EQマネジメントスキル×能力開発

ビジネスの世界はますます変化が早く、激しくなっています。変化に順応して世界と戦うために日本でも「リスキリング、すなわち、成長分野に移動するための学び直しへの支援策の整備」に対して数年間で1兆円の予算を投じる首相からの表明がありました。もともとスキルアップやリカレント教育は、現状の掘り下げや学び直しを示してきましたが、リスキリングは「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と、今までなかった要素を必要なスキルとして学び、仕事に活かすことを目的にしています。

スキルアップの責任は会社?自分?

スキルとキャリアへの責任、対象となるスキルについて確認します。

スキルアップの責任

今までは会社に入って与えられたレールを突き進んでいけば、スキルもある程度は勝手についてきて、会社の中で生きていくことができました。しかし終身雇用、年功序列といった日本的な仕組みが崩れ、キャリアの責任を持つとする考え方をあらためる会社が増えています。スキルアップの責任は自分にあると捉え直して、自分が持つべきスキルや経験を自らが認識して高めていく必要性が高まっています。

対象とするスキル

それではどのようなスキルを身に付けて、磨いていくのが良いでしょうか。一口に仕事のスキルといっても、思考に関わるスキル(ロジカルシンキング、クリティカルシンキングなど)、実務面でのテクニカルスキル(プレゼンテーション、プロジェクトマネジメントなど)、人間的資質と表するスキル(コミュニケーション、マインドセットなど)など、スキルの種類は実に多様です。

使えるビジネススキル【EQマネジメントスキル】

本コラムではビジネススキルの一つとして「EQマネジメントスキル」を紹介していきます。EQは心の知能指数、感じる力と捉えてみてください。そのEQをコントロールして応用するスキルが「EQマネジメントスキル」です。対人関係構築やコミュニケーションスキルを向上させる基礎的スキルでもあり、対人関係が必要となるほぼ全ての仕事で活用できます。それでは、スキルとしてのEQについて詳しく見ていきましょう。

EQマネジメントスキルの4つの要素

EQマネジメントスキルは4つの要素で説明ができます。

① 自分の感情を受け入れて理解する(自分理解)

② 共感をベースに他者を理解する(他者理解)

③ その場にふさわしい気持ちを作り、行動を起こす(自分活用)

④ 積極的に相手に働きかける(関係構築)

これら4つの要素を操ることこそが、感情をうまく管理して活用する「EQマネジメントスキル」です。自分の感情を認識して、その場にふさわしい行動を選択したり、相手の感情を理解したりすることで協調しながら物事を進めていくなど、相手がいるあらゆる場面で活かすことができます。

EQマネジメントスキルの特徴①

たった一言でやる気が出たり、逆にやる気がそがれたりした経験は誰しもが持っているのではないでしょうか。コミュニケーションが必要ない組織はありません。相手の状況を掴み、自らが行動を促すための働きかけを行うことで、プロジェクトを成功に導くことも可能になります。EQマネジメントは行動するための気持ちをつくるスキルでもあるのです。

以前、世界経済フォーラム(ダボス会議)で2020年に必要なビジネススキルとして「EQ」がランキング入りしました。[※1位・複雑な問題解決力/2位・クリティカルシンキング/3位・創造力/4位・マネジメント力/5位・人間関係調整力/6位・EQ]EQを提唱した二人の博士も、「ビジネスでの成功は20%のIQと80%のEQが必要である」との見解を、ビジネスで成功を納めた人は例外なく対人関係能力に長けている実態調査から導き出しています。

EQマネジメントスキルの特徴②

また、現在事業や組織づくりの良いモデルケースとして取り上げられるNetflixは、IQが高くて優秀であっても嫌な奴は採用しません。自分がいかに有能であるかを誇示したがる人や、コミュニケーションにトゲがある人、人を見下す人は優秀であっても採用しないのです。

EQが低い人は、人の話を聞かない、自分の考えを曲げない、プライドが高いわりに依存してくる、ちょっとしたことで怒るなどの特徴があります。いかに情報処理能力が優れていたとしても、自分がなぜ怒るのかもわからず、当然相手の気持ちも推し量らず、相手を嫌な気持ちにさせて組織のパフォーマンスを落としてしまっては、優秀さを上回るデメリットが生じます。

現実的に仕事は自分が好きな人とだけやるわけにもいきません。選べない相手であったとしても、その人がどういう考え方をするのか、なにを嫌がり、なにを好むのかを知ることができるとしたら、対処方法は検討できそうです。自分が共感することで、相手も共感してくれるようになっていくとしたら、うまくいく気がしてきませんか。

【EQマネジメントスキル】は伸ばせる?

