サイトに来ない顧客をどう測る?AIエージェント時代のマーケティング指標とは

利用者が検索結果からWebサイトへ入り、ページを読んで資料をダウンロードし、問い合わせる。この流れは長くWebマーケティングの前提とされてきました。しかし、AI検索によってサイトを訪れずに情報を得る行動が広がり、デスクトップ常駐型AIエージェントが調査や比較、操作まで担うことで、変化はさらに進もうとしています。企業には、PVだけでは見えない接点を捉え、AIの回答に選ばれる情報設計と営業連携へ移ることが求められています。

【関連記事】営業とマーケティングにはなぜ溝が生じるのか?「良い顧客」とは何かを考える

「検索して閲覧する」から「AIに情報収集させる」へ

Webサイトへの訪問が減る流れは、デスクトップ常駐型AIエージェントの登場前から始まっていました。検索結果に答えを表示する仕組みや生成AIによる要約が、サイトへ移動せずに情報を得る行動を広げてきたためです。デスクトップ常駐型AIエージェントは、この変化を新たに生み出したのではなく、さらに先へ進める存在です。

デスクトップ常駐型AIエージェントは、質問に文章で答えるだけのチャットボットではありません。利用者の目的を受け取り、Webを調べ、複数の候補を比較し、必要に応じてフォーム入力や予約などの操作まで進めます。Webサイトは利用者が順番に閲覧する場所から、AIが情報を集めて処理を実行するための基盤へ変わりつつあります。

「検索語」ではなく「目的」から始まる

従来のWeb利用では、利用者が「勤怠管理 クラウド 比較」などの検索語を考え、検索結果を見て、複数のサイトを行き来していました。各社の料金ページや導入事例を読み、条件を表計算ソフトへ転記し、候補を絞ってから問い合わせます。企業側は検索順位、広告のクリック率、ランディングページの離脱率を追えば、検討過程の一部を観測できました。

AIエージェントへの依頼は、「従業員300人で、複数拠点に対応し、既存の給与システムと連携できる勤怠管理サービスを3つ比較して」のように、最初から目的と条件を含みます。AIは質問を分解し、各社の情報を集め、条件に合わない候補を外して回答を組み立てます。利用者が見るのは検索結果の一覧ではなく、絞り込まれた比較結果です。確認が必要なときだけ出典ページを開き、そのまま問い合わせや予約へ進む場合もあります。

常駐型のエージェントは、単発の検索より多くの文脈を利用できます。利用者が許可した範囲で、過去の会話、手元の資料、予定、利用中のアプリなどを参照すれば、「一般的に評価が高い製品」ではなく「この利用者の条件に合う製品」を探せます。企業が想定したペルソナやサイト内のおすすめ動線よりも、利用者側のエージェントが行う選別のほうが先に働く場面が増えます。
OpenAIは2025年1月、ブラウザー上でフォーム入力や商品の注文などを行うOperatorを発表しました。GoogleもWeb閲覧、調査、Googleアプリとの連携を組み合わせるAgent Modeを示し、MicrosoftはWebサイトとデスクトップアプリを仮想のマウスとキーボードで操作する機能を提供しています。製品ごとに実行環境や権限は異なるため、すべてが端末内で常時自律的に動くわけではありません。それでも、利用者がページごとの操作をAIへ委ねる方向は共通しています。

「ゼロクリック」は既に始まっていた

Webサイトへ移動せずに答えを得る行動は、生成AIだけが生み出したものではありません。SparkToroとDatosが公表した2024年の調査では、米国のGoogle検索の58.5%、EUの59.7%が外部サイトへのクリックなしで終わりました。強調スニペット、地図、商品情報など、検索画面の中で用件が済む仕組みがすでに広がっていたためです。

生成AIによる要約は、この傾向をさらに強めます。Pew Research Centerが米国成人の2025年3月の閲覧行動を分析したところ、GoogleのAI要約が表示された検索では、通常の検索結果がクリックされた割合は8%でした。AI要約がない場合は15%です。AI要約内の出典リンクがクリックされた割合は1%にとどまり、検索画面で閲覧を終えた割合も、AI要約がある場合は26%、ない場合は16%でした。

この数値は、検索順位が同じでも流入数が以前と同じになるとは限らないことを示しています。AIが回答を先に提示すれば、利用者は基礎的な説明を読むためにサイトを訪れる必要がありません。情報収集の入口でPVが減っても、企業や製品が候補から外れたとは限りません。AIの回答に社名や知見が使われ、その場で認知や評価が形成される場合があるためです。

