なぜAIそのものへの反発が大きいのか?「アンチAI」が生まれる構造

生成AIが普及するにつれ、AIそのものに強く反発する人も目立つようになりました。その理由は、仕事を奪われる不安や、血の通った応対ができないという不満だけではありません。企業がAIを人に代わる窓口として使うと、利用者はAIにも、自分の事情を理解し、誠実に対応してほしいと期待します。しかし、AIは誤った回答をしても責任を負えません。利用者がAIに期待する役割と、AIが担える責任の差が大きいほど、企業への不信がAIそのものへの反発として表れます。

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「企業への不信」が「AIへの反発」に変わる

AIへの反発は、機械に対する漠然とした恐怖だけで生まれるわけではありません。企業が問い合わせ対応をAIに任せると、利用者はAIと直接やり取りするようになります。一方、導入を決めた企業や回答に責任を負う担当者は、利用者から見えにくくなります。誤った回答によって不利益を受ければ、利用者の不満は、目の前で応対しているAIへ向かいます。

人のように見えるAI

ATMや経路案内のような従来のシステムは、何ができるのかが分かりやすく作られています。ATMは入出金や振り込みを行い、経路案内は目的地までの道順を示します。利用者は機械に任せる範囲を把握しやすく、問題が起きたときの問い合わせ先も確認できます。

生成AIは、文章作成や検索を補助するだけでなく、相談に答え、応募者を評価し、商品を勧め、苦情にも対応します。しかも、一人称を使い、質問の意図を理解しているように受け答えします。研究では、人間らしい言葉遣いをするチャットボットほど、単なる道具ではなく、会話の相手として受け止められやすく、企業への親近感にも影響すると報告されています。

自然な文章で返答されるほど、利用者はAIが自分の状況を理解したと感じます。しかし、AIには企業の責任を認めたり、補償を決めたりする権限がありません。誤った回答によって利用者に不利益が生じても、AI自身が責任を問われるわけではありません。人の代わりに応対するAIが、その結果には責任を負えないため、利用者は誰を信頼すればよいのか分からなくなります。

AIが社内で回答の下書きを作り、担当者が内容を確認してから顧客へ伝える場合は、企業が回答の責任を負います。AIが顧客へ直接回答すると、企業が内容を確認したのかどうか、利用者には分かりません。利用者にとってAIは、担当者の作業を助ける道具ではなく、企業に代わって回答する窓口です。

企業が省いた手間を利用者が負担する

問い合わせ窓口にAIを導入すれば、電話やメールを担当者が処理する件数を減らし、少ない人数で多くの顧客に対応できます。営業時間外でも回答できるため、利用者にとっても便利です。AIだけで質問への回答や手続きを終えられる問い合わせでは、企業と利用者の双方が手間を減らせます。

ところが、AIだけでは解決できない問い合わせになると、利用者の手間がかえって増えます。料金の誤請求について尋ねても、AIは一般的な説明を繰り返すだけです。複雑な事情を入力すれば、質問を短く言い換えるよう求められる場合もあります。担当者への切り替え方法まで分かりにくければ、利用者は同じ事情を何度も入力し、回答が正しいか自分で調べ、別の窓口まで探さなければなりません。企業がAIの導入によって省いた確認や聞き取りの作業を、顧客が代わりに負担します。

担当者が応対しても、すぐに解決できるとは限りません。それでも、事情を記録し、責任者に確認したうえで、後から回答できます。AIが定型的な回答を繰り返すだけでは、誰が問題を引き受け、解決まで対応するのか分かりません。顧客は、企業の都合で余計な手間を負わされたうえ、責任者との連絡まで妨げられたと感じるため、怒りを強めます。

AIの導入を決めた経営者や運用責任者は、顧客からは見えません。画面上で応対するAIが企業の顔になるため、企業の都合を優先した業務効率化や、責任を負う担当者を表に出さない姿勢への不満までAIに向かいます。「AIが嫌いだ」という言葉には、AIの性能への不満だけでなく、AIだけで顧客対応を済ませようとする企業への不信も含まれています。

AIの失敗は人の失敗より厳しく見られる

同じ誤りでも、人が犯した場合より、アルゴリズムが犯した場合のほうが利用を避けられやすい傾向があります。この反応は「アルゴリズム嫌悪」と呼ばれます。予測課題を扱った5つの実験では、アルゴリズムのほうが正確に予測していても、一度でも誤りを目にした参加者は、アルゴリズムを選ばなくなりやすいと報告されました。

企業はAIを導入する際、膨大な情報を速く正確に処理できると強調します。AIの効率を理由に担当者を減らした後で誤りが起きれば、利用者は「人にも間違いはある」とは受け止めません。「それなら担当者を減らすべきではなかった」と考えます。

