予期せぬコロナ禍で生活スタイルが一変し、オフィスに出社せずに働くことが珍しくなくなりました。リモート環境に対応できるクラウドシステムに入れ替えたり、業務の効率化を図るシステムを開発したりなど、企業のDX化も着々と進んでいます。DXを推進するカギはデジタル人材の活躍にかかっていますが、どの企業も人材の確保に苦慮しているのが実情です。国全体でデジタル化を進める中、デジタル人材の重要性は一目瞭然でしょう。デジタル人材と言っても活躍の場は多種多様です。ここでは、IT部門のプロフェッショナルであるITエンジニアの実情と、ITエンジニアになるための道筋について紐解いていきます。
魅力あるITエンジニア
ITエンジニアには長時間残業などのネガティブなイメージがありますが、近年はその働き方も多様になっています。日々覚えないといけないことも多いですが、その分将来性豊かな職種であると言えます。ここではITエンジニアの魅力についてみていきましょう。
デジタル人材とITエンジニア
デジタル人材とITエンジニアは混同されがちですが、デジタル人材はDXの推進を担う多様な職種の人材をさします。企業ニーズに合わせてデジタル化を促進し新たな価値を創造していく人材全般をデジタル人材と呼びますが、その中でも技術面に特化したプロフェッショナルがITエンジニアです。
ITエンジニアの将来性
世の中のAI化が進み、様々な場面でAIの恩恵を受けるようになりました。しかし、AIを実際に導入するためにはITエンジニアのサポートが欠かせません。AIに仕事を奪われる職種がある中で、ITエンジニアの仕事はなくならないと予想されています。また、IT技術は日々革新を続けており、それに伴って新しい仕事も日々生まれています。新しい技術に対応できるエンジニアが不足していることを鑑みても、将来性は高まっていくと言えるでしょう。
ITエンジニアの待遇
ITエンジニアの平均年収は497万円で、日本の平均年収である433万円より少し高いくらいです。ただしITの職種によって大きな差があり、ITスキルのレベルが高いほど年収も高くなる傾向にあります。ITエンジニアは遅くまで働くイメージが強いですが、近年は働き方改革による長時間労働の抑制が進んでいます。またフレックスやリモートワークが可能な職場も多数存在します。そのためワークライフバランスを実現しやすい業種であると言えるでしょう。
広がるIT市場と不足する人材
AI技術やIoTの普及によって社会のデジタル化が進む一方で、コロナ禍によっても私たちの生活環境は大きく変わりました。社会環境が急速に変化する中、IT市場はどうなっていくのか詳しくみてみましょう。
IT市場規模と労働者数
IT市場は新型コロナウイルスの影響が減少した2021年に、前年比3.4%増の5兆8,808億円とIT市場全体としてはプラスに転換しました。DXの推進とコロナ禍による企業のIT分野への投資はますます進むと予測されており、2026年には6兆7,667億円になる見通しです。
一方、日本ではITエンジニアの不足が課題となっています。世界のIT人口は約2,257万人とされており、日本は122万人で第4位です。しかしIT技術者の増加率は6.1%にとどまり、世界第33位です。海外と比較して、ITエンジニアの増加率が鈍いことがわかります。
【参考】【ヒューマンリソシア調査】 [独自推計]世界93カ国のIT技術者は約2,257万人 「2021版:データで見る世界のITエンジニアレポートvol.4」を発表
IT人材が不足するわけ
国内のIT人口が伸び悩む状況について、実力に基づいた評価制度の不備や、「難しい」「大変そう」といったイメージなど様々な原因が挙げられます。IT人材の需要と供給の差は年々広がり、2030年には80万人の不足が予想されています。
IT化が遅れることは日本経済の国際的な競争力低下に繋がると言っても過言ではありません。今後はWeb3.0やAI、IoTなど先進技術への対応も求められます。国内の労働人口が減少していく中ではありますが、より高度な知識を持ったITエンジニアの育成が急務です。
【関連記事】日本はIT先進国になれるか?深刻なデジタル人材不足とその対策
企業が求めるIT人材とは
ITエンジニアになるために必要なスキルはITスキルだけではありません。企業側が求めているスキルをみてみましょう。
論理的思考力
要件定義や設計、開発だけでなく障害が起こった際にも必要となるのが論理的思考力です。物事の全体像をとらえ、矛盾なく効率的に組み立てる力がある人が向いています。仕事をするうえで論理的思考力はあるべきですが、ITエンジニアには特に求められる能力と言えるでしょう。
学習意欲
どの職種にも共通していますが、特にIT関連は最低限必要なITスキル以外にも学ぶことは多く、さらにIT技術は日々進化しています。一度覚えたらそれきりではなく、知識を常にアップデートしなければならないため、学習意欲のある人が求められます。