Webサイトは「訪問先」から「情報源と手続きの場」へ

AIエージェントが間に入ると、Webの動線は短くなるだけではなく、見えにくくなります。従来は「検索、記事閲覧、料金ページ、問い合わせ」という流れをアクセス解析で追えました。新しい動線では、「AIへの相談、AIによる複数サイトの調査、回答内での比較、社名検索または直接訪問、問い合わせ」と進みます。前半の検討は自社サイトの外で完結するため、企業からは観測できません。

さらに、AIが情報を取得しても、利用者をそのサイトへ誘導するとは限りません。Cloudflareが2025年6月に集計したクロール対送客比率では、Googleはサイトを約14回取得するごとに1回の訪問が発生しました。一方でOpenAIは1,700対1、Anthropicは73,000対1でした。ネイティブアプリからの訪問には参照元が付かない場合があるという留保はありますが、AIによる情報取得の回数とWebサイトへの送客には大きな隔たりが確認されています

この変化を踏まえると、企業サイトには次の2つの役割が残ります。1つは、AIが正確に読み取り、回答の根拠として使える一次情報を提供することです。もう1つは、見積もり、予約、契約、サポートなど、最終的な処理を確実に完了できる場所になることです。Webサイトが不要になるのではありません。集客の入口としての比重が下がり、信頼できる情報源と取引の実行基盤としての重要性が上がります。

SEOからAEOへ

AEOはAnswer Engine Optimizationの略で、検索エンジンや生成AIが作る回答の中で、自社の情報を正確に理解し、参照しやすくする取り組みです。「検索順位を上げるSEO」から「AIの回答に選ばれるAEO」への転換と説明されますが、両者は置き換え関係ではありません。AIもWeb上のページを発見し、評価し、情報を取得できなければ回答に利用できないからです。

特にBtoBの製品やサービスでは、同じ機能名でも対象規模や契約条件によって意味が変わります。AIに名称を拾ってもらうだけでは不十分であり、どの条件なら選択肢になり、どの条件では対象外なのかまで伝える必要があります。

AEOはSEOの上に成り立つ

Googleは、AI OverviewsやAI Modeに掲載されるための特別な技術要件はなく、従来のSEOの基本が引き続き有効だと説明しています。ページがインデックスされ、検索結果にスニペットを表示できることが、AI機能で参照されるための前提です。AEOという名前だけを見て、検索エンジン向けの技術整備や読者に役立つコンテンツを止めれば、AIからも見つけられにくくなります。

違いは、最適化する対象にあります。SEOでは、検索結果に表示され、クリックされ、サイト内で回遊してもらうことを重視してきました。AEOでは、それに加えて、AIが質問への回答を構成するときに「どの会社が、誰に、何を、どの条件で提供しているか」を誤解なく取り出せる必要があります。記事の文字数を増やすだけでは足りません。答えとなる情報の明確さに加え、公式サイトや製品資料などで説明が食い違っていないことも問われます。

SEOを入口、AEOを回答への採用、Webサイトを検証と取引の場として設計すると、役割を整理しやすくなります。検索順位だけを追うのでも、AI向けの小手先の加工に走るのでもありません。検索する人、回答を組み立てるAI、最終判断をする利用者のいずれにも意味が通る情報を用意することが基本です。

AIに「引用されやすい」条件

AIは、ページの雰囲気や広告表現だけでサービスを比較できません。製品名、対象顧客、価格、機能、対応範囲、更新日などが曖昧であれば、回答に採用しにくくなります。「幅広い課題を解決」「柔軟に対応」といった表現よりも、対応人数、連携方式、導入期間、対象外となる条件を明記したほうが、質問への根拠として利用できます。

AEOを進める際は、次の情報設計が有効です。

  • 直接回答と比較条件:見出しと冒頭で問いへの答えを示し、価格、対象規模、機能、制約、導入期間などを同じ用語と単位で明記する。
  • 一次情報と鮮度:独自調査、導入実績、検証方法、担当者の知見を公開し、公開日と更新日を示して古い料金や終了した機能を残さない。
  • 固有名詞と構造:会社名、製品名、サービス区分、運営主体の表記を揃え、見出し階層、内部リンク、構造化データで情報同士の関係を示す。

Googleは構造化データを、ページ内容や人物、企業、製品などを理解する手がかりとして利用しています。ただし、構造化データを追加すればAIに必ず引用されるわけではありません。本文と異なる情報を記述したり、検索向けのFAQを大量に作ったりすれば、利用者にとっての価値が薄れます。独自性のある内容を明確な構造で公開することが先であり、マークアップはその理解を助ける手段です。