担当者の間違いなら、その担当者の経験不足や勘違いとして原因を調べられます。AIの仕組みに問題があれば、同じ誤った回答が複数の顧客へ返されるおそれがあります。企業が原因や修正内容を説明しなければ、利用者には、同じ誤りが再び起きないと判断する材料がありません。利用者がAIの誤りを厳しく見るのは、機械に完璧さを求めているからだけではありません。多くの顧客へ同じ回答を返すAIを導入するなら、企業は誤りをどのように直し、誰が責任を負うのかを明らかにする必要があります。

AIに仕事を奪われるという不安は、責任を負う人までいなくなるのではないかという不安と結び付いています。利用者が心配しているのは、人の仕事が減ることだけではありません。担当者を減らした後も、確認や説明、例外への対応を続けられるのかを見ています。AIへの反発は、仕事を奪う機械への恐怖に加え、問題が起きても責任を持つ人に対応してもらえなくなるという不安から強まります。

AIによる謝罪は空虚に見える

日本では、契約や規則を守るだけでなく、相手の事情をくみ取り、問題が起きた後も関係を保とうとする姿勢が信頼を左右します。怒っている顧客は、丁寧な言葉だけでなく、企業が自社の問題として受け止め、解決に動く姿勢を求めています。

「書かれていない対応」が信頼を左右する

日本の企業間取引では、契約書に書かれた条件だけでなく、長期的な関係を保つために相手の事情をくみ取り、問題が起きた後に対応を調整する姿勢も重視されてきました。英国と日本の電子産業を比較した研究でも、価格や品質に加え、長期的な取引関係と信頼が両国の企業間取引を支える要素として分析されています。日本と米国の自動車産業で1,000社を超える供給者を調べた研究は、信頼が国民性だけで決まるのではなく、これまでの取引や相手の行動によって築かれると示しました。

継続的な取引では、将来起こり得る事態をすべて契約書に盛り込めません。原材料の不足、納期の変更、仕様の見直しなどが起きたときは、当事者同士で話し合い、取引を続けるための対応を決めます。契約に書ききれない問題について、その都度話し合いながら長期的な取引を続ける考え方を「関係的契約」と呼びます。

契約と信頼は対立するものではありません。契約で権利と義務を明確にし、契約書だけでは答えが出ない問題については、これまで築いた信頼関係をもとに対応を決めます。日本の企業間取引では、長く取引を続けるために、相手の事情に応じて対応を調整してきました。顧客対応でも、規約どおりの説明だけで終わらせず、事情を聞いて例外対応を検討し、必要なら責任者が判断するかどうかで、企業への信頼が変わります。

商品やサービスに問題が起きたとき、顧客は契約違反の有無だけを確かめているわけではありません。会社が顧客の不利益をどう受け止めるのか、同じ問題を繰り返さないために何をするのかを見ています。苦情対応では、契約に定められた最低限の義務を果たすだけでなく、企業が信頼に値するかも問われます。

顧客の怒りは「正しい回答」だけでは収まらない

非対面サービスを調べた国内研究では、問い合わせから問題の解決へ進むにつれて、利用者が重視するものは、対応の速さから確実さや共感へ移りました。問い合わせた直後は、電話のつながりやすさや回答の早さが評価されます。問題の内容を説明する段階になると、担当者が話を正しく理解しているか、安心して任せられるかが重視されます。

たとえば、予約を一方的に取り消された顧客に、AIがキャンセル規定だけを案内しても、怒りは収まりません。顧客が知りたいのは、取り消された理由や返金の時期、代わりに利用できる方法です。料金を誤って請求された顧客も、一般的な請求手順ではなく、誰が調査し、いつ訂正するのかを知りたいはずです。正しい情報を伝えるだけでは、顧客が求める解決にはなりません。

問題が起きた後の顧客満足度を調べた研究では、謝罪、対応の速さ、補償の組み合わせによって満足度が変わりました。対応が遅いうえに謝罪もなければ、補償をしても不満は十分に解消されません。一方、対応が早く、謝罪もあれば、補償の有無だけで満足度は決まりません。顧客は、謝罪や補償を受けたかどうかだけでなく、企業が問題をどのように解決したかも見ています。

AIは「申し訳ございません」「ご不便をおかけしました」と自然に返答できます。しかし、AIの謝罪が、そのまま企業による責任の承認になるわけではありません。AIには、返金や契約変更、例外対応を決める権限もありません。丁寧に謝っても具体的な対応が伴わなければ、顧客には、責任を避けるための定型文に見えます。企業への信頼を失った顧客の怒りは、人間らしい文章を返すだけでは鎮められません。