スキルというからにはEQが性格のように先天的で変えづらいものではなく、後天的に後から身につけられる必要があります。実際に多くの企業でEQが研修に取り入れられていますので、ビジネススキルとして開発する方法を少しだけお伝えします。

EQマネジメントスキルの開発

開発と言っても特殊な方法は必要ありません。EQマネジメントスキルを開発する最初のステップは自分の感情と向き合い、受け入れて理解することです。腹を立ててはいけないと言われてもそれはできません。何も感じないようにするのではなく、湧き出た感情を認めるところからスタートします。

例えば「怒り」の感情

例えば「怒り」の感情からは自分を認識するための多くの示唆を得られます。一瞬の感情で吐き捨てるように怒りをぶつけてしまったことはありませんか。脳や身体的な緊張が続きますし、怒りが怒りを呼んでしまうこともあり、コントロールが難しいものです。説教しながら、ヒートアップしてしまう場面も良く見られます。

それでも、なぜ怒りを感じたのか?を言葉としてアウトプットしてみましょう。言葉にするということは、つまり説明しようとすることなので、考えを客観的に整理できます。また書き出すことでいったん自分と切り離せることもメリットです。

怒りが沸き起こったのは、自分が何かを勝手に期待していたからかもしれません。期待しているなにかを知ることで、あえて期待しない選択も可能になります。自分の認識を意識的に行うことで、相手もまた感情を持っていること、その感情の裏には自分とは違う期待があったのではないか、と他者の認識につながっていきます。

自分や相手の感情を認識

自分や相手の感情を認識できたのであれば、あとはその場にふさわしい行動を選択していくことになります。相手の状況や気持ちを察知して感情をコントロールできるようになると、違いを認識した上で行動を選択していくことになるためコミュニケーションが円滑になっていきます。違いの許容はコミュニケーションを円滑にしてくれるのです。

また、起きたことをどのように捉えるのかにもEQは関わってきます。失敗をネガティブに捉えず、原因や分析を行って次に活かす態度、あるいは成功への途中だと捉え直すなど、感情のコントロールがやり抜く力にもつながるといった研究があります。

EQマネジメントスキルの活用

ここまでビジネスで使えるスキルとして見てきましたが、EQマネジメントスキルは日常のコミュニケーションで大いに活かせるスキルです。例えば家族や夫婦間での話し合いで、うまくいかなかったことはありませんか。

今の状況を自分がどう感じているかを具体的に伝えているでしょうか。なにに不満を感じているのか、そしてどうして欲しかったかまで伝えずに、勝手に期待をして勝手に伝わっていない、裏切られたと結論付けてしまってはいないでしょうか。

気持ちを言葉にして伝える

簡単なようで難しいことですが、相手が良い悪いではなくて、あくまで状況のせいで、自分がどのような気持ちでいるのかを言葉にして伝えることが大切です。付け加えると、相手があってこそ活用の意味があるため、自分と相手の双方がEQをスキルとして捉えて高めていくことも大切なポイントです。

職場でも同じことが言えます。どこか良く、どこが悪かったのか、そしてどのように改善していくのか、具体的に伝えていくことがポイントです。コミュニケーションは相手を打ち負かすことが目的ではありません。共有していくこと、そのためにスキルとして感情を取り扱うことを意識してみることをお勧めします。

まとめ

いかがでしたか?挨拶をすること、今自分が抱いた感情をメモするなど、日常で工夫できる能力開発ができるのがEQマネジメントスキルの良いところです。ぜひ自分のビジネスにも日常にも活かせるスキルとしてEQを取り入れてみませんか?

__________________________________________________

<筆者>

1979年生まれ。法政大学卒業後リフォーム会社に入社。入社して10年が経過し、生き方と働き方のズレを感じたことから初めての転職。その転職活動が自分と向き合う機会となり、キャリアの相談相手の必要性、経験や市場価値を客観視する重要性を実感。理想とするキャリア構築支援する人材紹介を仕事にする。現在ジェミニキャリアで採用支援、個人のキャリア支援、女性経営人材育成事業立ち上げに従事。

この記事を書いた人

特別編集員 Gemini Career 代表 山田実希憲