「AIに読まれるための裏技」は存在しない

AEOへの関心が高まると、AI専用ファイルの設置、文章の細かな分割、Web上での言及数の水増しなどが必須だという説明も増えます。Googleは2026年に公開した生成AI検索向けの案内で、Google検索に表示されるためにllms.txtなどの特別なファイルは不要であり、不自然な言及を増やす手法も有効ではないと説明しています。AI向け施策をSEOと切り離し、未知の技術対策だけに予算を投じるのは危険です。

一般論を生成AIで量産しても、他社との差別化にはつながりません。AIは複数の情報をまとめられるため、すでに広く知られた説明をもう一度書いたページは、出典として選ばれる理由が弱くなります。実際の問い合わせから分かった判断基準、導入時に起きた問題、条件別の費用、検証データなど、自社にしか出せない情報が差別化の材料になります。
一次情報には、結論だけでなく条件と算出方法も必要です。「導入企業の生産性が30%向上した」と書くだけでは、対象業務、測定期間、比較対象が分かりません。AIが異なる調査を並べて回答するときにも、利用者が出典を確認するときにも、数字の前提が必要です。調査対象、実施時期、用語の定義、例外条件まで記載すれば、短い宣伝文句よりも信頼できる根拠になります。

もっとも、すべてを無償で公開する必要はありません。AIに理解してもらう公開情報と、商談で個別に扱う情報を分ける設計が必要です。対象顧客、標準機能、代表的な価格条件、導入手順は公開し、個社別の構成や詳細見積もりは相談時に提示する方法があります。公開情報が少なければAIの比較対象に入りにくくなる一方、個別相談で扱うべき情報まで公開すると、問い合わせの必要性が下がる場合があります。AEOでは、この境界を商品や営業方法に合わせて決めることが重要です。

PVとコンバージョン率の盲点

PVとコンバージョン率は今後も必要ですが、それだけではAIを介した顧客行動を説明できません。PVはサイトへ来なかった接点を数えられず、コンバージョン率は訪問前にAIが進めた比較検討を捉えられないからです。

これからのWebマーケティングには、AI上の露出、サイト上の行動、商談と売上を分けて測り、後からつなぎ直す設計が必要です。数値を増減だけで評価するのではなく、AIが関わった結果として何が変わったのかを確認する必要があります。

PVが減っても見込み顧客の質は上がる

従来のコンバージョン率は、問い合わせ数をセッション数で割って計算します。1万セッションから100件の問い合わせがあれば1%です。しかし、AIが情報収集だけを代行し、十分に候補を絞った利用者だけをサイトへ送るようになると、分母のセッションは減ります。問い合わせ数が同じならコンバージョン率は上がりますが、サイト外で何人が自社を知り、何人が候補から外したかは分かりません。

AI経由の訪問は、量と質を分けて見る必要があります。Similarwebが2026年4~5月の追跡対象サイトを分析したところ、ChatGPT経由のコンバージョン率は7.1%で、有料検索の7.8%に次ぐ水準でした。Adobeの2026年第1四半期の分析でも、小売サイトへのAI経由トラフィックは前年同期比393%増え、AI経由の利用者のエンゲージメントは他の流入より12%高いと報告されています。

これらは主に海外サイトや小売分野を含む集計であり、日本のBtoB企業へ同じ比率を当てはめることはできません。それでも、AIからの流入を「まだ全体に占める量が小さい」と無視すれば、検討が進んだ訪問者の変化を見落とします。反対に、AI経由のPVが増えたという理由だけで成功と判断するのも早計です。商談化率、受注率、案件単価、検討期間まで追って初めて、チャネルとしての価値を評価できます。

3つの指標で「見えない動線」を補う

AIの回答画面から完全な利用者行動データを得ることは困難です。そこで、1本の経路を無理に再現するのではなく、異なる場所で取れる兆候を組み合わせます。アクセス解析だけで完結させず、検索データ、AI上の表示確認、問い合わせフォーム、CRM、営業担当者の記録を接続します。追跡する指標は、次の3層に分けられます。

  • AIの言及率:重要な質問に対する自社名の言及率、出典としての引用率、競合とのシェア、説明内容の正確性を定点観測する。
  • Web上の行動:AIサービスからの参照流入、指名検索、直接流入、料金・比較・導入事例ページの閲覧、問い合わせまでの到達を追う。
  • 事業への影響:問い合わせ時の認知経路、商談化率、受注率、案件単価、営業期間、AI接点を含む案件への影響額をCRMで記録する。

