大注目!進化が止まらないXRの世界をご紹介
~第2部 XRを支える技術~
 

現実世界と仮想世界を融合する技術「XR」は日々進歩を続けています。そして、VRやAR、MR、DR、SRの総称であるXRは、様々な分野の技術によって支えられています。具体的にはVRゴーグルやヘッドセット、立体映像や立体音響、身近な技術としてはモーションキャプチャーなどがあげられるでしょう。これらの技術を活用することで、世界のどこにいてもオンラインで体験を共有することが可能です。さらに、現在は視覚や聴覚に続き、触覚や嗅覚、味覚などを共有するための研究開発が進められています。現在すでに実用化されている技術やこれから実用化される技術の可能性について知見を広げて行きましょう。 

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新たな視聴覚体験を創造!現在のXR技術

現在のXRは、仮想現実を表現する様々な視聴覚インターフェースによって支えられています。視覚的なアウトプットを行うVRゴーグルや立体映像などもその一つです。すでに実用化も進んでいる XRを支える技術について見ていきましょう。 

VR/ARゴーグル、ヘッドセット、コンタクトレンズ

仮想現実とユーザーをつなぐためのインターフェースは、XRの実現に欠かせません。 

その中で、最も一般的なインターフェースがVR/ARゴーグルやヘッドセットでしょう。これらは装着者が向いた方向をジャイロセンサーなどで検知し、視線に応じた映像をディスプレイに投影します。そうすることで、仮想現実の世界でも360度の視界を再現することが可能です。機器によって、左右の視差を利用して立体感を出したり、半透明のディスプレイで周囲の状況も同時確認できるタイプがあります。 

さらに、未来のディスプレイとして網膜に直接映像を投影するコンタクトレンズ型のデバイスが考案されています。例えば「Mojo Lens」というARコンタクトレンズを開発しているアメリカのMojo Visionは、2022年1月に4,500万ドルの資金調達を行いました。現在は、片目のみではありますが装着テストまで進んでおり、将来的には両目レンズによる立体視の実現を目指しています。 

【参考】 Mojo Visionのスマートコンタクトレンズ、装着テストが開始–CEOが自らデモ

立体映像・ホログラフィー

立体映像の技術として知られるホログラフィーは、複合現実「MR」を実現する技術として注目されています。映画等でお馴染みの3D映像は正面からしか見ることができませんが、立体映像は側面や背面などあらゆる角度から視認できることが目標です。ただ現時点では専用のメガネを必要としたり、見る角度が制限されるなど様々な制約があります。しかし、2020年に株式会社リコーが、限定された空間内ではあるものの現実空間に全方位映像を投影させる装置を発表するなど、実用化に向けた開発が進められています。 

【参考】リコー、現実空間に全方位映像を映し出せる投影装置を開発 
~デジタルサイネージ用途で、「WARPE」ブランドとして市場探索を開始~ 

立体音響

立体音響とは空間音響技術を用いて、スピーカー音が届く範囲の任意のポイントに音を発生させる技術です。この技術を利用することで、人のすぐ隣で音を発生させたり、音に動きを与えることができます。また博物館等で展示物の前に立った時だけ解説が聞こえる、といったことも実現可能です。すでに映画館等の様々な施設で導入が進んでおり、ソニーが開発した「Sonic Surf VR」を利用したサウンド・インスタレーション展なども開催されています。 

【参考】ソニー「Sonic Surf VR」で音が自在に動く不思議体験。仕組みを聞いた 

モーションキャプチャー

CGアニメーションをはじめとした映像制作の分野で利用されている「モーションキャプチャー」は、Kinect等の家庭向けデバイスによって世間的にも知られるようになりました。対象物につけられた再帰性反射材という特殊素材で作られたマーカーもしくは慣性センサの動きを読み取ることで、リアルな動きをデジタル化し、3D映像で再現します。アニメーション以外にも、スポーツのフォーム研究や事件現場を想定した警察官向けの VR訓練、医療やロボットの制御などにも活用されています。 

現在は、マーカーを使用する「光学式」や慣性センサを利用する「慣性式」、複数のカメラを使って動きをトラッキングする「ビデオ式」が主流です。 

【参考】モーションキャプチャとは? 
原理や活用シーンを種類別にわかりやすく解説 

深層学習

ディープラーニングとも呼ばれる「深層学習」は、人の神経細胞の仕組みを再現した機械学習の一種です。仮想現実を実現させるためには、画像認識や映像解析、行動解析やジェスチャー認識などといった膨大な情報量の処理が求められます。その役割に適している技術がAIであり、AIの精度を向上させる手法が深層学習です。さらに、深層学習を進めることで、専門分野での視覚的なアシストや分析が行えます。AI技術とXR技術は親和性が高いため、今後のXR開発には深層学習は大きな役割を果たすこととなるでしょう。 

実用化が期待される新技術

現在実用化に至っているXRの技術は、五感のうちの視覚と聴覚に留まっています。今後は、触覚や嗅覚、味覚などを再現していくための研究が進められていくでしょう。まだ未知数の領域ではあるものの、新しい可能性に心が躍ります。現在進められている新しい研究について確認していきましょう。 

仮想力覚

仮想力覚とは、体に負荷を与えることで物を持っている、物を触っているような錯覚を与える技術です。仮想力覚を提示する方法としては手を覆うグローブ型のデバイスや、空中集束超音波を利用した手法等が考案されています。また電気刺激によって筋収縮を起こし、架空の触覚を生成する研究も行われています。 

【出典】骨格筋電気刺激による仮想力覚提示 

疑似嗅覚

嗅覚は味覚にも大きな影響を及ぼす重要な感覚であるものの、擬似嗅覚の再現は限定的です。臭いを感じるための物質が必要で、種類も多様なことから汎用性の高いデバイスはまだ開発されていません。しかし、東京工業大学の研究によって、厳選した20種類の精油を調合することで、多くの臭いが表現できることが実証されました。この実証データをもとに、多成分調合型の嗅覚ディスプレイを用いることで、利用者は臭いを体験することができます。 

【参考】多成分調合型の嗅覚ディスプレイを用い、多様な香りを再現 

味覚生成

明治大学総合数理学部によって、すでに味を共有するためのデバイス「味ディスプレイ」も誕生しています。味は、甘味や酸味、塩味、苦味、旨味の5要素で表現が可能です。味ディスプレイはスティック状の端末に、この5要素を表現するゲル状のものをつけ、電気刺激による強弱をつけることで味を再現しています。利用者は、舌でこのゲルに触れることで味を体験できるようになるのです。 

【参考】匂い、味、手触り――五感を伝えるVR 

オンラインで五感を共有!XRの可能性

XRを支える技術は日々進歩し続けています。立体映像や立体音響の技術が発達すれば、将来的にはVRゴーグルやヘッドセットを装着することなく仮想現実を体験できるようになるでしょう。また仮想現実を空想世界とつなげるだけではなく、現実と現実をつなぎ体験を共有する技術としてもXRは期待されています。様々な分野の技術継承に役立つのはもちろん、遠隔地にいる人とのコミュニケーションにも活用できるでしょう。そして視覚や聴覚に続き、五感すべてが共有されれば、より実在感の強い体験の共有が可能となります。進化したXRが、私たちの暮らしにより身近な技術となる日が待ち遠しいです。

この記事を書いた人

ビジネス・テクノロジスト 貝田龍太