IoB(Internet of Behavior/Bodies)とは?  
「身体のインターネット」の活用事例と課題 

モノとインターネットをつなぐ技術「IoT」の普及により、スマートフォン等を通じて家電製品を遠隔操作することが日常的になりました。そして現在、IoTの技術を更に進化させ、私たちの行動や体とインターネットをつなげる新たな技術「IoB」が注目されています。IoBは日常生活や医療現場等の様々なシーンでの活用が進み、デバイスを通じて人の行動や生体情報を収集・分析し、私たちの生活の向上に寄与する役割を果たしています。この記事では、IoBの概要と具体的な活用事例、そして課題について解説します。 

IoBとは

IoBには、「Internet of Behavior」(行動のインターネット)と「Internet of Bodies」(身体のインターネット)の2つの意味があります。どちらも私たちの身体をインターネットとつなげる技術であり、特にヘルスケアの分野で注目されています。これら2つのIoBの違いと、IoTとの関連性について詳しく見ていきましょう。 

Internet of Behavior(行動のインターネット)とは

Internet of Behavior(IoB)は、インターネットに接続されたデバイス等を通じて、ウェブサイトの閲覧履歴、購入履歴、位置情報、運動状況など、人々の行動に関する様々な情報を収集します。そして、その収集したデータを基に、人々の動きや行動をインターネット上で追跡する技術がIoBとなります。 

【参考】「IoB(Internet of Behavior/Bodies)って何? 活用事例と実用化のリスクについて」  

【参考】IoB(Internet of Behavior/Bodies)とは?次世代のITシステムを解説  

Internet of Bodies(身体のインターネット)とは

一方、Internet of Bodies(IoB)は、埋め込み型や装着型のデバイス等を通じて、身体の情報を収集し、それをヘルスケア等に活用する技術を指します。これら2つのIoBは密接な関連性があるため、「Internet of Behavior/Bodies」として一緒に語られることもあります。 

IoTとIoB

IoT(Internet of Things)は、デバイスやセンサーをインターネットに接続する技術であり、「モノのインターネット」とも称されます。例えば、留守中の自宅で感知された動きを、ユーザーに通知する人感センサーなどが存在します。IoTが収集する情報には、行動パターンや身体の情報も含まれており、これらの情報の活用がIoBへと繋がっています。 

【参考】「IoTとは何か?|IoT:Internet of Things(モノのインターネット)の意味とは」  

【参考】「IoBとは?IoTとの関係性、IoBの活用事例について解説!」  

IoBデバイスとは

IoBデバイスは、人々の行動や生体情報を収集し、それを分析して結果を提供する能力を持つデバイスのことを指します。以下で紹介する3つのデバイスは、それぞれ異なる目的や利用目的に特化しており、ユーザーの行動や健康状態の監視、医療管理、スポーツにおけるパフォーマンスの向上などに役立っています。 

【関連記事】5Gで何が変わった?進化のポイントと6Gにむけて~5Gの可能性と6Gの展望~

ウェアラブルデバイス

ウェアラブルデバイスは、手や腕、頭部などに身につけて使用するデバイスのことを指します。これらのデバイスはセンサーや計測機能を備えており、スマートウォッチやフィットネストラッカーのように、心拍数、歩数、消費カロリー、睡眠パターンなどの情報を計測して、ユーザーの健康状態やフィットネスレベルを把握することが可能です。 

体内内蔵型デバイス

体内埋込型デバイスは、人体に直接埋め込むタイプのデバイスで、主に医療分野で患者の生体情報のモニタリングと管理に使用されています。代表的なデバイスとして心臓ペースメーカーが挙げられます。こうしたデバイスから得られるデータを元に、医療従事者は治療の効果や患者の健康状態を判断することができます。 

ウェットウェアデバイスとは

ウェットウェアデバイスは、他のコンピューターハードウェアとのインタラクションや、人体から情報を収集するために、直接脳に接続されるデバイスを指します。技術的な問題や倫理的な問題により、現時点で実用化には至っていませんが、これらはIoBの究極の形態とされています。「ウェットウェア」の名前は、人間の脳(これは常に湿った(wet)状態にある)を指す言葉からきています。 