「人間らしい受け答え」が期待を高めすぎる

チャットボットに名前を付け、親しみやすい口調や感情表現を使わせると、利用者はチャットボットに温かさや誠実さを感じやすくなります。苦情対応を扱った研究では、利用者がチャットボットを安全で有能だと感じるほど、企業への信頼や、失敗を許容する気持ちも高まりました。回答に失敗した後でも、チャットボットが共感を示したり、解決方法を案内したりすれば、満足度や再利用の意向が改善する場合があります。

共感を示す言葉や解決方法の案内は、チャットボットが質問を理解できなかったときや、利用者が入力方法を間違えたときに、会話を立て直す助けになります。しかし、金銭的な損失や契約上の争いが生じている場合は、企業の判断と実際の対応が必要です。親しみやすい言葉で不満を和らげても、返金や訂正が進まなければ、顧客の問題は解決しません。

人間らしい受け答えをするほど、利用者の期待も高まります。「状況を理解しました」と返されれば、自分の説明が企業に伝わり、解決に向けた対応が始まると考えます。ところが、AIが同じ質問を繰り返したり、再び規約を説明したりすれば、最初から機械的に案内された場合よりも強く失望します。理解してもらえたと思った直後に、内容に応じた対応が始まっていなかったと分かるからです。

AIを道具として割り切れない理由を、利用者の知識不足だけに求めるのは適切ではありません。企業自身がAIに名前や声、感情表現を与え、「人のように寄り添う」「気持ちを理解する」と利用者に期待させています。人間らしい応対を売りにしながら、問題が起きたときだけ「AIは道具にすぎない」と説明しても、利用者は納得できません。

AIに人間らしい応対をさせるなら、担当者へすぐに切り替えられる仕組みも用意しなければなりません。 AIだけでは解決できないと分かったら、それまでの会話を担当者へ引き継ぎ、顧客に同じ説明を繰り返させないようにしましょう。AIは短時間で答えられる問い合わせを処理し、信頼を回復する必要がある苦情には担当者が責任を持って対応する必要があります。

AIは「信じる」でも「信じない」でもない

AIを警戒する人は、必ずしも便利さや新技術を拒んでいるわけではありません。AIを使いながら不安も感じ、安全性の確保や企業の説明責任を求める人もいます。AIに賛成か反対かという二択では、利便性を認めながら不安も抱く利用者の考えを捉えられません。

AIへの警戒は無くならない

消費者委員会は2026年、日本在住の生成AI利用者1,442人を対象に、利用実態を調べました。生成AIを信頼していると答えた人は半数を超えましたが、6割近くが、偽情報の拡散、個人情報やプライバシーの侵害、思考力や判断力の低下に不安を感じていました。

今後の利用についても、約6割が「生成AIを広く活用しつつ過度な利用は避けたい」または「安全性やリスクを確かめて慎重に使いたい」と回答しました。生成AIの利用者だけを対象にした調査であり、日本人全体の意識を示すものではありません。それでも、生成AIを使う人の中にも、利便性を認めながら慎重に利用したいと考える人が多いことは分かります。

内閣府がまとめた資料では、生成AIの利用に慎重な人が、利用状況を監視・監査する仕組み、事実と偽情報を見分ける手段、プライバシー侵害や情報漏洩を防ぐ規制などを求めていました。回答者の多くは企業に対し、顧客データを安全に管理し、説明責任を果たすよう求めています。AIを警戒する人は、便利さを拒んでいるのではなく、安心して使える状態を求めています。

AIを警戒する人を、変化を嫌う人や技術を理解していない人と決めつければ、企業はAIの導入方法や運用方法にある問題を見落とします。誤った回答を見分けにくい、個人情報がどう扱われるか分からない、不利益が生じても責任者に連絡できないといった不安は、利用者が注意するだけでは解消できません。AIを提供する企業が、情報を管理する体制、回答を確認する手順、問題が起きたときの問い合わせ先を整える必要があります。

生成AIは「何を任せられるのか」が分かりにくい

ATMは画面に表示された取引から選び、経路案内は出発地と目的地を入力して使います。セルフレジで行うのは、商品の読み取りと決済です。利用者は機械に何を任せているのか把握しやすく、処理できないときは店員や担当者に対応を求められます。

生成AIは同じ画面で、文章や画像の作成、検索、相談、分析など、さまざまな作業に使えます。簡単な質問には正しく答えても、専門的な質問には根拠のない回答を返す場合があります。しかも文章は自然なので、どの質問に正しく答えられないのかを、回答の見た目だけで判断するのは困難です。検索結果に基づく回答なのか、学習データから作った文章なのか、企業が登録した規則に従った回答なのかも、画面を見るだけでは分かりません。