コミュニケーション能力
黙々と作業をしているイメージがあるかもしれませんが、ITエンジニアにとってコミュニケーション能力は重要です。クライアントの希望を形にするためには、ヒアリングは欠かせません。綿密なコミュニケーションがとれてこそ、顧客満足度の高いものが提供できます。
多彩なITエンジニアの職種とその特徴
ITエンジニアの職種は多岐にわたり、求められる知識や適性、収入は職種によって異なります。3つの分野に分けてみていきましょう。
システム系エンジニア
・システムエンジニア(SE)
業務システムの要件定義や設計、開発などを行います。要件を取りまとめていく上で様々な条件を考慮する必要があるため、総合力と視野の広さが求められます。クライアントとのヒアリングが多いので、コミュニケーションスキルも必須です。
・アプリケーションエンジニア
PCやスマートフォン向けのソフトウェアの要件定義や設計、コーディングなどを行います。ゲームやソーシャルアプリなどの開発を手掛けるのもアプリケーションエンジニアです。多くはSEの指示の下で動きますが、両方の役割を兼ねるエンジニアもいます。
・エンベデッドエンジニア
家電製品や自動車など、機械類の中に組み込まれる制御のためのシステムやソフトウェアの設計、開発を行います。ITに関する知識だけでなく、組み込み先の製品に対する深い理解も求められる分野です。IoTの普及に伴い、重要性が高まっている職種であると言えるでしょう。
Webエンジニア
Web領域の知識に特化したエンジニアです。Webサイトの企画やデザイン、コーディングやサーバーの運用保守、SEO対策やWebマーケティングなど仕事は多岐にわたります。ユーザーから見える部分を担当するフロントエンドエンジニアと、サーバーなど見えない部分を担当するバックエンドエンジニアに大きく分かれます。
Webサイトは多くの企業にとって顔となるため、クライアントからの要望に細やかに対応できる人が向いています。またデザイナーやWebプランナーとの連携も多いため、コミュニケーションスキルも必要です。
インフラエンジニア
・ネットワークエンジニア
ネットワークの設計、構築、運用などを行うエンジニアです。近年、サイバー攻撃による被害が急増していますが、こうした攻撃から企業の情報資産を守るためはネットワークの適切な構築が必要です。そのため、将来的にも重要性が高い分野と言えるでしょう。
・データベースエンジニア
膨大な量のデータを保存しているデータベースの設計、構築、運用などを行うエンジニアです。AIやIoTの発達によって企業が保有する情報量も膨大になっているため、将来的にも需要が高いと見込まれています。
・セキュリティエンジニア
企業や個人が持つ重要な情報をサイバー攻撃などから守るエンジニアです。サイバー犯罪は年々増加しており、次々と新たな手口が登場しています。そのため常に最新の知識を身につける必要がありますが、今後ますます求められていく分野であると言えるでしょう。
ITスキルの学び方
どうすれば、将来性の高いITエンジニアになれるでしょうか。ここでは、ITスキルの学び方について紹介します。
目標設定
前述の通り、ITエンジニアの職種は多岐にわたります。職種によって求められるスキルや将来性、働き方や給与などが異なるため、自分に合った職種を目標に定めましょう。目標職種が決まったら、優先的にインプットするべき知識が自ずと定まります。
オンラインスクール
働きながら学ばなければならない社会人の場合、オンラインスクールがおすすめです。短期間での習得やITエンジニアへの質問、実際の教室へ通うこともできるなどといった様々な特色があるので、自分に合ったオンラインスクールを選びましょう。国や自治体が主催しているオンラインスクールなら費用の面でも安心です。
認定試験
IT関連製品を提供する企業が行うベンダー試験から国家試験まで数多くの認定試験があります。その中でも、ITパスポート試験は基礎的な内容の理解を証明できる国家試験で、IT未経験者や初心者が目指すべき認定試験と言えるでしょう。
ますます必要とされるITエンジニアを目指そう!
社会のデジタル化を担うIT人材の不足が危惧される中、将来的なIT人材育成のために小学校でもプログラミング教育が始まりました。東京都ではデジタル人材育成のため、オンラインで受講できる「デジタル人材育成支援事業(オンライン・スタンダードコース)」の受講生の募集を開始しています。
ITエンジニアには難しそうなイメージもありますが、近年は多様な働き方ができるようになっています。何より、これからの社会には欠かせない職業です。未経験でも挑戦しやすい職種もあり、働きながらスキルアップすることもできます。自分の適性や目標、収入などの条件を見極めて、自分に合った道筋でITエンジニアに挑戦しましょう。