【参考】「IoBをご存知ですか?」 

身体とデバイスを繋ぐ!IoBの活用事例

IoBは、人々の日常生活の中で活用されているさまざまなアプリケーションの中に組み込まれています。ここでは、IoBの具体的な活用事例について紹介します。 

生体認証技術

生体認証技術(バイオメトリクス)は、個人の生体情報を使用して身元認証を行う技術です。例えば、スマートフォンのロック解除などに使われる指紋認証は、センサーで指紋を読み取り、指紋パターンを個人識別のための情報として利用します。他にもカメラでとらえた人の顔の特徴をデータベースと照合して個人を識別する顔認証や、個人ごとに異なる虹彩の特徴をスキャンして識別する虹彩認証があります。 

パーソナルフィッティングデバイス

個人のフィットネスや健康状態をモニタリングし追跡するためのデバイスも、IoBの一部です。これらのパーソナルフィッティングデバイスは、ユーザーの健康管理やフィットネスの目標達成をサポートするだけでなく、ユーザー自身の行動や生活習慣の見直しにも役立ちます。 

インプラントデバイス

体内に埋め込むことができるデバイスの代表的なものである心臓ペースメーカーは心臓のリズムを制御するために使われており、異常やリズムの乱れを察知すると、電気信号を発することで心臓に正しいリズムを与えます。インプラントデバイスの活用で生体情報をリアルタイムでモニタリングできるため、健康状態の監視や最適な治療支援が可能です。  

スマート義肢

スマート義肢は、人工的に作られた手足の義肢に搭載されたセンサーや制御システムを使用し、義肢の動作や機能を高めます。センサーは義肢の動きや位置、圧力、筋肉の活動などを検知し、制御システムがそれらのデータを分析して、適切な動作や反応を生成します。これにより、義肢使用者はより正確かつ滑らかな動きができるようになりました。 

ブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI)

BCI (Brain Computer Interface)は、人の脳とコンピューターシステム間の情報のやり取りを可能にする技術です。BCIには、脳波センサーや頭皮に配置された電極を使う方法と、手術で脳に直接電極を挿入する方法があります。いずれも、脳の電気活動や血流などから身体の活動パターンを計測します。脳活動の情報をBCIが分析し、それを指令としてデバイスに送信することで、ユーザーの脳から直接デバイスを制御することができるようになるのです。 

【参考】「考えるだけで操作が可能に、「Brain Computer Interface(BCI)」とは」 

IoBとその課題

医療界を中心に浸透を見せるIoBですが、個人情報を扱うデバイスの利用には多くの課題も存在します。これからIoBが一層身近になるにつれて、私たちは以下のような問題点について考えていくべきでしょう。 

プライバシー侵害のリスク

IoBは個人の行動をデータ化し、それを分析して行動パターンを予測、影響、そして管理します。しかし、IoBデバイスから収集される情報が適切に保護されない場合、私たちの個人情報や行動記録が不正に利用される可能性があります。これによって、私たちの行動履歴から趣味や嗜好を知られたり、健康データを基にして保険料や信用評価が変動する可能性があります。そのため、IoBを活用する際は、個人情報が適切に保護されているかどうかを確認し、それに伴うリスクを理解した上で利用することが必要となります。 

責任の所在

IoBデバイスが誤作動を起こした場合、現状では責任の所在が明確ではありません。例えば、心臓ペースメーカーが誤作動した際の責任の所在は、製造元、手術を行った医療機関や医療従事者、あるいはユーザー本人となる可能性がありますが、それを明確に定めるのは難しい問題となります。 

IoBの未来

進化し続けるIoBは、身体的なパターンだけでなく、AIによって脳の活動パターンを詳細に解析し、人が脳内で思考する言葉さえ解読できるようになりつつあります。私たちの生活にすでに多くの恩恵をもたらしているIoBデバイスは、今や手放せない存在となりました。これらの技術を安心して活用するためには、技術基準の確立、法的枠組みの整備、個人の権利とプライバシー保護に向けた取り組み、そしてガイドラインの策定などが重要です。しかしながら、IoBの技術が進化すれば、健康寿命の延伸、より良い治療方法の確立、生活の質(QOL)の向上といった恩恵を享受できるでしょう。平均寿命が延び、少子高齢化が進む日本においても、IoBは必要不可欠な技術となりつつあります。 

この記事を書いた人

ビジネス・テクノロジスト 貝田龍太