誤った回答が返っても、利用者には原因を判断できません。質問の書き方が悪かったのか、必要な情報が不足していたのか、企業の設定や業務手順に問題があったのかは、画面からは分かりません。企業が原因や対応を説明しなければ、利用者は、その後の回答を信用してよいかどうかさえ判断できなくなります。

ATMやセルフレジは、処理できる範囲を画面や操作手順で示し、機械だけで処理できなければ担当者が対応します。生成AIが企業の窓口として利用者と会話すると、どこまでAIが判断し、どこから企業が責任を負うのかが見えにくくなります。利用者は、「何を任せられるのか」が分からないAIを人に代わる窓口として使わされるため、AIそのものへの反発が強くなります。

「AIを適切に使える仕組み」を整える

人とAIの関係を扱う研究では、AIをむやみに信頼するのではなく、能力と限界に合わせて、どこまで任せるかを判断する「適切な信頼」が重視されています。高性能なAIでも誤るため、無条件に信じれば、誤った回答をそのまま使うおそれがあります。反対に、AIを全面的に拒めば、役立つ機能も使えません。

ただし、利用者に「過信しないでください」と注意するだけでは不十分です。企業が人間らしい受け答えをするAIを提供しながら、問題が起きたときだけ、過信した利用者の責任にするのは責任転嫁です。企業は、AIに何を任せられるのか、回答の正しさをどう確認するのかを示さなければなりません。

文章の下書きや情報の整理なら、利用者が内容を確認してから使えます。一方、返金や契約変更を決める場合や、健康、安全、権利に関わる判断をする場合は、誤りによる影響が大きくなります。AIに判断材料や回答案を作らせても、権限を持つ担当者が内容を確認し、最終的な判断に責任を負わなければなりません。AIに任せる範囲は、用途と、誤った場合の影響に応じて変えるべきです。

企業は、AIが同じ回答を繰り返した場合、顧客が担当者とのやり取りを求めた場合、補償や契約上の判断が必要になった場合に、担当者へ切り替えると決めておきます。AIとの会話も担当者へ引き継ぎ、顧客に同じ説明を繰り返させないようにします。AIの正答率だけでなく、AIで解決できなかった問い合わせを責任者へ確実に引き継げた割合も評価する必要があります。

AIを信頼しているかどうかだけで、利用の可否を決めるべきではありません。AIは目的に応じて使い分ける道具です。誰が何のために使うのか、どこまで任せるのか、結果を誰が確認し、誤りが起きたときに誰が責任を負うのかを決めなければなりません。回答を無条件に信じなくても利用できるように、確認方法と責任者を明確にすれば、AIを道具として使えます。

まとめ

AIへの反発が強まるのは、人のように応対するAIが、応対の結果には責任を負えないためです。人間らしい言葉を返されると、利用者は自分の事情を理解してもらえたと感じます。しかし、AIには返金や契約変更、例外対応を決める権限がありません。担当者へ切り替えられなければ、利用者は問題を解決してもらえず、理解されたという期待を裏切られます。日本では、契約や規則に沿って回答するだけでなく、相手の事情をくみ取り、問題が起きた後の関係を立て直そうとする姿勢が信頼を左右します。人間らしい謝罪文だけでは、企業への信頼を失った顧客の怒りを鎮められません。

AIを警戒する人を、便利さや新技術を拒む人だと決めつけても、問題は解決しません。企業は用途ごとにAIへ任せる範囲を定め、担当者が回答を確認し、問題が起きたときは責任者へ引き継げるようにする必要があります。問われているのは、AIを信じるかどうかではなく、企業がAIをどのような道具として使い、その結果にどう責任を負うかです。

利用者にだけ、AIを使いこなし、誤りを見抜く責任を負わせてはいけません。AIに任せる範囲を企業が明らかにし、AIで解決できない問題には担当者が責任を持って対応してこそ、AIを利用者の負担を減らす道具として使えます。

参考文献

消費者委員会事務局「生成AI利用者の利用実態に関するアンケート結果(速報)」

内閣府「AI制度に関する中間とりまとめ(案)」

Berkeley J. Dietvorst、Joseph P. Simmons、Cade Massey「Algorithm Aversion: People Erroneously Avoid Algorithms After Seeing Them Err」

Theo Araujo「Living up to the chatbot hype: The influence of anthropomorphic design cues and communicative agency framing on conversational agent and company perceptions」

Siddharth Mehrotraほか「A Systematic Review on Fostering Appropriate Trust in Human-AI Interaction: Trends, Opportunities and Challenges」

この記事を書いた人

ビジネス・テクノロジスト 貝田龍太