忘れる、スマートフォンを開いた目的を思い出せない、別の部屋へ移動した途端に用事を忘れる、予定や約束が頭に残らないといった状態です。脳疲労によって認知症に似た物忘れが一時的に現れる状態を、俗に「スマホ認知症」と呼びます。正式な診断名ではなく、スマートフォンによって認知症を発症するという意味でもありません。

次のような行動が続いている場合は、脳を休ませる時間が減っている可能性があります。

  • 空き時間の過ごし方:少し時間が空くと、目的がなくても反射的にスマートフォンを開く。
  • 通知への反応:通知が届くたびに仕事を中断し、メッセージや新着情報を確認する。
  • 散歩や入浴中の習慣:散歩や入浴中も、動画や音声を流し続ける。
  • 就寝前の利用:布団に入った後も画面を見て、寝る時刻が遅くなる。
  • 検索への依存:思い出したり考えたりする前に、すぐに検索したり、生成AIに尋ねたりする。

休息や睡眠を妨げる習慣がないか、利用時間、通知の頻度、取り込む情報量を振り返るためのチェックです。病気の有無は、このチェックだけでは判断できません。50歳以上を対象とした複数の研究結果をまとめたメタ分析が、2025年に発表されました。この分析では、デジタル機器の利用者で、認知機能障害や認知機能低下のリスクが低い傾向も報告されています。観察研究をまとめた結果のため、予防効果があるとまでは断定できません。デジタル機器の利用を一律に有害と捉えるのではなく、その使い方を見直す必要があります。

スマートフォンを完全に手放さなくても、仕事中の通知を減らす、散歩や入浴中は動画や音声を流さない、寝室の外に置くなど、使い方を変えられます。情報を得るために使う時間と、画面を閉じて休む時間を分ければ、ぼんやり考える余裕や就寝前にくつろぐ時間を確保できます。物忘れが続く場合や日常生活に支障が出ている場合は、「スマホ認知症」だと自己判断せず、医療機関へ相談する必要があります。

まとめ

現代人は、スマートフォンを通じて絶えず情報を取り込んでいます。仕事や勉強に役立つ情報でも、次々に取り込んでいると、学んだ内容を振り返ったり、自分の経験と結び付けたりする時間がなくなります。

何もせずにぼんやりしていると、過去の経験を思い出したり、新しく知った内容とのつながりに気づいたりします。睡眠中には、起きている間に得た記憶が再活性化され、長期記憶へ組み込まれていきます。学んだ内容を仕事や生活で生かせるようになるには、情報を集める時間に加え、ぼんやり考える時間と十分な睡眠も必要です。

自己投資のために学習の予定を詰め込む前に、今の生活で休息と睡眠が足りているかを振り返る必要があります。勉強時間を延ばすために睡眠を削るより、スマートフォンから離れ、新しい情報を取り込まない時間と十分な睡眠を確保する方が、学んだ内容の定着に役立ちます。情報入力過多の時代には、入力を止める時間も仕事や学習の一部です。休息と睡眠を日々の予定に組み込むのも、学んだ内容を身につけるための自己投資です。

参考文献

The hidden cost of a smartphone: The effects of smartphone notifications on cognitive control from a behavioral and electrophysiological perspective

Rest Is Not Idleness: Implications of the Brain’s Default Mode for Human Development and Education

Inspired by Distraction: Mind Wandering Facilitates Creative Incubation

集中力や記憶力が落ちていませんか?「スマホ脳疲労」に注意

この記事を書いた人

ビジネス・テクノロジスト 貝田龍太