「デジタル空間上の双子」とも呼ばれるデジタルツインの認知が広がり、製造業や医療、都市計画など様々な場面で活用されるようになりました。IoT技術や5G、AIの目覚ましい発展も、デジタルツインの浸透への大きな追い風となっています。現実世界では行うことが困難な様々なシミュレーションを仮想空間上で行うことで、納期の短縮やコストの削減、より効率的な運用の策定を可能とするデジタルツインは、様々な業界を変革しうる存在として今最も注目されている技術です。
デジタルツインの概要に触れながら、それを支える技術や活用事例、具体的なサービスについて紹介します。
デジタルツインとは
精度が高いシミュレーション環境として注目されているデジタルツインの概要や、デジタルツインを活用することによるメリットについて確認していきましょう。
デジタルツインとは
デジタルツインとは、現実空間に存在する様々な人、モノ、空間をデジタルデータ化する技術のことです。作成されたデジタルデータは実物と密接にリンクしており、まるで仮想空間に作られた双子のようであることからこの名前がつけられました。デジタルツインによって、現実では不可能、あるいは非常に手間がかかる実験やシミュレーションを行うことができるため、製造業や都市開発などを中心に様々な分野で注目されています。
メタバースとの違い
仮想空間というと「メタバース」を連想する人も多いでしょう。どちらもオンラインで構築された仮想空間ですが、メタバースは現実世界との整合性を必要としないのに対し、デジタルツインは現実世界の人やモノを忠実にデータ化していることが求められます。つまりデジタルツインは、メタバースのようにコミュニケーションを行うためのバーチャル空間ではなく、現実世界で起こる事象をシミュレートするための仮想世界なのです。
デジタルツインのメリット
仮想空間内で様々なシミュレーションを行うことで、開発期間を短縮しコストを抑えたり、トラブルを未然に防ぐことができます。また、事前のシミュレーションに利用するだけではなく、現実に起きている事象をデジタルツインへリアルタイムに反映させることで、機器の異常や遅延などを予測し早期に対処を行ったり、より効率の良い運用方法を検討したりすることも可能になります。
デジタルツインを支える技術
デジタルツインを実現するためには、現実世界の情報をデータとして取得する技術やそれを仮想空間内で再現する機能、データをやり取りする通信技術などが必要になります。それぞれの技術について見ていきましょう。
IoT技術
「モノ」をインターネットにつなげる技術が「IoT技術」です。対象となるモノに、センサーやカメラ、無線通信を搭載することで、モノの状態や動きをリアルタイムに把握することができます。また周囲の動きを感知し数値化するセンシング技術と併用することで、モノだけではなく、周囲の環境の変化もつぶさにデータ化することが可能です。
5G
デジタルツインを実現するためには、IoT技術を利用して得た膨大なデータを仮想空間に即座に反映させる必要があります。第5世代移動通信システム、いわゆる5Gが浸透したことで、高速大容量通信や多数同時接続、高い信頼性と低遅延通信が実現しました。これによってデータのやり取りがスムーズになり、デジタルツインを可能とするネットワーク環境が整ったのです。今後は5Gの100倍の通信速度が期待される6Gも登場も予定されており、より高性能なデジタルツインの実現への期待が高まっています。
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AI
デジタルツインを利用して効果的なシミュレーションを行うためには、AIの存在が欠かせません。IoT技術でデータを収集するだけでなく、AIを利用して膨大なデータの分析や予測を行うことで、より優れたデジタルツインを構築することができます。
幅広い業種で活躍するデジタルツイン
デジタルツインの活用は様々な業界に広がりつつあります。製造業を筆頭に、医療や運送業、都市計画やエネルギー事業など様々な分野での活用が期待されています。ここではデジタルツインの活用事例を見ていきましょう。
ダイキン工業による工場のデジタルツイン
ダイキン工業は大阪府に建造した臨海工場にて、デジタルツイン機能を備えた新生産管理システムを開発しました。工場内にセンサーやカメラを設置し、そこから取得したデータから仮想空間上に製造ラインの状況を再現しています。製造ラインの遅れや異常を予測した際にアラームを出すことで、早目の対応が可能です。遅れや異常を起こす要因が特定しやすくなったことで、現場の改善や技術向上が進み、導入以前と比べ3割強のロスを削減できるとされています。
【参考】ダイキンが工場の「デジタルツイン」、製造ラインの停滞予測しロス3割強減へ
医療業界に変革をもたらすバイオデジタルツイン
CTやレントゲンなどの検査機器や、スマートウォッチなどの端末から収集した患者の日常的な生体センシングデータを活用し、患者の「バイオデジタルツイン」を構成することで、健康管理や病気の予防・早期発見などのヘルスケアに役立てることができます。また、手術の予定部位を再現して手術のシミュレーションを行ったり、医療機器を改良するための工数を減らしたり、病院全体の効率化を図ったりなど様々な場面での活用が期待されています。
3D都市モデルを活用した都市計画
デジタルツインを活用した都市計画では、3D地図のように見える形からの情報だけではなく、地形や交通網、人口動態といった様々なデータをリアルタイムに可視化することを目的としています。街の監視カメラや人感センサー、公共交通機関の情報、携帯電話の位置情報など、あらゆるデータを集約し、渋滞緩和や防災、環境保全に対して精度の高いシミュレーションが可能となります。
デジタルツイン関連サービス
デジタルツインを構築するためのサービスが提供され始めたことで、デジタルツインはより身近な技術となりました。ここではデジタルツインの構築に役立つサービスを紹介します。
Matterport
デジタルツインを構築するために必要な撮影機器やプラットフォームを提供している空間データの先進企業です。専用のカメラで撮影し、同社が提供する無料アプリを利用することで、簡単に没入感のあるデジタルツインを構築することができます。さらに、 Matterport のクラウドプラットフォームサービスなら3Dデータの保管や管理をはじめ、配信や公開まで対応可能です。
NVIDIA Omniverse
NVIDIAでは様々な企業と提携し、幅広い分野でデジタルツインの構築を進めています。 NVIDIA Omniverse を利用して、英国原子力公社では核融合炉のデジタルツインを開発したり、BMW Groupでは仮想工場を拡張し工場内の設計やシミュレーション、運用や保守管理の全てを行ったりしています。
PwCのデジタルツインBodylogical®
PwCが独自に開発したデジタルツインを利用したシミュレーターで、個々人の人体を仮想空間で再現し、将来における健康予測や健康管理計画などに役立ちます。また、生理的現象や生理機能を随時デジタルツインに反映させ、治療や生活習慣の改善によって得られた効果の測定が容易となるため、最適な治療計画の策定が可能です。
【参考】医療・製薬におけるデジタルツイン~個別化医療や薬剤開発を推進する強力なツール~
様々な業界で期待されるデジタルツイン
IoT関連技術や5Gといった通信技術、そしてAIの技術が進歩したことで、デジタルツインが活用される場は大きく広がりを見せています。デジタルツインを活用することで、現実には困難なシミュレーションを容易に行えるようになるだけではなく、現実の情報とリアルに連動したシミュレーションも可能になります。工場や医療の現場では既に広く使われつつありますが、今後はさらに多彩な分野での活用が期待されています。デジタルツインを構築するためのサービスも増えており、幅広い活用が期待されるデジタルツインはより身近な存在となるでしょう。