参照元が欠ける訪問もあるため、問い合わせフォームには「何を見て当社を知ったか」という任意項目を設け、「ChatGPTやGeminiなどのAI」を選択肢に加えます。営業担当者も初回ヒアリングで、どのAIを使い、どのような比較結果を見たかを確認します。自由記述の内容には、アクセスログでは分からない質問文、評価された強み、誤って理解された条件が含まれます。これはAEO用コンテンツを改善する材料にもなります。
CRMでは「最初に接触したチャネル」だけで案件を評価しないことも重要です。AIの回答で会社を知り、後日社名を直接検索し、展示会を経て問い合わせた場合、最後の接点だけを見れば展示会の成果になります。初回認知、比較時の情報源、問い合わせの契機を別項目で残せば、AI、Web、イベント、営業が案件へ与えた影響を分けて検討できます。

PVは「どれだけ読まれたか」、従来のコンバージョン率は「来訪者の何割が行動したか」を示します。これからは、AIの回答にどれだけ影響を与えたかと、売上へどれだけ貢献したかを加えなければなりません。単一の完璧な指標を探すのではなく、観測できない要素があることを前提に、複数の数値から判断する仕組みが現実的です。

インサイドセールスは「説明役」から「判断支援」へ

BtoBの購買行動でも、情報収集の自動化が進んでいます。Gartnerが2026年3月に公表した調査では、BtoB購買担当者の67%が営業担当者を介さない購買体験を好み、45%が直近の購買でAIを使ったと回答しました。基礎情報を電話やオンライン商談で一から説明する方法は、買い手が望む動線と合わなくなっています。

一方で、営業担当者の役割がなくなるわけではありません。標準機能や一般的な比較はAIが扱えても、自社の業務へ適合するか、既存システムとどう連携するか、例外時の責任をどう分けるかといった判断には個別の事情が関わります。インサイドセールスには、製品説明を繰り返すよりも、AIが整理した前提を確認し、顧客固有の不安を解消する役割が求められます。

マーケティングとインサイドセールスの連携も変わります。資料ダウンロード直後に一律の電話をかけるのではなく、AI経由で料金ページへ直接来た人、指名検索を繰り返した企業、導入条件を詳しく尋ねた見込み顧客など、意図の強い兆候を優先します。営業活動で多く寄せられた質問は、比較条件、制約、導入手順としてWebサイトに反映します。Webの情報がAIの回答を改善し、その回答が検討の進んだ相談を生み、商談内容が次の情報改善につながる循環を作ることが、これからのインサイドセールスの基盤になります。

Webは「集客装置」から「情報源と取引の基盤」へ

Webの動線は、AI検索によって「検索結果からサイトを回る」形から、「AIの回答を起点に必要な場面だけサイトを使う」形へ変わり始めました。デスクトップ常駐型AIエージェントは調査や比較だけでなく操作まで代行し、この変化をさらに加速させます。AI要約が表示された検索ではクリックが減り、AIクローラーによる情報取得も送客には直結しません。PVの減少だけを見て、マーケティングの失敗と判断することは難しくなっています。

SEOは不要になるのではなく、AEOの土台として残ります。検索エンジンとAIの双方が理解しやすい技術的な構造を整え、価格、条件、制約、実績などの一次情報を明確に公開する必要があります。評価指標もPVとコンバージョン率だけに頼らず、AI上の言及・引用、AI経由訪問の質、商談化率や受注額まで広げなければなりません。

企業が目指すべきなのは、すべての利用者をWebサイトへ連れてくることではありません。AIが候補を選ぶ段階で正確に理解され、相談が必要になった瞬間に、利用者が迷わず企業とつながれる状態を作ることです。インサイドセールスも一般情報の説明役から、個別条件に応じた判断を支援する役割へ移ります。Webサイトは集客装置から、AIと顧客の双方に信頼される情報源と取引基盤へ進化します。

参考文献

2024 Zero-Click Search Study|SparkToro

Do people click on links in Google AI summaries?|Pew Research Center

Control content use for AI training with Cloudflare’s managed robots.txt and pay per crawl|Cloudflare

Optimizing your website for generative AI features on Google Search|Google Search Central

Gen AI Stats 2026: AI Visibility Trends, Data & Insights|Similarweb

Quarterly AI Traffic Report|Adobe

Gartner Sales Survey Finds 67% of B2B Buyers Prefer a Rep-Free Experience|Gartner

この記事を書いた人

ビジネス・テクノロジスト 貝田龍太