大注目!進化が止まらないXRの世界をご紹介
~第3部 XRで変わる世界~

仮想世界と現実世界をつなぐXRが進歩したことで、様々な分野で現実世界における課題解決のための新たな試みが始まりました。仮想世界での教育や研修、遠隔医療や看護、災害体験やシミュレーション、リモートワークのためのバーチャルオフィスなど、その活用場面は多岐にわたります。また360度の視覚と聴覚を共有することによって、言葉だけでは伝えることが難しかった技能や業務知識も伝承できるようになります。

しかし、XRが浸透するためには、導入コストの高さや健康上の問題、犯罪リスクへの対応など多くの課題があります。XR技術で進化する事業分野とその課題について見ていきましょう。 

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XRで活性化する事業分野は?

XRが時間や場所に隔てられていた人と人をつなぎ、医療や看護、教育や研修、リモートワークやバーチャルオフィスなどで様々な可能性を広げました。その具体的な活用事例を見ていきましょう。 

教育・研修(技術の伝承)

XRを利用することで、今まで現場でしか行えなかった訓練を仮想空間の中で繰り返し練習することができるようになりました。3Dで視覚や聴覚を共有することによって、紙面や音声、画像による情報伝達よりもリアルで実践的な訓練が行えます。例えば、JR東日本グループではMicrosoft HoloLensを導入し、設備や車両の適切な維持管理や技術継承にXRを活用しています。作業員が装着したゴーグル視点をリアルタイムで共有することで、熟練者が遠隔で整備点検したり、映像に直接指示を表示させることも可能です。言葉だけではなく、視覚的にやり取りができるため、作業員の技術習熟にも大いに役立ちます。 

また、トレーニングプログラムに3次元アニメーションを取り入れ、様々な視点から動作を観察し反復練習をすることで効果的な訓練が可能です。 

【参考】Mixed Realityから始まる産業革命 

へき地医療やリモート看護

高度な医療を受けることが難しい過疎地域では、XRを利用した「遠隔医療」はますます広がっていくでしょう。現在、その活用は遠隔診療に留まってますが、高い技術を持つ医師が遠隔操作で手術のサポート、もしくは自ら執刀することも遠い未来ではありません。24時間体制で急患患者に備える必要があり、また専門外の医療にも対応することが求められるへき地医療において、オンラインで専門医師からのアドバイスが受けられる環境は医師の負担と不安を軽減する上で有効です。 

また、地域の健康を支える看護においても、遠隔化の可能性が広がっています。タブレットと体重計や血圧計、血中酸素濃度を測るパルスオキシメーターなどを連携させ、自動的に測定データを看護者に送信することで、相談やアドバイス、医療機関との連携など適切な対応が可能です。実際に、新型コロナウイルスの自宅療養者に対してこのような遠隔看護・支援が効果を発揮しています。 

【参考】遠隔看護システムでコロナ自宅療養者も見守り 都内の医療法人 

災害体験

東京海上日動の「災害体験AR」では、スマートフォンやタブレットを通し、身の回りの風景に災害時のシミュレーションを重ね合わせた視覚的な体験ができます。洪水や土砂災害など水の流れや深さを視覚的に体験することで、周辺地域のリスクを認識し、災害時に備えた訓練が可能です。 

【参考】東京海上日動「災害体験AR」 

リモートワーク

コロナ禍で広がったリモートワークですが、今後はオフィス環境もオンライン上に構築する動きがみられます。XRゴーグルを装着することで、周囲の視覚情報を業務に適した環境に見せることが可能です。リアルなオフィスのように、社員同士が気軽にコミュニケーションを取れるようになるため、リモートでも効率的に業務が行えるようになることが期待されています。 

【参考】ウィズ/アフターコロナ時代のDX活用:xRを活用したオフィス環境構築の可能性 

メタバース

オンライン上でつながったユーザー同士が、自由にコミュニケーションできる仮想空間が「メタバース」です。仮想通貨やNFTの普及により、メタバース空間内での労働や物の売買も実現しつつあります。広い意味では単なるオンラインゲームもメタバースと呼ばれることもありますが、XRを活用することで没入感のあるよりリアルな仮想空間が楽しめます。また、本来は対面が一般的であった接客業や観光業もXRならではの没入感を利用し、オンラインでのサービス展開が行われつつあります。アバターでの社会活動や他者との交流が一般的になり、バーチャル空間が日常生活の場の一部となる日も遠くないでしょう。 

XRの課題とは?さらなる進化のために

日進月歩で技術革新が進むXRですが、本格的に我々の社会へ浸透するためには乗り越えるべき様々な課題があります。最先端技術であるがゆえの導入コストの高さに加え、3D酔いなどの健康上の問題、そして仮想世界と現実が一体化することで起こる犯罪リスクなどです。 

高い導入コストと制作費用

VRなどのXRを利用するためには、ゴーグルやヘッドセットなどの専用機器が必要です。現在は個人向けの比較的安価な端末も販売されていますが、本格的なXRを体験するためには、装着する機器だけではなく装着者の動きを探知するためのカメラなどの周辺機器も用意しなくてはなりません。 
また、XRコンテンツは3Dスキャニングデータや360度画像などから作られますが、これらの撮影には専門的な機材と人員が必要です。そのため、まったく新規にコンテンツを作るためには数百万円からの費用がかかるとされています。コンテンツ数が増えにくいことも一般にXRが浸透しない要因です。 

3D酔いや健康面での不安

3Dを利用した動画やゲームが出始めた当初も問題になりましたが、人によっては3D画像に酔ってしまったり、めまいを覚えます。この酔いやめまいは、ゴーグル越しに見る映像と身体の動きの「ズレ」が原因とされていますが、長期的に人体にどのような影響を与えるかは明確ではありません。新しい技術ということもあり、安全基準が確立されていないため、それぞれの企業で安全対策をしていくことが求められます。 

バーチャル空間で犯罪に巻き込まれる?

XRによって仮想空間はよりリアルな空間に近くなり、コミュニケーションや経済活動も活発に行われるようになるでしょう。その一方で、悪意のある利用者が引き起こす様々な問題への対処も必要です。仮想空間上で行われる詐欺や脅迫行為、反社会的な行為やわいせつな行為は全容の把握や加害者の特定に時間がかかることが多く、自己責任の原則により満足な対応が得られない場合もあります。またバーチャル空間では著名人に成りすますことも容易となるため、言葉巧みに誘導されて資産や個人情報を盗み取られる危険性も高くなります。そのため、バーチャル空間へログインするために生体認証を導入するなど、セキュリティ対策が急務です。 

XRで世界はこう変わる

仮想空間を通じ現実世界の人同士がつながることで、多数の人に技術を伝承する機会を増やすことができます。また、シミュレーションなどもより身近なものとなり、危機管理や回避などの認識を育てることも可能です。XRは教育や研修、訓練といった様々な分野での活用が期待されていますが、メタバースに代表される仮想現実空間にリアリティを持たせる技術としても重要な役割を担っています。技術的な課題や健康面の不安、運用上の問題もありますが、XRの進化は我々の社会の課題解決に大きな力を発揮するでしょう。私たちの暮らしにXR技術が浸透する日が楽しみです。 

この記事を書いた人

ビジネス・テクノロジスト 貝田龍太